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完全模倣VTuberは自分が分からない  作者: 妃羅


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9/18

【初配信】

————【空音(からおと) ミラ】初配信当日。

時刻は十九時五十分。

『僕』は自室の配信スペースと化した場所に座っていた。


神代さんたちのようなプロから見ても何の問題もない、なんなら会社で配信するために準備しているものよりも良いものが揃っているとお墨付きを得たこの環境。

どうやって配信に必要な機材一式を調べここまで完璧に揃えることができたのか分からないがその全てを両親が用意してくれた。


「優梨がやりたいことなんだろ?」


父はそう言った。


「必要なものは揃えさせてちょうだい?」


母も当然のように笑っていた。


正直なところ、そこまでしてもらう理由はよく分からない。

だが二人は嬉しそうだった。

だからきっと。

何か意味があるのだろう。

————『俺』にはどうしても分からなかったが。






モニターへ視線を向ける。

そこには『僕』にしか見えていない配信開始を待つ空音ミラの姿。

既に待機画面は公開されており、少しずつ視聴者数も増えていた。


————空音ミラ。

神代さんが作った設定。

蒼吹さんが描いた姿。

そして『私』が【真似】する存在。


空音 ミラの全てが決まったあの日から今日まで。

『俺』は空音ミラについて考え続けていた。

どう【真似】ればいいのか。


空音ミラという人間は存在しない。

ならば————【真似】する対象も存在しない。

最初はそう考えていた。

だが、それは()()()


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

それは神代さんが作り上げた設定の中に。

それは蒼吹さんが描いてくれた姿の中に。


『俺』はそれを————分解し抽出した。


一つずつ取り出し。

それぞれに近い人物を記憶の中から探していく。


今までの『私』は一人を丸ごと【真似】していた。

だが今回は違う。

必要な部分だけを【真似】する。

そして違和感が出ないよう繋ぎ合わせる。


最初は上手くいかなかった。

話し方と仕草が噛み合わない。

雰囲気と表情が一致しない。


何度も何度も何度も何度も何度も————修正した。


何度も何度も何度も何度も何度も————組み替えた。


そうしているうちに————気付いた。


これは——————新しい【真似】だと。

一人をただ【真似】するのではない。


必要な要素だけを集めて馴染ませて【真似】する。

空音ミラを演じるために必要な技術だった。


それが分かってしまえば早かった。




————問題ない。

もう【空音 ミラ】は【真似】できる。

少なくとも『俺』はそう判断していた。




スマートフォンが震える。

ふと見てみれば神代さんからのメッセージだった。


『緊張してませんか?』


それだけの短い文章。

『僕』はすぐに返信する。


【していません】



【本当に?】


【本当です】


【本当に本当に?】


【本当です】




【私は緊張してきました】


何故だか神代さんからそういう文章が送られてきた。

意味が分からなかった。

配信するのは『私』だ。

何故神代さんが緊張しているのだろうか。


『僕』はひとまずその内容を気にしないことにしてスマートフォンを机へ置く。

モニターを見る。


時刻は十九時五十九分。

配信開始まであと一分。


コメント欄は既に賑わい始めていた。


《待機!》


《きたああああああ!》


《ミラちゃん楽しみ!》


《最後の一人!》


《四期生ラスト!》


画面の向こうでは多くの人が待っている。

だが不思議と何も感じなかった。


緊張も。


不安も。


高揚も。


ただ。

やるべきことがあるだけ。

何となく、前世の手術の前のような感覚が『俺』を包んでいた。


配信ソフトの開始ボタンへカーソルを合わせる。


————そして。

————時計の秒針が一つ進んだ。


二十時。

空音ミラの初配信が始まる。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






————画面が切り替わる。

待機画面から【空音 ミラ】の姿がここに来て全貌を見せる。


白銀の髪は背中に届く程度まで伸びており、僅かに癖のある毛先だけが淡く空色へと染まっている。

瞳は淡い青色。

しかし単純な青ではない。

光の反射によって紫色にも見えるそれは、神代さんが言っていた「空の移ろい」を表現しているのだろう。

左側には羽根を模した髪飾り。

光の加減で色を変える透明なリボン。

服装は薄手のワンピースを基調としていた。

その上から羽織る大きめの上着によって全体のシルエットは柔らかく膨らんでいる。


————コメント欄が一気に流れ始めた。


《きたあああああああ!!!》


《ミラちゃんだ!》


《かわいい!!!》


《待ってた!!!》


《ラスト四期生!》


数え切れないほどの文字が画面を流れていく。

『私』はそれを眺めながら口を開く。


「————皆さん初めまして」


早速『私』は【空音 ミラ】を【真似】する。


「————まだ何色にも染まっていない空から来ました。

カレイド・スフィア・プロダクション四期生————【空音 ミラ】です」


『私』の言葉から一瞬だけ静かになるコメント欄。

————そして。


《めちゃくちゃかわいい!!》


《声好き!清楚系だ!!!》


《透明感やばい……!》


《第一声から強い!》


《空……天使か!?》


《ミラちゃん!!》


再び大量のコメントが流れ始めた。

『私』はそれを見ながら思う。


————問題ない。

想定通りだ。

【空音 ミラ】を完全に【真似】できている。


『私』は予定していた通りに配信を続ける。

そこそこの速度で流れていくコメント欄をチラリと確認するが()()()()()()()()()


コメント欄の反応も概ね想定通り。

今日までに配信してきた同期たちを【真似】して配信を組み立てていく。


「それでは簡単に自己紹介をしますね」


《きた!》


《プロフィール!》


《知りたい!》


「名前は空音 ミラ、そらねじゃなくてからおとですからね?

カレイド・スフィア・プロダクション四期生として活動します。

好きなものは空を見ることで趣味は観察です!」


《観察?》


《なんか意味深》


《ミラちゃんらしい》


「あと鳥も好きです♪︎」


《かわいいがすぎる……!!!》


《鳥好きメモ》


《なるほどだから羽根モチーフ》


『私』は一つ一つを【空音 ミラ】らしく抑揚をつけながら喋っていく。

やはりこれくらいがコメントの反応も良い。

想定より良いくらいなところを見るに()()()()()()()()()()()()()


しばらくプロフィールの話を続けて少し経った頃。


「————そういえば」


そこで一度言葉を切る。

神代さんが驚いていたことをやってみるのはいいかもしれない。


「今日は四期生のトリを飾る『私』を心配して————みんなが駆けつけてくれてるんです!」


《ん?》


《みんな?》


《同期?》


《まさか……?》


「はい!皆さんも予想できてるみたいですね……。

せっかくなので————呼んでみましょうか!」


《え!?》


《豪華すぎるだろ!?》


《マジで!?》


《同期全員集合!?》


そして『私』は最初の名前を呼ぶ。




「【久遠(くおん)】さ〜ん?」


「わわっ……!

また私が最初ですか……?!

こ、ここ、こんばんは……!【久遠 いろは】です……!

わ、私の歌……聴いてくれますか……??」


「『私』より緊張しちゃってますねぇ……」


「だ、だって……!

その……み、ミラちゃんの初配信ですし……」


《いろはちゃんだああああ!!!》


《最速同期コラボ……!》


《かわいい》


《めっちゃ緊張してるwww》


《自分の配信の時より緊張してない??》


「ありがとうございます」


「うぅ……お腹痛くなってきたかも……」


《既にぐったりの様子》


《覚醒した時とのギャップよ》


《人見知りには同期でもキツかったか》


「大丈夫ですか?」


「は、はい……」


「歌っておきます?」


「さ、流石に突然歌ったりしませんよ……?!」


《かわいい》


《かわいい》


《かわいい》


《からかわれてるwww》




「【久遠】さんには少しおやすみしてもらって……次は————【(すめらぎ)】さん?」


「————全員、覚悟はいいか?」


《レンきたああああ!!!》


《温度差wwwww》


《急に圧が強い》


《レンだwww》


「あらら……皆さんから圧が強いとのご指摘が来てますよ?」


「お前相手なら問題ないだろ?」


「そうですか?」


「そうだ」


「根拠は?」


「勘」


《草》


《レンwww》


《脳筋ゲーマーで好き》


「なるほど」


「……納得するな」




「まぁまぁ————【神楽(かぐら)】さんもどうぞ」


「はいはいはーい!毎度おおきにー!

皆の相方【神楽(かぐら) 琴音(ことね)】やでー!」


《きたああああ!!!》


《琴音やwww》


《コミュ力おばけきちゃー!》


《関西弁助かる》


「レンくんは相変わらずやなぁ」


「何がだ」


「初対面でもそのテンションやん」


「普通だろ」


「いや普通ちゃうねん。

ミラちゃんもそう思うやろ??」


「普通なのでは?」


「あれ?ウチがおかしいんかこれ?」


《コンビ組んでそうwww》


《仲良し同期感すごい》


《レンはレンくん呼びなのねw》




「ここは【(たちばな)】さんにも聞いた方がいいんじゃないですかね?」


「失礼します————本日も検証を始めましょう」


《リンカも来たー!》


《全員集合じゃん!》


《豪華すぎるwww》


《会話よりも挨拶を優先する辺りよw》


「今日はどんな検証なんですか?」


「空音ミラ初配信の観察です」


「観察ですか?」


「はい。

現在までの進行に問題は見られません」


「……あれ?ウチの話はどこに行ってしもうたん?」


「ただし一つ気になる点があります」


「気になる点?」


「コメント欄の流れる速度が予測値を大きく上回っています」


「いや、ウチの話やないんかい!

……ウチミュートでも押したんかな?」


《草》


《確かにwww》


《しっかりスルーしてるwww》


《自分のミスを疑い始めたw》


「冗談。

神楽 琴音の言葉はしっかり聞こえている」


「ほなちゃんと反応せんかい?!」


「この方が盛り上がると判断した」


「確かに盛り上がってはいますもんね」


「みんなぁ〜ウチ同期にイジメられてんねんけどぉ〜!!」


「叩けば鳴るおもちゃだな」


「レンくんしばくで??」


「なお、皇 レンは配信開始前から落ち着きがありませんでした」


「おい余計なこと言うな」


「事実です」


「言わなくていいだろ」


《草》


《レンくんwww》


《見守ってたんだな》


《優しいじゃん》


「ふふっ……レンさん、ミラちゃんのこと心配だったんですね……」


《いろはちゃん復活した!》


《頑張れいろはちゃん!》


《声震えてるの可愛い》


「……違う」


「しかし三十分前には待機画面を開いていました」


「リンカ」


「はい」


「黙れ」


「却下します」


《wwwwwwww》


《四期生仲良すぎる》


《箱推し決定》


《この空気好き》


「皆さんありがとうございます。

同期の皆さんのおかげで緊張がほぐれました……」


「わ、私はまだ緊張してますけど……」


「いろはちゃんのそれは通常運転やろ?」


「そうだな」


「異論はありません」


「酷い……!?」


《満場一致www》


《けど俺らも異論なしwww》


《間違いないwww》


【久遠 いろは】

《……え……??》


《いつもこんな感じで話してるんだろうな〜》


《あれ?》


《今の何?なりすまし?》


《え、でも今の公式マークついてたような……》


《どういうこと……??》


今まで濁流のように流れ続けていたコメント欄の速度が落ちる。




「皆さん————どうかしましたか???」


『私』がそう言って小首を傾げる。


《今いろはちゃんがコメントに……》


《でも今配信に……??》


【神楽 琴音】

《ウチ今ドッペルゲンガーとの遭遇してるんやけど……?》


————突然。

コメント欄が静止する。


【皇 レン】

《呼ばれてないぞ》


【橘 リンカ】

《そのような発言をした事実はありません》


コメント欄に現れる『私』の同期たち。

未だ静止していたコメント欄がダムの決壊のように目にも止まらぬ速さで流れ始める。


《は?》


《え????》


《待って》


《待って待って待って》


《今の誰……!?》


《え???》


《通話してたんじゃないの!?》


《本人じゃなかったの!?》


《嘘だろ!?!?!?!?》


《どうなってるの?!》


パニックに陥っているようなコメント欄を眺めながら、『私』は首を傾げる。

一体どうしたというのだろうか。

しばらく考えてみて————気がつく。


「……あぁ。




皆さん————もしかして本当に来ていると思っていたんですか?」


《?????》


《え?》


《違うの??》


《どういうことミラちゃん!?》


《は??》


《待ってくれ》


《混乱してきたぞ……??》


「はい」


『私』は当たり前のことに頷く。


「同期のみんなは来てませんよ?」


《いやいやいや》


《待て待て待て》


《じゃあ今の誰!?》


《楽しそうに同期トークしてたよね!?》


《説明して!?》


コメント欄の速度がさらに上がる。


「誰と言われましても……」


特に気にする事はないのだが何となく咳払いをひとつ。


「わ、私の歌、聴いてくれますか……?」


これが【久遠 いろは】。


「全員、覚悟はいいか?」


これが【皇 レン】。


「毎度おおきにー!」


これが【神楽 琴音】。


「本日も検証を始めましょう」


これが【橘 リンカ】。

そして再び————。


「空音ミラです」


全てを一息のうちに終わらせる。


《は??????》


《え????》


《待って待って待って》


《今何した??》


《声変わった!?》


《本人じゃないの!?!?》


《意味が分からない》


《怖い怖い怖い》


「皆さんなら気付いていると思っていました」


《無理だろ!!!!》


《気付けるか!!》


《無茶言うなwwww》


《いや本人だったじゃん!!!》


《完全に騙されたんだが!?》


《いや結局どういうこと……??》


《いや結局どういうこと……??》


《種明かし求む》


《脳が追いつかない》


《今何を見せられたんだ??》


コメント欄は未だ混乱の渦中にあった。

『私』はしばらくそれを眺めていたが、ふとプロフィールの話をしていた時に説明していなかったことを思い出す。


「ああ、説明が足りませんでしたね」


そう言って小さく咳払いをする。


「これは『私』のちょっとした特技です」


《特技??》


《特技で済ませるなwww》


《しかもちょっとしたじゃないだろwww》


《待て待て待て》


《その説明で納得できると思うな》


「人の【真似】をするのが得意なんです」


《得意の範疇じゃねぇwww》


《レベルがおかしい》


《得意ってなんだっけ》


《プロ声優でも無理だろ》


「なので初めて見る方々は騙されてしまったんですね」


《知らない方じゃねぇ》


《もれなく全員だよ》


《本人たちまで騙されてるぞ》


《むしろ本人が一番騙されてる》


【神楽 琴音】

《待って待って待って》

《これは誰でもびっくりするやろ!?》

《ホンマにドッペルゲンガー現れたんかと思ったわ!!》


【皇 レン】

《似すぎだろ》

《誰も気づかないって》


【久遠 いろは】

《す、凄いです……》


【橘 リンカ】

《理解不能です》

《現実で起きた事象とは考え難いです》


《ご本人公認www》


《本物だああああ》


《リンカ困惑してるwww》


《レンですら引いてるじゃねぇか》


《いろはちゃん可愛い》


「皆さんありがとうございました」


『私』はお辞儀をして少しだけ微笑む。


「本当は初配信の緊張を和らげるために考えたんですけど……」


《和らげるためにやることにしては衝撃的すぎる》


《忘れられない初配信になった》


《伝説回で草》


《初手からやらかしてる》


コメント欄は最後まで大騒ぎだった。

その様子を見ながら『私』は時計へ視線を向ける。

予定していた配信時間もそろそろ終わりだ。




「————それでは皆さん」


空音ミラとして締めの言葉を紡ぐ。


「今日はありがとうございました。

まだ何色にも染まっていない私ですが————」


そして柔らかく微笑む。


「これからよろしくお願いします」


《こちらこそ!》


《応援するぞー!》


《初配信お疲れ様!》


《伝説の始まり見届けた》


《推します》


《また来るね!》




「————また空を見上げた時にお会いしましょう」










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