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竜騎士と俺  作者: 5u6i
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第二十話 コーヒータイム

前回のあらすじ


 ジョセーフォ、アメリーオ、カローロは、緊張しながらも、かつて味わったことのない最高級品を胃に納めた。


 デザートが終わる頃になると、執事が静かに私の後ろに近づいて来て耳打ちした。返礼の時間だそうだ。

 音楽が静かに終わり、促されるままに私は席を立つ。場が静まる。私が竜王陛下に一礼すると、陛下も目配せして返礼する。

「竜王陛下。僭越ながら竜王公国空軍少佐ジョセーフォ・アナ・マリアが代表して、このようなご宴席を設けていただきました事に、厚く御礼申し上げます」

 深く一礼する。

「竜王公国空軍は、八年前の設立より三度の狂気の種(フレネーザ・セーモ)の襲来を受け、その時々に持ちうる最大の戦力を持って、これと戦ってまいりました。ご承知の通り、狂気の種(フレネーザ・セーモ)のもたらした被害は甚大で、空から見ておりますと竜王公国領内いたるところでその爪痕を目にいたします。その爪痕の一つに私の故郷があります。人口が百人にも満たない小さな村でしたが、猟師が仕留めてくる山の幸(ジビエ)と、鮮やかな色使いと独特の意匠の染め物が有名で、ここ王都からも定期的に仕入れに来る商人がいたほどです。小さな村ですから住民はすべて家族のようなものでした」

 会場は静かに私の話に聞き入っている。カローロとアメリーオも、何度も聞かせた話なのに真剣に聞いてくれている。

「たった一度の狂気の種(フレネーザ・セーモ)の咆哮が、私を含めた数人の子供を残してすべてを消し去りました。幸いにも私は、王都に居た従伯父(いとこおじ)であるジョゼーフォ・ラ・レフォルミースト陸軍中将の元に身を寄せ、今日こうして、竜王陛下に狂気の種(フレネーザ・セーモ)の駆逐をご報告することができました。上官として厳しい指導を、また家族として温かい愛情を与えてくれた従伯父(いとこおじ)、そして、今回の狂気の種(フレネーザ・セーモ)討伐ミッションを全力で遂行してくれた、アメリーオ・マリア中尉、カローロ・フェルディナンド准尉に、この場を借りて感謝の意を表したい」

 会場は大きな拍手に包まれた。アメリーオに次はお前だよと目配せをすると、あからさまに焦っていた。

「り、竜王陛下。竜王公国空軍中尉アメリーオ・マリアであります。叙勲を賜り光栄です。ありがとうございます」

 顔を真っ赤にして慌てふためいているアメリーオを、笑いと拍手が包み込む。

「竜王陛下。竜王公国空軍准尉カローロ・フェルディナンドであります。准尉の銘に恥じぬようがんばります。ありがとうございます」

 陛下も小さくうなずいて、元気の良いカローロの謝辞を温かく受け入れる。

 竜王陛下、皇后陛下、皇太子殿下は拍手の中、先に退出した。

「別室に麝香猫豆茶(スィヴェトカーフォ)をご用意いたしましたので、そちらえごゆるりと歓談くださいませ」

 執事が案内する。私達も移動することにした。


 そこからは自由に歓談と言っても、物事には順序というものが有る。私はガチガチに緊張しているアメリーオと、フラフラと落ち着かないカローロを引き連れて、大臣や軍上層部のお偉いさん方に、順番を間違えないように慎重に挨拶して回る。

 私が従伯父(いとこおじ)や陸軍の上層部を通じて竜王陛下に空軍設立を進言してから、十年近く経っている。陛下の空軍設立の意向が示されてから、色々な議論が交わされ、私も様々な人々の立場や考え方を学んできた。お互いにそれぞれの立場を理解して、全員が納得行く結論に落とし込むことができたのは、ひとえに竜王陛下の人格の為せる技だと思う。

 今日こうして色々は人と再び言葉を交わしたことで、狂気の種(フレネーザ・セーモ)を追い払うのが精一杯だった空軍を、本当に多くの人に支えてくれていたんだと、改めて感じる事ができた。そして、皆一様に狂気の種(フレネーザ・セーモ)の駆逐を自分のことのように喜んでくれた。

 最後に従伯父(いとこおじ)のところまで来たら、従伯父(いとこおじ)は何も言わず、私の肩を抱いた。私はもう色々な思いが一気にこみ上げてきて、涙を堪えるのが必死だった。カローロも照れくさそうにしているし、アメリーオも貰い泣きしそうだ。


 そうこうしているうちに音楽が変わり、竜王陛下が再び入場してきた。

「夜も更けてきた。積もる話も有ると思うが、それはまた別の機会に譲り、狂気の種(フレネーザ・セーモ)を駆逐した若き英雄たちを讃えて、今宵は閉会としたい」

 街まで響かんばかりの拍手と歓声が広がる。勇壮な音楽と拍手に送られて、私達は会場をあとにする。


 控室で従者に手伝ってもらいながら、手早く準礼装に着替え、歓声の響く広場に通される。

 広場にすっかり綺麗にしてもらった、レオポルド、モリーゴ、ハオランが待機していた。アメリーオはモリーゴに、カローロはハオランに騎乗すると、すぐに離陸の準備を進める。ハオランは翼を使わない蛇長竜なので、どこからでも自由に離陸できる。モリーゴは飛竜なので短い助走のあと、ジャンプと同時に地面に尻尾を叩きつけて飛び上がるのだが、今頃アメリーオが説明しているところだろう。モリーゴは賢い子なのですぐ出来ると思う。

 私はレオポルドの艦橋に上り、竜王陛下に敬礼し離陸の指示を出す。

 ハオランが先に離陸して大きく旋回している。モリーゴも三段跳びの要領でジャンプすると、力強く尻尾を叩きつけて飛び立った。

「いいぞ!ワイヤーをおろしてくれ!」

 アメリーオとカローロがワイヤーを投げてよこす。私は荷室の上のフックにワイヤーを掛けると、艦橋に上り光水晶(ルーモクリステロ)を振る。モリーゴとハオランが八の字を描きながら、高度を上げていく。ギシギシとハーネスが音を立ててレオポルドが少しずつ浮き上がる。城壁の高さを越えたところで、レオポルドに翼を広げて羽ばたくように指示する。

 ゆっくりと城の周り旋回しながら高度を上げていく。ワイヤーを外して回収し、基地に戻る帰路につく前に、城の通信所に向けてランタンで感謝の意を伝えた。

 通信所からは「よく休めよ」と労いの言葉が返ってきた。


 空軍基地は第二城壁の外側にある。夜なので着陸する滑走路には篝火が並んでいる。ハオラン、モリーゴ、レオポルドの順に着陸し、竜厩舎に入る。

 我々も準礼装から作業着に着替えて、竜のメンテナンスに取り掛かる。城であらかたの汚れを落として、食事を与えてくれているので、そんなに時間はかからない。

 レオポルドのハーネスは簡単に外せないので、竜厩舎の天井のフックにワイヤーを掛けて、荷室と艦橋の重みを減らしてやることしかできない。ハーネスを少し緩めて、皮膚に異常がないか確認したり、汚れを拭き取ったりするのに、軽く一時間はかかるのだけど、レオポルドはだいたいこれをやっていると寝てしまう。暢気な奴だ。

 モリーゴは初めての竜厩舎だ。綺麗に整備しておいたが、気に入ってくれるだろうか。今頃ハーネスを外して寝床に横になっているだろう。後で様子を見に行ってみよう。

 ハオランは装備も少なく、一番手間がかからないから、もう寝ているかもしれない。覗きに行ってみると案の定、とぐろを巻いて寝ている。

 モリーゴはなんだか神経質に寝床の敷き藁を整えていた。ちょうどアメリーオが追加の敷き藁を持ってきたところだった。


 私はブリーフィングルームに移動して、ミルクたっぷりで少し甘めの甘茶(ドルチャテオ)を淹れる。カローロと甘茶(ドルチャテオ)を飲んでいると、すぐにアメリーオもやってきて甘茶(ドルチャテオ)で口を潤す。

「今日は忙しい一日だったな」

「僕、正装すると結構格好よかったでしょう!」

「それは認めよう。ただ、それに見合う中身が必要だな。士官学校でしっかり学んでくるといいよ」

「私はヘトヘト。ジョセーフォは王都に居た頃って、毎日あんな感じだったの?」

「そんな事はないよ。士官になってからは、従伯父(いとこおじ)に連れられて顔を出したけど、それでも月に一度くらいさ」

「さすが、なんだか慣れてると思った」

 カローロが大あくびすると、アメリーオが伝染したあくびを噛み殺してるのが、おかしかった。

「凱旋パレードは明後日だから、明日は午前中の練習をやめてゆっくりしよう。そのかわり午後はパレードの予行演習だからみっちりやるぞ」

「「はい、隊長」」

 飲み終わったカップを片付けると、厩舎の各々の部屋に戻っていった。

 流石に今日は色々ありすぎたのか、私も寝床についた瞬間から記憶が途切れた。


用語解説


・ワンポイント・エスペラント語

 ジョセーフォ視点なのでお休み。次回頑張る。


・晩餐会のお品書き(一部再掲)

 【カフェ Kafo】

 麝香猫豆茶(スィヴェトカーフォ)(Civetkafo)

 豆茶蜂蜜《ミエロ・デ・カファルボ》(Mielo de Kafarbo)を添えて

  豆茶豆の話は後述。豆茶豆の農園で養蜂を行い、その蜜を集めて豆茶豆の蜂蜜、豆茶蜂蜜《ミエロ・デ・カファルボ》(Mielo de Kafarbo)が作られる。豆茶豆の結実率も上がり、穫れる蜂蜜は豆茶の味を全く邪魔しないという一石二鳥。


・豆茶豆(カファールボ)(Kafarbo)

 豆茶(カーフォ)に使用される豆茶豆(カファールボ)には、アラバ種、フォルティカ種、リベリオン種などがある。いずれも、近隣では帝国領南部でしか収穫されず、竜王公国領においては貴重品。

 フォルティカ種が収穫量も多く、貴重とはいえ比較的安く出回っている。酸味や香りは殆どなく、ピリッと痺れるような苦味が後味として残るのが特徴。

 アラバ種は標高の高い地域でしか収穫できないため、比較的高価。香りが良く、上品な果実の酸味があるので、高級な豆として好まれている。

 リベリオン種はフォルティカ種に似て一般的に香りは強くないが、力強い苦味がありつつも、後味が爽やかで口に残らないため、一部の愛好家に人気の品種だが、著しく病害に弱く殆ど市場に出回らない。特にリベリオン種類の変種であるエキセルサ種は、アラバ種を上回る芳香があり、入手できれば奇跡と言われる。

 今回の晩餐会に出された麝香猫豆茶(スィヴェトカーフォ)は、豆茶豆(カファールボ)を食べた麝香猫(スィーヴェト)の糞から未消化の種の部分を集めて、やや浅めに焙煎したもの。野生の麝香猫(スィーヴェト)はフォルティカ種とエキセルサ種の完熟した甘みの強い果実のみを選んで食べる。ヘーゼルナッツの甘い香りと、チョコレートのマイルドな苦味と、チェリー爽やかな酸味をバランスよく兼ね備えるという。豆茶豆(カファールボ)としては、最高級品。しかし、この世界ではそもそも麝香猫(スィーヴェト)がどんな生き物なのか判らないので、全く謎である。


・甘茶(ドルチャテオ)(dolcxa teo)

 『甘みの強い植物性の花草茶。

 同じ名称ではあるが何種類かの甘茶(ドルチャテオ)が存在し、帝国全土で広く飲まれる。』

 (異界転生譚 シールド・アンド・マジック 長串望 著 第二章 オールド・レッド・ストーンズ 第八話 共同戦線 の 用語解説より)


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