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Ephemeral note~夢を見る世界  作者: 瑞月風花
夏休み編

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18/50

長い休みも短い休みも、全部あなたのもの【空木春陽について】……4

 オレンジジュースを飲みながら、いろ葉を思う。

 どうしていろ葉が選ばれてしまったのだろうか、と。

 そして、考える。

 ラルーも同じような感情を抱いたのかしら?と。


 ワカバがトーラを持った時、ラルーはワカバを嫌った。きっと同じような感情を抱いたのだ。トーラとしてはどうしたって認められないひ弱なワカバを見て、ラルーは思った。


 どうして、この子がトーラを持ったの?


 今でもワカバはよく分かっていない。だけど、ワカバはあの時トーラを持たなければ生まれてくることすら出来ない弱い存在だったのは確かだ。あの時、母が望まなければ、ワカバは『ワカバ』以前に存在だってしていない。だから、トーラを持たない生き方なんて存在しないのだろう。


 いや、選べたとしても、どんな『時』に生きるワカバでもトーラであり続けることを選ぶはずだ。


 あの時、ワカバ自身が選ばなかったのだから。

 だけど、いろ葉はトーラがない方が生きていきやすいし、トーラを持っていないからといって居場所がなくなるわけでもない。むしろ、いろ葉はトーラでありながら、トーラとしての力は皆無。ただの人間の寿命を全うすれば、トーラはまた別の誰かの役目になる。それがこの世界の(ことわり)のようだ。ワカバや今まで出会ってきた他のトーラのように特定の誰かに力を譲る時でもなければ、どこかの世界のトーラに負けた時でもない。


 もちろん、ラルーのような時の看視者がいないこの世界で、銀の剣の勇者が現れることもない。


 いろ葉が受けるトーラの恩恵とは、……なんにもないのかもしれない。

 どうして、いろ葉なのか。その理由も本当はなんにもないのかもしれない。ただ、いろ葉だっただけで。

トーラとして人間の願いに寄り添い、叶えるための力を溜める者として今存在するだけで。


 ストローで吸い上げたジュースがジュジュジュと音を立てた。

 テレビという薄っぺらい画面から本日の天気を小さな女の人が伝えていた。

「午後からは傘を忘れずにお出かけした方がいいですね」

急速な低気圧の発達により夕方からお天気が崩れるらしい。こちらの人間の発達させた技術は魔法に準ずるものでもある。だが、魔法ではない。


 誰もがそれを使うことが出来る。だから『トーラ』も小さくなってそれぞれがもっているのかもしれない。だから、弱い。過去なんて変える力あるはずがない。余程全人類が同じ願いを持たなければ……。それをいろ葉が了承しなければ……。


 では、空木春陽、彼はいったいどういう(ことわり)のもと存在しているのだろう。少なくとも、一人であれだけの妖魔を集めて抱えられるのだから、普通の人間ではないのかもしれない。それに、彼はスズキとは違い、その妖魔の中に彼の意志を含ませているのだ。


 大きく息を吸い込んで、吐き出す。例えば、ワカバにとってのキラと同じと考えても良いのだろうか。


 立ち上がったワカバは、飲み終わったオレンジジュースのパックを燃えるゴミのゴミ箱の中にいれて、玄関へ向かった。鍵は閉めて出なければならないらしいということは、いろ葉から重々教え込まれた。それなのに、鍵はくれない。

 ただ、鍵を閉めていても勝手に入ってくる人間がこの世界にはいるということもワカバはちゃんと学習している。だいたい、鍵というものは、閉じ込めておくために掛けるものだと思っているワカバにとって、空っぽの家に何を閉じ込めているのか分からない。しかし、鍵を閉めないといろ葉が怒る。


 だから、玄関の外側から扉の鍵穴に手を置いたワカバは、カチッという音をたてた後、結界も張っておく。いろ葉家族が帰ってくるまでは、それ以外のすべての侵入を防ぐために、だ。


 (そら)を見上げて(くう)を嗅ぐと、あの臭いが深くなっていた。青い空には似合わない不穏がある。


 限界値かしら。


 ワカバはそう思って徐ろに歩き始めた。図書館へ行って、……今日は夕飯準備を手伝うことは出来ないだろう。ワカバは自身の予定を組み始める。

 空木春陽の妖魔が何故か急に膨らんだようなのだ。ワカバはそれを何故かとは考えなかった。人間とは、ほんの些細なことで気持ちを腐らせてしまう生き物だ。腐らせないように過去を変えていったとしても、願いを叶えたとしてもそれが彼らの幸せにつながるとも限らない。

 しかし、人間は未来を変えていく生き物。魔女(トーラ)には出来ない力があるのも確かだ。


「どうしようかなぁ……」


のんびり歩きながらワカバは考えた。どうするかは決まっていた。だけど、考えていた。どのようにすべきか。ワカバはそれを考えていた。

 本日、空木春陽は図書館へやってこない。呑まれるか、呑まれないか。それはワカバの与り知らぬ所。いろ葉に危害が加わらないのならば、本当は別に彼がどうなったって構わない。

 ただ、……。

 ワカバは遠く空を眺める。もこもことした厚みのある雲が町に覆い被さるまでにはそれなりの時間がかかる。


 人間とは弱いもの。僅かな時しか重ねない彼らが弱いのは仕方がないのだ。ワカバも同じように弱くてどうしようもない時期があったのだから。


 しかし、とりあえず空木春陽はいろ葉にとって身近な危険であることは確かである。そして、それだけの妖魔を持つ者ならば、ワカバが知りたい者に出会えるかもしれない。



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