5.契約
第1部、ここまで。
主要キャラの紹介のつもりが、意外に長くなった?
や、雇う・・雇われちゃうんですか、僕。
「食う物もない、金も無し。どうせ寝るところも無いんでしょう。
だったらいっそのこと、ここで生活する。どう?悪くない話でしょ」
確かに彼女の言うとおりだ。僕にはこっちの世界に、何のあてもない。
それにここには他にもメリットがある。
あの、”門”がすぐそばにあることだ。
何者かがこっちに来るかどうか、見張っていることができる。
それに”門”から漏れてくる、あっちの世界の力。
少しずつだけど、この力は、僕の魔法力を充填してくれている。
たっぷり貯めれば、小学生サイズじゃなくて、僕本来の大きさに戻ることもできる。
魔来子さんがポンと両手を打った。
「もし、お嬢様が魔法少女になる決心をしたとき、
ラバ様がおそばにいないと、支障が発生すると思いますから、それは良い判断ですわ」
魔来子さんはまた、あの片眼鏡を付けると、空中に印を結ぶ。
ちょっと失礼と席を外して、すぐ戻ってきた彼女の手には2枚の紙。
「こちら、契約書でございます。ここにラバ様のご署名をお願いします」
無造作に渡されたペンで、署名をした。何にも考えないで、あっちの世界の本名で。
僕に続いて、佑衣さんも署名する。
「これで、雇用契約が成立でございます。
一応、私が佑衣様付きの首席のメイドでございますから、ラバ様もそのつもりで。
要は私の言うこともきいてよね、なんですけど」
ま、まあ、そりゃそうかな。
ここでの先輩なんだし、こっちの世界のことも、いろいろ教えてもらわないと困るし。
なんと言っても年長者だし。
あっちの世界でも、『長老の言うことを聞かない奴は若死にする』なんて意味のことわざもあるぐらいだ。
ゾクッ!急に背筋にふるえが走った。
「ラバ様、私、長老と呼ばれるほどの歳ではございませんが!」
ドライアイスの冷気が僕を包んでいる。
もちろん、その発生源は魔来子さんだ。
「す、すみません。僕、また呟いていたんですね。ごめんなさい」
今度やったら、どうしてあげようかしら、と言わんばかりの目。
平謝りで、ようやくその視線から僕を解放してくれた。
「では、お嬢様、今日の学校の宿題がメールで届いておりますので、自習お願いできますか?
私は、ラバ様にこの家の説明をしていますので」
僕たち三人は食堂を出る。
そのまま、前にある階段を上っていく佑衣さんに、魔来子さんが声をかける。
「お嬢様、ちゃんとお勉強くださいな」
「はいはい、音声モニター、赤外線センサー、圧力センサー、二酸化炭素チェック、などで
居眠りしていても、わかりますわよ、ですね。もう、何回も聴かされてます」
魔来子さんはニッコリ微笑む。
「ご理解いただけていて嬉しいですわ。では頑張ってください」
僕は階段を上っていく佑衣さんをぼーっと見ていた。
白い太股、短いスカートからチラチラ見える白い下着・・・
急に踵を返した佑衣さんが、ダダダダッと階段を駆け下りてくる。
その勢いで、僕のお腹に彼女の右膝が・・・ゲ、ゲエッ!!
お、お昼の、おいしい料理が、苦い、酸っぱい液になって、駆け上って・・・・必死で逆流を止める。
「ラバ!あんた、今、いやらしい目であたしを見てたでしょ!
あんたはね、正直に顔にでるんだから、わかるのよ!!
いい、ご主人様に対して、今度そう言う目をしたら半殺しだからね!
覚えておきなさいよ、この南京虫!!」
も、もう既に半殺し状態ですけど・・・・・
ダニから南京虫に昇格しましたね、ボク・・・・・なんて、冗談言える余裕、ないです・・・・・・
△ △ △
「お嬢様のこと、許してくださいね。ちょっとワガママなんですけど、慣れれば可愛いって思えてきますから」
はあ・・・・慣れる前に、身体が壊れないことを祈ってます。
「ですから、契約書にも一筆、『ご主人様の悪戯には苦情を申し立てない』を加えさせていただいております」
「え・・・・・そんなこと、何にも聞いてないです!」
「あら、そうでしたか?言い忘れましたかしら、ほほほほほ」
僕は青ざめる。この調子だと、あの契約書には、まだまだいろんな事が書かれていそうだ。
しまった。署名をする前にしっかり中身を読むんだった。
ま、読んだところで、魔来子さんのことだ。丸め込まれるか、脅かされるかしているような気もするけど。
そう、ため息をつく僕を、魔来子さんはドアの前に立たせる。
ピッと赤い光が僕の目を射抜く。
続いて反対側の目も同様に。
「これでラバ様の網膜パターンが登録されましたので、セキュリティを通過できるようになります。
お嬢様や私は全権力レベルですけど、ラバ様はとりあえずノーマルレベルで」
まあ、ノーマルレベルでも基本的な場所には入れるらしい。
1階の食堂、給仕室、浴室、隣の洗濯室、応接室。
「地下にはセキュリティレベルの高いコンピュータルームやサーバーセクションがありますが、
まず立ち入ることはありませんから。では2階をご案内します」
階段を昇る。
正面は魔来子さんの部屋。その隣が佑衣さんの部屋。
反対側が僕の部屋になるそうだ。
ちょっと覗いてみる。
ベッドと机。これだけ。
「空き部屋でしたから。これから買い出しに言って、衣装や備品を用意しますわ」
カーテンを開けてみる。意外に小さい窓。
「窓ガラスは鉄線入りで放射線遮蔽用です。実は壁にも鉛及び鉄板が入れてございます。
素子への放射線障害を防止するためです。
壁も厚み50cmのコンクリートですから、簡単には破壊できませんけどね」
はあ、厳重なんですね・・・・って、意味は半分もわかんないけど。
窓の外を眺める。あの公園だ・・・・近くの子供達だろう、お母さんと一緒に遊んでいる様子が見える。
「そう言えば、一つ聞きたいことがあるんですけど・・・・佑衣さんのご両親は?」
終わらなかった。もう1話続きます。
魔来子さんの由来・・・必要ないよね?(笑
多那香 魔来子。
そのまんまやん。(笑
まあ、腕力、知力、押し、全て強そうなイメージから。
って、本人がそうかどうかは知りません。