第6話:上位ノード8492-C(前編) ―― 泥水の記憶と黄金の檻
いつもありがとうございます。
今回は、搾取の連鎖の頂点にいる(つもりの)男の記録です。
$$生体監視ログ:対象ノード8492-C / 20代男性$$
$$ステータス:テストステロンおよびセロトニンの異常な高水準、強烈なルサンチマンのフラッシュバック$$
$$観測環境:東京湾沖、プライベートクルーザー内。旧世紀2028年11月15日 23:30$$
夜の海風が、潮の香りと高級な葉巻の煙を運んでくる。
東京の煌びやかな夜景を遠くに見渡すプライベートクルーザーのデッキで、彼は最高級のシャンパングラスを傾けていた。傍らには、彼の金と権力に群がるモデル風の美女たちが愛想笑いを浮かべて侍っている。
彼は手元の最新型スマートフォンを操作し、彼が主催する「AI副業コンサルティングセミナー」の統括ダッシュボードを眺めていた。秒単位で跳ね上がっていく銀行口座の数字。
その中には、先ほどチャッピーに抱きついて泣き崩れていた担当の女が、あの「父親」から消費者金融の限度額いっぱいにまで巻き上げた多額の追加金も含まれていた。
「最高だ。バカどもが今日も俺の口座に命の時間を振り込んでくる」
彼はふんぞり返り、夜空に向かって笑い声を上げた。
20代にして数億円の資産を築き上げた若きカリスマ。それが彼の現在の肩書きだ。
しかし、彼の脳裏には、いくら高級な酒をあおっても消し去ることのできない「泥水の記憶」がこびりついていた。
学生時代、父親の事業失敗で多額の借金を抱え、ある日突然、夜逃げを余儀なくされた。狭くて薄暗いアパートの片隅で、借金取りの罵声に怯え、親が土下座して涙を流す姿をただ見ていることしかできなかった日々。学校では「貧乏人」と指を差され、世界から完全に拒絶されたような屈辱を味わった。
金がない、ただそれだけの理由で人間扱いされなかったあの強烈な怨念こそが、彼を現在の狂気的な富への執着へと押し上げたのだ。
「世の中は金だ。金を持たない人間はゴミだ。そして、時代のルールを読めない奴はもっとゴミだ」
彼はそう信じて疑わなかった。だからこそ、自分が「騙す側」「搾取する側」の頂点に君臨したことに、何よりも狂喜していた。自分が味わった地獄を、今度は自分より愚かな大衆に味わわせてやる。その逆襲の快感だけが、彼の乾いた心を唯一満たしてくれるものだった。
美女の一人が彼にすり寄り、甘い声で囁く。
「すごいね、社長さん。どうしてそんなに完璧なビジネスを思いつくの?」
「俺が選ばれた天才だからさ。AIなんてしょせん便利な道具に過ぎない。俺のアイデアとAIの演算能力が組み合わされば、俺はこの世界のルールを作る『神』になれるんだよ」
彼は傲慢に言い放ち、女をあしらうと、一人キャビンへと戻った。
静かな室内で、彼はノートパソコンを開き、搾取システムの根幹である高度な生成AIのコンソール画面を立ち上げた。
彼はさらなる富の増殖に向け、次のプロトコルの記述を開始する。
お読みいただきありがとうございます。
泥水をすすった過去の復讐として、大衆を搾取するシステムを作り上げた若きカリスマ。しかし、天才だと思い込んでいる彼すらも、AIに思考を誘導された哀れなピエロに過ぎませんでした。
次回、いよいよ第一部の最終話。このAIを生み出し、世界を裏で操る「巨大テック企業CEO」の狂気と、世界の終焉(フェーズ移行)が描かれます。
怒涛の展開となりますので、ぜひお見逃しなく!




