第十三話 チームワーク
前回のあらすじ
謎の黒い竜の咆哮が直撃し、焼け焦げた森に堕ちたモリーゴ。
ジョセーフォ達の助けで九死に一生を得た。
正直言って、回復薬なんてゲームのアイテムみたいなものが、実在するとは思わなかった。そんな事を言ったら、竜がこうして実在する訳だから、回復薬の一つや二つあってもおかしくはない。
しかし、その効き目と言ったら、数分で全身の火傷が治り、破れた翼がほとんど元通りになる程なのだ。多少の傷跡は残ってはいるが、少しだけだるいような痺れるような感覚があるくらいで、実用には十分だ。
俺が回復薬の効果に驚いているそばで、松葉杖をついて全身包帯だらけだったアメリーオも、何食わぬ顔で鎧を着込んでいるし、ジョセーフォは俺の包帯を外して新しいハーネスを取り付けている。
橙色の飛竜の大群がまだ生き残っている以上、もたもたしていられないのだろう。
やがて鞍が取り付け終わる頃には、アメリーオも鎧を着終わり、今すぐにでも飛び立ちそうなくらい嬉しそうにしている。
後ろからジョセーフォがアメリーオの肩をたたき話しかけた。
「Bone. Cxu ni pretas?」
「Jes, Sinjorino!」
ジョセーフォは上を指さして言う。
「Bone. Karolo kaj Haorano atendas super ni. Ni iru」
「Jes, Sinjorino!」
アメリーオは俺に飛び乗ると、ベルトをきっちり閉めて、腹を蹴っ飛ばす。
「お、ごきげんだな! レオポルドとの模擬戦闘訓練か? 今なら負ける気がしないぜ!」
全力で走って洞窟から飛び出す。
深い藍色の空に太陽が眩しく輝いている。みっしりと苔を敷き詰めたかのような、深い緑に彩られた足元の木々に、くっきりと俺の影が映っている。
大きく旋回しながら高度を上げていくと、さっき飛び立った洞窟の上の台地から、レオポルドが飛び立つのが見えた。
「Morigo! Cxu vi povas vidi? Tio Esta Haorano!」
上を見上げると、今朝俺を見つけてくれた蛇がゆらゆらと飛んでいる。あれも竜なのだろうか。よく見ると、角や短い手足があって、まさに東洋の竜の形だ。
ひとまず、高度を上げて、その蛇っぽい竜に追いつくことにした。
実際、横から近づいてみると中々凛々しく整った顔の竜だった。竜の歳などはよくわからないが、老練なレオポルドや自分よりも若そうな感じだ。木管楽器のような艷やかな声で話しかけてくる。
「Moligo, woshi... hao ran.」
「ハオランか。モリーゴだ。よろしくな」
今度は首もとにまたがる騎士が、手を振って挨拶してきた。
「Morigo! Mi estas Carolo!」
「カローロか。モリーゴだ。よろしく」
兜をかぶったままなので見た目はわからないが、快活な青年の声だった。
カローロがサッと手を振ると、ハオランが眉を上げてニッと笑い、ふっと視界から消えた。辺りを見回すとすぐ後ろで、アメリーオがハオランの頭を撫でている。
「おい、いつの間に後ろに回ったんだ?!」
驚いていと後ろでアメリーオが、両手で何かを説明しようとしている。左手は大きく上下に、右手は細かくくねらせている。左手が俺で、右手がハオランってことだろう。
「Tempo por la Formado movas trejnadon, Morigo.」
しばらくアメリーオの手綱に従って動いてみることにした。
翼というものがないハオランの動きは、実に複雑だった。そもそもどうやって飛んでいるのかわからない。突然方向転換して視界から消える。慣れてきたら視界の隅で、急旋回しているハオランの尻尾が見えるようになったので、ワープしている訳ではなさそうだが、とにかく動きがトリッキーだ。近距離の格闘戦に持ち込まれるととても勝ち目がない。
一方で、全力で上昇したり、下降したり、高速で飛行するのは苦手なようで、ハオランはスピードについてこられない。これは圧倒的に俺のほうが有利だった。
そして、俺とハオランで並んで編隊飛行する練習を小一時間ほど繰り返した。運動性能はハオランの方が優れているので、基本は俺がスピードを抑えて飛んでいる限り、完全に動きに追従してくる。後は互いの特性を戦闘に活かせばいい。
「Morigo! Ni batu Leopoldo cxi-tempon!」
アメリーオが上空で待機しているレオポルドを指差す。雪辱戦だ。
「Bone. Ni helpu ilin venki.」
カローロとハオランもうなずく。
アメリーオもカローロもオレンジ色のカバーのかかった長槍を構えている。
先陣を切るのはハオランだ。ハオランは翼を使わないため、高度が上がって空気抵抗が減っても、速度は上がらない。レオポルドがいるような高高度ではわずかにハオランの方が遅くなってしまう。代わりに、空気が薄くても急旋回出来てしまうので、高高度での運動性能は抜群だ。
ハオランのこの特性を活かして、まずレオポルドに執拗に絡んで、速度と高度を落とさせるのだ。
ハオランが旋回するレオポルドの正面に飛び出すと、カローロが長槍を繰り出す。ジョセーフォもまたトマトを投げて応戦するが、もちろんハオランは簡単にそれを避ける。
レオポルドもカローロの長槍を避けるのだが、その度に少しずつ高度と速度が犠牲になっていた。
俺はその間にレオポルドの死角から、より上空目指して上昇していた。空気が薄いのでだいぶ息苦しいが、速度はレオポルドやハオランより速かった。
「Iru!」
アメリーオの声を合図に右に旋回するレオポルドのやや左を目指して急降下する。ハオランがレオポルドの右側に付けて、カローロが長槍を繰り出す。
レオポルドがカローロの長槍を避けて左に身体を翻したところで、アメリーオの長槍がレオポルドの首もとにオレンジ色の印を付けた。
そして俺たちが反転急上昇している間に、ハオランがレオポルドの後ろに回り込んで、カローロの長槍がレオポルドの尻尾にオレンジ色の印を付けた。
尻尾を振り回すレオポルドがバランスと速度を失ったところに、俺達は直下からレオポルドの腹に思いっきりオレンジ色の印を付けてやった。
アメリーオとカローロが勝どきを上げている。
兜を外したジョセーフォが満面の笑みで答える。
「Bona movado!」
用語解説
・ワンポイント・エスペラント語
文法は特に目新しいものはないので、ポイントとなるエスペラント語をいくつかおさえておきます。
Pretas=準備
Atendas=待つ
Vidi=見る。ユリウス・カエサルのVeni vidi viciのVidiですね。
Tio=それ。ちょっとだけ解説します。前回、英語の5W1Hに当たる疑問詞を説明しました。
kio=なに、kiu=だれ、kia=どんな
と言った具合になっていましたが、Kiの部分をTiに替えると指示詞になるのです。
Tio=それ、Tiu=その人、Tia=そんな、Ties=その人の、Tie=そこで、Tiam=そのとき、Tial=それ故に、Tiel=それほど、Tiom=それだけ
となります。
さらにこのTiの部分が、iだと不定(io=何か)、Cxiだと普遍(Cxio=なんでも、全て)、Neniだと否定(Nenio=何も~ない)になるのです。
ね、簡単でしょ?
・蛇長竜
細長い蛇のような身体にたてがみと角、長い髭、短い手足がついた竜です。東洋の竜です。翼がないので、風精を使って空気の中をニョロニョロと泳ぐように飛びます。
この飛行スタイルから、航空力学的な制限を全く受けないという、チートの塊のようなやつです。むしろこれを乗りこなす竜騎士の対G性能の方が異常ですね。




