第40話 混沌を戦い抜く者たち・後編
第5回FLOW世界大会・DAY1 第一試合
第4リング収縮中 混沌開始3分 セントラル
『混沌の最中とはいえ、前回大会世界4位が中盤で倒れるという波乱の展開! しかし、第4リング収縮が始まってまだ3分。混沌は終わらない!』
『これでセントラルの残りのパーティーは7……ん? 7、いますかこれ……?』
解説の疑問に、実況は観戦画面を操作して、セントラルを真上から見下ろす俯瞰カメラに切り替える。
1、2、3、…………、11、そして12人──。
何回数え直しても、6チームしか見当たらない。
もちろん、バグなどではない。
『ほんとだ。1チームは混乱に乗じて移動したみたいですね』
『そう、だといいのですが……念の為キルログ遡ってみてくれます?』
『は、はぁ……って、え!?』
cocktailとQUANTの戦いを見ていたとはいえ、その間他の場所から銃声などは聞こえなかったはずだ。
だから実況は訝しく思いながらキルログを遡った、のだが────
:いつの間に!?
そこには、アジア大会1位のキノコ組が北米大会2位のβを倒したという文言があったのだ。
前世界1位と世界2位がいる北米大会で2位になったβを、倒したのだと。
『え!? ほんとに倒されてたし、まさかのキノコ組!?』
『い、いつの間に……!?』
:銃声なんてしたか!?
:いや俺は聞こえなかった……
:多分cocktailチームが戦っている間なんだろうが
:こうやって見るだけの俺たちですら気づかねえレベルの速さで倒したのか……!?
試合中はリプレイを見返すこともできないのでにわかには信じがたいことだ。
だが、それが『事実』として残っていることに変わりはない。
そしてこんなにも驚いているのには、もう一つ別の理由があったのだ。
:なんで混沌なのにキノコ組は戦闘したんだ?
:それ
:全チーム1つずつビルを占拠する形で、めっちゃいい具合に分かれてたもんな
『確かに……このレベルの選手たちなら戦闘を仕掛けに行く行為が無駄なのはよく分かってるはず』
『キノコ組もたしか事前に「攻めない」って公言してましたよね』
『な、何があったんだ……』
────世界大会後に明かされることになるその不可解な行動の真相。
それは、世界大会の開催日が決定した1ヶ月前まで遡る────。
─────翔視点─────
8月30日(日)
俺とアミアはある人からの声掛けで、プロゲーマー事務所SUM Blossomを訪れていた。
「このくそ暑いときに」
「なんやその『くそ忙しいときに』のレベルが低い真似は」
「すんませんレイはこういうやつなんで」
なんかかっこよく"ある人"とか言ったけど、まぁ普通にしーたけさんもnamekoさんなんだけども。
雑談しつつ事務所内を歩き、ゲーム環境の整った部屋に通された。
ちなみに部屋の利用許可は事前に取っているらしい。
「それで今日はどういった要け──」
「ワイたちに『混沌』の乗り越え方を教えてくれへんか!!」
し〜たけさんは俺の言葉を遮りながら、「頼む!」と頭を下げた。
えっと、急に頭下げられてもなんですが……。
「し〜たけ、さすがに言葉足らずだ。2人も困惑しているだろう?」
namekoさんはし〜たけさんの背中を優しくポンと叩きながら言う。
namekoさん、声の雰囲気とか言葉遣いとか厳かで、余裕のある大人みたいでめっちゃかっこいい。
「今までの傾向と乗り越え方、前衛の戦い方とか教えてくれないか?」
前言撤回。
そういうことじゃないんよnamekoさん。
その前後の文脈が欲しいんであって、厚かましい願いにして欲しいわけではないんよ。
その後詳しい説明を聞いた。
俺たちに相談したい内容というのは大まかに言うと、
前回大会は混沌への対策を見出だせずに負けてしまった。
そこで、アミアは第2回の世界王者ということを思い出し、アドバイスをお願いしようと思った。
とのことらしい。
……アミアは分かるけど、俺いる?
世間一般的には俺、ただのすごい新人のはずなんだけどな。
まさか俺がelleってバレてるはずもないしな!
「頼めないか? お前たちにしか頼めないんや」
「無理です」
俺はきっぱりと断った。
それはもう、一切の躊躇なく。
「そ、そんなド直球に断るか……」
「えぇ、無理です。だろ、アミア?」
「あぁ」
アミアも自分の意志で俺の言葉に同意した。
「傾向?乗り越え方?前衛の戦い方?無理ですよ。今年は俺たちも同じ舞台で戦うんです。世界大会は、事前の情報戦から始まってるんですから」
「それは……そうだが……でも────」
「──ただ」
俺が少し強く言い過ぎたせいか、し〜たけさんは珍しく焦ったような怒ったような、そんな様子で反論しようとしてくる。
だが俺はそれを遮る。
「ただ、『何が危険か』『何が禁止行動か』。そーいうのを伝えて、同じスタートラインに立ってもらうことしか、俺たちにはできないです」
「……え?」
お二人とも、ポカンとした様子でこちらを見る。
「"対策"だとかはそれぞれのチームによって違うっすから。俺はたしかに第2回の世界王者でIGLやってるっすけど、し〜たけさんのやり方でIGLしろって言われても無理すから」
ちょっと情報与えすぎたか、と少し焦るアミアをお二人は眺める。
混沌の乗り越え方なんて、人の数だけ存在する。
逆に言えば、自分たちのやり方じゃないと乗り越えられない。
その考えが彼らに不足しているのだと、俺は──いや、俺とアミアはすぐに気づいたのだ。
「…………〜〜〜〜っ!! おまえらー!! やっぱいい奴やな〜!!」
「ちょ……! し〜たけさん急に抱きつかないでくださいよ。加齢臭しますよ」
「待ってワイそんな臭い? まだ25なんやが!?」
「すごいなレイ。抱きついてきた相手に1番効く言葉すぎるぞそれ」
─────三人称視点─────
キノコ組は去年の反省から、FILM-0へ依頼して『混沌の全て』を知った。
そして彼らは、『彼らなりの乗り越え方』を見つけたのだ。
『あ、あれ?』
『どうしました?』
『いえその、キノコ組の視点に切り替えようと思ったんですが……2人の距離が離れていてどうしようかと』
『ほんとですか?まぁビルの1フロアくらいならどちらでもいいですよ?』
『いえそれが……単位が【フロア】じゃなくて1【ビル】違う……』
:は……?
:混沌中に単独行動!?
:気でも狂ったのか!?
:ほんとだ。マジでバラバラやん
:し〜たけがいるの、βがいたビルじゃね?
そう、キノコ組は今、し〜たけはβが陣取っていたビルに、namekoはその隣のビルにいる。
『……! まさか!?』
解説は何かに気づいた様子で叫び、nameko選手の視点に変えてください、と実況に頼んだ。
それに従い視点が変わると──。
『す、スナイパー……2丁持ち!?』
異様な武器構成がそこにはあった。
しかしそれと同時に、解説はそのカラクリに気づいた。
『これ、見覚えありませんか?』
『見覚え……?』
『ええ、それも4年前のこの舞台で』
『……あっ!!! elleとaMaの立ち回り!!』
:あー!!!
:elleって誰?
:elle式の開発者じゃね?
:あ、あのelleってプレイヤー名だったんだ知らなかった
:え、aMaと組んでたってことはelleってやつも世界王者?
:今はそれよりもだろ!!
『elleが足音で敵を陽動し、窓に頭を出したところでaMaが撃ち抜く。あの2人にしか許されていなかった技を、この2人は再現してしまったんだ!!』
当時のelleたちの混沌の乗り越え方は、『戦闘が起きたときに漁夫をしてきそうなやつらは先に倒す』という最強の対面能力があるからこそのものだった。
故に、彼らしか出来なかった技。
キノコ組はそれの引用だった。
スナイパーに圧倒的な自信があるnamekoが待機し、し〜たけが敵の真下で陽動する。
そして隙を見せたところを──ドン。
この戦い、2発しか鳴らなかったのだから、気づかないのも無理は無いだろう。
『しかしそれでも、戦闘する意味は無いように思えますが……』
実況はまだピンときてない様子だった。視聴者の多くも、だ。
『おそらく──やはり移動を始めましたね。ここで余らせた物資を使って、無駄遣いしながら牽制して突破するんです』
『な、なるほど!! 去年の彼らも同じように乗り越えましたが、物資が無くなって負けていた。それをこうやることにより──』
『そう、物資の消費を無くし、かつリング内の安全な場所に移動する。キノコ組、ほぼ確実に終盤を迎えられそうですね……』
そして、混沌が終わった────
第5回FLOW世界大会・DAY1 第一試合
第4リング収縮完了 残り人数26人 13チーム




