4.魔法少女
やっと魔法少女の説明。時間かかるなあ、やっぱり。
「お嬢様とお話しした内容、教えていただけませんか?
音声モニターの確認もしたいですし」
僕は佑衣さんにしたのと同様の話を魔来子さんにも話した。
魔来子さんは時々、モニターされた時の話と比較しているようだ。
もちろん、うそは付いてない。つく必要もない。
「なるほど、お話はだいたい分かりました。でも、お話しになっていないところがありますね」
え?驚く僕の顔をのぞき込む魔来子さん。
「なぜ、お嬢様に声をおかけになったのか。声をかけてどのようにするおつもりだったのか。
力を授けて何かしてもらおうということではありませんでしたか?」
なぜそこまでわかるんですか?
呆然としている僕の前で、魔来子さんは片眼鏡を取り出した。
それを目にかけると、空中に指を遊ばす。
と、いきなり、僕の声が空中に響いた。
『・・・・残りの力がなくなります。
そしたら、当分魔法は使えないし、その力を授けてやってもらうことも・・・・』
「す、すごい!魔来子さんは大魔法使いだったんだ!」
僕は仰天した。片眼鏡は魔法道具で、ふらふらした指の動きは印を結んでいたんだ。
聞こえなかったけど、呪文も唱えていたのだろう。
でないと、精霊の力を借りて、過去から僕の声をよみがえらすなんてことができるはずがない。
僕の声を聞いて、魔来子さんはほほえみを浮かべる。
「これは魔法ではなく、科学でございますわ」
ぽかんとする僕の顔を見て、魔来子さんは説明してくれる。
「片眼鏡をかけることで、中央コンピュータと接続が確立します。
その結果、仮想端末が片眼鏡の画面上に出現します。
サーバには佑衣お嬢様周辺音声モニターのデータが保存されております。
仮想端末を操作することで、音声データの再生が指示できます。
パラメトリック・スピーカーは通常、私の耳にセットされておりますが、
指向性を緩めることで、ラバ様の耳にも入るようにいたしました」
はあ?なんですって?
「全然わかんないんですけど、要は魔来子さんが魔法使いなんですね。
すごい、すごい。杖も何も使わないのにこんな魔法が使えるのは、よほどの魔法使いなんですよ」
魔来子さんは苦笑する。
「はい、ではそういうことで。でも、この魔法は、この敷地内でしか使えないんですけどね。
片眼鏡という形式上、電波の届く範囲が狭いものですから。で、先ほどの質問にお答え願いませんか?」
魔来子さんの瞳は僕を睨んでいる。ウソは許さない、そんな雰囲気に僕は呑まれた。
「あ、あの・・・実は、彼女に魔法少女になってもらおうと・・・考えていたのです」
僕は恐る恐る小声で言った。
「魔法少女・・・いったい、それはどのようなものなんでしょうか」
魔法少女・・・僕も実際には見たことはない。もうはるか昔の話・・らしい。
こちら側の人間でも、特に魔法の能力が高い少女がいるという話。
その娘にあっちから持ってきた魔法道具を使いこなすことが出来れば、
門をこちら側から完全に封鎖することも、
あるいはあちら側の世界に行って、魔法力を発揮することも、
悪を征伐して、世界を救済することもできるという、なんかすごい話。
あくまで伝説なんだけど。
「大変なお仕事のようなんですけど、どうしてそれを佑衣様に?」
「彼女は強そうだし、能力高そうだし・・でも魔法能力はわからないけど・・・・いいかなって・・・・」
ずいっと魔来子さんは身を乗り出してきた。
「それだけなんですか?」
近距離に迫った彼女の顔に僕は腰が引ける。
「はい?」
「お嬢様を選ぶわけはそれだけなんですか?」
あ・・・いや・・・・なんかなあ?よくわからないけど・・・・それだけだと思うけど・・・・
「そんなに強い子じゃないんですけどね・・・・・・・」
魔来子さんが呟いた。
・・・・それって、どういう意味なんですか?聞こうとしたとき、横で声がした。
「やだ」
佑衣さんの声に、僕らは横を向く。
いつの間にか目覚めていた佑衣さんが、ふくれっ面をしていた。
◇ ◇ ◇
「あたしがそんな力、持ってるなんて全然思ってないけど、もし持ってたとしても、
なんで世界の救済なんてことをしなきゃならないの?」
彼女は椅子の上であぐら座り。短いスカートから奥が見えそう。
「あたしは人助けなんてごめん。
自分のことさえ満足に出来ない女の子がいったい何が出来るっていうの?
しかも、あんたの世界のことじゃない。あたしは何も出来ない、か弱い女の子です」
か、か弱い・・・・・意味、違うと思うんですけど・・・・・
「まったく、お嬢様ったら・・・・・・・そうですね。ラバ様、・・・ないんですか?」
え?僕と佑衣さんは魔来子さんを見る。
「頑張るんでしょう?世界のために。
なら、ご褒美というか、なんかお返しがあってもいいんじゃないですか?
伝説のお話しには、そういう部分はないんですか?」
えっと・・・・・あの後、どうなったっけ・・・・・あ、そうか。
「願い事・・・・願い事が叶ったっていう、話があります」
「ねがいごと・・ですか」
「はい、どんな願い事かは分からないですけど、伝説では願い事が叶ったっていう・・・」
佑衣さんのつっこみがくると思った。
”そんな願い事なんて、知ったこっちゃないわ!”とか・・・でも、こなかった。
彼女はじっと考え込んでいた。
「願い事・・・・・・願い事が・・・・・・・かなう・・・・・」
そう呟きながら。
そんな彼女を見て、魔来子さんが微笑む。
「お嬢様、今すぐ答えを出さなくても、よろしいんじゃないですか?
もっとじっくり考えて答えを出してはどうですか?」
「一つだけ、決めたわ」
佑衣さんが僕を見つめて、言った。
「ラバ、お前を雇うこと」
うわあ、ラバの名前の由来。書くの忘れてました。
元ネタはジャック・オッフェンバック(フランス語読み)
ドイツ語読みでオッフェンバッハもあり、らしい。
作曲家。「天国と地獄」が有名かな。
ドイツ人で、名前がヤーコプ・レヴィ・エーベルスト。
のち、フランスに帰化、という人です。
で、二つくっつけて、ヤーコプ・レヴィ・オッフェンバッハ。
では正直だなあと思ったので、少し変えて、
ヤーコブ・ラバ・オッフェンバッフ。
二つの国を動いている点とか、「天国と地獄」というあたりが、
ラバ君のイメージだなあ、って感じで。




