番外編2 サポートキャラは怒らせちゃいかんの
バレンタインデーに思い付いたので番外編投下です。
メアミが澪に押しきられる前のバレンタインデーのお話です。
サポートキャラのララちゃんとアサギ夫婦の揉め事に巻き込まれております。
ぴんぽーん、と軽やかなチャイムの音がして……誰だろう、澪は此処に居るしな。
いや、好きで置いてる訳じゃ無いの。苺を持ってきたから入れてやったのよ。苺に罪は無いしな。
宅配便かしら?
ドアスコープを見たら、小柄な影が……。
アレ?
今日約束してたっけ?
「どうしたの、ララちゃん」
「木戸さん?じゃなかった、日向さん?」
何でお前まで家の者面して出てくるんだ。賃料払ってるのは親だけど、家主はこの私だぞ。この頃図々しくも人んちに居座りやがって。苺が旨いから今日は勘弁してやったけど。
「メアミ、澪くん、来ちゃった」
苺を持ってきた澪に免じて一緒に食べる羽目になった、とある2月。
我が独り暮らしのワンルームマンションに、電撃訪問ありました。
……アポなしで。
おひとりでいや、子連れで出られない筈の、我が心の友&親友にして2代目サポートキャラ、旧姓は木戸、今は日向ララちゃん、が!!
思わず、持って出たフォークに刺してた苺落としてゴロゴロ転がったよ!!勿体ねえ!洗えば食べれられる!?いやそれよりも!!
「どどどどないしてんすかララちゃん!?アポなし訪問!?アサギサマの」
「許可有ったの?」
ララちゃんはほのかーにニコッと笑った。
アサギ様が見たらブンブン抱き締めて振り回すであろう笑顔でしたな。
……そんなレア笑顔、勝手に見たとかで処刑されちゃったりしないよね?きっとアサギ様には惜しげもなく披露されているに違いない信じてる!!私の命の輝きが途切れないと信じてる!!
「あの野郎が浮気しちゃったの、もう死んで欲しくて死んで欲しくて」
…………おおっとおー?
あ、あの野郎?どの野郎?
スマホ画面を覗くと。
其処には、高そうなお洋服を剥き剥きされて、立派な胸筋がお出まし真っ赤な口紅チューマーク付けている!おっぱい半分出そうなミニスカ美女をお膝に乗せて………っておい!!途中で暗闇が襲ってきたぞ!!誰やねんって澪しかいねえわ!!
「何すんだ澪!!」
「余所の旦那さんの半裸は見るもんじゃない。セクハラで訴えられるよ」
顎から下しか写ってないのに誰の半裸か特定出来んの!?
そりゃ文脈からして何様俺様ララちゃんの旦那様のアサギ様だろーけど!!えーお体してまんなゲヘヘってネタにすら出来ないしー……んんー!?
あれ?
アレ、アサギ様なの!?
あの、ララちゃんを愛し、ララちゃんに執着し、ララちゃんの為に起業するような……溺愛ヤンデレセレブにして、悪役令嬢の兄の、アサギ様が、浮気!?
「いや、アサギ様が浮気……すんの?」
そんな情報有った?テスト範囲に有った?見逃した?
いや、混乱しすぎだわ私ったら。
やだもーテスト怖ーい。
「これは、ハニトラ臭めっちゃするよ、木戸さん……いや日向さん」
「木戸に戻るから、木戸でいいわ。ヒムカイって呼ばないで」
こ、こええ!
吾が親友が
閻魔と赤子
背負ってら
思わず一句読んじまったテレビの影響でこの頃俳人な私、轟メアミ。
あ、季語は閻魔様!コタツの熱でちょっと暑くなったバレンタインデーをグッツグッツな地獄召喚な感じに変換したイメージの一句です。
ってそうじゃねえ。
「澪、手を外せ!!」
「あ、ゴメン」
やっと手を外されたからララちゃんのお顔を見たら……目が死んでるのに。
……いやあ!!超怖い!!ララちゃん、そんなお顔も出来たんすな!!悪役令嬢みたいっすよ!?
珍しく隣のチャラ男こと澪もポカンとしつつビビってんじゃん。器用だな。
「ほ、本人確認は取れたの?鈍器が転がってるし、アサギ様らしき人の後頭部にコブが見えるけど」
「本人確認?してない」
しないで来たの!?無断外出を!?
そんな馬鹿な!!私の身が危ないじゃん!!
そりゃ此処は安全地帯だけど、道すがら危険に晒したと怒られるじゃん!!
「うおおお!?どうしてよ!?
勘違いかもしんないじゃん!!」
「だって不愉快なんだもの。死ねって思ったし。
何故、態々、コンタクトを取って、私が申し開きの場を許さないといけないの?」
ヤダーララちゃんったら、ガ・チ・ギ・レ!じゃないすか。
悪役令嬢みたいっすよって2回思っちまったし。
アリアより、3のアレッキアおねー様っぽい言い方だったわ。
悪役令嬢のおうちに居れば、悪役令嬢の喋り方習得可能なのかな。
いやそんな訳ねーな。3の悪役令嬢の義妹ちゃんのアローディエンヌちゃんは違ったし。
「よくあの要塞からひとりで外出出来たね」
要塞って………澪の言いたいことは分かるけど。
門にギーガシャギーガシャ言う監視カメラ?と静かな見えない監視カメラ、しこたま付いてるもんね……。
あれ、見た目がミサイルとかマシンガンみたいで結構とても怖いんだよね。
「このスマホ画面を印籠みたいにして出てきたら、モーゼみたいにお手伝いさんとかの人混みが割れて出てこれちゃった」
モーゼ現象が日向キャッスルで巻き起こったとは……。
日向城って呼んだら怒られたから、日向キャッスルって呼ぶことに……止めよう。
別のお城みたいに聞こえる。
……お手伝いさんがたもビビっただろうなあ。
「と、兎に角狭苦しい家ですが……。一番デカい澪は邪魔だから帰れよ」
「いや、俺も偶然居合わせたとはいえ日向さんの力になりたいし。何か力になれるかも」
なーにが力になりたいだよ。こういう所がホント胡散臭えな。
「浮気と股がけの常習犯としての講義でもすんの?」
「いやホント……申し訳ありませんでしたメアミ」
この狭い所で頭下げんな。どさくさにくっついて来たから足を踏んでやった。
「煩え許しとらんわ。
速やかに疾く帰れ浮気野郎チャラ男」
これだけ罵っているのに未だしつこく居座る澪って本当にしつこい。
「ハクアくんはぐっすりだね」
「煩いと寝るみたい」
悪役令嬢のおうちの遺伝子強いよなー。薄いブルーの御髪に赤いおめめの赤ちゃん、ハクアくんはぐっすり眠っている。
アクアくんとかパプワくんとか間違えて読んじまいそうなのは親友にも秘密。だってそう言う発音なんだよ口が滑りそう!
因みに白亜の御殿のハクアくんらしい。命名はモチのロンでアサギ様。
何でも祖先にドデカイ事をやり遂げた……ホントかよ?な逸話を持つありがたーい御名前らしい。
ホントかよ?
個人的にはお城感が更に増すよねとしか思えない。言えないからお墓に持っていくの。
ララちゃんは、ネーミングセンスに自信がないから好きにしろってスタンスなんだよね。まあ、迷い犬にハトムネって付けたセンスだからな。その犬、鳩胸じゃなかったんだけどね。
インスピレーションらしく、未だに不明。
「義妹のアリアさんには相談してみた?」
「…………お兄様を困らせてやったら?ってニマーって笑われた」
「え、アリアってそんな喋るの!?
私ったら未だに単語と言葉のきれっぱししか聞いたことが有りませんが!!」
「何でかメアミには、アリアさんの当たりが厳しいよな」
澪の疑問は最もだけど、ララちゃんとふたりで顔を逸らすしか無いの。
「あ、相性が悪いのかも……」
「ふはは……」
ゲームはとっくに終了しとるのに、アリアは私を先祖代々から続く親の仇……?何かおかしいけど、そういう系殺意の波動とかが籠った視線を頂いてまーす!
えへっ!
ええん怖くて泣いちゃう!!悪役令嬢怖いよう!エンカウントしたくないよう!
「ララ!!ハクア!!」
…………おおっと、ゲリラライブかマイクパフォーマンスでも始まったのかな?
窓を閉めているのに、外から美声が響き渡っているよ!!
「誤解を解きたい!!
その家から速やかに出てこい!!今なら轟メアミの無事を約束してやる!!」
えっ!?何時の間に私が人質になっていたの!?何故私の身が危機に!?
そもそも訪ねて来たのはララちゃんだけど、来てはいかん帰りなさい!!と諭すべきだったと!?
それがもしかして罪なの!?
ソンナ、ワタシ、ナニモ、シテナーイ!!
「……アサギ様だね」
外を見て来た澪が報告してきた。
いや、耳に恐ろしいこの美声は間違いなく日向アサギ様で御座いましょうよ。
そりゃそっくりボイスのパフォーマーなら、良かったけど!!
「ハア?人質を取るっての?
あんの浮気野郎は、私の親友の命を何だと思っているのかしら」
「ラ、ララちゃん……」
「御免ねメアミ。あの外道は本当に仕方ないわね。
ちょっと話して離婚してくるわ」
「決断が早すぎるよ!?お話しして快方へ向かう事もあるよ!?」
「私、今の発言でも不愉快なの。
あのバカアサギに、致死量の鉄槌を喰らわせたい気分」
……サポートキャラを怒らせちゃいかん。あんな殺意に満ちたララちゃん初めて見た。
あの小さな背中に修羅を背負っておられるよ。
「ララ!!ハクア!!」
「日向アサギ、煩い」
ああ、秘書っぽい人を引き連れたアサギ様が憔悴しつつこっちを睨んでおられる。心臓の弱い私には殺意で死にそうな眼差しです。
……スミマセン、ララちゃんの背後で見守るしか出来ないチキン野郎ヒロイン、メアミです。
地味に横の澪が手を握って来るのがウザいけど離れたらお前を殴る、と言いたい位そんな気分。
「ララ、あの写真は俺じゃない」
「だから?」
「アレは俺の服をパクった従兄のタチの悪い嫌がらせだ。人のスマホを乗っ取りやがった!!」
「それが?」
ヒエエ……こ、怖い。ララちゃんの声が平坦過ぎる。
い、イトコ?あの写真に写ってたのはイトコって事?
つまり、アサギ様は潔白って事かな。
しかし、スマホ乗っ取りも怖いけど、その嫌がらせも怖いな!!イトコの家庭をかき回すなんてタチ悪すぎでしょ!!
アサギ様、真っ青だわ。汗も凄いし……見た事ない顔。
嘘を言ってる風でも無いし……無いよね?
し、しかしそれ、言い訳にき、聞こえなくも……無いか。
「だ、だから……セキュリティを怠った俺が悪かった」
「ふーん」
ララちゃんはくるりと後ろを……つまり私の方を向いた。
「つまり、アサギが悪いんだよね」
「いや俺は……」
「服をパクられてスマホを触られる隙が有るんだよね。
従兄に出来るんだから、他の女にもさせられるよね」
「なっ!!」
「……今回は信じても、次はどうなの?」
……ララちゃんの目に、涙が溜まっている。
あの、何事にも顔に出さないララちゃんが……。思わずハクアくんを抱いている腕を取って、そっと寄り添った。
ふ、震えている……。
「ララちゃん……」
「轟メアミ!!ララがどうしたぁ!?」
「ヒエエエエ!!な、泣イテオラレマスデス!!」
「何だとコラァ!!」
「いや、アサギ様……。奥さんの日向さんはアサギ様のせいで泣いてるんですよ」
「……チッ!!」
よ、よく言った澪!!
勝手に着いて来たけど、今は居て良かった!!そうだ頑張れ!!
「ラ、ララ……」
「アサギなんて嫌い。
私を好きだとか言う割に、結婚してからは家に大して帰っても来ないし、挙句こんな写真を送らせるようなガラ空きの隙で大馬鹿だし、ホントは浮気野郎かもしれないし」
「さ、最後は絶対違う!!
俺は身内とララ以外の女が寄って来ても、蹴散らした事しかねえ!!」
何すかそれ怖すぎっすよアサギ様。比喩ですよね?
それでもモテそうなの理不尽っすよ。
「意外と潔癖なんだな、アサギ様」
潔癖じゃなくて単に乱暴なだけでは、と言いたいけど命が惜しい、私はメアミ。
悪役令嬢の関係者に逆らうと間違いなく破滅っぽいから、大人しくしたい系のヒロインなの。
ゲームは終わっているけど身を守るの。
「ララ、本当に悪かった。
忙しすぎたとはいえ、家に帰れなくてお前を孤独にした。
でも、浮気は絶対にしてない。何なら全身検査してくれてもいい」
「そんな面倒臭い不愉快なの嫌。別にアサギの体なんか見たくない」
……拒否が冴えわたってんなあ。
真っ白になってますよ、アサギ様が。
「ララ、どうやったら許してくれる……?」
「……取り敢えず、あの不愉快な写真の登場人物を何とかしてきたら?
それからなら考えてあげる」
「分かった。オイ浜黒!!
あの馬鹿野郎を伸しに行くぞ!!役員会議だ直ぐに集めろ!!」
「は、ハイ!!」
……あ、秘書の人が大通りの方へすっ飛んで行かれた。
此処の道ってば狭いから、向こうまで行かないとアサギ様が乗られるようなお車入れないんだよな。
「ララ、きょ、今日は帰って来るよな?」
「もう疲れたからメアミと別荘に行く」
「え?」
わ、私!?
「ハア!?轟メアミとか!?お、俺とじゃねえのか!?」
「1週間でカタを付けて。その間話したくないから言いたいことが有るならアリアから聞く。電話にも出ない」
「ラ、ララ……」
……こ、怖い。
何時も自信に満ちた、あの……アサギ様が。愕然としたお顔を。
絶望したアサギ様の目が超怖い。
「出来るよね?アサギ」
「……で、出来る」
「じゃあ、宜しくね」
ひ、ヒエエ。
……あんなよろよろした歩き方のアサギ様、初めて見たぜ、べらんめえ。
愕然としてたら、ポンと肩を叩かれた。
……澪?何か怒ってんな。
「……日向さん、俺がメアミと先に一緒に居たんだけど」
いや、勝手に来てる分際で何だそれ。
「御免ね、メアミを借りるね」
「困るよ、俺もメアミを口説いてる最中だし」
「澪くんもメアミに色々長年歯噛みさせてきたじゃない。
別に1週間程度、メアミの長年に比べたら短いよね」
「……」
し、親友!!
流石ですララちゃん!!私の怒りを代弁してくれるなんて!!
私、貴方と親友で良かった!!付いていきまーす!!
「アサギも澪くんも、ちょっと色々思い知ったらいいと思うの。
じゃあね」
「ら、ララちゃん!?今から行くの!?服とかパンツとか化粧品も持って無いよ!?」
「良いの、全部向こうで買おう。アサギ持ちで」
ええ!?さ、流石にそれはいかんだろう。
「ちょ、流石にメアミの物はアサギ様に買わせる訳には!!」
「澪くんったら……言ったでしょ。
色々、思い知ったらいいって」
……サポートキャラは、怒らせちゃいかんよね。
でも流石に服とかは買って貰う訳にはいかんから、マッハで色んなものを詰め込んで仕度して、私達は、数ある日向家の別荘を渡り歩き、滞在したのだった……。
凄すぎるね……。
勿論、アサギ様からのメッセージは宣言通り、オール無視……。
いや、楽しかったよ。温泉とか有ったしね。
ハクアくんも可愛いし。
小市民だから豪遊とか出来ないけど、お相伴に預かりました。
一週間後、かなり憔悴したアサギ様と、何故か同じ位憔悴した澪が迎えに来たのが印象的だった。
アサギ様は分かるけど、澪は何でだ。
「もう全て片付けた。俺と一緒に居てくれララ」
「俺はメアミを二度と裏切らないから」
横でララちゃんが嫌そうにアサギ様に抱きしめられていたのは感動だけど。
澪は……ホントかよ。
自己保身に走るメアミとは違い、地味にララちゃんは澪の行いにも怒っておりましたとさ。