19.密着
「雪さん、大丈夫?」
「うん……ありがとう。怪我ない?」
問い返されて、ナツは首を振った。
ナツに体重をかけてはいけないと雪が立ち上がろうとした瞬間――ナツは、自分でも気づかぬうちにその手を掴んでいた。
「待って……」
反射的だった。
ぐらりと雪の体が傾き、次の瞬間、ふたりの距離は一気に縮まった。
雪の重みが、ナツの上にのしかかる。
「雪さんは、私の……だよね?」
絞り出すように言葉を紡ぐ。胸の奥がぎゅっと縮まるようだった。
「……うん」
「私も、雪さんのこと……」
言葉の続きを飲み込んだナツに、雪がふわりと笑う。
「いいよ、ナツなら……」
その瞬間、バスタオルがふわりとほどけた。
視界に映るのは、真っ白な肌と、女性らしいしなやかな曲線。
細くて、でも芯のある身体―
息を呑む。
ナツはそっと腕を伸ばして、雪の頭を抱き寄せた。
ふたりの唇が触れ合う。
最初はためらいがちだったキスも、次第に熱を帯びていく。
もっと――もっと、とナツが欲を見せると、雪はすぐにそれに応えてくれた。
ふたりのキスは、静かに熱を帯びていく。
ナツの手が、ゆっくりと雪の胸元へと伸びる。
柔らかく、ふわりと手におさまるその感触に、息が止まりそうになる。
そのとき、雪の瞳がゆっくりと開いた。
潤んだ瞳の奥で、熱がゆれている。
「ナツ……」
名前を呼ぶ声が、どこまでも甘くて切なくて。
ナツは胸の奥がじんと痺れるような感覚に包まれた。
「こっち……さわって」
雪はそっとナツの手をとり、導いてくる。
触れていいのか迷っていた気持ちに、答えをくれた雪。
ナツの心臓が、大きく跳ねた。
導かれた先――指先に触れたのは、雪の、奥に秘めた熱。
息を呑むナツに、雪の体がふるりと震えた。
唇を噛んで、声をこらえる雪。
その姿を見た瞬間、胸がきゅうっと締めつけられた。
愛しいと心から思ったその時、雪の中が大きく波うち全身を預けてきた。
ふたりの体がぴたりと重なり、心臓の音がひとつになったような気がした。
雪はゆっくりと大きく息を吸い込み、静かに目を開けた。
視線の先には、彼女をじっと見つめるナツの瞳があった。
「雪さん……」
ナツの声は小さく、胸の奥からこぼれるようだった。
「ナツ……重くない?」
「ううん。大丈夫……」
そのやりとりの中にも、どこかぎこちなさがあった。
雪はナツの頬にそっと手を添えると、自分の身体を起こす。ナツはそれを支えながら、寄り添うように立ち上がった。
ふたりは静かに浴室へと向かう。
湯舟の湯に肩まで浸かると、雪はしばらく黙ったまま天井を見つめ、それからゆっくりと口を開いた。
「ねぇ……ナツ。なんだか口数少ないね。さっきも……なんか、いつもとちがった」
やわらかく問いかけるその声には、どこか切なさが滲んでいた。雪にはわかっていたのだ。ナツがさっき、自分に向けたあの強い眼差しの奥に、不安が潜んでいたことを。
ナツはしばらく返事をしなかった。湯の中で自分の指先を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「雪さんは……私に、隠してること……ない?」
その問いに、雪の眉がわずかに動いた。静寂が、ふたりのあいだに降りた。
「隠してること……か」
雪は湯の中で指を組み、少しだけ視線を伏せる。
「うん……」ナツはその横顔をじっと見つめた。
しばしの沈黙ののち、雪はゆっくりとナツの方へと向き直った。灯りに濡れた瞳がきらめく。
「まだ……話せていないこと、あるね。でも、ナツ。落ち着いて聞いてくれる?」




