22.絶望の淵から
この話、書いていたら、涙ポロポロになった。
津波の被害が頭に浮かんだ。
ラバの感情に浸食されたというのもある。
もし、気分を害されたのなら、お詫び申し上げます。
そんな写実力ないはずだけど。
わかっていたつもりだった。
松明と化した兵士も、オネクターブも示唆していた。
村が以前とは違う姿になっていることも、近づけばわかってきた。
壊れた家、焼け残った柱。放棄された家財。
そして、いるはずの人たちの姿がない。
敵の姿もないことはありがたいけど。
村の外れに僕たちは立つ。
「私はここで警戒に残ります。ラバ様、時間がありません。できるだけ手早く、そして心置きなく、お願いします」
そうですね、魔来子さん。でも、もう、僕、足が震えているんですけど・・・・
その足を動かして、村に入る。
「佑衣さん?」
「魔来子さんが付いてって。一人は不用心だからって」
ありがとう。本当に僕一人だったら、どうなるかわからない。
二人で村の中心部に入る。
記憶がよみがえる。このあたりは友達のいえ。こっちには親戚、そして・・・
「ここは僕の家・・・・・だった」
「・・・焼けちゃってる」
残っているのは土壁、柱。後はめちゃくちゃ。
あたりを歩き回ってみても、人の気配はない。
なんだろう、この感じ。
大変なことになっているんだけど、まるでそんな感じがない。
まるで人ごとのように見ている自分がいる。
どっかで感情の線が切れちゃってるみたいな。
小さな時遊んでいたおもちゃが落ちていた。
それを見ても、感情がわき上がってこない。
ふと、見上げた。
そこには前を変わらない大木が立っている。
「ああ、これは無傷だ・・・・うちの裏庭に立っていた木なんだ。この木の下で、みんなで食事したり、友達と遊んだり、こいつによじ登ったりしてたんだ・・・・」
みんなの笑顔が、笑い声が聞こえてくるみたいだ。
怒ったり泣いたりしたこと。
一緒に走り回ったり、じゃれ合ったりしたこと。
まるで、そっちが現実で、今、目の前にある方が夢のような気さえする。
ふと、気がついた。
佑衣さんの手が僕の手を握ってる。
「ラバ、無理しなくていいよ・・・・」
え?無理って?僕は無理なんか・・・・・
「泣きたいときは、泣いた方がいいんだよ」
その言葉を聞いて、僕は膝を折る。
内側でこらえていた物が、一気に吹き上がってくる。
ほこりっぽい地面に、ぽたぽたと染みの跡。
佑衣さんがそっと僕の頭を抱いてくれる。
頭の上にも、温かい水滴が落ちてくる。
(佑衣さんも泣いている・・・・)
そう思ったら、もう抑えが効かなかった。
僕は大声を上げていた。
恥も外聞もなかった。
心のまま、思いっきり泣いていた。
□ □ □
中心部の広場にそれはあった。
以前は集会やお祭りに使われていた広場。
ここに大きな土まんじゅうがあった。
まだ真新しい。
近寄ろうとした佑衣さんを止めた。
「もういいよ、佑衣さん。これ以上いく必要はない。ここにみんな眠っているんだ。これがわかれば、もういい」
僕はそっと頭を垂れた。
佑衣さんも両手を合わせてくれた。
みんなを助けることができなかった。
村を護ることができなかった。
僕には何もできなかった。
心には無力感しかない。
これで、佑衣さんや魔来子さんを護るなんて・・・
かえって足手まといなだけじゃないのか。
『お嬢様、ラバ様。敵が現れたようです。至急お戻りください』
なんか、魔来子さんの言葉が意味をなさない。
このまま、ここで殺されたって別にかまわない・・・
「ね、ラバ、わかるよ。心、折れるよね、あたしにも経験ある」
うん・・・・
「でも、覚えてる?あんた、あたしを護るって、約束しなかったっけ?魔来子さん、そう、うれしそうに言ってたんだけど」
ああ、そう言うばそうでしたね・・・・でも・・・・
「でももへったくれもない。男が一度約束したことぐらい守れなくて、あたし達だの村のみんなだの護れるって思ってるの?ヘタレだってことはわかってるけど、時と場合によりけりでしょ!?どうするの、死ぬにしたってこのまま座して死を待つの?命かけて護ってからなの?どうすんの!?」
言葉と同時に飛んできた蹴りをかわす。
ああ、そうでしたね。
僕にはまだやることがいっぱいあるんでした。
精一杯やったら、あとは天に任せましょう。
そうしたら、天国のみんなも笑顔で僕を迎えてくれるかもしません。
なるようにしかならないんですよね。
ありがとう、佑衣さん。
走り始めた僕の顔に笑みが浮かぶのがわかった。
ちょっと悪戯をして、活動報告しなかった。
でも、何人か読んででくれた。
アップすることを期待して来てくれている人がいる。
その期待は裏切れない。
やるだけやる。歯を食いしばって最後まで行く。その後は知らないけど。
はは、ラバとシンクロしてる。