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魔法少女と呼ばないで  作者: どり
第7章 姉
39/50

39.魔来子の過去

 魔来子さんの過去話、いかがでしょうか。

 参考にしているのは、幼児虐待、育児放棄ネグレクトの話です。

 なんでも読んでおくものですね、

 こんなところで役に立つとは思ってもいませんでした。

 ・・・不穏な噂は何日も前から聞いておりました。

曰く、人質の少女を捜している。

引っ捕らえて、城へ送り込み、奴隷として働かせる気だとも、

いずことも知らぬ所へ売ってしまう、などということを。


 でも、当の本人はその日まで何一つ知らないでいたのです。

あの日、慌てた様子で母さまは言いました。

すぐにお逃げなさい、捕まってはいけません、

父さまも母さまも大丈夫だから、一人でお逃げなさい、と。


 すぐに一人で村を逃げ出し、山に隠れました。

何も持たず、何も知らずに。

犬どもの鼻を逃れるために、水に潜り、

リザードどもからは森に隠れ、必死で逃げました。


 頭の中にはただ一つ、噂に聞いた門がありました。

門をくぐって逃げれば、そこには平和な世界があるとの噂。

それだけが逃げ込むことが出来る場所だと思ったのです。

山に隠れ、森を抜け、何日もかかって、ようやく門にたどり着きました。


 少しだけ躊躇しました。ここをくぐった向こうは見知らぬ世界です。

果たして生きていけるのだろうかと。

そして、こちらに戻ってくる日はくるのだろうかと。

しかし、遠くで兵士達の物音がしたとき、意を決して門に飛び込んだのです。


 門のあちらは静かな林の中でした。

追っ手も、犬もリザードもいない、平和な世界でした。

でも、まったく違う困難が待ちかまえていることをすぐに思い知りました。


 まず言葉が全く通じなかったのです。

翻訳魔法をきちんと修得していなかったため、身振り手振りではロクに意思が通じなかったのです。

容姿も他人と異なっていて、とても目立つ姿や服装でした。

身元も寄るところもない、浮浪児、ホームレスでした。

怖そうな大人、権力の匂いのする大人からは必死で逃げました。

捕まったらどうなるか、わからなかったからです。

空腹を満たすためには、盗みや万引きをするしかありませんでした。

公園や物陰でこっそりと食べながら、何度となく泣きました。


 あちらに帰りたい、帰って母さまや父さまと一緒に暮らしたい。

そう思って幾度となく、門の前にたたずみました。

でも、門のあちら側には、犬や兵士がいるかもしれない、

せっかく逃げてきているのに、捕まってしまうかも知れない、

捕まったら、殺されてしまうかも知れない。

そう思うと、門をくぐる勇気はありませんでした。


 そして、ある日、とうとう大人に捕まりました。

その女の人は、何か言っていましたが、ほとんど分かりませんでした。

捕まった手をふりほどいて逃げようとしましたが、大人の力にはかないませんでした。

そしてその人は、グイグイ引っ張ると、ある立派な建物に連れて行ったのです。


 そこではまず、お風呂に入れられました。

髪は汚れ、服は着たきりのボロボロ。垢がこびりついているような、

もう、それはそれは汚い格好だったそうです。

そしてその次には、立派な食事でした。


 今にして思えば特に立派でもなくありふれた食事でしたが、

その時にはこんなにたくさん、美味しそうな食事は見たことがありませんでした。

でも、すぐには食べることが出来ませんでした。

食べていいのかどうか、分からなかったのです。


 食事を指さし、口に指を持ってきて、「・・・・いいの?」とだけ、片言で言いました。

その女の人は微笑んで大きく肯いてくれました。

それから、ようやく食べることが出来たのです。

食べながら、頬を温かいものが流れていくのが分かりました。


 それからその家での、その女の人との生活が始まりました。

言葉もわからない、住民票もないでは学校にも行けませんでしたから、

その家で必死で言葉を勉強し、習慣も覚え、

やっと普通の生活ができるようになりました。


 会話が成立するようになると、どこから来たのかを聞かれました。

違う世界から来たこと、こちらでは一人きりであることを答えました。

どこまで門のことを信じてくれたかは分かりません。

でも、ひとりぼっちであることには同情してくれました。

そして、盗みで空腹を満たしていたことも話したとき、

その人は一緒に出かけると言いました。

そして盗んだお店で一緒になって頭を下げてくれました。


 なんでも、万引きは知っていて、見て見ぬふりをしてくれたそうです。

こんな娘がするなんて、なんか事情があるのだろう、と。

その話を聞いて、こみ上げてくる涙が止まりませんでした。

一生懸命に頭を下げて謝りました。お礼を言いました。

このお礼は、他の誰かに返してあげてね、そう優しく言ってくれました。


 そして、ちょうどその頃、その家では生まれたばかりの女の赤ちゃんがいたのです。

育児係に手を挙げました。弟の世話を村でしていたので、慣れたものと思ったのです。


 気むずかしく、ワガママで、やんちゃで、強情っぱりで、いたずら好きで、

思ったよりも遙かに大変なお世話でした。

でも、その子は、とても愛らしく笑う子でした。

この子に、頂いたお礼を返そう、いっぱい返そう、そう誓いました。

そしてその子と一緒に生活する日々が続いたのです。


 自分がなぜ追われたのか、いつ戻る日が来るのか、わからない日々でしたけど、

お嬢様と暮らした日々は毎日がとても充実して、楽しい日々でした。

生活することに一生懸命で、魔法のことはすっかり忘れてしまいました。

あちらの世界では使うこともなく、不要でしたから。

その代わりに、知識や技術、武器や武術をその娘と一緒に学びました。

いつか、いつか、村に帰る日が来るときのために。


 そう、その少女とは、私。

あちらの世界では、多那香 魔来子と勝手に名乗らせていただきました。

たまたまTVから流れてきた言葉を真似しただけなんですけど。

魔界から来た子だなんて、如何にもの名前でしょう?

こちらの世界では、アンジェリーヌ・エバ・オッフェンバッフ、本人でございます。




さて、次回の予告。


 オネクターブ、よく我慢したね、魔来子さんの長話を・・・(笑)

 そろそろ最終活劇に行きますかっ! 

 次回: 第7章 姉 第40話  ・・・うう、未定。

 刮目して待てっ!

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