35話
家に帰り、晴れ着から普段着に着替えた俺達はまたソファーの上でだらだらとテレビを見ていた。
真帆ちゃんと美帆ちゃんは俺の家に残っているが、俺の親と絵里さんはどこかに出かけたらしい。
新年になったという事もあり、テレビの番組も新年を祝うような番組も多かった。
4人でだらだらして11時半頃。
そろそろお腹が空いてきたなと思ってきた頃、親たちが帰ってきた。
「ただいまー」
「はーい、おかえりー」
俺が玄関に親たちを迎えに行くと、親父は両手に四角形のでかい箱を持っていた。
「親父これは?」
「これはおせちだ。本当はもっと前に取りに行く予定だったんだけど色々あってな」
俺は親父からおせちを受け取りテーブルへと移動させる。
「おせちー!?」
真帆ちゃんが嬉しそうに近寄ってくる。
おせち料理は、お正月の楽しみの一つでもあるからな。
風呂敷からおせちを取り出し開けてみると明らかに俺と親父と母さんで食べる分にしては多い量が入っていた。
つまり、絵美の家族の分も追加で入れたという事だろうか。我が家のおせち事情を恥ずかしながら把握していない為、詳しい事はわからない。
「さぁ、みんなでおせち食べましょ!」
母さんはそう言って、取り皿をテーブルに並べ、昨日と同じく子供たちはテーブルに座り親はソファーの方へと移った。
絵美と真帆ちゃん、そして美帆ちゃんはおせち料理を見て、目を輝かせていたのだが俺は正直そこまで目を輝かせることができなかった。
というのも、俺はあまりおせち料理が好きではない。
ぶりとかは美味しく食べれるが、数の子とか黒豆とかあまり好きじゃないし正直もっとがっつりしたものが食べたい。
この気持ちわかってくれないだろうか。
と、そんな気持ちな訳で俺はみんなほど箸が進まないのであった。
「あれ、お兄ちゃんおせち食べないのー」
「あ、あぁ。俺はもういいかな」
「もしかして……あまりおせち好きじゃない?」
「恥ずかしながら」
隠しても仕方がないので俺は素直に告白する。
「そうなんだ……じゃあ私が何か作ってあげるよ」
真帆ちゃんが満面の笑みでそう言った。
「え? いいの?」
「冷蔵庫の中、勝手に使ってもいい?」
「全然かまわないよ」
真帆ちゃんの手料理は思えば初めてかもしれない。
俺と絵美が付き合い始めて絵美の家で真帆ちゃんと美帆ちゃんの料理は食べたが、真帆ちゃんだけの料理は初めてかもしれない。
「これならーこれができるかなー」
真帆ちゃんは楽しそうに冷蔵庫の中を物色していた。
少ししてから、キッチンで料理を始めた真帆ちゃんを俺と絵美と美帆ちゃんは眺めていた。
「真帆、最近料理にはまってる」
美帆ちゃんがふとそう言った。
なるほど。料理にはまるのはいい事だ。
男の身からしても料理のできる女の子はいい点だしな。
「できた!」
そう言って真帆ちゃんが持ってきたのはオムライスだった。
見た目はとろとろした卵がかけられており文句はなかった。
「では、いただきます」
俺がスプーンでオムライスを裂き、一口食べる。
すると、卵が見た目通りとろっとしていて、チキンライスと卵の味のバランスがちょうどよくとても美味しかった。
「美味しい! 美味しいよ真帆ちゃん」
「よかったー! 美帆から初めて教わった料理だったから自信はあったんだ!」
こんなオムライスを出されたらほとんどの男は落ちるだろう。
真帆ちゃん可愛いし。
俺がオムライスを食べていると絵美が腕をつかんできた。
「どうした?」
「私の作るオムライスとどっちが美味しい?」
「え?」
絵美がとんでもない質問を投げかけてきた。
だってこれ絵美って答えても真帆ちゃんに申し訳ないし、真帆ちゃんって答えても絵美絶対不機嫌になるじゃん。
実際、どっちが美味しいなんて判断できないしな……
「ごめん、そういう優劣はつけれないよ……でもどっちのオムライスも美味しい。これだけは言える」
「そ、そういう事にしといてあげる」
絵美は少し顔を赤くしてなんとか引いてくれた。
「春ちゃんモテモテねー」
「羨ましいぞ春人」
外野からの言葉を華麗に聞き流して俺は残りのオムライスを食べた。
そんなこんなで、1月1日ももう日が落ちようとしていた。
「じゃあ、私たちは帰るから」
父さんと母さん、そして絵美の家族は帰るらしい。
いつも三が日は親といたが今年くらいは、と絵美と一緒にいることにした。
「お姉ちゃん、イチャイチャするのもほどほどにねー」
真帆ちゃんの言葉に絵美は顔を真っ赤にして何も答えなかった。
絵美以外の全員が家に帰りさきほどまで騒がしかった我が家も静まり帰っていた。
「静かだな」
「そうだね」
そうして、また静寂が訪れる。
「ねぇ春人、今日は一緒に寝たいな」
「え?」
一緒に寝たい……?
もしかして、もしかしてそれは……
「そ、そうか」
「じゃあ、私お風呂はいってくるね」
「お、おう」
俺は布団の上で早まる心臓の鼓動を感じながら待っていた。
あの発言からお風呂だと……
間違いない。
きっと今日がその日なのだ。
どれくらい時間が経ったか分からないが、お風呂のドアの開く音がした。
髪を濡らした絵美が部屋に入ってきた。
「あ、上がったのか」
「うん、春人もお風呂はいる?」
「そ、そうしようかな」
俺は何かに追われるようにお風呂へと向かった。
俺の頭はお風呂場に湧き出る湯気のように真っ白だった。
俺がお風呂を上がった後、どうなってしまうのか。
そんなことを思いいつもより念入りに体を洗い尚且ついつもより早くお風呂を出て寝室へと向かった。
絵美はベッドの上でスマホを見ていた。
「あ、春人上がったの?」
「う、うん」
ぎこちない足取りで俺もベッドへと向かい横になる。
さて、この後俺はどうしたらいいのだろうか。
部屋を暗くした方がいいのか?
「春人はもう寝る?」
「え? そ、そうだなー」
これは誘ってるのか?
寝るって言わせて部屋を暗くするって事?
「ね、ねようかなー」
「わかった、じゃあ電気消すね」
そう言って絵美は部屋の電気を消した。
そのまま絵美はベッドに入り眼を閉じていた。
「え? 本当に寝るの?」
思わず心の声がでてしまった。
「あ、そうだね」
そう言って絵美は布団の中で俺の手を握ってきた。
「今日は手を握ってねよ」
ここまで来て俺はようやく理解した。
本当に一緒に寝るだけだった。
でも、絵美の手を握るだけでなんかすごく安心感があるというか心が暖かくなった。
だからこれでいいやと、そう思う事にした。
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