エピローグ 友達とのお茶会
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あの後、気が付いたらまた学園の医務室のベッドの上だった。
どうやら気が抜けて爆睡した私は、学園に戻るまでのあいだずーっと眠りこけていたらしい。急いでまた医務官に診察されたけど、「図太いおなごじゃのう!」と太鼓判を押された。また叩かれた背中が痛かったことは言うまでもない。
だけど、そんな私の隣には、楽しそうに笑うアネモネちゃんがいて。
明日から授業復帰するお祝いにと、今日はアネモネちゃんがお茶会を開いてくれた。
中庭で一番豪華なあずま屋は、かつて花の御三家のお茶会を行っていた場所。
そこのテーブルに、今日は赤いアネモネの花が飾られていた。それを彩るように……いや、埋もれんばかりに一緒に活けられているのは、ナズナの花。
それを見て、私は思わず苦笑してしまった。
「どこからこんなにナズナを集めてきたの?」
「今日の趣旨を話したら、従者が喜んで集めてきましたわよ」
従者が引いた椅子に、当たり前のように腰掛けるアネモネちゃん。その言葉に、あまり見覚えのない従者が嬉しそうに口角をあげていた。きのこみたいな髪型とつぶらな瞳が特徴的な若い人だ。見るからにいい人そう。
その従者集団の中に、気取った眼鏡のゼインさんはいない。というか、従者の人数がぐんっと減っていた。二十人以上引き連れていたのが、四人に減っていた。
「なんか……アネモネちゃんのまわり、寂しくなった ね」
私も席に座りながら遠慮がちに尋ねるも、アネモネちゃんの答えはひどくあっさりしていた。
「ゼインの手のかかった者は全員お父様が解雇しましたから」
「アネモネちゃんは……大丈夫なの?」
聞いた話によると、王太子殿下の最愛を手に入れられなかったこと、そして殿下の手を煩わせたことを、アネモネちゃんもお父さんからひどく責められたという。だから、学園の退学も噂されていたらしいんだけど……アネモネちゃんは堂々と紅茶を飲んでいた。
「一連の事件のせいで、親からの援助はかなり減りましたわ。どうやらあたくしが王太子妃候補から外されたから、今度は妹を候補に入れようと何か企んでいるようなんですの。そのため、あたくしに掛けられていた費用が減るのは自然なことですわね。ですが、ルシアン殿下があたくしのことも『友人』と報告してくれたおかげで、お父様も表向きは今までと同じにしなければと判断してくれたようですわ」
とりあえず、今後も学園に通うことは許可されたようで安心したけど……なんか裏では色々変わったよってことなんだよね?
思わず、私は先と同じ質問を重ねてしまう。
「アネモネちゃんは……それで大丈夫なの?」
するとアネモネちゃんは迷わず「何も問題ないですわ!」と言い捨てた。
「学費と援助金はもう支払い済みですし、それを撤回するほど外聞を捨てられる方ではございませんもの。あと、半数の従者は足りない費用のために、出稼ぎに行ってますの」
「で、出稼ぎ……?」
「あたくしの役に立ちたいと、自ら申し出てくれましたわ」
そのとき新しい筆頭従者さんが、アネモネちゃんに耳打ちした。それにアネモネちゃんが「よろしくてよ」と応じたら、新しいきのこな筆頭従者さんがキラキラした目で話し始めた。
「残ったぼくらはアネモネ様の信者なのです! ぼくもアネモネ様クイズで最後まで生き残り、この筆頭従者の座を手に入れたのですよ!」
「そのときのうるさい喜びの叫びが、今も耳に残ってますわ……まぁ、あたくしの人望もばかにならないってことね」
自慢することなく、むしろうんざりと言わんばかりのアネモネちゃん。
流石すぎる、かっこいい……。
私が羨望の目を向けていると、アネモネちゃんが「で――」と眉根を寄せた。
「どうして、あなた方もいらっしゃるんですの?」
「最愛のナズナ嬢の快気祝いだ。僕がお祝いしたっていいだろう?」
「そうそう。もう俺ら四人ってマブダチだろ♡」
そう――なぜか一緒にテーブルを囲んでいるルシアン殿下とバルクロウ。
文句を言いながらも、ちゃんと彼らにもお茶とお菓子を出してあげているアネモネちゃんはやっぱり優しいね。不満は隠さないようだけど。
「……せっかくナズナと二人でゆっくりできると思ったのに」
正直なところ、私もアネモネちゃんと二人がよかったのが本音である。殿下とバルクロウがアネモネちゃん救出に協力してくれたのは、本当に感謝しているんだけどさ。
だけど、それを口にしようものなら「不敬かい?」と言ってきそうな笑みをしているので、怖くて言えない。
そんな今日もニコニコの殿下から視線を逸らしていると、アネモネちゃんが飲んでいたカップを強めに下ろす。
「けど、ナズナも明日からしっかりするのよ!?」
「勉強の予習復習ならバッチリだよ?」
この数週間はバタバタしてしまったけど……私は将来の夢を忘れたわけではないのだ。
王城書記官! そのため、学業で後れを取ってはならないと、アイ君に先生との橋渡しをしてもらって、寝るとき以外はベッドの上でずっと勉強していた私である。
課題のプリントもしっかり提出して、先生方からも『補講は必要ないようですね』と太鼓判を押してもらっていたんだけど……アネモネちゃんの心配はそこではなかったらしい。
「殿下の最愛と呼ばれるようになって、明日が初めてのまともな登校でしょう? これから大変よ! その座から下ろそうとする方もいれば、おこぼれに預かろうとすり寄ってくる方もいるでしょうね」
「そ、そんな~」
巨大迷路のオリエンテーションの前後でさえ、けっこう気苦労したのに……あんなのがこれからも続くなんて……もっとひどくなったりするのかな?
私は落ち着いて勉強さえできればいいだけなのになぁ、と頭を抱えていると、アネモネちゃんが口を尖らせてボソリとつぶやいた。
「ま、何があってもあたくしが守りますけど」
「アネモネちゃ~ん!!」
私はたまらず隣の席のアネモネちゃんに抱き着いた。
「アネモネちゃんだいすき! すっごくすき!」
「……知ってますわよ、そんなこと」
「照れてるアネモネちゃんもすき~♡」
うれしいな、またアネモネちゃんと仲良くできるなんて。
好きなだけ勉強ができて、だいすきな友達にも一緒にいられる。
まさに私の理想的な学園生活だ!
私がアネモネちゃんを堪能している間、男子たちも仲を深めているらしい。
「これ、僕らの入る隙はどこにあるのだろうね?」
「当分は無理じゃないっすかね~。俺がどんなに溺愛してやっても、今のあいつ完全スルーですし。おともだちだいすき~で、俺らなんか眼中にないじゃないっすか」
「でも、きみは告白の返事をもらわないくていいのかい?」
お茶を飲みながらも疑問符に、殿下がチッチッチッと三回指を振った。
「知ってます? 恋愛は相手の最後の男になったもんが勝者なんすよ」
「それは初耳だ。まるで僕から奪う気満々のようだね?」
「そもそも『最愛』とか言っても、ただの片思いですしね~。俺と何が違うんすかぁ?」
「へぇ……どうやらクローヴ家は王太子直々に内情調査をしてもらいたいようだね?」
なんだろう、殿下とバルクロウはにこやかに話してるのに、空気が黒い気がする。
私が気にしていると、アネモネちゃんが首の向きを無理やり変えてきた。
「気にしちゃだめよ。ほら、このお菓子が美味しいわ」
アネモネちゃんに差し出され、私はクッキーをぱくっと食べる。
おいしい! アイ君も好きそうな味かも!
ちらりとアイ君を捜すと、アネモネちゃんの従者から食器の運び方を教わっているらしい。アネモネちゃんが従者に教育をしてあげるよう命令してくれたのだ。
ご褒美に食べてもらいたいな……そう思っていると、アネモネちゃんが言ってくれる。
「お土産に持たせてあげるから、あとで従者にもあげなさい」
「ありがとう、アネモネちゃん。だいすき!」
私の楽しい学園生活は、まだまだ始まったばかりだ。
【第一部】おしまい!
最後までお読みいただきありがとうございました!
一応この先もあるのですが、現在中途半端なところまでしか書けないので、
ここで一旦【完結】とさせていただければと思います。
「おもしろい!」「続きが楽しみ!」「続きも待っているよ!」
などと、少しでも思っていただけましたなら、
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本作品がみなさまの有意義な暇つぶしになれたことを願って
ゆいレギナ




