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銀河戦國史 (トーマ星系の反乱と勇者タオ)  作者: 歳越 宇宙 (ときごえ そら)
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タオの終戦

 タオ達の戦闘機は、ラムジェット推進で、自力で止まり、引き換えして来た。最新鋭機ならではの技術だ。推進剤は積んでなかったが、推進力は保持していたのだ。

 高速で飛びながらかき集めた星間物質を、電磁力で加速して、進行方向に噴射したのだ。

 十分な星間物質が無い宙域では使えない方法だが、幸いタオ達の向かった先には、条件の良い宙域があったのだ。

 それでも、ビームによる加速を打ち消し、尚且つもと来た道を引き返すに足るだけの星間物質を集めるのに、2日もかかった。帰って来たのは5日後だった。

「出撃前に腹ごしらえしてよかった、飢え死にするかと思ったぞ。」

マーヤの船に帰還して、開口一番、リークは言った。5日間を、わずかな水だけで過ごす羽目になったのだ。

 タオ達が戻ってくるまでの間に、コーギの手下だったトーマ人と反乱軍だったトーマ人達は、タオを彼らの盟主に祭り上げていた。

 カンザウの攻撃を阻止し、彼らの命を救ったという事が一番の理由だった。迫りくる凶器の光弾を切り裂いた、タオの放った閃光は、全員の脳裏に焼き付いているのだ。

だがそれだけでは無かった。シーザーの死の間際の通信が漏れ聞かれていた事も、大きな理由となっていた。

 元々反乱軍の首脳の1人であったシーザーだったが、カンザウの裏切りをいち早く反乱軍に伝達していた事や、彼らを守って戦死した事で、皆殺しになりかけたトーマ人達の間では英雄扱いになっており、その英雄が「後は頼んだ」と言ったのだから、タオを盟主と仰ぐのは当然と言う理屈なのだった。

 更には、カンザウに裏切られた今、ヤマ開発のかすかな希望として、コーギの生き残りであるマーヤたちの存在がクローズアップされたが、そのマーヤもトーマ人の代表として、彼女にとっても命の恩人であるタオを指名したのだ。


 5日間を狭い戦闘機内で過ごした後、ようやくマーヤの船にたどり着き、食事や睡眠を貪った後、タオはマーヤに呼ばれ、ある場所に連れ出された。

 マーヤが案内して来た、彼女の船の中のある一室の扉が開いた時、数百人のトーマ人が、広大な部屋で、床に片膝をついて彼に礼を尽くしている様が目に飛び込んで来た。

「我らが盟主、タオ殿!どうか我らをお導き下さい!われらに指示をお与え下さい!何なりとその指示に従います!」

 恐らく反乱軍のトップで有ろうと思われる人物が、大勢のトーマ人達の先頭で、そう叫んだ。

「タオ殿!」

「我らの救世主!」

「我らの盟主!」

と、居並んだトーマ人達は口々に叫んだ。

 タオは、びっくり仰天の体だった。

「カンザウ一族に裏切られ、コーギ一派もほぼ皆殺しにされてしまった今、もはや我らには、この先どうしてよいのか、皆目見当もつきません。この上は、カンザウの裏切りにいち早く気づき、コーギ殲滅の愚かさを看破し、アメリア由来の最新技術を使いこなす、英明なるタオ殿の言に、如何なる事があっても従おうと、皆で決めたのです。」

「おいおい、俺にはここにいる全員が初対面だぞ。そんな俺が盟主になって良いのかよ。」

困惑を露わにタオは言ったが、

「しかしあなたは、始めて見たコーギの戦闘機を自在に操るなど、アメリアの技術をすぐに我がものにしてしまう力があると聞き及びました。今我らが生きていられるのも、その力のおかげである事も。コーギの生き残りのマーヤ殿も、あなたなら信頼できると仰せで、ヤマの開発にアメリアの技術や、ミナト家の支援を必要とする我らには、あなたを盟主と仰ぐしか道は無いと、思い知るに至ったのです。」

 確かに、コーギの生き残りであるマーヤの意見というものが重要であるとは、タオも認識していたので、そのマーヤが、タオが最も信頼出来ると言っている以上、まずはタオとマーヤが話し合って、今後のトーマ星系の有り方を考えるしか無いと、タオは思った。

「とにかくマーヤと話し合ってみるから、少し時間をくれ。」

と言うと、タオは背後に控えているマーヤを振り返った。

 マーヤは穏やかな笑顔で頷き、

「会談の席は既に用意して御座います。どうぞこちらへ、ずずっとお越し下さい。」

と、言った。

 「会談の席」には、マクシムやリークなど、ウミからともに来た面々が、既に付いていた。リークとカスミが、マルクとニーナが、親し気に話し込んでいるのが、タオには微笑ましく思えた。

「カーガ星系に奴隷として売られたのではなくて、良かったな。」

とタオは、リークとマルクに向かって言った。

「しかし、近い内にカーガ星系に赴く手筈にはなっていたそうだ。」

リークはタオに答えて言い、それにニーナが付け加えた。

「でも、カーガ星系には奴隷として向かうんじゃなくて、女中として働かせてもらう事を、自ら志願したんだから。」

そんなニーナの発言にマルクは、

「え?女中?自分から臨んで?どうして?何でカーガ星系なんかに?」

 自分からカーガ星系に行こうとしたことが不満なマルクが、ニーナの身体を激しくゆすぶってその思いをアピールしたので、ニーナは目を回した。

「落ち着いて。ニーナをそんなに揺さぶらないで。」

 カスミはマルクを窘めるようにいった後、タオに向かって説明した。

「トーマ人を過酷な労働から解放するために、それが必要だと思ったのよ。ニーナも、私も。」

「どういうことだ?」

 思わず尋ねたタオに、カスミは答えた。

「ミナト家の人に頼んで、トーマ星系の状況を改善してもらおうと思ったのよ。」

「ミナト家の者に頼んで、状況が改善するのか?」

 マクシムが怪訝な顔で聞いた。

「今回の事であなた達も分かったと思うけど、ミナト家にもコーギの中にも、灰汁どい人もいれば善良な人もいて、今のトーマ人の状況は、コーギの中の灰汁どいと言うか、欲深くて薄情な人たちの仕業っていう部分もあるの。」

 カスミの説明に、ニーナも参加して来た。

「ヤマ開発のグループによっても、事情は違うけど、私やカスミさんやマーヤ様がいるグループは、長であるマハバって人が、とっても灰汁どい人で、トーマ人にどんなひどい仕打ちをしても自分達が利益を得られればそれで良いというタイプの人だったの。

マーヤ様も何度かマハバに、トーマ人の扱いを改善して欲しいって言ってくれてたんだけど、ちっとも聞いてくれなかったのよ。ねぇ、カスミさん。」

「そう、だから、ミナト家の善良な人にお願いして、マハバの悪行を正してもらおうと思ったって言うか、私にその機会を与える為に、マーヤ様は私をウミからここへ連れて来てくれたのよ。」

「私もそうよ。ヤマ開発の作業に従事してたら、マーヤ様が直に声を掛けて来て下さって、ミナト家の人にトーマ星系の窮状を訴えるべきだって教えてくれてたの。そして、おそばに住まわせて下さった上に、女中になる準備をさせて下さったのよ。」

「ミナト家に訴えに行くのに、女中になる必要があるのか?」

 リークが疑問を差し挟んだ。

「だって、誰が善良な人とか、誰に訴えるのが一番効果的かとか、ある程度ミナト家の人達を色々と観察してみないと、分からないじゃない。マーヤ様も、ミナト家の権力者達の実情を、何でも知っているわけでは無いし。」

「マーヤ様は、ミナト家の誰かに訴えに行ってはくれないのか?」

 今度はマルクが聞いた。ニーナたちにつられて、マーヤに様をつけてしまったが、マーヤの放つ圧倒的な気品が彼に、自然にそうさせたとも言える。

「マーヤ様はここを離れられないよ。マハバ達が余計なことをしないようにと、ずっと目を光らせていたんだから。」

「マハバの監視下では、わらわは思うように動けぬ故、カスミやニーナに女中としてミナト家に入りこんでもらい、しかるべき人を見つけ、トーマの窮状を訴えてもらおうと思ったのであります。お二方ともお若く器量が良うございますから、そんな2人がミナト家の権力者の下に女中としてはべれば、その権力者にコーギの悪行を正す行動を起こしてもらえる可能性もあると、考えたのでございます。おふた方を連れ出した事で、リーク様やマルク様には大変ご心配をおかけし、寂しい思いをさせてしまいました事は、幾重にもお詫びいたします。」

 マーヤの謝意に、

「そんな事・・、俺たちが寂しい思いをするくらいの事・・、それでトーマ星系の状況が改善するなら安いものだ。そうか、トーマの為にカスミを連れて行ったのだったら、むしろ俺からあなたに礼を言わねばならない。」

とリークは、神妙な面持ちで答えた。

「そんなにもトーマの事を考えてくれていたのか。コーギの中にこんなに優し人がいると知っていたら、カンザウの話になぞ乗る事は無かったのに。コーギの事を良く知りもせずに、安易に皆殺しなどを考えて、ほんとに俺は馬鹿だった。」

 マルクはまた泣いていた。

「もうその事は良いではありませんか。コーギの中に、あなた方にひどい仕打ちをしたものがいた事も事実です。此度の事はその報いなのですから。」

「ああ・・、なんて優しいんだ・・、ああ、いい人だ・・本当に。」

 泣きじゃくるマルクに、恋人のニーナも少しうんざりし始めているようだった。

「そうか、トーマを救う為に、カスミさんやニーナちゃんをねぇ。トーマ星系内を行き来するのは、許されていたのかい?」

と、マクシムはマーヤに尋ねた。

「はい、ごくたまにですけど、トーマ内の視察を許される事はございました。そしてその機会を利用して、女中としてカーガ星系に送り込むおなごを物色しておりました。」

「で、カスミさんとニーナちゃんがお眼鏡にかなったわけか、2人とも美人だものなぁー。」

 カリンがニヤつきながら、2人の顔を交互に見て言った。

「もう、やだー」

と、ニーナ。

「うふふ、ありがと。」

と、カスミ。

「ところで、ミナト家の誰かにトーマの実情を訴えるっていうの、今からでもできないのかな。」

「私もその事を、タオ様と話しとう存じておりました。」

 タオの問いにマーヤが答えた。

「まず、生け捕りにした刺客をミナト家に連行し、彼らに真相を話させる事で、カンザウの族長の罪科を白日の下に曝します。さすればカンザウの族長は粛清され、別の者が族長を継ぎましょう。その者に、カンザウの企みの為にトーマ星系の人々が失ったものを補てんしてもらうよう交渉してみるのが、得策かと存じます。幸いと言っては何ですが、コーギが全滅した今、わらわには何の監視もございませぬ故、自由に動けます。」

「おお、それは、あなたがミナト家の人達に口をきいてくれるということか。」

「はい、私が刺客どもを連行して行き、コーギ殲滅の罪を告発した上で、カンザウがどれだけの迷惑をトーマに掛けたかを訴えましょう。カンザウの新たな族長が心ある者であれば、カンザウがコーギの後を継ぎ、ヤマ開発の指導を続ける方向で考えてくれるものと存じます。」

「しかしカンザウ一族がコーギ一派の後を継ぐというのでは、ノート一族が黙ってないんじゃないかな。ノート一族がコーギをトーマ星系に派遣していて、コーギからの上納品で、彼等は利益を得ていたんだろう?身内であるコーギを皆殺しにされた上に、収入源を奪われたんじゃ、面白く無いだろう。」

と言ったのは、ガミラだった。

「そうでしょう。しかし、コーギがトーマ星系の人々にした非道が明らかになれば、彼らの出身母体であるノート一族も、あまり大きなことは言えぬでしょう。」

「マーヤ様もノートの一員なんでしょ?ノートの身内であるコーギの名誉を損ねるような証言をしたら、マーヤ様の立場が悪くなったりしないのですか?」

と、心配げに尋ねたニーナだったが、マーヤはそんなニーナの頭を優しくなで、

「わらわの事は、心配には及びませぬ。ノート一族の中には、わらわに親身に協力して下さる方が、たくさんおります故。」

と言ってニーナをなだめた後、考えを巡らせるような顔つきで、話を続けた。

「カンザウやノートの力関係が今後どうなるかや、どの一族がどういった行動に出るかなど、細かい事は予測できませぬが、ミナト家のどれかの分家が、トーマ星系でのヤマ開発を継承する方向には持っていけるものと存じます。トーマでのヤマ開発から得られる利益は、どの分家も欲しがるでしょうから。」

「とにかく、マーヤさんに刺客どもを連れて帰ってもらって、後は、俺たちは、マーヤさんからの連絡を待つしかないな。ミナト家でどう話が転んだかを聞いた上で、その先の事を考えよう。」

と、タオが言った。

「ミナト家の心ある人達というのに期待するしかないのだな、俺たちは。しかし、こんなに優しいマーヤさんがコーギにいたのだから、十分に期待していいと思えるぞ、俺には。」

マクシムがそう言うと、

「そうよ、ミナト家の人も、ほとんどの人はいい人だと思うよ。コーギにしたって、いい人の方が多かったもの。ねぇカスミさん。」

と、ニーナが言い、カスミが答えた。

「そうねぇ、マハバにしても、利益確保には執念深くて、トーマ人にはつらく当たってけど、身内に対してはいい人だったしね。私達も身内扱いだったから、基本的には優しくしてもらえてたわね。

トーマ人の扱いを改善して欲しいって願いは、聞いてくれなかったけど。身内に豊かな暮らしをさせる事に、心血を注いでるって感じだったな。トーマ人の立場からは悪鬼にも思えるけど、彼が根っからの悪人だったとは、私には思えないわね。」

「そ・・そ・・、そんな人達を、俺たちは皆殺しにしてしまって・・。」

「もう、分かったってば!」

 ニーナは、いよいよマルクに呆れ始めていた。


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