34話
初詣を済ませた俺と絵美は家に帰る途中にある公園に寄っていた。
帰って絵美の晴れ着姿がもう拝めなくなる悲しさと、ちょっとだけ絵美と2人でいたいという思いから俺から提案した。
俺は人生で一回も乗ったことのないブランコに座り、適当に揺られていた。
絵美も隣のブランコで揺られていた。
ブランコに揺られてから少しの間会話がなかった。
特に変な雰囲気とかじゃなくて、何を話そうかななんて考えていた。
そこで俺は、一年を振り返ると同時に自身の過去も少し振り返っていたことを思い出した。
これを機に絵美に話しておこう。
「なぁ絵美」
「ん?」
ブランコの小さな金属音が聞こえる中、俺は口を開いた。
「昨日、日付が変わる前にさ、これまでの事振り返っていたんだよ。もちろん、絵美に虐められていたことも。別に今更絵美を責めたい訳じゃないよ! 俺が思いだしていたのはそれより前の事なんだ」
「それより……前?」
「そう、俺が小学5年生の時の事だ。俺が小学5年生、というか6年生より前の事覚えてるか?」
「そんなに深くは知らないけど、少しくらいなら」
「そうか、どんなやつだった?」
「えっと……ずっと教室の隅で本を読んでてその上誰も寄せ付けたくない雰囲気を出してたような……」
「そう、俺は誰からも相手されたくなかった。したくもなかった。いつからそう思っていたかなんて覚えていない。でも、あのままだったら俺が絵美に虐めれらても中学になって復讐してやろうなんて思わなかった。それだけはわかる」
「それは、春人を変える何かがあったの?」
「そう、これは俺が小学5年生に上がったばかりのころだった」
***
俺はいつものように教室の隅で本を読んでいた。
本も経済学とかそんな本だったと思う。漫画なんて読んでも時間の無駄だと思ったしな。
同時に、俺はクラスメイトと遊ぶなんて時間の無駄だと思っていた。
だから、ずっと一人で自分を成長させる本を読んでいたんだ。
だけど、5年生に上がってからある一人の女の子が話しかけてくるようになったんだ。
「おはよう! 神崎君、だよね?」
悪意のない満面の笑みで俺に話しかけてきた女の子の名前は西条 あかり。
ほかのクラスメイトは俺に話しかけてくることはない、話しかけてきても仕方なく用事を伝えないといけないときだけ。
そんな中、その子は話しかけてきたんだ。
「そうだけど」
「何の本を読んでるの?」
「君には関係ないよ」
「えー、気になるなー」
「きっと君が読んでも分からないよ」
そんな事言って、俺が読んでも理解できなかったけどな。
でも、そこまで拒絶してもその子は俺から離れることはなかった。
「そんな難しい本読んでるの? ねぇ私のも見せて!」
「鬱陶しいな! 俺に関わらないでくれよ!」
俺がそういうとクラスは一瞬で静まり帰った。
俺は気にせず、また本を読み始めた。
次の日。
またその子は話しかけてきた。
「おはよう、神崎君!」
俺はその子に反応せず無視して本を読んだ。
「これ、神崎君が読んでる本だよね?」
そう言ったその子は俺が読んでる本を出してきた。
「なんで?」
「昨日表紙だけ見て気になったから買っちゃった! 読んでみたけど全然分からないかったよ! こんな本読んでるなんて神崎君すごいね!」
その瞬間だった。
俺の心が少し動いたのは。
今まで褒めてくれたのは親父だけ。
クラスメイトから褒められた事なんてなかった。
俺は間違いなくその瞬間から、少しずつ少しずつその子に心を開いていった。
「ねぇここはなんて意味?」
なんてその子に質問されても、わからなかったから分かるようになるまで親父に聞いたりした。
気が付けば一緒に図書室に行ったり、本屋に行ったりもした。
「ねぇ神崎君次はこれ読もうよ」
そう言ってその子が指さした本は映画化までされた小説だった。
でも、俺はそんなもの読むだけ無駄だと思っていた。
「お願い! これだけでも読んでほしいの!」
その子の必死なお願いに俺はその一冊だけ読むことにしたんだ。
内容は高校生の2人が恋人同士になるけど、彼女が深刻な病にかかってしまい、彼氏が治す方法や色々探し奮闘するけど、結局彼女はなくなってしまうといった内容だった。
話の中で2人の絆多く描かれていた。
今まで読んだことにないよ作品に俺はこの作品の良さは理解できなかったけど、胸に微かな痛みが残ったのは覚えている。
「あの本どうだった?」
学校の休み時間にその子はそう聞いてきた。
「どうと言われても良さはわからなかった」
「うん。でも何か感じなかった?」
「ちょっと……痛いっていうか」
「そっか! それだけ聞けたら私は満足!」
その子は満面の笑みでそう答えたんだ。
何を聞きたかったのは俺には理解できなかった。
そして1学期半ば。
段々とその子は学校を休むようになっていった。
決して不良な子ではなかっただけにクラスは不審がっていた。
でも、誰もその子に理由は聞かなった。
それは心のどこかで聞いちゃいけないと思っていたからなんだと思う。
でも、俺はある日聞いてしまったんだ。
「ねぇなんで最近学校休むの?」
するとその子は少し困ったような顔をしたんだ。
「お昼休み中庭で一緒にご飯食べよ」
その子はそう答えた。
そしてお昼休み、人気のない中庭で俺達は2人でご飯を食べていた。
「神崎君から話しかけてくれるなんて珍しいね」
「気になっただけ」
「気になってくれたなら嬉しいな」
そう言ってその子は話の根幹を話してくれようとしなかった。
そしてその子はすーっと息を吸って「よし」と言った。
その表情は何かを決心したような表情だった。
「私がなんで学校休んでるか……それはね、私病気なんだ。それも深刻な」
「え?」
俺は箸の動きを止め驚き目を見開いた。
流石に俺でもわかる。
そんな学校を頻繁に休む病気が軽いわけがない。
「それでね、2学期からこの学校にはいれないと思うの」
「……」
俺は何も言えなかった。
ただ、その時の気持ちはあの本を読んだ時と同じで胸に少し痛みを感じていた。
「こうして神崎君と話してると楽しんだ」
「え? 俺と?」
こんな俺と? なんてその時は思っていた。
でも、俺もいつからかその子と絡んでいる時は楽しかったんだと思う。
だからこそ、なんで学校を休んでるのか聞いたのだと今になって思う。
「これからも私と友達でいてくれるかな?」
俺は、無意識の内に頷いていた。
それはその子とこれからも友達でいたかったから。
「ありがと! 神崎君!」
その時のその子の満面の笑みは病気なんて思えない程に眩しかった。
でも、それからその子は学校を休む頻度が増え1学期の終わりにはとうとう来なくなってしまい、2学期には転校したことが知らされたんだ。
それから俺は小説も読むようになった。
小説に登場するキャラの心理を考えることに惹かれ、俺はいつしか小説しか読まなくなった。
***
「それからだろうな。隠してた感情が段々と表に出はじめ虐められて苛立ちを感じれるようになった」
「そう……なんだ。でもその子は今……」
「わからない。でも、今もどこかで生きてると俺は思ってるよ」
「うん」
「俺の織り成す過去の一部だから絵美にも言っておこうと思って」
「うん。話してくれてありがとう」
そうして、俺と絵美はブランコから降りて家へと向かった。
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