長い休みも短い休みも、全部あなたのもの……3
世界は不思議で満ちあふれている。いくら長く生きていても不思議は有り余るほど存在した。その一つに空があった。空は両の手をいくら伸ばしても届くことのない空間を持っている。
その一つが、海だった。底はあるのに、底を感じられないくらい深く、神秘とも思える『生き物』を生み出していく。
もしかしたら、その二つは異なりながらも同じなのかもしれない。もしかしたら、空に向かって昇っていけば、いつか海の底から現れるのかもしれない。そして、光を求めるあぶくのように、再び空へと向かうのだ。
再び夢を見るために。大切な時を紡ぐために。大空に弾ける。
ワカバが涙に濡れる頬に気づいたのは、まだ夜明け前のことだ。家の中はしんと静まったまま物音一つない。
しかし、ワカバはまだ夢の中にいた。ここは、ときわの森にあるラルーとワカバの住んでいた場所。木のベッドに藁の匂い。窓の外にはうるさいくらい主張するあのネオンはなく、代わりに星空が静かに囁いていた。
何を話しているの?
ワカバはそっと曇りがかった窓へとその手を伸ばす。
しかし、窓は凍り付いていて、窓に触れたワカバはその冷たさに思わず手を引っ込めていた。
時は動くことを拒否している。それなのに、冷たく光る星だけがそのおしゃべりをやめない。
何を話しているの? この世界の未来? それとも、……。
ねぇ、教えて。わたし、間違ってる?
……ラルー……。
目が醒めたワカバの目に映ったいろ葉は、その茶色い虹彩にワカバを映していた。
「起きてこないから心配した」
ただ落とされた言葉にいろ葉の感情は乗っていない。しかし、いろ葉の心配がワカバには聞こえる。
よかった。病気かと思った。ワカバが起きてこないなんて……。だけど、やっぱり元気ないのかな?
そんないろ葉の声がワカバに注がれ、ワカバの心が温まる。小さな子に微笑みかけるようにして、目を細めたワカバはそのまま心を閉じて、抱いていた不安をその心の奥に押し込んだ。
「おはよう、いろ葉」
「う、うん」
いろ葉が言葉に詰まったことをワカバは気にしないようにして、起き上がった。
「学校?」
寝過ごしてしまったワカバは表情を硬くしたままのいろ葉に尋ねた。
「うん」
今日は試験があると言っていた。絶対に合格してくるからとも。
「行ってらっしゃい」
「うん」
頑張ってとは言わなかった。いろ葉は頑張っていた。帰ってきたら「おかえり」を言おう。ワカバはそんなことを考えていろ葉の背中を見送った。
そして、自分の頬がまだ濡れていることに気がついて、手の甲でそれを慌てて拭った。




