『転生姫の大聖堂』
もし、経済的に貧しく不幸な者がいたとして、煌めく美しい聖堂と、ボロボロの小汚い聖堂のどちらで祈りを捧げるだろうか? 答えは明白だ。多くの者は迷わず美しい聖堂を選ぶのである。人々は、その建物が美しいのは神の光が宿っているからだと信じ込み、己の貧しさから搾取された金によって建てられたのだとは思いもしない。
もし、身なりの良い教祖と、薄汚くだらしない教祖がいたとしたら、人はどちらに傾倒するのだろうか? その多くは、やはり煌びやかな身なりを整えた教祖を選ぶのだ。たとえその豪華な衣が、信者から絞り取った金で賄われていたとしても。
結果として、貧しき者が幸せを求める過程で、宗教からでさえも搾取されるという残酷な側面がそこには存在する。酷い場合になれば、搾取された側の民衆がその結果に喜び、恍惚として涙を流すことさえあるのだから。
馬車を降りたセシリアは、眼前に聳え立つ大聖堂を目の当たりにして、思わず息を呑み感嘆した。
白亜の三本の尖塔。両翼に優美な翼を広げているかのように見越せる左右の楼塔。建物は寸分違わず真っ直ぐに南を向いており、太陽の光と大聖堂、そして背後に佇むエレスティアル山が完璧な一直線上に重なるよう設計されていた。
視線をエレスティアル山へと向ければ、今日から『聖なる山』と称されることになるその山肌に、巡礼登山のための整備された道が筋を描いているのが見えた。登山口、中腹、そして頂上部には、それぞれ巡礼者の心を揺さぶるための聖堂が既に建てられている。
セシリアたちが一歩内部へ足を踏み入れると、そこは前堂、中堂、そして奥へと続く壮大な礼拝堂で構成されていた。 はるか高い天井を見上げれば、神々なのか妖精なのか、神秘的な抽象画が一面に描かれており、色とりどりのステンドグラスから差し込む光が、その天井画を神々しく彩っている。音響の計算も完璧で、少し声を発するだけで驚くほど良く通り、美しい残響となって空間を満たした。エミーナとロゼッタは、その響きに驚いたセシリアから何度も名を呼ばれ、その度に弾んだ声で返事をしなければならなかったほどだ。
エミーナの腕の中で、すやすやと眠っていたルシアが満足そうに目を覚ました。 つぶらな瞳を輝かせ、まるで自身が創り出した大聖堂の出来栄えを隈なく点検するかのように見回している。
そして、満足げに正面のやや高い壇上へと登壇したのは、教祖『ゲンドラス・サイリュン』こと崔厳である。自尊心が高く、承認欲求の強いこの男は、神の代弁者を演じるにはまさに適任であった。すべてはリゼリアの見抜いた通りだったのだ。
壇上で神々しいオーラを纏う崔厳に一礼し、セシリアは大聖堂の重厚な扉を抜け、広大な敷地の一部を散策することにした。
外に広がる敷地は、まるで下界の喧騒から隔絶された楽園のようであった。 かつてニルニラ家の城郭であった敷地内には、澄んだ水が流れる豊かな水路が張り巡らされ、その沿岸にはルミナリアを象徴する白い百合の花々が咲き乱れている。風が吹くたびに、甘く濃厚な香りが鼻腔をくすぐった。
整然と敷き詰められた石畳の小径を歩きながら、セシリアはふと周囲の光景に目を留めた。 敷地の端、大聖堂の威容からは死角となる影の領域に、すでに何人かの街の貧民たちが集まり始めていたのだ。彼らは身なりこそ貧しいが、その瞳には白亜の大聖堂に対する深い畏怖と、すがるような狂信の光が宿っていた。
(……本当に、姉様の言う通りだわ)
セシリアは小さく息を吐き、静かに胸に手を当てた。 この美しい敷地も、甘い百合の香りも、民衆にとっては救いの象徴であり、同時に完璧に計算された「檻」でもある。
美しい花々の蕾が静かに開くように、この広大な敷地から、ルミナリアの三百年を揺るがす巨大な何かが始まろうとしていた。




