15話:思い出
俺は、6歳の時、父さんと初めて旅行した。
それだけじゃない。
俺にとってその旅行は、俺が初めて外に出た日だ。
だが、俺は今の今までそのことを忘れていた。
そんな大事な日なのに、だ。
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「お父様、お父様ぁっ!」
「ん?なんだい?」
その日、父さんはどこか体調が悪そうだった。
それでもあの時の俺は、早く友達を作りたくてはしゃいでいたんだ。
「僕、早く友達作りたいッ!」
「ごほっ、ごほっ…。すまない。父さんは、ちょっと風邪をひいたようだ。」
「ええー…。」
俺が、しょんぼりしていると、父さんは優しく笑い俺の頭を撫でながら言う。
「大丈夫だ。風鳥にいろんな場所を案内してもらいなさい。」
俺は、嬉しそうに頷く。
「うん!ありがとう!」
「さあ、支度をして来なさい。」
「うん!」
俺が、出ていった部屋には父さんしかいないはずなのだが、いつの間にか風鳥がいた。
「風鳥、もしもの時は頼んだぞ。」
「かしこまりました。坊っちゃまの力が暴走しそうになった時は、私は迷わずに坊っちゃまを殺します。」
「ああ、すまない。汚れ仕事をさせるようなことになってしまったら。」
「そんなことは、ありませんっ!貴方が、私を死の淵…いや、それ以上にひどい場所から救い出してくださったのですからっ!」
「…俺は、何もしていない。君が、俺に助けを求めただけだ。そして、俺はそれに答えただけ。まあ、とにかく頼んだぞ。」
「はい。」
風鳥は、事務的に答える。
部屋を出た後、風鳥の目からは涙がこぼれ落ちていた。
(私は、あの可愛い元春坊っちゃまを殺せない。彼は、私にとって希望なのだから。どうすれば、彼を助けられる?だが、まずは彼が暴走しないことを祈るしかない。)
風鳥の背中は、どこか寂しげで切なげだった。
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「ねえ、風鳥…。」
「なんですか?元春坊っちゃま。」
「僕、たくさん友達作れるかな?」
不安げな俺を見て、風鳥は優しく笑う。
「大丈夫です。坊っちゃまは、たくさん友達が出来ますよ。」
「ホント?!」
「ええ。」
「そしたら、僕はずっと友だちと仲良く死ぬまで一緒に笑っていたい。出来るかな?しわしわのおじいちゃんになっても、笑って生きていられるかな?」
風鳥は、悲しげに笑う。
「出来ますよ。何たって、元春坊っちゃまなんですから。」
「えー、意味がわからないよぉー。」
「いつか、坊っちゃまが本当に笑える日が来ることを私は、死ぬまで待ち続けますよ。」
「いいよォー、そんな待たなくて。僕は、あっという間に友達作るから!風鳥が、元気な内に僕の友達を紹介したげる。」
「それはそれは、大変楽しみですね。」
「えへへー。」
(坊っちゃまが、楽しそうに笑うのを見るのが好きだった。)
「なあ、なんかあそこだけ、シャッターしまってるけど…どうしたんだろう?」
「確かに可笑しいですね。様子を見てきます。」
「ちょっ!待てよ!」
その時、光る鳥を見た。
『助けてください!人質がいます!誰か、強い方助けてください!それ以外の方は、警察を呼んでください。』
「坊っちゃま!助けをよんできてください。私が、乗り込むので。」
「ばあか、僕1人でみんな救える。それに子供相手だと、悪も気を緩めるだろ?」
「しかし!」
「…これは、命令だ。僕のすることに口出しするな。」
(そこには、あの可愛い元春坊っちゃまは、存在しておらず…絶対的王者が存在しているのでした。私は、彼に畏敬の念を抱いてしまいました。)
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「風鳥、無事皆助かったぞ。」
俺は、ニコニコ笑う。
風鳥は、心底安心したように笑う。
その時、ある一人の少女が走ってくる。
「あっ、ありがとう!私の名前、花菜。私とお友達になって!」
俺は、凄く嬉しそうに笑い、頷き、花菜の差し出した手をとる。
そして、風鳥に言った。
「おいっ、風鳥…こいつが、僕の初めての友達だ!」
「本当に、あなたの宣言通り私が元気な内に、元春坊っちゃまの友達を紹介しましたね。恐れ入ります。」
「へへっ、僕は有言実行する男だからな!」
これは俺が、今までこのことを忘れることになったきっかけの前兆だったんだ。
「おいっ、あいつか?一宮元春っつう餓鬼は。」
「そ〜っすよ。」
怪しい影が、俺達を見ていた。




