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転生造船技師は最強艦隊を作る  作者: 竹本田重郎


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第41話 太平洋波高し

飛鳥の応接室に一人とたたずんでいる。




 ゴーン…ゴーン…




 時計の重厚な音が響いた。




「始まった。もう後戻りはできない」




 日本時間にして12月8日に突入する。




「先に上陸作戦が行われる。小沢艦隊は真珠湾基地の動きを見て作戦を変えるはずだ。どうか賢明な判断をお願いしたい」




 今日は目覚ましのコーヒーが手放せなかった。




=ハワイ=




 さて、時差がある上に遥か先のハワイの真珠湾基地は意外や意外に平和な時間が流れていた。戦艦ではダンスパーティーが開かれる。どの艦艇の船員が上手いか投票を行った。そんなどんちゃん騒ぎの中でも仕事を忘れない者たちがいる。朝から晩まで交代制だが飛び続ける哨戒機だ。




 彼らは運悪くパーティーの日に哨戒を充てられる。日米関係の悪化から哨戒を強化せざるを得なかった。あえて高い高度を飛行して視界に入らないようにして通常通りを意識する。かと言ってだ。高度を上げすぎると見えなくなって哨戒の意味をなさない。アメリカらしからぬ「良い塩梅」が求められた。




「ジャック。もっと高度を下げてくれないと見えねぇよ」




「あぁ悪い。つい照明の光が目に入っちまいそうでな」




「これも仕事だから我慢してくれ。ドクが気を利かせてケーキを作ってくれるってよ」




「コックに気を利かせちまうのも嫌なことだよ。なんかなぁ」




「お前たちが恨むんなら…」




「日本だろ? この前も変な船がいたよ。中国の貨物船だが日本の籍じゃないのかね」




「あいにく、下手に手を出せん。カタリナは飛行艇だ」




 カタリナ飛行艇は持ち前の安定性を活かして長時間の哨戒任務に精を出す。ここ最近は不審な船影が多く見受けられた。中国やタイに始まり、北欧、南米など国際的な貨物船を認める。一応基地に通報するがまともに取り合ってくれなかった。中立国の船舶である。イギリスのようにヘマは犯せなかった。一部は日本の仮装巡洋艦ではないか疑ったが上層部が一掃する。日本から来れるはずがなかった。ハワイの場所を知らないと笑い飛ばす。もちろん、そんなこともなかった。ただ極東の小国が偉大なるアメリカーナに挑むことが滑稽である。




「ちょっと高度を下げる。やっと目に入らなくなってきた」




「最初から頼むぜ。俺はそろそろ眼鏡をかけるぐらいに近視なんだ」




「カタリナから降りちまえ」




「なんて言い方をしやがる。これでも立派なクルーだぜ」




 軽口を飛ばしながら哨戒飛行を続けた。水上の船舶よりも水中の不届き者を探すことに努める。誰もが平和な世界と語った。文字通りの水面下で戦いは繰り広げられる。潜水艦は隠密性を活かして極めてブラックに近いグレーな行いを堂々と広げた。どの国もやっていると言い訳は通用しない。一度発見されれば即座に撃沈だった。ヨーロッパでは大熱戦が広がっていることもある。ドイツのUボートらしき潜水艦が侵入を試みる事件も記録された。日本が便乗する可能性は極めて高い。




 オンとオフの切り替えはキッチリとだ。カタリナ飛行艇のクルーも立派なエリートである。仕事はキッチリとシッカリとわずかな異常を見逃さなかった。銃手はブローニングを握りながらガラス越しに海面を見つめる。機長から指示が出た瞬間に引き金を引いた。12.7mmの弾丸が潜水艦の脆弱な船体を穴だらけにする。爆弾も爆雷も要らなかった。ブローニングだけで事足りること。




「おっと?」




「どうした。Uボートか」




「なんだ見間違いだ。すまん」




「何でもいい。言ってくれないと判断できん」




「気泡だよ。海面が局所的にブクブクってしていた。イルカの類だよ。ここはイルカがよく来る」




「鋼鉄のクジラじゃねぇだろうな」




「なに、気泡の規模が小さかった。イルカさ」




 一人が気泡のブクブクを見たらしいが既に消失していた。確かめようがない。念のために聞いてみるがイルカだろうと返された。ここはイルカが群れで出没することで有名である。人間に興味があるのか警戒艇や駆潜艇に挨拶してくれた。彼らも見たことがあるためイルカと片づけている。鋼鉄のクジラじゃないか疑ったが特に何も起こらなかった。この場で旋回飛行して居座っても燃料の無駄と本来のルートに戻る。




「明日は休みだ。俺たちだけでパーティーをやろうぜ」




「それ、いいな。ドクにチキンを頼んでおくよ」




「俺はビールを貰ってくる」




「あぁ、それがいい。あと4時間の辛抱だ」




 いつ何時も疑うことを忘れてはならなかった。カタリナ飛行艇が発するツインワスプの爆音が消えるとニョキっと流木が現れる。とても流木が出現する格好でなかった。アメリカ時間では日米開戦に至っていないがとうに動き始めている。流木はグルっと一回転したかと思えば再び海に消えていった。よほど視力が良くなければ捕捉できない。




「敵飛行艇はどこかへ飛んで行った。危なかった」




「勘のいい奴はアメリカ人にもいるんです。侮ってはなりません」




「あぁ、いい勉強になった。敵艦は見られない。どこか真珠湾が明るいことは気になるが目印と考えた。それでは機雷敷設作業を開始せよ。合図を飛ばせ」




 キューキューと甲高い音が響き渡った。イルカの鳴き声らしい。なるほど、ここはイルカが頻繫に出没する名所なんだ。鋼鉄のイルカたちは尾の方から黒色にして円筒状の物体を絞り出す。最初は海底に沈んでいくが重りが先行することで一定の深度を保った。鋼鉄のイルカ群が置き土産と敷設を進める。これ以上の誤魔化しは不可能だ。日本海軍の機雷型潜水艦がアメリカ時間など知らんと日本時間の命令に従って機雷敷設作業を敢行する。機雷は防御の兵器であるが潜水艦と組み合わさり攻撃の兵器に転じた。




 今日の敷設作業はパナマ運河封鎖計画の前段と考えている。まずは真珠湾を封鎖できるかを試してみた。アメリカ海軍にとって迷惑極まりない。日米開戦から迷惑もクソも何もなかった。これが成功すれば万々歳を叫ぶ。これが失敗すれば反省を活かした。どちらに転んでも将来につながる。やってみないとわからないを行動で示した。したがって、パナマ運河封鎖作戦という本番さながらの緊張感である。ハワイが目の前にある以上は緊張感が無いと困るが訓練を積みすぎていた。ある時は低気圧で荒れる海中で機雷敷設作業を行っている。それと比べれば容易いことだ。




「零式磁気感応機雷だからな。高いんだぞ。八八式を老体に押し付けたんだ。俺たちは若いから新しい物を貰っている。一個も無駄にしちゃならん。駆逐艦でも沈めるんだ」




「戦艦でも当たれば沈みますよ。零式は高性能が詰まった特製ですし」




「特製でも当たらなければ意味をなさんだろうが。密度だ。とにかく濃く並べるんだ」




「機雷型潜水艦が4隻もいれば真珠湾の入り口は封鎖できます。200個も並べられて無事に通過できる艦艇ふねがありましょうか。太平洋艦隊と威勢だけは立派なオンボロの戦艦を引きずり込みます」




「十中八九で先遣の警戒隊が引っかかる。あえて、深度を浅めに設定した。太平洋艦隊の本隊が右往左往しているところを友軍が襲い掛かる。運よく逃れることができても変わらない。友軍は悠々自適に攻撃できた。機雷は防御でも攻撃でも補助でも活躍できる。なんと素晴らしい兵器か」




 この男は機雷戦を研究してきた経歴から機雷を愛している。最新鋭の潜水艦と古典的な機雷を効果的に運用するために狂気的な愛情が必要だった。潜水艦も機雷も効率では扱えないのである。機雷戦の装備を刷新して尚も職人的な技量が要求された。密度を濃くしながら深度を絶妙に設定していく。




 深度が浅すぎると発見されて掃海艇を呼ばれてしまった。


 深度が深すぎると磁気に信管が反応できない。


 間隔が狭すぎると複数を巻き込めなかった。


 間隔が広すぎると通過を許してしまう。




「日米開戦は機雷から始まるんだ」




 太平洋の波浪は高かった。




続く

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