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10.団体戦④ 愚の極み

「シャッハー! スルメさんの仇、取らせてもらうぜ、没落貴族め!」


 一対二になって早々、相手の三番手の男、シャケがシャノンに襲いかかろうとした。

 だが、それをイワシが止める。


「ま、待てシャケ! さっきのスルメさんの試合、見ただろ? 奴はきっと、近くに近付いたら何かをする魔法でも持っているのだ! ここは一つ、落ち着いて考えるぞ!」


 ほう、コイツはスルメよりかは頭が回るようだな。

 ……うぐっ! 急にまた腹が痛くなってきた! 腹がァァァァ!


 シャノンの冷や汗が尋常ではない程出てくる。

 流石に、”常にクール”を座右の銘に掲げているシャノンでさえ、顔を崩しかけていた。


 その様子を見たイワシは「しめた!」と言わんばかりの笑顔を浮かべ、


「ヒャッハー! ほれ見たことかシャケよ! 奴は、近付かなければ何も出来ないのだ! こうなれば、遠くから魔法で攻撃し続ければ我らの勝ちは明白!」


「シャッハー! 流石はイワシだぜ! お前は天才だよ! ハッハッハ!」


 イワシとシャケは勝ち誇った笑みを浮かべ、握手をし、肩を組み始めた。


 試合中なのに、何をしているのだろうか。

 まるでタダのアホである。


 ……それよりも! 俺の腸は限界に近い……!


 そんな腹痛に苦しむシャノンをよそ目に、イワシ達は遠方より魔法攻撃を行う。

 まさに愚の骨頂であり、愚の極み。

 一対二と言う上に、更に遠方の安全圏より攻撃を行うという、非常にセコい戦い方であった。

 この攻撃には、没落貴族であるシャノンを敵対視すものが多い観客たちでさえ、引き始めていた。


「ヒャッハー! 快感だぜぇ! どうだ? 気持ちいいか腐れ貴族めぇ!」


 イワシが雄叫びをあげる。


 シャノンは非常に苦しんでいた。

 ……そう、非常に。

 ただ、それは決してイワシ達による攻撃が原因だとは限らない。

 そう、腹痛であった。

 イワシ達の攻撃は、シャノンにとってはもはや、くすぐりにも感じない程弱かった。


 コイツら、こんな弱さでよく生き残って来れたな……。この時代は、それ程平和になったとでも言うのだろうか?


 そんな考えを他所に、やはり腹痛の度合いは加速を止めない。

 ガクッと腰を落とし、膝を地面につきかけていた。

 その様子をみたイワシは興奮し、叫ぶ。


「ヒャッハー! ほれみたことか! この没落貴族は、近寄らないと何も出来ない臆病者なのだ!」


 と。それを聞いた観客たちは、思う。

 ……いや、臆病者はお前であろう、と。

 流石の観客たちもシャノンに同情し始めた。それと同時に、シャノンに向けられていた罵声がイワシたちに向けられた。


『おいおい、セコいぞお前ら! 真剣に戦えよ!』

『お前ら道徳を失ってるのか!』


 イワシはそれを聞き、ビクッ、となった。そして平静を取り戻し、冷静に、客観的にこの状況を考える。

 そして、判断に至る。


 これは……まるで俺たちが悪者ではないか! このままでは不味い! これは後にスルメさんの評判まで落としかねん! 何とかせねば……


 そう考えながらも、遠方からの魔法攻撃の手は止めない。やはりセコい男である。


 ……ピコン! イワシは閃いた。

 そうだ、一旦攻撃を止めよう! そして、一撃だけ好きに俺達を攻撃しても良いぞと、告げよう!

 ふふん、やはり俺は頭が良いのであるな!


 そして突然、固まっていた表情を緩め、高笑いをする。

 それと同時に、攻撃の手を止めた。


「ふははははは! 没落貴族シャノンよ。貴様に一つ、慈悲をくれてやろう。

 貴様は、近くに寄らないと何も出来ないのであろう?

 ならば、無防備に近寄る俺たちに、一撃だけ攻撃をするチャンスを与えよう!」


 腰に手をあて、声高らかにそう言った言葉は、会場中に響いた。非常に得意気な様子であった。


 それを見て、シャノンは思った。

 ……コイツは、色々と勘違いしている。慈悲を与えるって、本気で言っているのかよ……。


 頭の悪いイワシに、敵ながら同情をするシャノンがそう考えていると、会場中から思いもしなかった声が飛び交う。


『なーにが慈悲をくれてやるだよ! 』

『さっきからセコい事してるだけなのに、何でそんなに偉そうなんだよ! もはやお前はある意味天才だよ!』


 イワシを批判する声であった。

 先程まで、観客たちは没落貴族のシャノン派と、イワシ派の半々程度であった。

 だが、イワシの非人道的な発言、行動により、それはほぼひっくり返った。

 今はもう、観客たちは皆シャノン派であった。


 そして、それを聞き、イワシは怒りに体を震えさせる。

 モヒカン頭のシャケは、仲間の頭の悪さに恥ずかしさを覚え、赤面していた。


「ええい、うるさい! どうせ正面からやり合っても、俺が勝つに決まってるのだ! なんせ、俺はスルメさんに直々に鍛えてもらっているのだからな!」


 そして、会場中に笑い声が響く。


『ハハハハ! スルメさんってさっきの奴か!? 没落貴族なんぞに瞬殺された奴の弟子なんて、たかが知れてるわ!』

『雑魚がイキがってんじゃねーぞ!』


 これを聞き、シャノンは思う。

 ……これ以上イワシに恥をかかせる前に勝負を着けよう、と思った。

 そして、これ以上腹痛には耐えられない。そう確信を得たのだ。

 ……そう考えていると、


「……ならば見せてやろう、俺の真の実力を!

 くらえ!

 ファイナルスペシャルフラッシュライトニング!」


 長ったらい技名を叫びながら、イワシはシャノンに対し走り始めた。そして、それに付いていくシャケ。


「……ぐはぁ!」


 苦痛の声を上げたのは、シャノンであった。

 だがそれは、イワシの攻撃が届く前であった。

 よって、その苦痛の声が上がった原因は、イワシの攻撃によるモノではないのだ。


 シャノンの腹痛は限界を超えていた。限界突破である。

 遂にシャノンの腸は、タイムリミットを迎えたのだ。


 どうする、シャノン!?

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