3章 王都襲撃 06
王都グランダリア。
ここには王国の全てが集まっていると言っても過言ではなかった。
国王が住まうのはもちろんのこと、国営の魔法学園だったり剣術学校だったりも存在している。
騎士隊と言う王国最強の戦力も常駐しているし、王国内の各都市との交易だって盛んだ。
そんな超重要な都市だと言うのに、思った以上に警備はザルだった。
「ひとまず王都には入れたね」
「ああ、身分証明証はしっかり機能したようだ」
どうやらニーニャから渡された身分証明証は魔道具の類だったらしい。
エルシーの変装魔法を使った状態でもなお、きちんと身分証明証として機能していた。
その影響もあるのかもしれないが、やっぱり杜撰過ぎるとしか言えないだろ。
これだと王都内にヤバいのが入り放題じゃないのか?
それこそ俺たちみたいなのがさ。
「それで、これからどうするの?」
「無論、王都の中枢を目指す。だが、白昼堂々何かを起こすつもりもない」
「それじゃあ決行は夜……だね?」
「そう言うことだ」
よかった。流石のメリアちゃんも真昼間から大暴れはしないか。
夜になれば闇夜に紛れて行動しやすくなるだろうし、幾分か侵入の難易度も下がるはずだ。
「はーい、それじゃあ僕はその時まで観光するからこの辺で失礼するね」
……うん?
「待て、失礼するな。今、何と言った?」
「観光してくるって言ったよ」
「……聞き間違いではなかったか」
なにこの子怖い。
今日の夜に作戦決行しようってタイミングで、なんで普通に観光しようとしてるの?
「えー、だめ?」
うっ、なんて顔をしやがる……。
そんな可愛い顔で上目遣いおねだりされたら断れないに決まってるだろうがいい加減にしろ!
「たわけ、駄目に決まっているだろうが」
あ、メリアちゃんが駄目だと言っています。
じゃあ駄目です。
「本当に……?」
マジかコイツ……!?
なんて往生際が悪いんだ!
けど相手はメリアちゃんなんだぞ。
流石に無理に決まって――
「……仕方ない。どうせ言っても聞かんのであろう? なら、オレと共に行動するのであれば考えてやらんこともない」
なん……だと……?
あのメリアちゃんが折れた……だと?
なんてことだ。
エルシー……お、恐ろしい子。
「やったー! それじゃあまずは……あっちに行こ?」
「まったく、そう走るでないわ。面倒事を起こしでもすれば間違いなく夜間の警備も強くなるだろうに……」
「うわっ」
少し目を離した隙に、エルシーは大男にぶつかっていた。
……一級フラグ建築士か何かか?
「……あ奴め」
これにはメリアちゃんも頭を抱える始末。
凄い、こんなメリアちゃん見たことないよ俺。
うわすっげえ不安になってきた。
本当の本当に……今日の夜、大丈夫なんだろうな?
◇◇◇◇
あれ以降もエルシーに振り回される形ではあるが俺たちは王都の観光を続けた。
オシャンティーなカフェでパフェなんかを食べたり、手を繋いで庭園を歩いたりした時には「これ実質的にデートなんじゃね?」とか思ったものの、行く先々で何かしでかすんじゃないかと思うとまあ素直に喜べなかったよね。
とは言え、最初の一件以降はエルシーが目立って何かを起こすこともなく、ついには夜になったのだった。
「そろそろだな。起きよ、エルシー」
「んー……? もう少しだけ……」
「聞いているのか? 起きろと言っているのだ……が?」
――むぎゅっ
おおぅ、半分寝ているような状態のエルシーに抱きしめられてしまった。
やっべ……柔らか……。
……いや、力強いな!?
「一緒に寝よ……?」
「ええい、離さんか!」
嘘だろ?
メリアちゃんって結構な怪力のはずなのに全然ふりほどけないんだけど?
でも魔法系ハンターだったよなエルシーって。どうなってんだこれ。
異界の放浪者としての能力が関係してるのか?
まあいいや。
今はとにかく起きてもらわないと困るんだ。
かくなるうえは……。
「いいだろう、其方がそのつもりならばオレにも策があるというものよ」
俺はあの時テントを錬成したのと同じ要領でシゲキックスを錬成し、エルシーの口の中へと投げ入れた。
そして、顎を掴んで無理やり噛ませる。
「ぅぁっ!? な、なにこれ……!!」
「フハハッ、飛び起きたなエルシーよ。異邦の菓子だ。とくと味わうがよい」
「す、すっぱい……!! これ本当に人が食べていいやつ!?」
どうやらエルシーは初めて食べるらしい。
口の中いっぱいに広がる酸っぱさに顔を歪ませていた。
「って、あれ……? もう夜?」
「そうだ。先刻より言っているだろう」
「それじゃあ、とうとうやるんだね」
ああ、そうだ。
やるんだ。今、ここで……!
「うむ。しかし夜間とは言え、寝静まっておるのは無辜の民のみ。王城を守る兵士は変わらずその責務をまっとうしているだろう」
「それならどうしようか。いっそのこと倒しちゃう?」
それでもいいんだけど、ここは俺に良い考えがある。
「フッ、もっといい方法がある。これを使うのだ」
俺があらかじめ錬成しておいた鏡をメリアちゃんはエルシーへと見せつけた。
「鏡?」
「そうだ。これを使い、奴らの目を欺く」
「えっ……? そんなことができるの? それ、ただの鏡でしょ?」
「できるとも。今は夜なのだからな」
そう、これは夜だからこそできることだ。
詳しい作戦はこう。
これを全身に貼っつけて、ミラーマンになる。
するとこの闇夜の中、背景に同化して見えなくなるってわけだ。
どうよ。俺が考えたこの最強の作戦は。
昼間、鏡を見て思いついたんだぜ。
――と、そんな感じのことをエルシーに伝えた。
「本当に上手く行くの、それ」
……あれ?
思ったよりも反応がよくないな?
「流石に兵士の人もそこまで節穴じゃないと思うよ」
「そう思うかエルシーよ。そうか。奇遇だな、オレもそう思う」
あれー!?
メリアちゃんまで!?
「……? どういうこと? 君が考えたんじゃないの?」
「いや、そうなんだが……そうじゃないと言うべきか。妙な感覚なのだ。自分以外の自分の意思が働いたと言った方がよいのか」
「どういうこと?」
「オレにも分からん。分からんが、どちらにせよ時間はそう多く残されてはいない。この策で行くしかなかろう」
「えー……絶対上手くいかないでしょこれ」
エルシーは目に見えてやる気を失っている。
そこまで悪いかな、この作戦。
俺としては結構いけると思ってるんだけど。
……と、そう思っていたのだが、実際全然これっぽっちも上手くいかなかった。
「不審者め!! 止まれ!! ここが王城と知っての狼藉か!!」
「ええい、誰だこのような愚策を編み出したのは!!」
「君でしょ! うわー、だから上手くなんか行かないって言ったのに!」
うぐ、あのトラブルメイカーのエルシーにすらこう言われる始末だなんて。
……そっか。
一番の足手纏いにしてお荷物は……俺だったんだな。
あ、流れ星。
全員死にますように。
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