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竜騎士と俺  作者: 5u6i
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第十四話 成長

前回のあらすじ


 レオポルドとの雪辱戦で、ハオランとカローロの援護を受けて、見事勝利を収めたアメリーオ。

 昨日のモリーゴの探索後に、レオポルドで持ち込んだ資材が積み上がり、すっかり前線基地らしくなったモリーゴの洞窟に、私とアメリーオとカローロの笑い声が響く。

 私も竜騎士団の隊長として、アメリーオと新入りカローロの成長を心から嬉しく思った。

 演習の結果を振り返ると、レオポルドの被弾箇所が首もとと尻尾、そして腹部の致命的被弾、モリーゴは無傷でハオランは私の投げたトマトが尻尾に一箇所あたっていた。

 ハオランとカローロは回避技術をもう少し磨く必要があるが、接近戦を勇敢に試みてくる精神は賞賛に値する。


 回復薬を使っているとはいえ、いきなり無理をするはよろしくない。午後はこの前線基地で落ち着いて戦闘技術と魔法、できればモリーゴには咆哮(ムジャード)を覚えてもらいたい。

 その後、軽い夕食と十分な休息、そして明け方から作戦行動に移る予定だ。その間にも狂気の種(フレネーザ・セーモ)は着々と飛竜を集めているだろう。

 ただ、モリーゴがどう挑発してくれたのかわからないが、かなり強力な咆哮(ムジャード)を放った後なので、しばらくは地上への被害は発生しないだろう。


「アメリーオ、カローロ、よくやったな」

「ありがとうございます!隊長!」

「やりましたよ、僕!ありがとうございますっ!隊長!」

「アメリーオ、前回に比べると操縦精度が格段に上がっているな。手綱を通してモリーゴときちんとコミュニケーションが出来ている。素晴らしい」

「ありがとうございます!」

「アメリーオは通常攻撃は申し分ない。後は基礎的な風魔法を習得しておくとモリーゴの助けになるだろう」

 私はアメリーオのために見繕ってきた魔法の入門書を渡した。


「カローロ、編隊飛行は初めてなのに、モリーゴの動きに合せてタイミングを取ることが出来たのは驚きだ。大したものだ」

「ありがとうございますっ!」

「カローロはもう少しだけ、ハオランの尻尾の動きまで気を配るとより良くなるだろう。蛇長竜は動きが特殊なのでよく研究すること」

 私は蛇長竜の運動理論と空戦技術の論文集をカローロに渡した。


「では、日没の一刻前まで自習時間とする。わからないことがあれば聞いてくれ」

「「了解しました、隊長!」」


 竜騎士が騎乗する竜は元々賢い個体を選んでいるが、そういった個体に出会えるかどうかは運でしかない。

 見たところモリーゴはかなり賢い個体に見える。レオポルドやハオランと同じように、何かしらの言語をしゃべるだけの能力を持っているし、空戦技術への理解も早い。

 残念ながら竜達の言葉を理解することは出来ないが、一説には我々の言葉が出来る以前の旧世界の言葉なのではないかとのことだ。あいにく竜王公国領土内に言葉の神殿がないので、簡単に確かめることは出来ないのだが。


「しかし、問題はどうやってモリーゴに咆哮(ムジャード)を覚えさせるかだな」

 私がひとりごちていると、カローロが顔を上げた。

「隊長!ハオランなら少しだけ咆哮(ムジャード)を使えますよ」

「なに?そうなのか!」

「はい!先週あたりから、ごく弱い咆哮(ムジャード)が出せるようになったので、練習しているところです」

「ちょっと見せてもらえないか」

「はい!隊長!」


 ハオランは洞窟の入り口近くで蛇のようにとぐろを巻いて休んでいた。カローロがハオランを揺すって起こすと、身振り手振りを交えてなにか話しかけている。

 モリーゴはいつもの寝床で腹ばいになって、こちらの会話を不思議そうに聞いている。ハオランがこっちへ来いと手振りで示すと、モリーゴが立ち上がって入り口近くに来る。

「隊長、見ててくださいね」

 カローロがハオランにまたがってたてがみを引くと、ハオランは大きく息を吸い込んで息を止めると、目を白黒させながら全身に力を入れている。

 三十秒ほど経った頃、ハオランは洞窟の外に向かって、五メートルほどの火炎を吹き出した。

「おお、たしかに咆哮(ムジャード)だ」

 いつの間にかアメリーオも近くに来て拍手している。


「モリーゴ、お前にも出来るか?」

 モリーゴは豆鉄砲を食らったような顔をして、なにか悩み始めてしまった。

「アメリーオ、風魔法はできそうか?」

 今度はアメリーオが豆鉄砲を食らったような顔をしている。

「は、は、はい!隊長!」

 アメリーオは難しい顔をしながら、渦巻き模様の彫り込まれた長槍を取り上げて、何を詠唱している。

けまくも(かしこ) 風 神 (えてるなゆぬふろ)(おろが)(まつ)りて(かしこ)(かしこ)みも(もう)さく……」

 モリーゴがアメリーオの詠唱に耳をそばだてている。

 長槍から微かに煙のような白い霞が一筋二筋と立ち上がり、やがてそれが渦となって蛇のように長槍に巻き付いていった。

 アメリーオが詠唱を終えると、それは小さな旋風となってゆっくりと長槍を離れ、目の前の岩にあたって散った。

「おお、アメリーオ、できるじゃないか!」

 私の拍手にアメリーオが俯いて顔を赤らめている。


「モリーゴ、やり方は人それぞれなんだ。モリーゴにはモリーゴのやり方があると思う。なんでもいいから試してみよう」

「ダユヂデポヂヅギル!ゼヲドゲデガヤゥナィヮルヅテガリヮグドィタレ……」

 私とカローロとハオランとアメリーオに見つめられて、モリーゴはあからさまに困惑していた。

「焦らなくていい。お前にも何か集中するやり方があるだろう」

「……ヮオヂゾョ。ャヂヅマリ」

 モリーゴは目を瞑ると、翼の鉤爪どうしを組んで、なにかつぶやいた。

「ラヲビユゥデゥザモオィシヲルッサィセヲ!」

 するとあたりの空気が一斉にモリーゴに向けて流れ始めた。モリーゴは酒を飲みすぎて何かを吐きそうな時のような、真っ青な顔で口元を押さえている。

「ゥホヮウウウヂ!」

 モリーゴがたまらず吐き出すと、ドンと重たい音と共に、大きな空気の塊が白い霞の尾を引きながら、洞窟の外に飛んでいった。

 じきに遠くの方で大木がへし折れる音がして、鳥が何羽かギャアギャア鳴きながら飛び立っていった。

 全員反動で尻餅をついて、しばらく呆気にとられていた。

用語解説


・ワンポイント・エスペラント語

 今回はジョセーフォ視点でしたのでお休み。


・モリーゴの言葉

 ちょっと変換してありますが、じつは日本語です。

 このために変換ツール作ったんですから。


・言葉の神殿

 言葉の神エスペラントを祀る神殿。言葉の神の力で、交易共通語(リンガフランカ)の読み書きが出来るようにしてもらったり、交易共通語(リンガフランカ)の歴史を学ぶことが出来る。


・言葉の神エスペラント

 『人族の被差別層から立ち上がった人神であるとも、境界の神プルプラの権現のひとつであるともされる。

 それまで違う言葉、違う文化をもって相争っていた隣人種達に共通の言葉を与え、争うだけでなく分かり合う道を与えたとされる。』

 (異界転生譚 ゴースト・アンド・リリィ 長串望 著 第四章 異界考察 第五話 妛原閠の異界考察 の 用語解説より)


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