43.佑衣さんの魔法
ああ、何とか今日に間に合いそうだ。
ほぼ、24時間遅れのうぷです。
佑衣さんを中心にして白い光がまるで、霧か雲のように周りに立ちこめていく。
その中にいると、なんだかとても、悲しく、切ない気持ちになってくる。
こんな、魔法があるのか・・・?
妙に静まりかえった世界。
魔来子さんやオネクターブですら、何が起こったのかわからずに戦いを中断している。
僕の目の前で、まるで何かが起こるかのように、霧が渦を巻く。
そして、そこに姿を現したのは・・・
「ち・・、父さま!?」
僕はあまりの驚きにしりもちをついた。腰が抜けた。
頭から血を流し、服は血だらけ。
瞳はあらぬ方を見て、ゆっくりと歩を運んでいる。
父さまだけじゃなかった。
あたりはいつの間にか、血だらけの人、手足を無くした人、矢が刺さった人など、
様々な人たちが立っていた。
村の人ばかりじゃない。兵士達もいる。敵も味方もみんながふらふらと歩いている。
「なんだ、これ・・・何が起こってるんだ?」
「ゾンビでございますか?これは・・・・・まるでホラー映画でございます」
魔来子さんまでが理解不能という顔。
恐る恐る手を伸ばしてみる。僕の手は父さまをすり抜ける。
実体はないんだ・・・イメージ投影だけなのか。でもおかしい。
佑衣さんが引き起こしたイメージなら、佑衣さんの知っている人しか出せない。
佑衣さんは父さまを見たことはないはずだ。どうやって・・・・
「たんなる記憶の投影ではなく、この地、人の思念を写しているとか・・・?この映像を知っているのは・・・・オネクターブなのでは?」
それでなのか、この人たちが歩んでいく先はオネクターブなんだ。
「こないで、こないでください!えーい、汚らわしい!!」
自分に迫ってくることに気がついたオネクターブは杖を振り回して、振り払おうとしている。
魔法を使っても何も効かない。
映像には物理攻撃も魔法攻撃も効かないんだ。
先頭がオネクターブに迫る。杖を掴んで放り投げる。
単なる映像じゃない!オネクターブに対しては実体なんだ!!
必死で逃げるオネクターブを集団で追いかける。
僕たちは佑衣さんのそばに寄った。
佑衣さんは小さく呟いている。
「・・・・怖い、寂しい・・・・・一人はいや、一人で死ぬのはイヤ・・・・辛い、苦しい・・・・」
「驚きました。佑衣様は・・・死霊使いだったのですか。佑衣様は、今、お亡くなりになった人たちの思念を具象化しているのかと思います。簡単に言えば、恨み辛みをはらそうとする想いの代弁者ですわ・・・」
ついに捕まったオネクターブが哀れな悲鳴を上げている。
「た、助けて・・・お願いだから、助けてくれ~!」
「佑衣さん、そろそろ魔法を解除しましょう」
「佑衣様、佑衣様?・・・・なんだか様子が変ですわ!?」
僕たちの呼びかけに佑衣さんは無反応。
相変わらずつぶやきを続けているだけ。
しかもよく見れば、その瞳は焦点を失っている。
「魔来子さん、どうしよう?佑衣さんは・・・自分を失っている!」
「魔法の虜です。これでは、文字どおりのミイラ取りがミイラでございます!」
僕は佑衣さんを揺すった。グラグラと揺れるだけで意識は戻ってこない。
だからか、だからこんな死霊使いの魔法なんて使う人はいなかったんだ。
一歩間違えれば、自分が死霊の想いに取り憑かれてしまうから、危なくて使えないんだ!
「佑衣さん、しっかりしてよ!・・・このままじゃあ、佑衣さんは死霊の仲間入りだ!」
「非常手段でございます・・・・佑衣様、いえ、佑衣、覚悟しなさい!」
魔来子さんはそう言うと、佑衣さんの頬を一発平手打ち。
それでも効かないとわかると、左右の連続平手打ち。
佑衣さんの頬がみるみる赤くなる。
あまりの激しさに見ているこっちが痛くなってくる。
「・・・・・い、いた・・・・・・いたい・・・・・」
佑衣さんがつぶやく。
「ラバ様、代わってくださいませ!思いっきりやらないと効きません!」
「佑衣さん、ごめん!」
僕はそう叫ぶと、右手を思いっきり振り下ろした。
頬に届く直前に佑衣さんの左手が僕の手を受け止める。
「佑衣さん!?」
「痛ったいわね!血が出るじゃないの、この、バカラバ!!」
佑衣さんの右手拳が僕の顔面を捕らえる。
ぶっ飛ばされながら、よかった、帰ってきた、と思ったけど、
あれ?頬を叩いてたのは僕じゃなくて魔来子さんのはず・・・・・?
また、損な役割を受けてしまった様な気がする・・・・
「佑衣様、気がつかれましたか?」
「ええ、魔来子さん・・・って、何?これ・・・あたしが引っ張り出したの?この人たち」
「そうです・・・・今はとにかく、静かに眠っていただくように、お願いしてくださいな」
魔来子さんの言葉で、佑衣さんは念じ始める。
白い光とも霧ともつかぬものがゆっくりと消えていく。
それとともに、人々の姿が透け始めていく。
「皆さんの想い、しっかりと受け止めます。どうか、安らかにお眠り下さい」
誰もいなくなった中庭を、僕たちは横断した。
目標は倒れているオネクターブ。
目だけきょろきょろさせている。
「ま・・・・魔法少女、佑衣。あんた、死霊使いだったのね・・・恐ろしい技を・・・」
「あんたが、全部の原因を作ったんじゃないの。あたしはただあの人たちの想いを見せただけよ」
「もう勝負はついたようですわ。降伏なさいませ。命までは取りません」
「イヤですわ!命のある限り、とことん抵抗するわ!」
オネクターブは呪文を唱え始めた。
さて、次回の予告。
え?魅力って・・・どういうこと?(笑)
次回: 第8章 激突 第44話 ヤーコブの魅力
刮目して待てっ!
(サブタイトルは変更する可能性があります。ご容赦下さい)