9.団体戦③ 一対二
お読み頂きありがとうございます。
「第二試合、始め!」
第二試合開始の合図が鳴った。
――実は俺は知っていた。腹痛を和らげる方法を。
その方法とは、立った状態で膝を曲げ、上半身を前に倒し前屈みの状態で立つのだ。
尚且つ、両手を体の前に構え、戦闘の姿勢も失わない。
まさに、”スマート”だ。
よって、腹痛は幾分か和らげられていた。それでも、まだまだ痛いのだがな。
しかし、先程の相手の男は、スルメと言った者だろうか? この俺を非常に舐めている様子だったから、まさかとは思い、簡単な麻痺魔法を使ってみたが……反魔法術式も展開させていなかったとは。
一番手の男があのレベルであれば、二番手、三番手のレベルはたかが知れてる。
俺の腸も限界に近いし、サッサとケリを着けたいものだな。
俺はどんなに腹が痛くてもどんな状況でも、常に冷静に頭を回す。
元史上最強の大魔術師たる者、常にクールで居なくてはな。
俺のこの前屈みの姿勢は、周りから見ればヘンテコに見えるだろうが、俺はそんなモノ気にしないのだ。
「きさまー! よくもスルメさんにイカサマしやがったな! タダで許されると思うなよ、この没落貴族め!」
怒りに体をプルプル震えさせている二番手のイワシが、シャノンに対し罵声を浴びせる。
……俺はイカサマなどしていないのだがな。
この男の怒り様から察するに、自分の仲間がイカサマで殺られたとでも勘違いして怒っているのだろう。
待機している相手の三番手の男も、何だか体をプルプル震えさせて俺を睨んできている。
体を震えさせている事で、その三番手の男の髪型のモヒカンが、左右にユサユサと揺れていた。
もしかすると、ソイツも腹が痛いのかも知れぬな。
俺はそう三番手の男を気遣い、続けた。
「おぉい、そこの三番手のお前。お前も体調が優れないのであろう? 俺の、この姿勢を真似すると良い。気が楽になるぞ。」
三番手の男の方を向き、シャノンは言う。
そして、その男は更に体をプルプルし始める。
「……誰のせいでこうなってると思ってんだよ! 馬鹿じゃねーのかお前まじ卍!!」
「ふむ、お前に腹痛を起こさせたのは俺じゃないと思うんだけどな。勘違いするなよ?」
何やら勘違いをしている三番手の男に、俺は冷静さを失い、怒りかけた。
「勘違いしてるのはお前だよ! 俺は腹なんて痛くねーんだよ、怒ってんだよまじ卍!」
なるほど、コイツは怒って体を震えさせていたのか。理解した。俺の早とちりであった。
「そうか、それはすまなかったな。」
右手を上げ、三番手の男に軽く謝罪をする。
そしてシャノンは前屈みの姿勢のまま、思考を巡らせる。
今は腹痛を少し和らげる事が出来てはいるが、またいつ先程のような腹痛が起こるかは分からないのだ。
したがって、出来るだけ早く試合を決着させなければならない。
……えぇい、面倒だ! 俺の腸のタイムリミットも刻一刻と近付いているからな。
ここは一つ、イワシに提案をしてみよう。
シャノンは三番手の男からイワシへと目を移す。
「俺はイカサマなどしていないぞ。それより、貴様の名はイワシと言ったか?」
「あぁ、そうだよ! それがなんだよ腐れ外道め!」
「……全く、なってない奴だ。俺はイカサマなどしていないと言ったであろうが。
……まぁ、良い。貴様に一つ、提案がある」
「あぁ、なんだよ?」
「二番手の貴様と、貴様らの三番手同時に相手をしてやる」
「……はぁ!? テメェ舐めてんのかおいコラ!?」
怒り狂うイワシの額には血管が浮き出ている。
「おいおい、そんなに怒ったら体に良くないぞ?」
「……テメェだけはホントに殺す!」
ふむ、心配してやったのに何故かイワシの怒りゲージが上昇しているようだ。
全く、なってない奴だ。
ここはもうイワシを無視し、審判と話を付けよう。
「……審判。俺は相手の二番手と三番手、両方を同時に相手したいんだが、構わないよな?」
審判は驚いた顔でシャノンを見つめた。まるで審判の目が飛び出しそうなくらいに。
「……え、えぇ、まぁ一応。大会規定によると、お互いが納得の上であれば、一対二という形で試合をする事も可能ですが……」
そしてオドオドした様子で、審判は説明をした。
「ほう、やはりか。
……おい、イワシ。この提案に乗らないか? 俺にはもう、時間が無いのだ。」
「ヒャッハー! 乗らない訳無いだろ、バーカ! 一対二なんて、お前が勝てる訳無いのになー! スルメさんの仇、取らせてもらおうじゃねーか!
こっちに来やがれ、シャケ!」
イワシの合図と共に、相手の三番手の男、シャケが出てきた。
頭のてっぺんにモヒカンを生やし、両側を剃っているという、非常に奇抜な髪型であった。
「シャッハー! お前だけは許さねーぜまじ卍! スルメさんの仇、まじ卍!」
かくして、シャノン対イワシ&シャケ、という異例の一対二の試合が始まった。