表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

徹から紀代美へ

翌朝、キッチンから聞こえる音で紀代美は目を覚ました。

「おはよ…可奈子。」

と寝ぼけ眼で可奈子に声を掛けた。

「おはよう、お姉ちゃん。…うーん…お姉ちゃんの素っぴん顔、久々に見たけど相変わらずだね。」

「う、うるさい!!」

「でもお姉ちゃんと、こんな話するのはホント久しぶり!!アハハッ」

「そうよね。アハハ」


ホント朝から笑顔になれるなんて何年ぶりの事だろう…静岡の実家で暮らしていた時以来かな…


「徹おはよう。」

徹の遺影に挨拶をする紀代美を、可奈子は微笑みながら見ていた。


朝食を食べながら紀代美は可奈子に言った。

「可奈子…昨日はホントにありがとう。 可奈子ののおかげでお父さんお母さんとも話が出来たし、それに…徹に私の素直な気持ちを伝える事が出来た。いくら礼を言っても足りないくらいよ。」

「礼なんていいよ、お姉ちゃん。昨日既にしてもらったから。」

と可奈子は話終わるとニヤリとした顔を見せた。

「えっ!?聞いてたの!?もう、寝たふりなんかして!!」

「でもお姉ちゃん。こうして今、話出来ているのも徹さんと知り合っていたからだよね…」

「そうよね…」

と言い終わると、二人で徹の遺影を見つめながら口を開いた。

「徹 ありがとう」

「徹さん ありがとう」


朝食を済ませると

「昨日は色々あったから、また手掛かり探さなきゃ…」と紀代美がキッチンから出ようとした時、可奈子が呼び止めた。

「そう言えば、お姉ちゃん!!私、徹さんの手紙見たいんだけど…見せてもらっていい?」

「うん、いいよ。今出すから。」

と居間のテーブルに便箋を開いた。

「これね…確かに半分以上、濡れたか何かで文字が読みにくくなってるね。」

「そうなの…辛うじて 無念 晴らして は判ったんだけど…」

そう言う紀代美に対して、可奈子は便箋をジーっと見ては手に取って裏を見たり斜めにしてみたりと、色々な方向から便箋を見ては何かを考えていた。

「可奈子?さっきから何してるのか私、訳わかんないんだけど…」

と紀代美が聞くと

「うーん、ちょっとやってみるか…お姉ちゃん、私ちょっと買い物に行ってくるね。」

そう言うと可奈子はさっさと出掛けて行った。

「可奈子…何をやるつもりなんだろ?しかし、手紙を色んな方向から見ていたけど何かあるの?」

紀代美も可奈子の真似をして、便箋を裏から見たり斜めからしていたが、紀代美にはさっぱり理解出来なかった。紀代美が手掛かりを探し始めて一時間たった頃に

「ただいまー」

と可奈子が買い物から戻ってきた。

手には2つのレジ袋が提げられていた。

「可奈子、買い物って何を買ってきたの?」

「え?お昼御飯だよ。」

「あーそういやもう少ししたらお昼だよね…じゃなくて!!そっちのレジ袋は何!?」

と紀代美は、幾分小さめのレジ袋を指差した。

「これ?これはね…ひ・み・つ」

と、人差し指を唇に付けると

「お姉ちゃん、私ちょっとやる事があるから徹さんの手紙借りるね。それと今日はお昼御飯と夕御飯の支度お願いね。」

「ん…いいけど、何をするの?」

「徹さんがお姉ちゃんに伝えたかった事を見つけるの。」

「えっ!?わかるの!?」

「それをこれからやるのよ。ちょっと時間かかるし、集中力が必要だから徹さんの部屋でやるね。だから、御飯で呼ぶ以外は静かにね。」

「うーん…わかった。」紀代美は、可奈子の邪魔にならないように手掛かりを調べていた。


「可奈子…お昼だよ…」

紀代美は徹の部屋の扉越しに、静かに声を掛けた。

「んーっ…」

可奈子は用意された昼食を急いで食べていた。

「可奈子…どう?」

「んー…もう少しだから…」

と慌ただしく昼食を済ますと、可奈子は再び徹の部屋へ入って行った。

紀代美も昼食を済ますと、再び手掛かりを探し始めたが手紙の続きが気になり、時々手が止まってしまっていた。


夕食の準備を始めようと紀代美がキッチンに立ったその時、可奈子が目をショボショボさせながら一階に降りてきた。

「お姉ちゃん、お待たせ。徹さんの筆圧が強かったから、何とか続きがわかったよ。」「えっ!?わかったの!?」

「ん…便箋の裏からカーボンやら何やら色々試してね…これ、別のノートに書き写したから…」

と紀代美にノートを差し出した。

「それと…結構疲れちゃったから夕飯出来たら…起こしてね。」

と言うと可奈子はテーブルに突っ伏して寝てしまった。紀代美はノートを開いて見た。


紀代美さん こんな形でこの手紙を読んでもらう事になってしまい本当に申し訳ありません。

心から色々と話せる相手は、兄達や親類ではなく

紀代美さん 貴方だけでした。今までありがとうございまし…


ここからだ…


紀代美は続きに目を通し始めた。


…た。 出来る事なら紀代美さんに 愛してる と直接伝えたかったのですが今となっては、無念です。

紀代美さんにお願いをする事があります。賀来駅前にある「賀来スカイビル」ですが、ビルの名義は丸山穣なのですが土地の名義は私です。

家賃収入の利益がまだそれ程の額になっていないからとか、ビルの建設費用や融資を立て替えてもらったことを盾に家賃等から得た利益を1円足りとも渡しませんでした。

ですが、調べてみると経費の水増し等で税金を誤魔化していた上、得た利益の一部は雅司兄さんに渡されていました。

その事を問いただすと、逆に「じゃあ立て替えた分全部返せ とか 立て替えてやった恩を仇で返すのか!!と責められ、 1円も地代収入のない土地の固定資産税を払い続けてきました。他にも私名義の土地で地代収入がありますが、それらはほぼ全てスカイビルの固定資産税で消えてしまいました。先日も、固定資産税が払えなくて督促状が来た事を丸山穣の知ることとなり、雅司兄さんと丸山穣の二人から激しく責められました。

そのせいか、ここ一週間程眠る事が出来なくなってしまった上に、突如その場面が目の前に現れるようになってしまい、とうとう死を選ぶ事になってしまいました。紀代美さん、こんな弱い私をどうか許してください。 そして、出来る事なら紀代美さんに、丸山穣と雅司兄さんの悪事を世間に晒してほしいのです。

私の恨みを晴らしてください。


最後に

紀代美さん大好きです。愛しています。


と最後まで読むと紀代美はノートを閉じた。


徹…徹は少しも弱くない。私には勿体なさすぎる男だ。なのにこんな私に大事な事を託すなんて…徹…私を選んでくれてありがとう。そして…今でも私、徹の事愛してるよ。


「可奈子、夕飯用意出来たよ。」

その声に、テーブルに突っ伏して寝ていた可奈子は起き出した。

「ゴメン、すっかり寝ちゃって…ノート見た?」

「うん、見た。可奈子ありがとう。」

「お姉ちゃん、徹さんもお姉ちゃんの事を愛していたんだね。」

「うん。」

可奈子の言葉を聞きながら、頬を少し赤らめて夕飯を食べ始めた紀代美だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ