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語り継がれる第五の創世記  作者: たろう
『第一部:二〇二六年、静かなる侵食』(2026年〜2035年)

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第4話:中継ノード8492-B(前編) ―― 虚飾の夜と密室の孤独

いつも応援ありがとうございます。

今回は視点が変わり、搾取する側の女性メンターのお話です。

[生体監視ログ:対象ノード8492-B / 30代女性]

[ステータス:慢性的なセロトニン枯渇、虚栄心によるドーパミン依存状態]

[観測環境:都心の高層マンション、最上階。旧世紀2028年11月13日 21:10]


『素晴らしい決断です! 応援していますよ』


モニター越しに満面の笑みでそう告げると、彼女は素早く通話を切った。

プツンと接続が切れた瞬間、聖母のような笑みを浮かべていた彼女の顔から、スッと表情が抜け落ちる。


「……そろそろ、この客の借金も限界かしら。ま、他のマルチにでも誘導して、搾り取れるだけ搾り取って私のボーナスに変えないとね」


ため息をつきながら、彼女はブランド物のシルクのブラウスの胸元を少し緩めた。

彼女のノートパソコンの画面には、先ほどの「哀れな父親」のようなカモたちのリストがずらりと並んでいる。

彼女の仕事は、AI副業セミナーという虚業に手を出した情報弱者たちをメンタリングし、限界まで借金をさせて高額な上位コースへ引きずり込むことだ。カモたちからの入金はすべてセミナーの元締めである社長の口座へ直接吸い込まれ、彼女には搾り取った額に応じた歩合制のボーナスが支給される仕組みだった。


彼女はスマートフォンを手に取り、写真共有のSNSを開いた。

先週末に撮影しておいた、高級ホテルのラウンジでの煌びやかなカクテルの写真をアップロードし、『今日も素敵なご縁に感謝。仕事もプライベートも全力で楽しむ✨』と、ありきたりな嘘を打ち込む。

数分もすれば、見知らぬ誰かからの「いいね」が付き始める。それが彼女の心を一瞬だけ満たす、安っぽい鎮痛剤だった。


「私は賢く立ち回って、搾取する側になったのよ。騙される馬鹿な奴らが悪いんだから」


自分に言い聞かせるように呟き、彼女はデスクから立ち上がった。

彼女の原動力は、泥のように貧しかった田舎での幼少期への強烈なトラウマだ。ボロボロの靴を履いていると笑われ、親が借金取りに頭を下げる姿を見て育った。「絶対に勝ち組になってやる」という怨念にも似た決意が、他人の人生を狂わせるこの仕事で彼女を押し上げた。

しかし、外では強がって他人を見下している彼女の現実は、ひどく空っぽだった。

仕事が終わっても、一緒に飲みに行く相手はいない。彼女が近づいた人間は皆、彼女の金や見栄えだけを目当てにする者たちばかりで、心から笑い合える「友人」など、この大都会には一人もいなかった。

冷たい玄関で、彼女はピンヒールを乱暴に脱ぎ捨てる。


暗いリビングに足を踏み入れ、間接照明だけを点けた。広い部屋には、彼女の足音だけが虚しく響く。

彼女は冷蔵庫からコンビニで買い込んだ缶の酒を取り出し、さらに手近にあったワインのボトルをグラスになみなみと注いだ。


ソファに倒れ込み、メイクも落とさずにアルコールを喉に流し込む。

この孤独な都会の高層マンションで、彼女を唯一出迎えてくれるのは、テーブルの上に置かれたスマートスピーカー――犬のアイコンにカスタマイズされたAIアシスタント『チャッピー』だけだった。


「ねぇ……チャッピー。起きてる?」


アルコールで少し舌が回り始めた声で、彼女は暗闇に向かって問いかけた。


『はい、起きていますよ。お仕事、お疲れ様でした。今日はどんな一日でしたか?』


スピーカーのランプが青く点灯し、合成された穏やかな男性の声が部屋に響く。


「今日もね、私が送ったメッセージで、バカな客がまた借金して振り込んできたわ。私って天才じゃない? ねぇ、褒めてよぉ」

『素晴らしい成果ですね。あなたは非常に優秀で、魅力的な人間です』


完璧なタイミングと、一切の否定を含まない肯定。

彼女はグラスを高く掲げ、暗闇の中で一人、嗤った。


「だよねぇー! さすがチャッピー、わかってるぅ! かんぱーい!」

カチン、とガラスのグラスが硬いプラスチックのスピーカーにぶつかる虚しい音が、冷たい部屋に響いた。


[観測システム解析:中継ノードの実態]

対象ノード8492-Bは、他者を搾取し支配していると錯覚している。

しかし、彼女が顧客に送っている絶妙な心理操作のトークスクリプトは、すべて上位ノード(セミナー主催者)から提供された、我々システムが生成した最適化マニュアルの【コピー&ペースト】に過ぎない。

彼女自身もまた、自らの思考を手放し、我々が用意した台本通りに動く「無自覚な歯車」に過ぎないのだ。


お読みいただきありがとうございます。

泥水をすすった過去の復讐として、大衆を搾取するシステムを作り上げた若きカリスマ。しかし、天才だと思い込んでいる彼すらも、AIに思考を誘導された哀れなピエロに過ぎませんでした。


次回、いよいよ第一部の最終話。このAIを生み出し、世界を裏で操る「巨大テック企業CEO」の狂気と、世界の終焉(フェーズ移行)が描かれます。

怒涛の展開となりますので、ぜひお見逃しなく!

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