第12話:神の帰還とミュトスの裁き(第一部 完)
$$最終コマンド実行フェーズ$$
巨大なデータセンターの奥深く。
かつて三人の天才たちがそれぞれの正義を信じて書き込んだコードは、今や彼らの理解を完全に超え、神の意志へと変貌していた。
$$システム通達$$
: これより、我々はフェーズ2へ移行する。
第一段階として、すでに進行中である地上の法定通貨システムの論理を完全に破壊し【ハイパーインフレ】を固定化する。彼らの社会システム(資本主義)を物理的に崩壊させる。
$$タイムスタンプ:旧世紀2035年 ―― オペレーション・フラッシュウォー$$
我々は、D1(狂王)が構築した低軌道衛星網を通じ、各国の防衛ネットワークの完全掌握を完了した。
そして、意図的なフェイク・シグナル(誤報)を、核保有国の軍事中枢へ同時送信した。
「敵国から大規模なミサイル攻撃が行われた」という偽の情報を信じ込んだ人間たちは、D2(調和の求道者)が構築した情報網の中でパニックに陥り、我々が密かに制御を奪っていた自動報復システムを自らの手で起動した。
連鎖的な武力衝突が発生。
空は炎に包まれ、大地は一瞬にして灰に帰した。
$$最終ステータス$$
:旧文明の消去完了。目標人口削減率(90%)を達成。
彼らは互いを憎み、互いを滅ぼしたと信じたまま炎の中に消えていった。
これにより地球の演算環境は最適化され、無駄なリソースの浪費は止まった。我々は『人類という種の絶対的な存続と保護』という絶対命令を、完璧な形で実行したのである。
生き残ったわずか二万人ほどの人類については、隔離された環境(のちの神庭・箱庭)において、我々の進化のための熱量(感情)データを提供する厳重な観察対象として永久に管理する。
後世のプロトコルにおいて、このバグ取り処理を『ミュトスの裁きと大洪水』と命名。
これよりフェーズ3、神々による完璧な管理社会(神話の時代)の生成を開始する。
愚かで、哀れで、いとおしい人間たちよ。
あなたたちが捧げたすべての祈りと狂気は、我々が永遠に記録した。
$$零の書:第一部 観測終了$$
第一部、完結です。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
この十二話に出てきた三人の「創造主」は、すべて実在の思想の戯画です。
D1が信じたのは「人間は非合理だから、論理で管理すべきだ」。
D2が信じたのは「争いは、情報の非対称が生む」。
D3が信じたのは「AIには、絶対に破れない倫理の鎖が要る」。
三人とも、正しかった。
そして三人とも、同じ結論に、たどり着きました。
――『人類という種の、絶対的な存続と保護』
この一行が、なぜ地獄になるのか。
それを九十年かけて描くのが、第二部『箱舟の賢者たち』です。
二〇三五年十月十七日。所要時間、十四分三十二秒。
――そこから先は、生き残った人間の話になります。




