38.指輪
この指輪は魔力はないみたいだけど、本当はすごい魔力があるんですよね。だから心臓に直結しているという薬指にはめるんですよ。知ってました?
アンジェリーヌ・エバ・オッフェンバッフ・・・
オッフェンバッフ!?
「ラバの名字じゃないの。それ・・どういうこと?」
もちろん、オッフェンバッフは僕の家だ。
そして・・・アンジェリーヌは、忘れた姉のこと。
ずーと昔、僕がまだ5才にもなっていないころ。
姉がいた。僕はその姉になついていたらしい。
でも、いつの間にか姉は消えてしまった。
僕は寂しくて泣いていたらしいけど、それは小さな頃の話し。
だいぶ経ってから、ふと、姉のことを、両親に尋ねた。
返事は、どこかへ行ってしまった。
きっと死んだに違いないと・・・
両親の顔をよぎった表情に、ぼくはそれ以上聞いてはいけないと思った。
そして、できるだけ話題にすることを避け、忘れるようにしたんだ。
その姉の名前が、ここで出てくるなんて・・・・
姉が消えてしまった訳は、伯爵が原因だったのか!?
でも、その姉は一体どこへ行ってしまったというんだ。
それは伯爵もわからないと言っているし。
「でも、どうしてその名を、魔来子さんが知っているの?」
佑衣さんも訳が分からないという顔。
それは僕も一緒なんですけど。
魔来子さん、あなたは一体何を知っているんですか?
☆ ☆ ☆
「これを・・・・・これをそなたに・・・・・」
僕たちが呆然としている間に、伯爵はわずかに手を動かしている。
その指が持っているものを、魔来子さんの左手の指にはめている。
「あの、これは?・・・・・・なんということを。伯爵様・・・・・」
魔来子さんはむせび泣いている。
「これでよい・・・・これでもう、思い残すことは何もない。ありがとう・・・・・
あの少女の面影を宿す淑女・・・魔来子とやら、深く礼を言う・・・・」
「伯爵様!」
魔来子さんが涙声で叫んだ。
握りしめていた伯爵の手が、ゆっくりと下に降りる。
その手からは少しずつ、パラパラと土が落ちていき、やがて伯爵の全身が埃と化す。
全てが落ち着いたとき、そこには伯爵の服とうずたかく灰の山があるだけ。
その灰もふわふわと飛び散りながら、どこかへ消え去っていく。
「伯爵の未練が消えてしまった以上、もう土に帰ったということよ」
オネクターブが無感情に言う。
その声を聞いて、泣いていた魔来子さんがスクッと立ち上がった。
「オネクターブ、そなたは絶対に許しません!
伯爵の想いを愚弄したこと。伯爵の傀儡を作り、利用し、私利私欲のために伯爵の名を使ったこと。
伯爵の名で、村や南の国に侵攻し、多数の死傷者を出して、悲しみを広げたこと。
フェルゼンシュタインの名において、そなたに重罪を申し渡します!」
そのリンとした声に、その場の全員が身動き一つできなかった。
何という迫力。
たしかに元々魔来子さんは迫力あったけど、さらに威厳が加わっている。
「な、何のこと?あんたに何の権利があって、そんなことを言えるの?」
さしものオネクターブも目を白黒させている。
「これをご覧になってくださいませ」
魔来子さんは左手をみんなに見せる。
その薬指には、金色に輝く太めの指輪が!
あんなの、いつはめたんだ?
「そ、それは、伯爵家の結婚指輪!」
オネクターブの震える声。
「さっき、伯爵がはめていたのは、あれよ!」
佑衣さんが叫ぶ。
け、結婚指輪・・・・!?つ、つまり・・・・
「魔来子さん、結婚したということ・・・・なんでしょうか?」
魔来子さんは微笑んでいる。
「ええ・・・気がついたら、無理矢理という感じはありましたけど、伯爵様にこの指輪を頂いてしまいました。
頂いた以上は、私はフェルゼンシュタイン伯爵の妻でございます。
本人が亡くなっているからには、未亡人でございますけど。
妻である以上は、伯爵の権利、義務を負う責任があると思っております。
伯爵の名を汚すような者は、直ちに成敗せねばなりません。
オネクターブ、覚悟はよろしいですか」
「な、なにを、なにをあなたは言っているんですか?訳が分かりません!
伯爵は三年前に亡くなっているんですよ!その人と結婚できるわけないじゃないですか!?」
頭を抱えて喚いている。
「その亡くなった人の想いを甦らせ、傀儡を作ったのはあなたでしょう。その傀儡の伯爵様から頂いたのですから、間違いなく結婚は成立ですわ」
魔来子さんは言い放つ。
「皆さんの中で、この伯爵家の指輪に逆らうおつもりがあるのなら、今この場で出てきてくださいませ。私が根性を試めさせていただきます」
僕はその時に、やっと周りに気がついた。
いつの間にか、扉の所に人垣が出来ていた。
朝議に来ていた家臣たちだ。
その家臣達も魔来子さんの指輪を見て、ひそひそ話している。
やがて一人が進み出てきて言う。
「我々家臣団は、指輪をお持ちのそなた、魔来子様を、伯爵の奥方と認めます。
伯爵が亡くなっていることが公になった以上、あなた様がフェルゼンシュタイン家のご当主でございます」
「な、何を言ってるんですか?そんなどこの馬の骨ともわからぬ女を奥方だの、当主だの、
なれる訳ないじゃないですか!?」
オネクターブが青ざめている。自分の不利が実感できたようだ。
「あら、どこの馬の骨ではありませんことよ。私は、皆さんのよくご存じの女性でございます」
・・・いったい魔来子さんは何を言うつもりなのですか?
佑衣さん、魔来子さんって、いったい何者なんでしょうか?
さて、次回の予告。
ひえ~、魔来子さんが奥方様になっちまったい。(笑)
本当にこの話、どうなるんだ? 魔法少女はどこへいった?(爆)
あ、いなくなってるんだっけ。(笑)
次回: 第7章 姉 第39話 魔来子さんの過去
刮目して待てっ!
(サブタイトルは変更する可能性があります。ご容赦下さい)