14. 誰だってそーおもう、おれもそーおもう
「それですがポノサマ。私達の話は、この世界にとっても結構大変な話なんだと思います。なので――」
「ふむ、それを踏まえた上で、ここにいるハイエルフ皆に聞いてもらった方が良いと思うぞ」
「今更疑ってるわけではないのですが、場合によっては知ってるだけで危険な目に合うこともあると思うんです」
「それも踏まえて、じゃ。そなた達が特殊な立場におることはわかっておる。それを踏まえ、協力者は多い方が良い、そしてこやつらは信頼もおけるし、強さも十分じゃ」
「……マッサナ様、少しよろしいでしょうか」
いつの間に目を覚ましていたのか、クルンディが声をかけゆっくりと立ち上がった。そして神獣を雅花を、登志枝と片山一家に視線をやった後、ぐるっとハイエルフを見回した。
「私たちは皆仲間たちが、そして神獣様がヤツの凶刃にかかるところをこの目で見ております。それでも皆のため戦いを止めず、そして散っていったのです。私とケレヴィアは最後までヤツと戦い、ヤツが私に止めを刺すときに笑ったとことも覚えています」
そこでクルンディは一つ大きく息を吸いゆっくりと吐き出した。
「その後目が覚め、ピローテスが動いているのを見て、サーサリが、ファーロドが、メルディルが、ギルロントが、アーシェラが聖母様に蘇生していただくのを見ました。そして、神獣様が元気な姿で現れたのです。私たちは、神獣様を私たちを救ってくれた聖母様と皆様に、私たちの生涯をかけて報いると誓いましょう。決して、あなた様方を裏切らず常に味方であります。死んでもあなた様方の秘密は守りましょう。皆よ、私はその覚悟だ。しかし、少しでも実力に自信が無い者、ヒューマンにそこまでの恩を返す義理は無いと想う者、案ずるな私がその者の分も聖母様に尽くすと誓おう。なので、生涯を懸ける勇気の無い者は今すぐ去れ」
クルンディ以外のハイエルフは一斉に片膝を立てて座りなおし、腕を胸の前で交差させ肩に添え、深く片山一家に向け頭を下げた。心持ち、登志枝を正面にしている感じである。
それを見た後、クルンディも同じ姿勢をとった。
「皆同意見です。あなた様方にこの命をささげましょう」
「いえ、折角治したので命は大事にしてください」
「うん、さすがに死にそうなら話してもいいからね?」
ぼーっとそれを見ていた登志枝と雅花が正気に戻り、慌てて「いのちだいじに」、と繰り返す。
「もちろん、我もそなたらには感謝しておる。我もそなたらの助けとなることを誓おう。……まぁ、マッサナはすでに差し引き0でいいかもしれんがの」
えーなんでですかー、という雅花に対し、今までの色々じゃ、と神獣が済ました顔で返す。
「えーっと、わかりました。皆さんありがとうございます。ほら、みんなもお礼言おう」
そういって、片山一家みんなでありがとうございます、とお辞儀をする。
片山一家もハイエルフも皆笑顔で頭を上げ、それぞれ見つめあった。
「では。まず、私たちですが、皆さんにとっては異世界と呼ばれるところから来ているんだと思います」
「……そなた、何を言っておるのじゃ?」
「マッサナ様、何を言われても私たちはあなた様方の味方ですので、本当の事を言ってください」
えー、と雅花は感動が吹っ飛んだ気分だった。登志枝と幹都と文葉はツボに入ったのか、笑っている。
「いやいや、そうとしか考えられないんですけど、他に何と言えばいいんですか」
「わかったわかった。もういいから本題に入るのじゃ」
えー、と雅花は空を見上げた。木々に阻まれて星は見えなかった。
「うーん、とりあえず、私たちのいた世界では神獣やハイエルフなんておりませんでしたし、あと、服装とか明らかに違うじゃないですか?」
「ポノサマ、本当なんです。私たちの世界では人間以外がしゃべることなんてなかったんです。それこそ、物語の中のお話だけですし、魔法も同じです。魔法使えなかったのはご存知の通りですし」
「あの、聖母様が魔法使えなかったというのがまず何のことでしょうか? 私たちを蘇生した上、神獣様も癒したのですよね? さらに待ち時間で服なども綺麗にしていただきましたし」
ピローテスが挙手して質問していた。
「私、さっき魔法使えるようになったばかりなの。使い方もポノサマに教えてもらったし」
「魔法覚え立ての方が蘇生魔法ですか?」
「ポノサマの教え方が良かったのかな?」
「まぁ、逆に考えると、蘇生魔法を日に7人分も使えるのが異常じゃからのお。魔力量もヒューマンどころかエルフと比べても同じか多いぐらいじゃし、確かに普通ではないのは間違いないのお」
ふむ、と神獣が思案顔になる。
「異世界か…… 確かに、常識では説明出来ぬことがあるし、あまりにも物を知らなさ過ぎるしのお。トッシェが言うと真実味もあるの」
「そうですね、確かに聖母様はヒューマンとは思えない程の方ですし、あのクルマというのもすばらしいものでした。異世界、ですか。確かにこれは、おいそれと口に出来る内容ではありませんね」
「すいません、なんか反応違くありませんか? まぁいいや。と言うことは、異世界から人が来るとか一般的な話ではないんですね?」
「そんなのが一般的であってたまるか。少なくとも我は初耳じゃ。他の神も…… いや、もしかしたら秘密にしておる可能性はあるの。我も、世間話で他の神に告げる気はせん。逆に聞くが、そなたたちは自由に行き来出来るのかの?」
「いえ、無理です。というか、どうやってここに来たのかも良くわかっていないので。帰り方知ってたら教えてもらおうと思っていましたが……」
「すまぬ、先ほども言ったとおり我ではわからぬ。ハイエルフの里に伝承が残ってたりは……」
クルンディが何か知らないか?とサーサリと呼ばれたハイエルフに問いかける。
「うーん、聞いたこともないし、見たことも無いと思う。物語の類にそういう話はあったけど。一度里に戻ってから調べなおすけど、あまり期待はしない方が良いと思う。お役に立てず、大変申し訳ないのですが……」
「一度、主神様におうかがいを立ててみよう。さすがに主神様には報告するじゃろうし、何か知っておられる可能性が高い」
「皆さんすいません、大変助かります。申し訳ありませんがお願いします。ちなみにポノサマ、主神様とのお話って今すぐに出来るものなのですか?」
「いや、一度神界に赴かねばならぬ。さらに赴いた後も面会までは日数が必要じゃ。魔獣のこともあるし、早めに面会はしていただけるとは思うが、そもそも神界にいけるようになるのにもう少し力が戻ってからで無いと無理じゃからの。少し時間は必要になる」
「じゃー、そこそこ滞在しないといけない感じですか」
「そこそこで済めばいいけど……」
「まぁ、そこは最悪家族は一緒だしね。まぁ、実家とか心配するだろうけど…… 会社はいいか」
雅花、サボリーマンという程ではないが、そこまで愛着も無い。
「では、それまで私たちの里に滞在してはいかがでしょうか? 大分人が少なくはなりましたが、皆様方を歓待することは十分可能です」
「そうじゃの、ハイエルフの里じゃと我の巣からも近いしの」
「では、お言葉に甘えて。よろしくお願いいたします」
片山一家、皆で改めて頭を下げる。
「では、まずはそなたらがどうやって帰るかを調べることになるの。あとは、そなたらはこっちの世界について聞きたいんであったか?」
と、文葉が大きくあくびをした。幹都もうつったようであくびをする。
「……日にちに余裕が出来たことですし、今日はもう眠りましょうか? ポノサマも、ハイエルフの皆さんも体を休めて早く良くなってくれた方がいいですし」
「そうじゃの。そなたらは眠るが良い。必要ないとは思うが、我が番をしよう」
「いやいや、ポノサマは体を休めてくださいよ、一番早く良くなってもらわないといけませんから」
「ふみはね、母とポノサマとねるの」
文葉が神獣に抱きついてぐりぐりと顔をこすり付け、きもちいー、と声を上げる。
「あれ? よく見たらポノサマ、体綺麗になってません?」
「え、いまさら? みんなが果物狩りに行ってる間にしてみたの。ふかふかよ?」
いつの間にか幹都と登志枝も神獣に抱きついて、手触りを堪能していた。
その後、遠慮するハイエルフ達も神獣に押し付け、神獣を中心に皆で毛皮を堪能しつつ寝ることになった。番は雅花であった。携帯ゲームを握り締めて。




