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*ヘタレの要因*

 洋風建築で作られた豪邸。それは、皇族の色家代表である、白河家。


「・・・・あけみ



 庭が見下ろせる白河家のバルコニー。そこには、二つの人影があった。一人は、御存じの通り、白河家次期当主、白河虎。もう一人、『朱』でお分かりのように、赤勾あかかぎ朱。今日は、白河克己が赤勾雷紅を呼んだため、赤勾一家で白河家にお邪魔しているのである。二人は、婚約者と言う事で、いつの間にか二人っきりになるように、周囲が配慮したのだ。少なくとも、朱と虎の甘い雰囲気に耐えられなかったとか、虎の雰囲気が怖かったわけではない。ではないはず・・・・だ。

 二人っきりになり、月を眺めてから長い時間がたってから、やっと虎が口を開いた。


「はい。何でしょう?」


 朱が満面の笑みで返す。虎は、真っ赤になって慌てだす。


「・・・いやぁ、あのな。えっとな・・」


 覚悟を決めたのか、深呼吸する。


「・・・・月が綺麗だな」


「死んでもいいわ」


「そうか」


 虎は、徐に朱を抱き寄せる。


「貴方は、私の作る料理が好きでしたね」

「味噌汁が美味しいと思うぞ」

「毎日作りますよ」

「・・・・ありがとう」


 そして・・・・


「愛してる」


 月に照らされた影が一つに重なった。





「うっわぁ・・・。白のドヘタレ!」


 白河家の大広間で叫ぶのは、話を聞いていた紫苑。聞いていたと言っても、集音器にたまたま(・・・・)入って来た声を聞いていたのだ。決して、盗聴ではない。虎は、そこに集音器がある事を知っているのだから。

 ・・・まぁ、緊張で忘れているかもしれないが。


「誰に似たんだろうねぇ?」

「ぐっ!」


 来に、遠まわしにヘタレと言われた克己は、紅茶に咽た。


「朱のウエディングドレスは、どんなのが似合うかしら♪どう思う?来ちゃん」

「舞美。その前に、あの二人を止めたら」


 来の視線の先には、赤勾家の男2人が居た。


「・・・・父さん。お義兄さんは、ヘタレなんですか?あれで、ヘタレって!?」

「『月が綺麗』でもいいと思うけどなぁ。私なんて、『永遠に貴女を、この世で一番貴女を愛します』って言ったような」

「何が、良いんでしょうか?」

「虎は、口ごもったの原因じゃないかな?」


 少なくとも、学者肌の雷紅と嵐斗は、女性たちの価値観についていけなかった。


「雷紅伯父様は、『私と一緒に、赤勾を支えてくれないか』じゃなかったけ?」

「紫苑さん、どうしてそれを知っているんですか!?」

「嵐君、細かいことは突っ込んじゃいけないんだよ!」


 紫苑が、雷紅のプロポーズを暴露する。そのダメージは、舞美の方に殆どいっているが。


「因みに、か「余計なことは、言うんじゃねえ!」了解です。・・・チッ、つまんね」


 克己には、先手を打たれた。


「まぁ、はくは、ロマンチックだね」


 紫苑が、チラッと見た外には、綺麗な満月が輝いていた。


「ブルームーンですか」

「流石、嵐君。しかも、二つのね」


 ひと月のうちに満月が2回ある場合に、その2つ目がブルームーンと言われる。そして、今日の月は青く見える。

 片方だけでも極稀なのに、両方揃う確率は、天文学的数字を叩き出すだろう。それは、虎の運が良かったと言う事だ。告白した通り『月が綺麗』である。流石は、父親の名前を使ってわざわざ遠まわしに婚約者を呼び出した、天才の白河家の次期当主である。因みにだが、今日はスーパームーンでもあった。


「そんな虎に、もうひと押ししてあげようか」


 そう言って、紫苑が取り出したのは、薔薇。青みのかかった紫色だ。


「もう一つのブルームーン」


 舞美が、茫然とした様子で呟く。

 それは、そうだろう。花束の数が違うのだから。


「ご存じの通り、ブルームーン。花言葉は、夢かなう・神の祝福」


 束の中から、一輪だけ取り出し、包む。


「薔薇には、本数の花言葉が合ってね。一本は、一目惚れ。二本は、世界に二人だけ。」


 そして、


「108本は、結婚してください」


 それは、あの二人を言い表すのにぴったりだった。


「お義兄さん達に、ぴったりですね」

「物凄く、重かったよ」

「でしょうね」


 家主に内緒で、運び込んでいたのだ。黒峰遼己に手伝ってもらって。


「後で、白に渡してくださいね!」

「勿論よ!Venusの社長の名前にかけて実行するわ!」

「と言っても、渡すの俺だけどな!」

「そりゃそうよ!」

「一応、お義父さんになるからね。私は」

「私は、雰囲気が壊れるから。ね、来伯母様!」

「そうよね!」


 克己は、重大な役を任され溜め息を付いていた。




 朱が、化粧直しで部屋から離れた時、克己は虎の所に行った。


「虎。これ渡せよ!」

「父さん、幾らぐらいあるんだ?」

「1と2と108だ」

「・・・?まさか・・・あの馬鹿っ!」

「良い人じゃないか。家族として」

「結婚相手としては嫌だけどな。鬼畜だし、甘やかしたいし」

「そうだよな!」


 良い人であっても、結婚相手では無い事は共通していることであった。


「朱!これ、どうぞ」

「えっ?ありがとうございます」

「それにしても、幾らぐらいあるんですか?」

「1と2と108」

「・・・!?あ、ありがとう」

「いや、こちらこそ」


 花言葉は、紫苑からの影響で知っていた朱だった。



 別れ際、虎は朱を呼び止める。


「朱、ちょっと待ってくれないか?」

「嫌です」

しゅ!空気は読もうか!」

「うっ!」

「「「「「くくっ!」」」」」


 何か分かったのか、即答で拒否した朱。拒否された虎は、真っ青な顔をして固まっている。紫苑は流石に、可哀想になったのかフォローを入れ、周りは、笑いを必死に堪えている。


「告白してくださいね」

「・・・あぁ!分かってるよ!」


 虎は、深呼吸して落ち着かせる。


「俺は、貴女に一目惚れしました。何度生まれ変わっても貴女を愛しています。だから・・・結婚してください」

「えぇ。貴方と世界に二人だけですから」


「甘いな」

「甘いね」

「この二人ので、ポスター作りたいわ!」

「後で、データを差し上げますね」

「父さん、この空気どうしよう?」

「放置」



 白河虎は、堂々としているが、大事な局面では失敗しやすい。だから、ヘタレと言われているのである。

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