23. 約束の石板 ~ロゼッタ視点~
23. 約束の石板 ~ロゼッタ視点~
~過去~
私はロゼッタ=ロズウェル。大魔女の血を引く魔女の末裔よ。この広大な砂漠地帯が広がるソルファス王国に来てもう3ヶ月が経つわね。このソルファス王国での魔力集めは終わりそうだし、そろそろ違う街に向かおうかしらね。
それにしても……
私もまだまだ未熟者だわ。まさかあんなに簡単に私の魔法を防ぐなんて思わなかったわ。しかもクレープは食べ損ねるし!あの女は一体何者なのかしら?私の魔法をあっさりと打ち消すほどの力を持っているのだから只者ではないはずよね。
まぁあの女からは敵意や悪意を感じなかったから大丈夫だと思うけど……うーん。気になるわね。まぁ次は私の爆炎魔法で黒焦げにしてやるから!それよりも今は、この街での最後の仕事を終わらせることに集中しないと。
私は昨日の大広場での出来事を思い出しながら、日課となっているキルシュ古城への道を歩いていた。そこには私の相棒(?)が待っているから。中に入り、隠し通路を通り天空のチャペルに向かう。
「おおローズ」
「ごめん待ったガウェイン?」
この男はガウェイン。私が初めてこのキルシュ古城に来たときに知り合った冒険者だ。そして私は恥ずかしながらこの男に惚れている。仕方ないの。不意をつかれたのよ……私が魔物に襲われた時颯爽と助けてくれたから。そのときの姿が今でも忘れられないのだ。まぁ私みたいな年下には興味なさそうだけどこの人。でも諦めたくない気持ちもあるわけで……
「おい聞いたぞ? 昨日、街でどこかの美人の女に魔法を打ち消されて負けたんだってな。大魔女の末裔が聞いて呆れるぜ」
「はぁ!?負けてないし!てか私の方が絶対美人だし!」
「はいはい、強がるなって。まぁでも、相手が悪かったな。お前が昨日クレープ屋の前で揉めてたあの女、ただの人間じゃない。本物の『聖女』らしいぜ?名前は確か、ディアナって言ったかな」
「……は? 聖女?」
なるほど、それなら私の自慢の魔法もあっさりと打ち消されるわけね。女神の力を持つ者……聖女ディアナ、この屈辱、絶対に覚えておくわ!次に会った時は真っ黒焦げにしてやるんだから!
「というか、なんで聖女がこんなところにいるのよ?」
「巡礼の旅の途中らしいぞ?聖エルンストの聖女様はやることがちがうねぇ?」
バカにしてる。私は頬を膨らませながらガウェインに少し不機嫌そうに尋ねる。
「っで話ってなに?」
「ああ。その前に中に来い」
そう言うとガウェインは教会の中に入っていく。はぁ……なんなのよ一体?もしかして私に告白!?……いや絶対ない。だから淡い期待は持たないように私もあとについで中に入ることにする。
教会に入るとそこは祭壇があるだけで誰もいない。そこには古びた石板がおいてあった。
「なにその汚い石板は?」
「これは魔法の石板だ。ここに魔力をストックすることができるんだよ」
「は?わざわざ自分の魔力をそこに預けて弱くなれって事?私はお断り!」
そんなことをしたらいざという時に困るもの。するとガウェインはニヤリと笑いながらこう言ってきた。
「安心しろ。何も全部預けると言ってないだろ?ほら手を貸せよ!」
「ちょっと!何すんの……」
ガウェインは強引に私の手を掴み魔法の石板に手を置かせる。すると魔力がその石板にたまるのが分かる。私はすぐに手を放す。
「ちょっと!少し痛かったんだけど!」
「悪い悪い。まぁこれでよしっと。じゃあ本題に入ろうか。実は俺、明日ここを出ることにしたんだ」
「え?どういうこと?」
突然の言葉に頭がついていかない。どうして急に……
「俺は元々冒険者だろ?ある依頼があってこの街にやってきたんだ。それがもうすぐ終わるから俺は明日には出ようと思う」
確かにガウェインはこの国に来る前は別の大陸にいたと言っていたわね。それでたまたまこの街に来てこのキルシュ古城で私と出会ったと。でも、また別の依頼で旅に出ると言うことか。寂しいけど仕方がないわね。
それにしても、この男と一緒に旅ができたら楽しかっただろうな……なんて思ったりして。
ガウェインとは出会ってまだ間もないしお互いのこともよく知らない。それでも一緒にいる時間は楽しく感じていた。こんな感情は初めてだった。これが恋なのかしら?分からない……でも離れるのは嫌!私は意を決して彼に告げる。
本当はもっと気の利いた、ロマンチックな雰囲気で想いを伝えるつもりだったのに……もう、なりふり構っていられない! 私は彼の顔を真っ直ぐに見上げて、はっきりと叫んだ。
「私は認めないから!必ず帰ってきてよね。もう一度私に会う前に、勝手に死ぬなんて絶対に許さないんだから!」
気づけば私は、彼の大きな背中にしがみつくように、思い切り抱きついていた。これが、不器用な私にできる精一杯の勇気だった。
彼は少し驚いたように目を見開いた後、私の頭をポンポンと乱暴に撫でながら、優しく微笑んでくれた。
「あーはいはい。わかったよ。ったく、心配性なんだからよ。ローズは、俺は必ず帰ってくる」
これが今の私の精一杯の言葉。そして私の初恋の終わりを告げる言葉でもあった。
次の日の朝早くにガウェインは王都を出て行った。私は最後まで笑顔を崩さず彼を見送ったつもりだけど、内心では泣きたい気持ちを抑えながら必死に堪えるのにいっぱいいっぱいだった。
そしてガウェインは帰ってくることはなかった。
~現在~
あの石板から溢れ出した魔力が、ワシの小さな身体を優しく包み込んでいく。なんて温かく、力強い光なのじゃ。そして、ワシの中に流れ込んでくるこの魔力は、間違いなくガウェインのもの。
……それにしても、なんじゃこの莫大な量は。
あやつ、あの時ワシの手を引いて石板に触れさせた裏で、自分の魔力をこんなにもワシの為に残しておったのか。自分がもう帰れないと悟りながら、ワシを守るために……。
ワシは目を瞑り、しばらくその温かい魔力の余韻を抱きしめた。ああ……遅すぎるわバカ者。でも、本当にお主は、あの時の約束通りワシの元へ帰ってきたんじゃな……。
そう思うと、堪えきれずに涙が溢れてくる。
ガウェイン……ありがとう……
この魔力があればきっと大丈夫。ワシはアリーゼと共に前に進んでいける。
「”また”会えたのう」
そう呟きながらゆっくりと目を開ける。ワシはそのガウェインの魔力を感じながら目の前にいる、新たな仲間と共に旅立つ事を決意するのだった。




