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魔法談義③

 自室に戻り革の服と刀を放り出し、ベッドに大の字になった。目を瞑る。疲れた。今日は不愉快なことだらけだった。正々堂々を旨とした騎士、増長した貴族、降って沸いたうまい話に浮かれる平民、無理もない話だ。数世紀に渡る平和だ。きっと魔王さえ倒せばまた平和が訪れると思ってるのだろうな。上から下まで平和は他人任せ・・・さて魔王が現れたことで自らの無能を晒してしまった王家、その面目をいつまで保てるか?だめだ。ネガティブになっている。夕飯ぐらい豪勢にするかな。


 コンコン。控えめなノックの音が部屋に響いた。


「いる?私よ。」


 ああマギーの声だ。ほっとする。


「ちょっといるんでしょ!返事ぐらいしなさい。入るわよ。」


 マギーが勝手に扉を開けて入って来た。前言撤回、ほっとはしない。


「じゃあ立って、出かけるわよ!」


 俺の手を取って強引に引っ張る。あわてて刀だけ掴んで引きずられていく。


「ちょっ、出かけるってどこに?もう8時だぜ。」


「いいからいいから。とりあえず屋外に出ればいいから。」


・・・屋外?兵舎から外にでる。何人かに見られていたような気がする。


「さ~て、よく見てなさいよ。」


 マギーの周りのマナが変化する。おい魔法を使うつもりか?魔力封印・・いや間に合わない。やばい。一瞬景色が失せ、気づくと湯気の見える村の外に立っていた。



「北の村ラオフか?「やったぁ~!できたできた。やっぱりラオフのことだった。」」


 マギーが両手を広げてくるくる回っている。俺はあっけにとられて見ているだけだった。


「何?俺を実験に付き合わせたのか?」


「そうよ。なにかあったら困るでしょ。そうだっ!」


 返事をほったらかして走るマギー。村の入り口の大きな岩。花が捧げられている。


「基準石ってこれね。・・・・・Lux(明かり)うん、確かに書いてあるわね。しかしまあ、温泉の村ってセンスないね。」


 そこまで言うと俺の方に振り返って胸を張った。


「どう?転移の魔法は解読したわよ。」


「はあ。そうみたいだね。」


 俺はため息をつく。


「なにそれ。もっと驚くとか喜ぶとかしなさいよ。」


「いや十分驚いたよ。大したもんだ。」


「もう、もっと褒めなさいよ。じゃあ行くわよ。」


「えっ、どこに?もしかして他の町にも行くつもりか?」


「なによそれ、ここは温泉の村。温泉以外にどこ行くっていうの?」


 再び俺の手を引っ張るマギー、いま多分俺はにやけているだろう。不愉快な一日の終わりは最高だった。


--------------------------------

 俺は隣のマギーを起こさない様にそっとベッドから出る。こんな時でも朝になれば同じ時間に起きてしまう。刀を手にとって外へ・・・


「ねえ!どこへ行くの?」


「ゴメン。起こした?いつものトレーニングさ。やらないと調子が悪くなるから。」


「そう・・・じゃあ。私は見てる。ちょっと待ってて。」


 北の町の北側、木がまばらに茂る場所で俺が刀を振る。切り株に座ってじっと見つめるマギー。気になってしょうがない。いかん、平常心だ。無心で刀を振る。もう視線は感じない。


「よし、これで終わりだ。ごめん、退屈させた?」


「いいえ、楽しませてもらったわ。やっぱりすごいのね。それで鉄の剣を斬ったって本当?」


「なんだ、君の耳にも入ってたんだ。本当だよ。」


 そうか。昨日の一件で俺が落ち込んでいると思って、ここへ連れてきたんだ。魔法の披露も踏まえて。


「これも伝説の名剣?一体何でできてるの?」


「違うよ。ここで作ってもらった。材質は鉄と鋼の二層構造だった。今はさらにミスリルを含む三層構造。」


 マギーが首を傾げる。気づいたかな。


「入手も加工もできないはずのミスリルが使われてるの?」


「まあ説明が長くなるからまた今度ね。まだ魔法の解読終わってないでしょ?」


「まあいいわ。魔法が一段落したらまた聞くことにする。」


 少し脹れている。


「じゃあチェックアウトして城に帰ろうか?」


「魔法は私が使うわ。湖の町経由で。」


「まだ実験する気?」

「駄目?」

「そんなことないけど。」

 

・・・・・・・俺達にとってはたわいのない話、傍から聞いたらとんでもない話をしながら宿屋に戻った。。


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 私の横でケルテンが安らかな顔で眠っている。

 さっき部屋で見た時ひどい顔をしていた。この人かなり無理してる。私はわがままを利用して慰める。今は道化でもいい。


 最初は他の者と同じように私の家が目当ての一人だと思っていた。でも違った。この人は本当に知識を求めて図書館に来ている。書物を見る真剣な姿勢がそれを語っていた。しかも武官のくせに私にも読めない書物が読める。これまた腹が立った。でも本当に私の知らないことまで知っていて、しかもそれを惜しげもなく教えてくれる。まるで子供を教え導くように・・・。


 いつからだろう?大事な人だと気づいたのは。多分あの開かずの間が開いた日。そうあの開かずの扉は私の閉ざされた心の扉。格式や身分しか重要視しない貴族の子弟、正々堂々にこだわる騎士、全て馬鹿にしていた私の心を真正面から開放した。


 強大な力を持っている。だけどそんなことなんでもないことの様に言ってのける。誰にでもできることだって。私は武器は持てない。じゃあ私はこの人の知識だけでも追いついてみせる。でも力の使い方は間違わない。それができるようになったら本当の意味で横に立てる気がする。今はその背中を追いかけるだけでいい。


 おやすみ、ケルテン。あなたに安らぎがありますように。

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 5/10 勇者支援生活 10日目


 毎朝の教練である。昨日はここには来れなかったのでちょっと気恥ずかしい。一昨日はここで説教したせいかいつもいる兵士や見習いが俺を見てこそこそ何か話している。人の噂をするなら聞こえない所でしてくれないかな。


 アレフがいつもと違っていきなり抜き打ち、縦切り、納剣の練習を始める。シュッ、シュパッ、シャキン!10回くらい繰り返す。いい音をしている。


「ああ、分かったわかった。できるようになったって言いたいんだな。」


「できてますか?じゃあ・・・」


 何か期待するような目で俺を見ている。


「次の準備するから少し待ちなさい。」


 俺は自室に戻り、支給品の鉄の鎧を持ち出した。


「これを着なさい。」


「頂けるのですか。」


「違う、これは貸すだけだ。欲しければ自分で買いなさい。いつものメニューをそれ着たままやるんだ。それが問題なくできるようになったら剣に関しては教えることはもうない。」


 アレフは目を輝かせながら鉄の剣を振り始めた。流石に流れる汗の量が半端じゃない。今日は自分のメニューが終わっても帰らない。最後まで見ていることにした。体を冷やさないように汗を拭きながら待つ。


「はあ・・はあ・・はあ。終わった。」


 アレフがしゃがみこんで休む。


「いずれその装備で外へ出るんだ。それでばててるようじゃまだまだだな。!」


「鎧を着るとまた違った感じで結構大変です。それより一つ疑問があったのですがよろしいですか?」


「いいよ。」


「一昨日の模擬戦ですけど、無詠唱で魔法を使いましたよね?」


「ああ、あれね。あれは無詠唱じゃない、思考詠唱だ。口述詠唱の魔法には大きな欠点がある。誰かが魔法を使用するために口述で詠唱したら、第一小節の時点でどの魔法が使われるか大体分かるぞ。」


「ええっ!本当ですか?」


 まあ驚くか。まだアレフは初歩の魔法しか使えないからパターンに気づいてないだろう。


「本当だよ。だから口述詠唱でなく思考詠唱を推奨する。だから魔法の名前だけで呪文が完成したように見える。」


「まだまだですね。」


「では飯食ったら、魔法の学習だ。雷撃が使用できるまでは午前中を魔法の練習に使うとしよう。」


「はい楽しみです。もう一つ質問いいですか?」


「何?」


「一昨日の夜は筆頭魔術師殿といっしょだったんですか?」

 

 思わず口にしていた水を噴き出した。周りでこそこそしていたやつらが手を止めてこちらを注目している。


「プッ、プライベートな質問には答えられない。」


 まずい、ごまかしきれていない。


「ウワーン!本当だったんだぁー!俺あこがれてたのにー!」

 

 誰かが泣きながら走りさっていった。その辺、ざわざわするな。


「お前なあ、その質問はないんじゃないか?」


「どうしても聞いてほしいと昨日言われまして、断れずに・・・すみません。」


「もう済んだことだ。もうやるなよ。ちなみに魔法の先生はその筆頭魔術師殿だ。」


「よろしいのですか?」


「なにが?別に魔法を教えることぐらい俺がとやかく言うことじゃないよ。」


「わざわざ筆頭魔術師殿に教えてもらえるってことですよ。」


「あっ!またやられた。お前策士になれるよ。」


「やった。初めてケルテン師匠から一本取りましたよ。」


 俺は頭を抱えた。


----------------------------------


 図書館である。初めて二人を会わせる。なんで俺がこんなに緊張しなきゃならんのだ。


「あ~マギー。こちらが勇者アレフ。しばらく魔法の先生をお願いしたい。

 そしてアレフ、お前は知ってるな。筆頭魔術師のマギーだ。」


「ケルテン師匠の弟子アレフです。筆頭魔術師どのに魔法の指導をして頂けるとは光栄です。」


「王立図書館司書官のマギーよ。・・・ちょっとケルテンこっちへ・・・」

(なに?聞いてないわよ。どういうこと、説明しなさいよ。)


 マギーが俺の手を引き隅に行く。しゃがみ込んで小声で話す。


(さっき決めた。俺が教えるより君が教えた方がいい。)

(どういう意味。あなたの方が教えるの上手でなくて?)

(そうでもないと思うけど・・・それより人に教えることで初めて気づくことがあったりするんだ。多分だけど今例の魔法書、行き詰っているでしょ?)

(何でわかるの?)

(わかるさ。マギー君の事ならね。まあ騙されたと思ってお願い。)

(しょうがないわね。いいわ。やってあげる。)

(とりあえず魔法の思考詠唱から、最終的に雷撃の魔法まで使えるようにしてくれ。例の詠唱文の意味も説明もしていい。魔法の授業は朝9時から昼12時までの3時間。じゃあ頼んだよ。)


 何も無かったようにマギーがアレフの前にもどる。


「はあ~い、私はマギー。筆頭魔術師なんて他人行儀な呼び方止めてね。」


「はい。ではマギー先生。よろしくお願いします。」


「なんか素直でいいわぁ。こんな生徒今までいなかったわ。でも私の指導は厳しいわよ。」


「望む所です。」


 例の黒板の前に立ったマギーが板書を始めた。10種の魔法を並べて書く。順番に魔法を指し詠唱文の共通点などを説明する。アレフがしきりと感心している。途中マギーがアッと叫ぶといきなり魔法書を10ページほどパラパラめくった。


「ごめんなさい。続けるわね。」


 続きが再開される。任せておいても大丈夫だろう。俺は確信した。


 どうやら気づいたようだ。あの魔法書にはからくりがある。最初の10ページは今の魔法が順番に書いてある。それだけわかれば・・・まあ頑張れよ。


 俺は背中を向け、右手を上げひらひらさせながら出て行った。

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