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番外編 ペットたちの災難

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

生存報告を兼ねて番外編を投下します。

番外編 ペットたちの災難


 この番外編は作者の別作品、“「悪役令嬢」改め『凶悪令嬢』と呼ばれた公爵令嬢”とのコラボ作品となります。ご了承ください。ジーナさんは色々あって結婚した後の話になります。

 尚、本作はフィクションであり、実在の人物や国家とは全く関係ありません。



 ここは自分たちが最強と信じて疑わないゴーマン・ダト・ランプ帝国の闘技賭博場。魔法技術、魔道具技術で世界に敵するもののないゴーマン・ダト・ランプ帝国は、他国からの交易品に高い関税を掛け、自国の物価がつり上がって庶民が苦しんでも、最強の魔法と最凶の魔道具で圧政を敷き、娯楽に罪もない奴隷や猛獣に決闘まがいの殺し合いをさせ、それを賭博にして更に稼ぎ、国民は疲弊し、国家は廃頽しているのに、支配階級はますます傲慢に振る舞い、一部の熱狂的信者によって指示されるのをいいことに、敵対する勢力には理不尽の限りを尽くして、資源国を侵略することもいとわない最悪の国家である。

 そして現在、この国の帝王となっているドーナルノ・ダト・ランプ皇帝は、新システムが導入されたということでそのお披露目と新システムによる御前試合を見るために、闘技賭博場へと足を運んでいた。

 貴賓席のど真ん中に陣取ったドーナルノ皇帝は、自身の熱狂的信者と本日の御前試合という名の殺し合いを賭けの材料にすべく集まった民衆を前に得意のフェイクを交えた演説をかます。


「よくぞ来た。我が支持者のみなよ。

 前王朝の愚策によって疲弊した我が国は不法な移民によって職を奪われ、ペットを殺され、あまつさえそのペットを食糧とされ、屈辱のかぎりを甘んじて受けることとなった。だが、私が王朝を奪取し、ここまで我が国は隆盛を極めるに至った。

 本日は我がランプ帝国が新開発した最強召喚システムにより二体の魔獣を召喚し、こやつらを戦わせる。

 最強の我が国が作った最強の魔道具である。

 さぞや強い魔獣が召喚され、それは見応えのある戦いが繰り広げられるだろう。

 それではどうなるか見てみよう。

 ランプ帝国ファースト!」


「「「ドーナルノ! ドーナルノ! ドーナルノ! 」」」

 帝王の演説に盛り上がる民衆達。

 そして、闘技場の西と東に設置された魔方陣があやしく輝きはじめる。


 解説者の場内アナウンスが流れる。

「それでは、私から解説させていただきます。

 本システムは我が帝国はもちろん、帝国外の国々までサーチして強い魔獣を東の魔法陣に召喚します。

 そしてその魔獣の強さを解析した後、同等の強さを持つ魔獣をサーチし西の魔法陣へと召喚するのです。

 結界に閉じ込められた魔獣は結界が消えると同時に争いはじめることでしょう。

 皆さんは結界が解除されるまでにお好きな魔獣へとじゃんじゃん賭けてください」


『うおーー』と盛り上がる会場の民衆達。


「それでは早速東の魔方陣を起動させましょう」


 司会の言葉とともに赤く輝きはじめる魔方陣……


 このとき、民衆はもちろんのことだが、魔道具を設計した帝国の技術者すら予想していなかった事態が発生した。落雷である。晴れ渡った空から一筋の稲妻が走り、魔道具を直撃した。まさに晴天の霹靂である。

 そしてこの落雷により、帝国最新鋭の魔道具は想定外の性能を発揮した。帝国や周辺の他国どころか、次元の壁すら突き抜けて、異世界から強い魔獣を召喚してしまったのである。


 そこに現れたのは、黒い巨大な体躯に真っ赤な模様が浮き出る暗黒溶岩竜であった。もちろんこの世界の人々が知らない魔獣である。しかし司会者は焦らない。この魔獣が自分の記憶にない種でも、まさか異世界から召喚された制御不能の最強種であるとは思ってもみなかったのだ。

「これは強そうな魔獣が現れました。私も見たことはありませんが心配無用。解析の魔道具でこの魔獣の強さを図り、皆様に公開いたします。

 それではどうぞ」


 司会者がそう言うと魔獣の横に巨大なホログラム画面が現れ、魔獣のステータスが表示された。


種族 暗黒溶岩竜

名前 ポチ

状態 従属状態(ローズマリーの下僕)

属性 火炎・土石

魔力 強

力  強


「おおっと、これは凄い。名前は少し間抜けだが、魔力や力は3段階の測定値の一番上だ。

 これに対抗できる魔獣は果たして現れるのか。

 それでは西の魔方陣起動!」


 このとき人々は、ポチの魔力や力が測定の魔道具の計測上限を遙かに振り切っての“強”表示だと言うことを理解していなかった。

 そして魔道具は、測定上限を振り切る魔獣をもう一体探し当てて西の魔方陣へと召喚をはじめる。


 そこに現れたのは小さな青いトカゲであった。

「ピュイ」

 可愛くなくトカゲに民衆はみな司会者とともに呆然となる。

 いち早く立ち直ったのは司会者であった。さすがである。

「おおっと、これはかわいらしい青トカゲだ。魔道具の故障か、はたまた何かの手違いか。

 とりあえず強さを測定してみよう」


 そう言うと召喚されたトカゲの横にスクリーンが現れステータスが表示された。


種族 青龍(神獣)

名前 ピーちゃん

状態 契約状態ジーナのペット

属性 氷水・風雷

魔力 強

力  強


「おおっとこれは驚きだ!なりは小さいが魔力も力も最高表示だ。

 属性も先ほどの暗黒溶岩竜と対照的!

 さあ皆さん、張った張った。勝ち残ると思った方に思いっきり賭けてください」


『うおーーー』盛り上がる民衆。

 闘技場の側面に設置された電光掲示板には、現在のオッズが表示される。


 暗黒溶岩竜 1.5倍

 青龍    2.2倍


 どうやら体躯の大きいポチの方が人気のようだ。


「さあ、オッズも出そろった!

 それでは早速勝負をはじめよう。

 レーディー、ゴー」


 司会者のかけ声と同時に二体の魔獣の周りに張られていた、結界が解かれた。


 民衆も司会者も、そして視察に来ていた皇帝も、すぐに凄まじい戦いが始まると期待する。



 一方、当の魔獣達はというと混乱していた。


 ポチはローズマリーから晩ご飯に山盛りのお肉をもらって美味しく平らげ、後は寝るだけという状態で、すっかり定位置となった公爵邸の中庭に寝転がっているところを召喚された。

 召喚先には周囲に薄い膜が張っているが吹けば飛びそうだ。

 むやみやたらとものを壊すとローズマリーから叱られるので、よく分からないがじっとしていた。


 一方ピーちゃんは、久々に里帰りしたジーナさんと一緒に西の魔獣の森をお散歩中に召喚された。せっかくのご主人との楽しい散歩で弱い魔獣を蹂躙して遊んでいたのに、突然訳の分からないところに連れてこられ、ちょっとむっとしたが、とりあえず見知らぬところで暴れるとご主人のジーナさんに迷惑がかかるかも知れないと自重していた。

 そんなときに自分を覆っていた貧弱な結界が解除されたのだ。

 目の前には大きな黒い竜種がキョトンとしている。

「ピュイ?」

 とりあえず龍語で話しかけてみた。『この状況は何』という意味だ。

「ギャース」

 ポチも竜語で答えた。『さあ、さっぱり分からない』という意味だ。

 どうやら二体は意思疎通できるようだ。


 一方聴取は、ポチの咆哮に熱狂した。ポチの返答を戦いの咆哮だと勘違いしたのだ。

 ところが二体は『ピュイピュイ』『ぎゃすぎゃす』言うだけで、一向に戦いはじめない。


 しびれを切らしたのはドーナルノ皇帝だった。

「いつまでにらみ合っておるのだ。戦わないなら戦いたくなるようにしてやる。

 者ども、魔道具バンカーバスターを二体に打ち込め」


 バンカーバスターとは帝国が世界に誇る質量兵器の爆発系魔道具だ。

 地下50メートルに潜伏する魔獣であろうとも木っ端微塵にする威力がある。


「陛下、さすがにバンカーバスターではせっかく召喚した魔獣が死んでしまうのではないでしょうか」

 側近が忠言するが、頭に血が上った皇帝には通用しない。

「うるさい。戦わないなら死んでもかまわんではないか。バンカーバスター発射だ」


 ドナルノ皇帝の一声で、闘技場に設置された魔道具発射口から二発のバンカーバスターが発射され、ポチとピーちゃんに襲いかかった。


「ピュイ」「ギャウ」

 一方、ピーちゃんとポチは、攻撃されたなら反撃してもいいよねとお互いに確認し、飛んでくるミサイルと氷雪のブレスと灼熱のブレスで迎撃した。

 ピーちゃんに迫っていた魔道具は凍りついて落下し、ポチに迫っていた魔道具は溶融して跡形もなくなった。


「なにー、我が帝国が誇る魔道具がこうもあっさり無力化されるだと!!!

 あってはならん、あってはならんのだ」

 想定外の事態に発狂する皇帝。


「ものども、あの二体を討伐せよ。

 我が国の誇りにかけても必ず殲滅するのだ」

 皇帝の一声で、最強の帝国軍が動き始めた。


 闘技場の入り口から、魔道具で武装した帝国兵達がなだれ込んでくる。


「ギャスギャス」「ピュイピュイ」二体はこの事態にどうするか相談しているようだ。

『これってやっちゃてもいいのかな』『どうだろう。ご主人に聞いてみないとわかんないよ』と言っているようだ。

 困惑する二体へと兵士達が襲いかかる。ピーちゃんは身体を元の大きさに戻した。ポチと同じくらいのサイズになる。

 二体の巨大さに物理攻撃をあきらめた帝国兵は遠方から魔法を打ち込んだが、そんなヤワな魔法は二体のうろこの前にはほとんどダメージとならない。

 とはいえうっとうしいことに変わりない。


 二体はとうとう我慢の限界を迎え、兵士達にブレスを吐いた。かなり手加減した熱波のブレスをポチが、電撃のブレスをピーちゃんがお見舞いする。

 ポチのブレスに当たった兵士達はもれなくこんがりとやけどし、ピーちゃんのブレスに当たった兵士達は電気ショックでしびれて失神した。

 二体ともきちんと手加減して、即死しないようにしているところはさすがである。


「バカな。1300人に精鋭が全滅、全滅だと。

 三分も持たずにか」

 驚き焦る皇帝を前に、民衆達もざわめきはじめる。

「おい、ヤバいんじゃないかこれ」

「ああ、なんだかおかしな方向になってきたな」


「皆さん、落ち着いてください。

 闘技場と観客席の間には強力な結界が張っています。

 どんなに魔獣が暴れても大丈夫です」司会者が慌てて解説する。

「そうかそれなら大丈夫だな」

「ああ、落ち着いてどうなるか見てみよう」

 いや、落ち着いている場合ではなかったのだ。二体の強さを理解していない皇帝の無責任な発言に踊らされているだけなのだ。


 観客が落ち着きを取り戻しはじめたそのとき、どうやらあの偉そうな奴が元凶じゃないかと感じたポチが、貴賓席に向かって思いっきり爪を振り抜いた。

 パリンとガラスが割れるような音がして、帝国ご自慢の結界は見事に粉砕された。


「バカな、こんなバカなことはあってはならぬ」皇帝の叫びに民衆は再びパニックとなり、出口へと殺到した。あちこちで折り重なるように転倒する者が出て怪我人や死者すら発生する大惨事となった。

 ちなみにポチもピーちゃんも直接手を下してはいない。ただただ、パニックになった皇帝指示派の民衆が自滅しただけだ。


 物の数分で闘技場には動けなくなっている兵士や怪我人を除いて誰もいなくなった。


「ピュイ」

「ギャス」

 一方ピーちゃんとポチは『これどうなるの』『おいら達帰れるのかな』と困惑している。

 二体の最強種が困り果てていると、再び召喚の魔方陣が二つとも輝きはじめた。


「全くもう、ようやく魔方陣の解析が終わったわ、帰るわよピーちゃん」

 西の魔方陣から現れたのはピーちゃんの飼い主であるジーナ・マコゴレイ侯爵夫人だ。 せっかくの帰省で、楽しくペットを連れて魔獣と戯れていたところで、突然ピーちゃんを攫われ、慌てて魔方陣を解析して追ってきたのだ。


「やっと接続に成功したわ。私の下僕に手を出すとは覚悟はいいかしら」

 東の魔方陣から現れたのは愛・夜櫓死苦のつなぎに身を包むローズマリー公爵令嬢だ。 窓から中庭のポチを眺めていたところ、突然ポチが魔方陣に飲み込まれ、必死に誘拐先を探り当ててやってきたのだ。


「ぴゅい」「ギャーン」

 ご主人様達の登場に喜ぶ二体の巨竜たち。


 新たに現れた二人の視線がからみ合う。

「む、あなた強いわね」

 相手のつなぎに漢字を確認したジーナさんは思わず日本語で話しかける。

「!!

 そういうあなたも凄い圧を感じるわ」

 久しぶりに日本語で話しかけられたローズマリー公爵令嬢も日本語で返答する。


「私はジーナ・マコゴレイ。侯爵家の夫人をしているわ」

「私はローズマリー・ゴールドシュタイン。こんななりだけど公爵家の娘よ」

「どうやらお互いに目的は同じようね」

「ああ、とりあえず責任者には落とし前をつけてもらおう」


 一瞬で互いの力量を把握し、軽く自己紹介した二人は、さっさとなすべき事をなし、お互いのペットを連れてそれぞれの世界へと帰って行った。


 後には、頭蓋骨陥没で白目をむいた男が袈裟切りに真っ二つされて骸をさらす闘技場が残った。


 尚、ローズマリーの金属パイプとジーナの一閃は全くの同時であり、どちらが致命傷になったかは、帝国の解析技術をしても判別不能だったという。

 かくして、帝国の非道なる闘技場は閉鎖されることとなり、人々は関税地獄による不景気と物価高騰から解放されることとなった。





 この物語は全くのフィクションであり、実在に人物や国家とは全く関係ありませんのであしからずご了承ください。


【番外編・完】


補足

 時系列的には,ジーナさんはジグムントと結婚後のかなり未来、ローズマリーは本編終了の少し後くらいの設定です。

本番外編の後日譚をどちらかの作品で投下するつもりですが、またまたかなり時間がかかると思います。

気長に待って頂けると嬉しく思います。

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