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不届き者

 さて今日は勇者ガルドが買い取りセンターに来そうな日である。そういえば支援官になってから行った記憶がない。顔を出しておくか。城の一階にあったな。


「勇者の評価材料が貯まってます。一週間も何やってたんですか!?」


「いや連絡はしたよ。勇者52、53、54の勇者資格停止、買取継続と半額の徴収については。」


「それだけでは駄目です。勇者55の買取品の書類が貯まってます。この書類に目を通して現在レベルを決定してください。」


「大丈夫。レベルでの評価なんていらない、俺の弟子だし。」


 俺は一応買取リストを眺めている。ふ~ん見事にここ近辺の魔物の素材だけだ。当たり前か。城から半日で移動できる範囲しか行かせてないからね。しっかしまあよくこんなに集めたな。結構は多いぞ。それにしても効率の悪い書類だな。素材一つにつき一つチェックを入れるんだ。別途数数えてスライムの核何個って書いておけば見やすいのに。


「それでもレベルを決めて下さい!」


「じゃあレベル3。」


「適当に決めないで下さい。こんなに書類があるんです。そんな低いわけないでしょう。」


「ふん。書類なんかで何が分かる。それにできるだけレベル上げてから次に行かせる。俺がそう決めた。」


「一人の勇者に深入りしすぎではないですか。」


 確かに深入りしすぎかもしれない。だが若い芽を簡単に摘むことはしたくない。


「細けーことはいーんだよ!Lv3、これは決定事項、異論は認めない。」


「もうそれで結構です。」


「そうだ。今日は多分勇者51ことガルドが来るよ。」


「なるほど、それなりに把握されているのですね。」


「それなりってひどい言われ様だね。」


「文官の間では噂になってますよ。女子供と遊んでばっかりいる人だって。」


 まじか。そんなことはないはずだ。勇者3人を落第させただろ。次にアレフを弟子にして、マギーと魔法談義して・・・・・・・・なるほどアレフが子供でマギーが女か。否定できない。いやいやいや、これは魔王討伐を含む壮大な人類補完計画の一部だ。誰かにけちをつけられる覚えはない。大体女と遊んでいるって本人が聞いたら激怒するぞ。 そんなこんなやっていると2mはありそうな筋肉隆々な男が現れた。ガルドだ


「これを引き取ってくれ。」


 ドサッ!と布袋を床に置いた。


「いらっしゃいませ!当店は初めてご利用ですか?当店のシステムは説明した方がよろしいですか?」


 俺は一気にまくし立てる。隣の文官は呆れたような顔で俺を見ている。


「おっ、おう!そうしてくれ。」


 多分調子が狂うのだろう。ガルドはなんとなく返事をしてしまっている。


「はい!では説明致します。まず持ってきた素材によってEXPポイントとGポイントがつきます。  例えばスライムならEXPポイント1、Gポイント2です。詳細はこちらの紙で確認して下さい。一定以上EXPが貯まると勇者レベルが上がります。これについてもその紙にありますので確認して下さい。このレベルでどの程度の地域に行けるかの判断材料になります。必要に応じてご相談下さい。相談は無料です。担当は私ケルテンになります。次にGポイントですが、これはそのままゴールドを受け取れます。また必要分だけ受け取り、残りを貯金しておくことも可能です。以上理解できましたか?」


「べらべらとうるせえやつだな。別に俺はお前の助言なんぞいらねえ。ゴールドは全部よこせばそれでいい。」


 ガルドはこめかみに青筋を立てている。気の短いやつだな。


「では鑑定を行ないます。時間がかかりますのでお待ちいただけますか?または宿に届けることも可能ですが?」


「ここで待つ。」


「ではそちらのソファにお掛けになってお待ちくださいませ。」


 俺と文官で手分けしてテーブル上に並べる。蝙蝠の翼膜、蠍の毒尾、瘴気の篭った骨や杖。ひどいな、折れたり割れたり素材として半分は使えない。二人で小声で話す。


(なあ。ちょっとひどすぎない?)

(ええ。これなんかわざと折ってあるみたいですよ。数が増えると思ってるんですかね。)

(微妙だね。故意かどうか判断しづらいね。)

(これとこれは同じですね。ほら断面が一致する。こんなパズル嫌ですよ。)

(俺だって嫌だよ。何が悲しくて骨でパズルせにゃならんのよ。)


「いつまで時間かかってるんだよ!」


(ちょっと注意してくるわ。正確に続けて。)


 俺は申し訳なさそうに話す。


「申し訳ございません。数が多いのと状態が悪いので正確な数をだすのに時間がかかります。また買い取った素材は加工、売却することにより支払うゴールドを得ていますので、次からはなるべく完全な形での納品をお願いします。」


 怒ってる。怒ってる。手出してくるかな?予想通り俺の襟を掴みに来る。見切ってかわす。やつの体勢が少し崩れた。


「うるせえんだよ!てめえ!・・・・って、なめてんのか!」


「いえ、そんなことはありません。ああ、ちょうど計算が終わったところみたいですよ。」


 俺は文官の所まで歩き用紙を受け取る。もどりながら話す。


「今回は魔蝙蝠30匹、大蠍25匹、骸骨13匹、魔法使い32匹でEXP1966、2383Gとなります。おめでとうございます。レベルが1から9に上がりました。なお次のレベルになるのにあと34ポイント必要になります。」


 ガルドはゴールドの入った袋を引っつかむと無言で出ていった。


「いや~怖かったねぇ。短気な人でしたね。」


「なんで笑いながらそんなこと言えるのですか?どうかしてますよ。」


「失礼だな。正常ですよ。」


「もういいです。武官の方の神経はわかりません。最初からわざと挑発していたでしょう?」


「分かった?人柄を確認したくてね。ありゃ駄目かな。次来る時もなるべく立ち会うよ。もし俺がいない時来たら近衛に声かけて立ち会ってもらう様に。いいね。」


「頼まれなくてもそうします。ああいう人は嫌いです。」


「君の評価も参考にさせてもらいます。そういえば名前を聞いていませんでしたね。」


「メイヤーです。一応男爵号も持っています。あなたのことは存じてます。ある意味有名ですから。」


「あっそう。これからもよろしく。メイヤー男爵。ではまた来ます。」


「毎日一回は来てください。」


「はいはい。」


 俺は背中を向けて軽く手を振ってここを去った。


---------------------------

「なりません。殿下と言えどその命令には従えません。」


「黙れ!衛兵ふぜいが殿下に命令するな!」


 突然大きな声が聞こえた。城の2階への階段前で衛兵2名と貴族風の男7名が問答している。貴族側でしゃべっているのは後ろに立つ3人の内の一人だ。2人の衛兵が鉄の槍を交差させ、通行を阻害している。その前には貴族の護衛と思われる2名、3歩下がって高価な貴族服の男、さらに3歩下がって貴族が3名いる。どう見ても衛兵の方が正しそうだが、相手が悪い。


「騒がしいですね。どうしましたか?ここは城内ですよ。」


 俺は間に割り込み衛兵に声をかける。衛兵が少しほっとした顔をした。


「こちらのギルベルト殿下がここを通せと仰せです。」


 ギルベルト殿下、王弟オットマー国務大臣の嫡男で王位継承権を王女ローゼマリー、王弟オットマー、の次に持つ王家の一人

である。


「いいんじゃないの?特に断る理由があるわけでもあるまいし。」


「いえ、護衛の方の武器が・・・。」


 そう指さす。なるほど帯剣してる。俺は振り返って声をかけた。


「お連れの方の武器を預からさせて頂きます。それでお通しできますが?」


「無礼な!国王様の甥にして王位継承権第3位のギルベルト殿下に命令するな!」

「そうだそうだ。直答するも恐れ多いぞ!」


 後ろのガヤが五月蝿い。当の本人は見下したような目で俺を見ている。


「後ろの方々、少し黙って下さい。今あなた方とはお話していません。それで殿下、先も申した通り武器をお預かりしたいのですが?」


「この私の武器を取り上げると言うか。」


「護衛の方の武器はお預かりしなくてはなりません。」


「私の部下の武器は私の武器そのものだ。それでも預かると言うか。」


「ええ、なりません。殿下と言えど遵守して頂きます。」


「貴様、大臣殿の覚えがいいからと増長するな!」

「ふん。貴様など図書館ででも大人しくしているがいいわ。」

「おのれ、筆頭魔術師殿もこんな男のどこがよくて。くっ!」


 また外野が騒ぐ。なんか個人攻撃に変わったぞ。しかも筆頭魔術師って、ああマギーの言ってた馬鹿ってこいつらのことか?ギルベルト殿下が片手を挙げると外野が黙った。よく調教されている。


「ではどうしても通さぬというのだな。」


「ええ、どうしても通さぬと申しています。」


「ふん!この馬鹿者をやってしまえ!」


 そう言い放つとギルベルト殿下は3歩下がった。護衛の2人が剣を抜く。馬鹿か、ここで剣を抜くか!剣を構えた2人が威嚇するように剣を構えた。


「引いてもらえませんか?事を構えたくありません。」


「ならば貴様が手を引け。」


 これは時間稼ぎだ。この間に思考詠唱で身体強化を2回、さらに武器強化の魔法を使う。


「危ないですよ。そのままだと後ろの人に当たりますよ。」


 そう声をかけると思わず二人が後ろを確認する。今だ!抜く手も見せぬ居合い、狙いは鉄の剣。向かって左の男の剣の刃を斬り裂く。さらにかえす刀でもう一人の鉄の剣も斬り落とす。鍔鳴りの音が響かせた時、とぼけた声で話しかける。


「面白い剣ですね。刃がありませんよ?」


「なっ!貴様・・・」


 真っ赤になったギルベルト殿下が魔法の詠唱を始めた。


『私は魔力を5消費する・・・   


 消費魔力5の魔法、雷撃の魔法か。詠唱はそれほど早くはない。今からでも間に合うっ!


『魔力はマナと混じりて万能たる力となれ。

《俺は魔力を2消費する。魔力とマナは混じりて万能たる力となれ。


 おお万能なる力よ、雷となり、我が敵を、撃て』         

 おお万能たる力よ、不可視の力となり、魔力を封じよ。》


「Inc「signati magicae(魔力封印)」」


 何も起こらない。俺が上からかぶせた魔法が効果を発揮した様だ。ギルベルト殿下が何度も手を突き出してパワーワードを繰り返した。当然魔力を封じられているので何も出ない。


「衛兵!この者たちを拘束して下さい。」


「しかし・・・」


「私が全責任を負います。拘束して牢に入れて下さい。」


 騒ぎを聞きつけた近衛騎士達も階段を下りてくる。


「国王陛下、及びに国務大臣に対する弑逆未遂、ならびに城内騒乱罪が適用できます。近衛の方々も手伝って下さい。」


 次々に取り押さえられる6人。往生際が悪く暴れているが容赦なく取り押さえさせる。


「父上に会わせろ!」

「下郎が!私の体に触れるな。」


 騒がしい声が遠ざかっていく。衛兵が引きずる様に連れて行った。


------------------------------


 俺の前に不機嫌な国務大臣と近衛騎士隊長がいる。


「これはどういうことだ。説明せよ。」


「はっ!かの者達が帯剣したまま2階への通行許可を求めました。拒否したところ抜剣、さらに魔法の行使を行いましたので身柄を拘束しました。なにか不都合がありますか?」


「何が不都合だ。あれは私の息子だ。それでもか?」


「大臣、いけません。この者の言が正しい。我が国にはこの者を罰するいかなる法もありません。」


「しかし・・・」


 ここで俺が口を挟む。


「よく考えて下さい。さきの者は王位継承権第3位を自称しました。あの者が国王様と継承権第2位の大臣、あなたがいるここに武器を携えてくる、ということは反逆の恐れがあります。自称が本当なら王女が行方不明の今あなた方がいなくなれば、かの者が国王になれるのです。」


「なっ!私の息子であるギルベルトが私を殺しに来るわけがなかろう。」


「残念ながら私はあなたの息子の顔を存じ上げません。自称の称号や名前を信じて法を犯させるわけにはいけません。さらにそういった前例は枚挙に暇がありません。弑逆という言葉があるぐらいですから。それに今は平時ではありませんから、最悪を想定して行動すべきです。これも王女が誘拐された前例があります。」


 隣で近衛隊長が声にならない声を上げた。顔を知らないのは嘘だ。


「この件は国務大臣にお預けします。そのかわり絶対にうやむやにはしないで下さい?」


「ではどうせよというのだ。」


「そうですね。まずは不見識な行為に対する叱責、さらに一ヶ月の登城自粛といったところですか?またこの件は公にはするが公文書には載せない。これで大臣の面目も立つでしょう。」


 大臣が苦虫を噛み潰したような顔をしている。これでも妥協した方だぞ。汚名返上、名誉挽回のうまい手だと思うのだが。


「分かった。そなたの言うとおりにしよう。」


 がっくりとオットマー国務大臣が肩を落とした。俺と近衛隊長が退室する。かける言葉はない。


ー------------------------------


「しかしお前。何をした?見ていたはずの衛兵もはっきりせん?」


 歩きながら近衛隊長が質問する。そうか見えなかったか、狙い通りだ。


「ただ剣を斬り飛ばして、魔法を封じただけですよ。」


「軽く言ってくれる。お前以外の誰にもできぬだろう。まあいい。一部の増長した者共もしばらくは自重するだろう。」


「だといいですけどね。」


「しかしまあお前、損な役回りをする。本当は俺の役割だ、すまんな。」


 俺に頭を下げる。


「理解してくれる者がいるなら、それほどでもありませんよ。」

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