24.戦略的転進(要は敗北)
おお、気が付けば4章が完ではありませんか。
村の話、長かったですね。すみません。
でも、物語の発端ですから、しょうがないかな。
おつきあい下さいまして有り難うございます。
”獅子”地上軍の足音が立てる猛烈な振動に耐えながら、
僕は必死でグレネードランチャーの引き金を引いた。
高性能爆弾が立て続けに飛んでいく。
効かない。
いや、それで一頭は吹っ飛んでも、すぐその後に続いてやってくる。
キリがない。全部を吹っ飛ばすだけの弾薬がない。
損害を省みず、どんどん突っ込んでくる。
「何よ!獅子っていうより、イノシシじゃない!」
『お嬢様、適切な表現ですが、状況に変わりありません』
魔来子さんは上空から煙幕弾を落として、視界を遮っているけど、
前に進むしか脳がない奴らには効いてない。
『後退を、撤退してください!』
魔来子さんの叫び声を聞いて、反射的に後ろを見た。
森が広がっているだけ。身を隠すような岩場も何もない平坦地。
「魔来子さん、すぐ迎えに来て!」
「何よ、ラバ!あんた、もう逃げ出す気?この、ヘタレ!!」
抵抗する佑衣さんの手を引っ張って、走り出す。
もう片手には荷物と銃。
どう考えたって、”獅子”どもの方が速い。
魔来子さん、早く!
僕の願いに答えるかのように、目の前に魔来子さんが着地!
「この先の岩場まで、佑衣さんを連れて、飛んでください!」
そう叫ぶと、佑衣さんを押しつける。
「ラバ様は?」
「僕はここで時間稼ぎをします。佑衣さんを置いてきたら、迎えに来てくださいね」
呆然と見ている魔来子さんの両腕の中で佑衣さんはもがいてる。
「ちょ、ちょっとラバ、ダメよ、こんなの、あたし、許さない!あたしも一緒に闘う!」
「早く!あいつらが来る!」
魔来子さんが飛翔する。
「必ず戻ってきます。それまでご無事で!」
「お願いします。僕もここで踏みつぶされたくはないですから!」
「ラバ!ラバー!」
佑衣さんの声が遠く、小さくなる。
代わりに大きくなるのは、獅子どもの足音。
なんか、夢で見たな、こんなの・・・・僕は一人で笑った。
でも、今度は夢と違うぞ。
「さて、オッフェンバッフの本懐、見せてやるとしますかね」
そう僕はひとりごちた。
さっきまで僕たちがいたところに、わざと置いてきた袋。
その中身は弾薬で一杯。どこをどう刺激してやれば爆発するのか、もう分かっている。
もう少し近づけ、ほら、後ちょっと・・・・・よし!
「雷よ、とどろけ!・・・落ちろ!!」
全魔法力で獅子の足下に雷を落とす。そこには置いてきた現代魔法の弾薬に・・・火がついた。
猛烈な爆発が起きる。火柱、轟音、強烈な爆風。入っていた爆弾が誘爆してる。
一緒に入っていた催涙弾も爆発した。
強烈な刺激にさしもの獅子も足が止まっている。
首を振るもの、地面に顔を擦りつけるもの、逆方向に逃げ出すもの・・・
兵士達も目をかきむしる者や、涙を流す者でいっぱいだ。
催涙ガスを逃れた敵が矢を射ってくる。
「アイギスの楯!」
空中に防御の光が集まり、矢を跳ね返す。
数本の矢が当たっても、現代魔法の防弾ベストが守ってくれている。
「火の精霊、姿を見せろ。そして燃え上がれ!」
「風の精霊、吹き荒れろ!その姿を現し、我が命を聞け!!」
立て続けに魔法を発動する。
燃え上がった兵士達が木立と共に吹っ飛ばされていく。
喘ぎながら僕は片膝を付いた。
「はあ・・・・はあ・・・・魔法力、使いすぎ。もう限界・・・・」
もうちょっと長持ちするやり方、勉強するんだった。
やっぱり授業をさぼっちゃいけない。
・・・あ、村の学校、もうないんだな、これが。
現れた魔来子さんに抱えられたとき、僕は半分気を失っていた。
○ ○ ○
「バカラバ、バカラバ!」
佑衣さんは泣きじゃくって、僕にしがみついてきた。
僕が死ぬつもりだって、勘違いしたらしい。
いや、僕が残って足止めするしかないでしょう?そう言ったつもり・・・・
「バカーッ!」
至近距離で鳩尾に一発。ウゲ!効くっ・・。
「今度こんなことしたら、許さないからね・・・・いい?御主人様として下僕に言ってるのよ!分かった!?」
はい。分かりました・・・・とほほ、苦しいのやら、うれしいのやら・・・・・
三人は高い岩場の上。
足下には、爆発や火炎の跡が見えている。獅子どもの残骸も転がっている。
「文字どおりの”死屍累々”でございますわね」
魔来子さん、ナイス。それ、シャレなんですね。
その敵も撤退したようだ。
遠くには壊滅した村も見えている。
「これからどうしましょうか?ラバ様」
「この先に、村の子供達の遊び場だった洞穴があります。そこで一夜を過ごしましょう」
その時だった。
微かな物音に、反射的に動いたのは佑衣さんだった。
彼女のナイフが僕の背後に飛ぶ。
そこには少女が、その胸にはナイフが刺さっていた。
その子は音も立てずにゆっくりと崩れ落ちる。
佑衣さんの悲鳴が響いた。
大丈夫です。この子は死にません。
今は死にそうですけど、ちゃんと元気になります。
うう、22話の後遺症(笑。