8. 鋼細工
8. 鋼細工
そして翌朝。私が昨晩公式で導き出したものを見ながらミルディ達は何回も試行錯誤を繰り返しながらロウム石を砕いたものに鉄鋼を溶かし混ぜていく。そして出来上がった鋼の液を型に流し固めていくがやはりうまくいかないのです。
「うーん、なかなか難しいわね」
「でも何とか形にはなってきたんですけどね」
そんな事を言いながら出来上がっては加工し、それを捨てる。を繰り返しバケツの中には溶かした鋼の液が溜まってきていた。
「悪いミルディ。これを錬金釜に捨てておいてくれ!」
「うん。わかった」
ミルディは立ち上がりそのバケツを持って錬金釜の方へと向かう。私はそれが気になってミルディに質問をする。
「何をするのですか?このお釜は?」
「これは錬金素材を入れる時に使うものなの。魔法武器を造るときなんかに使うんだけど。今回は一応もったいないから鋼の延べ棒を作って売ることにしてるの」
ちゃんと考えて皆さんお仕事してるのですね……関心なのです。でも公式通りのはずがどうしてうまくいかないんでしょう。読んだ本が間違っていたんでしょうか……私はもう一度昨日の公式を思い出す。
【魔力伝導率=(鉱材+原石の体積+水分量)×質量/密度】
ん?それなら、原因は一つしかないのです!
私はガタッと勢いよく立ち上がると、迷うことなく鍛冶場の水桶へと向かいました。そして、熱せられた高熱の鉄塊とロウム石の釜へ、バシャバシャと大胆に水分を足し込んでいくのです!
「ちょっ、アリーゼ何してるの!?」とミルディが目を丸くして叫びますが、問題ありません。緻密な計算と、あとは本で読んだ『ドワーフ流・水加減の極意』の勘なのです!
「水なのです。加工するときに水分量がおそらく減ってしまっているのです。だから魔力伝導率が少なく鋼細工はうまくいかないのだと思うのです」
私の答えを聞いたミルディは驚いた表情になる。きっと今まで誰も気が付かなかった盲点だったと思うのですよ。するとリオンさんとブラック親方も集まってきて興味深々の様子です。
そして、祈るような顔の皆が見守るなか、試しに型へ流し込んでみると……なんということでしょう!今まで何度も反発して失敗していたドロドロの鋼が、スゥッと美しい銀色の輝きを放ちながら、吸い込まれるように完璧に定着したではないですか!
「おお……おおぉぉっ!?今のどうやったんだ!?頼む聖女様、俺たちにも教えてくれ!」
「すご……」
「アリーゼ様は本当に素晴らしいお方なのですね!」
長年鉄を打ってきた屈強なブラック親方が、目をひん剥いて私にすがりついてきます。ふふん、やはり私の計算に狂いはなかったのです。さすがは私なのです!
「今、紙に書くのです!」
そして新しい分量を加えた公式を書き、それをブラック親方に渡すことにするのです。その私の公式を使いどんどん鋼細工の剣が出来上がっていく。そのあとは私は簡単な作業を手伝ったのです。
これで無事に依頼達成できそうなのです!良かったのです。そして次の日も色々お手伝いさせていただいて何とか納期に間に合う事ができたのです。
その日の夜。私は疲れていたので早めにベッドに入ることにしました。
明日は出発の日ですね。魔法鍛冶屋さん、初めて体験しましたが楽しかったのです。そんなことを考えていたら横のベッドで寝ているミルディが話しかけてくる。
「アリーゼ。ありがとね。父さん……親方も凄い喜んでいたし」
「いえいえ。お仕事を見ているとやはりプロは違うのです!私はただ本の知識で少しだけお節介をしただけなのです」
「アリーゼ……明日、出発なんだね……」
「はい。短い間でしたけど、美味しいご飯からお風呂まで、本当にお世話になりましたなのです。ミルディも『賢者の石』を見つけて、最強の武器を造る夢を絶対に叶えるのですよ?応援してるのです!」
「……うんっ。ありがとう」
暗闇にぽつりと響いたミルディの声は、いつもより少しだけ震えていました。なんだか、こちらまでしんみりしてしまいますね。
理不尽に教会を追い出されて途方に暮れていた私を拾ってくれた、鉄の匂いと優しさに満ちたこの工房。たった数日とはいえ、一緒に食卓を囲んだ皆さんとお別れするのは、私にとっても少しだけ……いえ、かなり寂しいのです。
そんな事を考えながら私は眠りにつくことにしました。
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