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276 私は貴方を知らない

 シゲルが『イザナミ』と共にオノコロノ国を離れ、姿を見ることはもうないのだとわかっていてもミノルの心は晴れることはなかった。これでよかったのかと最初は思っていたが日々を過ごしているうちに思い出すことが減って来た。

 いや、自分に都合の悪いことに見て見ぬふりをして必死になって忘れようとしただけだ。


 しかし、そのおかげかいつしか父から道場を任されるようになり、教え子たちにも慕われるようになった。優しい妻と可愛い娘にも恵まれ、色々なことが本当に過去のことだと思えて来た時だった。『イザナミ』を持った男がオノコロノ国に来ていると聞いたのは。


 あのシゲルから『イザナミ』を託されたという男に興味はあったが、それ以上に自分に会いに来てくれるなと思った。

 しかし、その願いも虚しく、『イザナミ』を持った男はミノルの前に現れた。


 いなくなった大切な娘の無事を喜ぶよりもミノルの心は恐怖に苛まれた。男が腰に携えている『イザナミ』から視線を外すことができない。自分が今まで目を逸らし続けてきたものが否が応でも蘇ってきた。


 混乱する頭でシゲルの好意に胡坐を掻き、平穏な日常を送る自分に彼が怒ってこの男をけしかけて来たのかと一瞬思った。

 だが、彼がそんなことをするはずがないとすぐに思い直した。


 そう思ったとしても警戒心はなくならない。相手に悟られないように構えていたが、男はシゲルと自分とのことを知らないのかごく普通のことだけしか口になかった。弟の関係や『イザナミ』のことについて聞いてこないことに安堵した。


 この分では本当に自分とシゲルのことを知らないだけかもしれないと今まで思っていたが、こうして二人っきりで話してみてそれは間違いだと理解した。どうやらわかっていて彼は聞かなかったようだ。

 そうではなく、ナデシコが色々話しかけたから言い出せる雰囲気ではなかったというべきか。


 噂や他の人から聞いたならともかく自分たち兄弟をよく知り、心を砕いてくれたゲンが話したのなら間違いはないだろう。ゲンとアッシュを信用したからこそ、様々な圧に負けて『イザナミ』を自ら手放したなんて情けないことを話したのだ。


 彼らを信じて話したというのにアッシュはミノルの目の前に『イザナミ』を差し出して来た。話を聞いていなかったのかと彼を見るがその顔は真剣だった。どうするべきなのかと目線を逸らそうとすると自分の手が震えているのに気づいた。シゲルと比べられ、惨めだったあの時のことを思い出して何も出来ずに堪えるしかなかった子供の頃に戻ったかのように。




『イザナミ』を前に出すとミノルが怯えた目をして震える。それだけこの刀は彼の心の傷を抉る物なのだ。ひどいことをしている自覚はあるし、今すぐに『イザナミ』を引っ込めたい気もあるが彼にこれだけは言っておきたい。


「ミノルさんなら出来ます」


 アッシュの力強く、真っすぐな声に対してミノルは顔を歪めて皮肉の混じった言葉を吐く。


「…僕のことを知りもしないでよくそんなことが言えるね」


 昨日言葉を交わしたとはいえ、こうしてじっくりと話すのが初めての相手にそんなことを言われても信じられないのは当然だ。アッシュが彼と同じ立場でもそう思ってしまうだろう。


「確かに、俺はミノルさんのことは知りません」


 ミノルの意見に同意するアッシュに彼は訝し気に眉を顰める。その顔を見てもアッシュは躊躇うことなく言った。


「ですが、先生、いえ、シゲルさんのことはよく知っています」








 お久しぶりです。まだ全快とは言えませんが、大分良くなったので書き溜めている分をあげようと思います。週一回、日曜日の0時に投稿する予定なのでまた見ていただければ幸いです。

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