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錆喰いの古刀(ラスト・イーター)  作者: 赤紫


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偽りの帝(ミカド)と鉄の墓標

幕間:囚人の肖像とブーメラン


1. 剣戟の会話スパーク

ガギィンッ!!

乾いた、しかし重い衝突音が地下空間に反響した。 とう国・特別徴刀局本部、地下第三訓練場。 コンクリート剥き出しの冷たい空間で、二つの影が激しく交錯していた。

「遅い! 迷いがあるわよ、ジン!」

裂帛れっぱくの気合いと共に、神楽坂レイナが木刀を突き出す。その鋭さは、単なる稽古の域を超えていた。喉元を確実に狙う、必殺の突き。 ジンは寸前で首を捻り、風切り音を耳元で聞きながら、下から木刀を擦り上げた。

「うるせぇ……! 誰のせいでこんな不自由な生活してると思ってんだ!」

バシッ!

俺のカウンターがレイナの小手を掠める。だが、彼女は痛みに顔をしかめるどころか、楽しげに口元を歪めた。

「あら、人のせいにしないの。……アンタがあの時、ハルアキたちを追いかけようとしたヤマトを止められなかったのが悪いのよ」 「無茶言うな! あんな状態で止められるかよ!」

俺たちは互いに悪態をつきながら、さらにギアを上げる。 対外的には、俺たちは「重要参考人」として拘束されている身だ。だが、現場レベルでは「貴重な戦力」として温存されており、こうして監視付きでのトレーニングが許可されている。 汗が飛び散り、筋肉が悲鳴を上げる。思考するよりも早く体が動く、極限の集中状態。

パンッ、パンッ、パンッ。

不意に、無機質な拍手がその空気を断ち切った。

「……そこまで。素晴らしい気迫ですが、お時間です」

入り口に立っていたのは、黒いスーツを着た事務官だった。感情のない目で俺たちを見つめ、タブレット端末をタップする。

「お二人とも、上からの指示です。これより『データベース用画像』の撮影を行います。……ついて来てください」


2. 虚構のデータベース

通されたのは、殺風景な取調べ室だった。 マジックミラー越しの視線を感じる部屋の中央には、パイプ椅子と、撮影機材がセットされている。 先客として、源蔵とタキが待っていた。

「よぉ、精が出るな。剣術バカども」

源蔵がパイプ椅子に座り、大きなあくびをした。タキは壁際で無関心に端末を弄っている。 いつもならここに騒がしいツインテールの少女――ミナがいるはずだが、今日はいない。

「撮影って、何用ですか? 普通のマグショットなら入局時に撮ったはずでしょう」

レイナがタオルで汗を拭きながら事務官に尋ねる。 事務官は淡々と答えた。

「他国への対策です。現在、きん国およびソーシア連邦からの、我が国のサーバーへのハッキング攻撃が激化しています」 「ハッキング?」 「ええ。奴らの狙いは、行方不明のヤマト皇太子と、関係者の現状確認です。……そこで、あえてハッキングさせ、偽の情報を掴ませることにしました」

事務官が指を鳴らすと、屈強な看守が重々しい装備を持って入ってきた。 分厚い革と金具で作られた、厳重な拘束衣ストレートジャケット。そして、猿轡さるぐつわだ。

「貴方たちが東国の管理下で完全に無力化され、廃人同然になっている……というデータを流します。そうすれば、他国も手出しをしにくくなる」

「……ケッ。相変わらず陰湿なこった」

源蔵が呆れたように鼻を鳴らす。「死んだふり」で敵を欺く。いかにも官僚的な発想だ。 事務官は無視して、俺を指差した。

「では黒鉄ジンさん、貴方からです。……これを着てください」


3. 被写体:特級危険物

「……マジかよ」

数分後。 俺は全身を拘束衣でガチガチに固められ、椅子に固定されていた。身動き一つ取れない。 カメラのフラッシュが焚かれる中、カメラマンの横からレイナが顔を出す。

「あはは! 似合うじゃない、ジン! まさに『特級危険物』って感じ!」

レイナは腹を抱えて笑っている。 彼女にとって、俺が不自由な格好で晒し者にされているのが愉快でたまらないらしい。

「ちょっと、表情が硬いわよ! もっと虚ろな顔をして! そう、絶望に打ちひしがれて、魂が抜けちゃった『廃人』っぽく!」

レイナがカメラマン気取りで注文をつけてくる。

「うるせぇ……! 好きでこんな格好してるわけじゃ……」 「あ、口答えしない! ほら、もっと項垂れて! ……そうだ、ヨダレとか垂らしてみる? その方がリアリティあるんじゃない?」

「ぶっ……!」

背後で源蔵が吹き出す音が聞こえた。 俺は屈辱に震えながら、レイナを睨みつけることしかできない。 撮影は数十分続き、俺は心身ともに疲れ果てて解放された。

「……くそっ、覚えてろよ」

拘束衣を脱がされ、俺は不機嫌に肩を回した。 レイナは満足げにニヤニヤしている。

「あー面白かった。いい気味ね。……それじゃ、私はシャワー浴びてくるから」

レイナはタオルを肩にかけ、軽い足取りで出口へと向かった。 俺の無様な姿を見て、日頃のストレスが解消されたのだろう。 だが。

「――お待ちください」

ドアノブに手をかけた瞬間、事務官の冷淡な声が彼女を呼び止めた。


4. ブーメラン

「へ?」

レイナが振り返る。 事務官は眼鏡の位置を直し、無表情のまま告げた。

「次は神楽坂レイナさん。……貴女の番です」

「……は?」

レイナの思考が停止したのが分かった。 事務官は手元のリストを見ながら続ける。

「貴女も現在、国家反逆罪の容疑および重要物資(ヤマト皇太子)紛失の責任者として、拘束中の身です。……当然、データ偽装の対象になります」

看守たちが、先ほど俺が着ていた拘束衣を持って、レイナにじりじりと近づく。

「ちょ、ちょっと待って! 私は徴刀局のエージェントよ!? なんで私がそんな……」 「上からの指示です。『例外はない』と。……さあ、着用してください」 「いやっ! 冗談でしょ!? 離してよ!」

レイナがジタバタと抵抗するが、訓練された看守たちにあっさりと取り押さえられる。 先ほどまでの余裕の笑みが消え、顔が引きつっていく。

「ほら、神楽坂さん。……もっと虚ろな表情でお願いしますよ?」

俺は腕組みをして、先ほどの仕返しとばかりにニヤリと笑った。

「そ、そうだな嬢ちゃん。……絶望に打ちひしがれた顔、頼むぜ?」

源蔵も腹を抱えて笑っている。 タキでさえ、口元を微かに緩めていた。

「うそ……やだ、絶対やだぁぁぁッ!!」

レイナの悲鳴が取調べ室に響き渡る。 因果応報。 東国の地下深くで、しばしの間、殺伐とした逃避行を忘れさせるような間抜けな騒ぎが続いていた。


幕間:囚人の肖像とブーメラン(完)

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幕間:迷走メカニックと樹海の赤鬼


1. チェックメイト

『警告。未登録車両および不法侵入者を確認。直ちに武装解除せよ。繰り返す、直ちに――』

「あ……あわわわ……」

とう国、西部国境ライン。 深夜の荒野で、私は脂汗を流しながら両手を挙げていた。 目の前には、漆黒の闇に浮かぶ無数の赤い光点。それは星空などではない。上空から降下してきた、東国国境警備隊の自律型ドローン群のセンサーライトだ。 全身を数十個の赤色レーザーサイトでロックオンされ、私の愛車(自家製ステルスバギー)は、完全に包囲されていた。

『警告。未登録車両および不法侵入者を確認。直ちに武装解除せよ。繰り返す、直ちに――』

無機質な合成音声が、死刑宣告のように響く。

「ち、違うの! 怪しいものじゃないってば!」

私は引きつった笑顔で、必死に叫んだ。

「身内! 味方だってばーッ!! 私は特別徴刀局のメンバーよ! IDタグもあるから撃たないでぇぇぇ!!」

私の絶叫が夜の荒野に虚しく響く。 一体全体、どうしてこんなことになったのか。 話は数日前に遡る――。


2. 謹慎中の大発見

「はぁ~……ひま

自宅兼ガレージ。 ジャンクパーツの山に埋もれながら、私はスマホの画面を虚ろにスクロールしていた。 あの日、てん国からの帰還便でハルアキたちの拘束を解く引き金(扇子の解析事故)を引いてしまった私は、特別徴刀局からこっぴどく叱られ、現在**「一ヶ月の無給謹慎処分」**を受けていた。 給料は出ないし、外にも出られない。機械いじりにも飽きてきた。

「なんか面白いことないかなぁ……」

裏SNSやオカルト掲示板を巡回していた、その時だった。ある書き込みが私の目に止まった。

【目撃情報】富士の樹海に「赤鬼」出没? 『空白地帯の樹海で、血のような**赤い霧** を纏った亡霊を見た。近づくと体が焼けるように熱かった。死神かと思った』

「……これって」

私はガバッと起き上がった。 赤い霧。近づくものを焼く熱気。 間違いない。あの地下聖域で見た、オリジンの力に飲み込まれたヤマトの特徴そのままだ。

「ビンゴ! ヤマトはまだ、日本のどこかを彷徨ってるんだ!」

私の脳内で、スーパーコンピューター並みの計算が弾き出される。 もし私が単独でヤマトを見つけ出し、説得して連れ戻せば? 汚名は返上、謹慎は解除、あわよくば特別ボーナスで最新の旋盤機が買えるかもしれない!

「やるしかない! 待っててね、私のボーナス……じゃなくて、ヤマト!」

私はガレージの奥に眠っていたシートを勢いよく剥ぎ取った。


3. オタクのこだわり装備

起動ブート、『ステルスバギー・改』!」

私が乗り込んだのは、東国の最新鋭ステルス迷彩技術を(勝手に)解析し、スクラップ車両に搭載した違法改造バギーだ。 国境警備のセンサー網など、私の技術にかかればザルも同然。 さらに、今回の相棒も起動する。

「行くよ、ポチ・マークIII!」 『ワン! 起動シマシタ』

助手席に乗せたのは、犬型探索アンドロイド。高性能な嗅覚センサーと熱源探知機を搭載した自信作だ。 ただ、私の「生物的なリアリティへのこだわり」が強すぎたせいで、プログラムに少し癖があるのが玉にきずだが……まあいいだろう。

私は意気揚々とアクセルを踏み込んだ。 国境の監視網をステルスモードで華麗に突破し、法も秩序も存在しない無法地帯――**「空白地帯ホワイト・ゾーン」**の富士の樹海へと侵入した。


4. 樹海の探索

数日後。 広大な樹海の中で、私はキャンプ生活を送っていた。

「ねえポチ、まだ見つかんないの?」 『検索中デス……クンクン』

ポチは鼻を鳴らしながら森を進む。だが、数メートル進むたびに片足を上げ、木に向かって**「マーキング(放尿モーション)」**を行う。もちろん液体は出ないが、その無駄な動作のせいで進行速度が遅い。

「もう! いちいちマーキングしなくていいから! 緊急時なんだよ!?」

私がツッコミを入れた、その時だった。 ガサガサッという音と共に、草むらから数人の男たちが現れた。ボロボロの服を着て、錆びた斧やバールを持った野盗グループだ。

「へへっ、いい車に乗ってるじゃねえか嬢ちゃん」 「身包み剥いで、その犬もスクラップにして売っちまおうぜ」

「げっ、野盗!?」

私は慌ててバギーの座席下から護身用のスパナを取り出した。 だが、今の私は天国の地下で無双した「戦闘用アーム」装備ではない。東国に戻った際、通常の**「精密作業用マニピュレーター」**に戻されていたのだ。

「や、やめなさいよ! 私は特別徴刀局の……きゃあっ!」

男たちに囲まれ、バギーから引きずり出される。 ポチが『ウゥーッ』と唸るが、緊張感が高まったプログラムのせいで、あろうことか敵の前で**「欠伸あくび」**をしてしまった。

「このポンコツ犬ぅぅぅ!!」 「大人しくしな! 車も体も頂いていくぜ!」

男の手が伸びる。「や、やめ……私の大事なマシンに触るなぁーッ!」 絶体絶命。 そう思った瞬間だった。


5. 赤鬼の出現

ズズズ……ッ。

森の奥から、不自然な風が吹いた。 それは湿った樹海の空気ではなく、鉄錆の臭いがする、熱く重い風だった。 次の瞬間、視界が**「赤」**に染まった。

「な、なんだこの霧は!?」 「あつっ! 肌が焼ける!?」

野盗たちが悲鳴を上げて後退する。 血のような赤い霧が地面を這い、木々を浸食していく。その霧の中から、ゆらりと一つの影が現れた。

「……去れ」

低く、響く声。 ボロボロの服を纏い、手には白銀の剣――『天叢雲アメノムラクモ』を持った少年。 ヤマトだ。 彼の瞳は虚ろだが、そこから放たれる眼光は、まさに「鬼」のそれだった。

「ひっ、ば、赤鬼だぁぁぁ!!」

ヤマトが一歩踏み出しただけで、野盗たちは恐怖に顔を引きつらせ、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。剣すら振るっていない。ただの「圧」だけで、無法者たちを蹴散らしたのだ。


6. 拒絶

「ヤマト!?」

私は腰を抜かしながらも、彼に駆け寄った。

「よかった、生きてたんだね! 探したよ!」

ヤマトは無表情のまま、剣を下げた。周囲の赤い霧が少しだけ薄らぐ。

「……東国の。なぜここに」 「ヤマトを連れ戻しに来たの! みんな心配してるし……それに、ヤマトが戻れば私の謹慎も解けるし!」

私は勢い込んで言った。 東国に戻れば、ジンたちもいる。きっとまた以前のように……。 だが、ヤマトは静かに首を横に振った。

「……すまない。私はまだ、帰れない」 「え? どうして?」 「この力……『オリジン』の制御は、まだ完全ではない。感情が昂れば、また周囲を焼き尽くしてしまうかもしれない」

ヤマトは自分の手を見つめた。そこには、私の目には見えない「血」がついているかのように。

「私はこの力の意味と、進むべき王道を見つけなければならない。……君は戻れ。ここは君には危険すぎる」

「でも……!」 「行ってくれ」

ヤマトが背を向ける。その背中は、以前よりもずっと大きく、そして孤独に見えた。 赤い霧と共に、彼は再び樹海の奥へと消えていった。


7. オチ:最大のピンチ

「……ちぇーっ。ケチ。かっこつけちゃってさ」

私は一人残された森で、ポチの頭を撫でながら悪態をついた。 説得は失敗。手ぶらでの帰還だ。 でもまあ、命が助かっただけマシか。ヤマトが生きて、自分の意志で歩いていることも確認できたし。

「帰ろっか、ポチ」 『ワン! お腹空きマシタ』

私はバギーに乗り込み、東国への帰路についた。 数時間後。深夜の国境ラインが見えてくる。 行きと同じように、ステルス機能を使えば問題なく通過できるはずだ。

「ステルスモード、オン!」

私は自信満々でスイッチを押した。 だが。

『警告。ステルスエミッター、破損。機能シマセン』

「……はい?」

モニターに表示された非情なエラーメッセージ。 見れば、車体後部のアフターバーナー付近が凹んでいる。さっきの野盗にバールで殴られた箇所だ。 そこが、よりにもよってステルス装置の心臓部だったなんて。

「う、嘘でしょ? ……あ」

前方で、国境警備センサーが赤く点灯した。 ウゥゥゥゥゥ――ッ!! サイレンが鳴り響く。上空から降下してくる無数のドローン。 そして、

『警告。未登録車両および不法侵入者を確認。直ちに武装解除せよ。繰り返す、直ちに――』

無機質な合成音声が、死刑宣告のように頭上で響く。

「私は特別徴刀局のメンバーよー!! 味方だってばー!!」

無数のレーザーにロックオンされながら、私は夜空に向かって絶叫した。

「あぁぁぁ、これで謹慎が伸びるぅぅぅ!! ボーナスがぁぁぁ!!」

私の悲劇的な叫びは、誰にも届くことなく、樹海の闇に吸い込まれていった。


幕間:迷走メカニックと樹海の赤鬼(完)

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第11章 偽りのミカドと鉄の墓標


1. みやびなる断罪

「ひっ、あぁ……! 助けておじゃれ……!」

きょう国・首都京都。 かつて栄華を極めた「御所」は今、紅蓮の炎と黒煙に包まれていた。 豪奢な襖絵は焼け落ち、畳は近衛兵たちの鮮血で赤く染まっている。その最奥、「謁見の間」。 引きちぎられた御簾みすの向こうで、一人の老人が床に額を擦り付けていた。 京国の絶対支配者、御門みかど。 ホログラムや音声合成で神秘性を演出し、国民を恐怖で支配してきたその正体は、死を恐れて震える、ただの小柄な老人だった。

「よ、余は騙されたのだ……! きん国に、 頼む、命だけは……!」

老人は涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、眼前の「怪物」に慈悲を乞うた。

「……見苦しい」

冷徹な声が、炎の爆ぜる音を切り裂いた。 そこに立っていたのは、きゅう国の無骨な重装甲。漆黒のボディには、血管のように赤く脈動する**「霊鋼タマハガネ」の回路が不気味に絡みつき、明滅している。それは科学と呪術、そして狂気が融合した、異形の次世代型強化外骨格パワードスーツ**だった。

フェイスプレートが開き、中から土御門ハルアキの顔が覗く。 その瞳には、かつてのエリートとしての矜持はなく、底知れぬ虚無と昏い野心が渦巻いていた。

「無様でおじゃるな。……その老醜こそが、貴方様の『無粋』な本性か」 「ハ、ハルアキ……余は、お前の主ぞ……!」 「主? 滑稽な。貴様はただの臆病な老人だ」

ハルアキは漆黒のガントレットを振り上げた。霊鋼の爪が、熱を帯びて赤く輝く。

「金国の口車に乗せられ、ポンコツ兵器で国を滅ぼした愚か者。……貴様に『雅』を語る資格はない」 「や、やめろぉぉぉッ!!」

ザンッ!!

躊躇いも、慈悲もなかった。 一閃。 老人の首が胴体から離れ、ボールのように床を転がった。噴き出した血が、ハルアキの黒い装甲を濡らす。

ハルアキは無造作にその首を踏みつけ、空席となった玉座へと腰を下ろした。 誰もいない、燃え盛る広間。 彼はモニター越しに、全軍へ向けて宣言した。

「これより、まろが京の……いや、世界の御門みかどでおじゃる」

その狂気じみた高笑いが、崩壊する帝都に響き渡った。 彼がここに至るまでには、深海よりも深く、暗い「堕転」の物語があった。


2. 深海の拾得物

時計の針は、9ヶ月前へと遡る。 てん国での敗走直後。遠州灘の荒れ狂う海。

「ゴボッ……! イズナ……! どこだ……!」

ハルアキは漆黒の波間に漂っていた。 輸送機『黒鳥』から飛び降りたものの、着水の衝撃でイズナとはぐれてしまったのだ。自慢の呪術装備はショートし、冷たい海水が体力を奪っていく。

(私は……【青龍】土御門ハルアキだぞ……! こんな、こんな場所で……!)

死の恐怖と、任務失敗の絶望。 意識が途切れかけたその時、海面が隆起し、巨大な黒い影が現れた。 宮国の潜水艦だ。 ハルアキの体はアームによって乱暴に引き上げられ、甲板へと叩きつけられた。

「……生存者一名、確保。ターゲット(皇太子)ではありません」 「チッ、ハズレか。……おい、こいつは京国の『四柱』だぞ。捕虜にしろ」

宮国兵たちの罵声。銃口を突きつけられ、泥水を啜る屈辱。 イズナの姿はどこにもなかった。彼女は捜索範囲外に流されたのか、あるいは宮国にとって「価値なし」と判断され、見捨てられたのか。 ハルアキは一人、冷たい鉄の檻へと連行された。


3. 鉄の墓標と石動の最期

半年後。北海道、宮国軍事研究所。 極寒の地にあるこの施設では、非人道的な実験が繰り返されていた。 宮国は「霊鋼」を動力源とする、次世代型強化外骨格の開発を進めていた。だが、霊鋼が発する特殊な生体電流は、パイロットの神経系を焼き切ってしまうという致命的な問題を抱えていた。

「次。検体番号104番、投入」

無機質なアナウンスと共に、実験室に連れてこられたのは、薄汚れた作業着の男だった。 石動イスルギ。 かつて中部自治連合のリーダーとして難民船を率い、東国政府を裏切り「霊鋼」を宮国に渡した男だ。「霊鋼を献上すれば、軍が中部を解放してくれる、対価も相応に支払う」という口約束を信じて。 だが、彼を待っていたのは「保護」ではなく、「モルモット」としての扱いだった。

「た、頼む! 俺を帰してくれ! 故郷で、妻と息子が待ってるんだ!」

石動は泣き叫びながら抵抗するが、強化兵士たちによって無理やり試作スーツの中へと押し込められる。

「起動実験、開始」 ドクンッ!! 霊鋼のコアが赤く脈動する。

「ぐあああああああっ!!? 熱い、熱いぃぃぃッ!!」

絶叫。 スーツの隙間から、白煙と肉の焦げる臭いが噴き出す。霊鋼のエネルギーが逆流し、石動の体を内側から焼いているのだ。 薄れゆく意識の中、彼の脳裏に浮かんだのは、長野の山あいの町で待つ家族の顔だった。 父親の帰りを信じて待っているであろう、幼い息子・ケント。

(ケント……すまねぇ……父ちゃん、大金を持って帰るって……約束……)

「ガッ……ア……」

石動の体が炭化し、炭の塊となって崩れ落ちた。 モニターを見ていた宮国の研究員は、眉一つ動かさずに告げた。

失敗ロスト。……次、廃棄しろ」

男の命懸けの裏切りも、家族への愛も、ここではただのデータ上のエラーとして処理された。


4. 悪魔の契約

その凄惨な光景を、防弾ガラス越しに見ている男がいた。 ハルアキだ。 捕虜として数ヶ月を過ごし、痩せこけた彼の瞳に、恐怖の色はなかった。あるのは、狂気じみた「確信」だけ。

(……見える。あの鉄屑の中で渦巻く『力』が……)

宮国の兵士が00人が試作スーツの中で死んでいくのを毎日のように見ていた、まして石動のような一般人にはには耐えられるはずがない。だが、幼少期から過酷な呪術訓練を受け、ナノマシンと神経を接続することに慣れた「四柱」の身体ならば?

「……私がやろう」

ハルアキは掠れた声で呟いた。

「なんだと? 貴様、自殺する気か?」 「違う。……その『力』、私が御してみせると言っている」

ハルアキは自ら実験台に志願した。 拘束を解かれ、石動の死臭が残るスーツへと乗り込む。 回路接続コネクト。 背骨に焼きごてを当てられたような激痛が走る。だが、ハルアキは笑った。この痛みこそが、失った「雅」を取り戻すための代償。京国への、そして自分をコケにしたジンたちへの復讐の炎に比べれば、こんな熱など心地よい微風に過ぎない。

ギュオオオオオンッ!! 漆黒の機体が咆哮を上げた。霊鋼の赤光が全身を巡るが、ハルアキは焼き尽くされない。彼は呪術によってエネルギーの流れを制御し、完全に適合してみせたのだ。

「ほう……。適合したか」

実験室の扉が開き、一人の巨漢が入ってきた。 全身に無数の傷跡を持つ、宮国軍最高司令官・剛羅ゴウラ将軍。戦闘狂の国を束ねる、暴力の化身だ。

「貴様、名は?」 「……【青龍】土御門ハルアキ」 「いい目だ。復讐に燃える獣の目をしている」

剛羅はニヤリと笑い、ハルアキに提案した。

「貴様を我々の尖兵とする。その機体で京国軍を内部から食い破り、我々の進軍ルートを切り開け。……成功の暁には、お前を京国の新たな支配者として認めてやる」

それは、祖国への裏切りであり、悪魔との契約だった。 だが、ハルアキは漆黒の面の下で、不敵に笑った。

「良き取引でおじゃる。……北の野蛮人にしては、話が分かる」

こうして、怪物モンスターは解き放たれた。 きゅう国の技術、きょう国の呪術、そして霊鋼タマハガネの力。全てを飲み込んだハルアキは、自らの故郷を地獄に変えるため、後に始まる南との戦闘の尖兵となった。


第11章 偽りのミカドと鉄の墓標(完)



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