32. 聖女。解錠する
32. 聖女。解錠する
魔法船はどんどん速度を上げていく。これは魔法船が暴走してしまっているように感じるのです。いやそれよりももしかしたら……素人が動かしている?そういう感じもするのです。
その時誰かが甲板に出てくる。私はなんとなく本で書いてあった事を思い出して危険を感じたのです。
「ミルディ、急いで隠れるのです!こっちなのです!」
私たちは甲板にあった巨大な木樽の陰に身を潜めました。息を殺して様子を窺っていると、ドカドカと乱暴な足音を立てて、いかにも柄の悪い屈強な男たちが二人現れたのです。彼らは血走った目で辺りをギョロギョロと見回し、誰かを探しているようでした。
「おい、いたか!?」
「いやいねぇ……くそっ!客の荷物ともどもせっかく魔法船を奪ったのによ。ガキに見られるとはついてねぇ、しかも魔法船を動かしているアイツを気絶させやがって」
「アイツわざとじゃないだろうな?お頭に気に入られてるみたいだがオレは信用しちゃいない。だってアイツの家系は優秀な魔法士の家系だ。これも罠かもしれんしな」
「いやそれはないだろう。アイツは性格がビビりだ。そんな勇気ねぇよ。それに逃げているガキには逃げ場がない。見つけて殺して海に投げこめばいいだろう」
男たちは物騒な会話を交わし、再び船内へと戻っていきました。さっきの話……冒険譚の定番展開から推測するに、おそらくこの魔法船はあの海賊たちに乗っ取られてしまったのです!そして、魔法船を動かしていた海賊を気絶させた『ガキ』というのは、十中八九ロゼッタ様のことなのです!早く合流しないと大変なことに――。
私がそう決意した、まさにその瞬間。
ドゴォォォンッ!!
凄まじい爆発音と共に、船体が大きくグラリと揺れました。
……最悪なのです。今の容赦のない爆発音、間違いなくロゼッタ様の魔法なのです!
私とミルディは急いでロゼッタ様と合流するために船内に走り出す。そしてそのまま船内にいるロゼッタ様を探すことにするのです。
「音はこっちから聞こえたのです」
「あたしも聞こえた。こっちから」
この魔法船は乗客が100人は収容できる大型の魔法船なのです。もちろん船内も広く探すのも困難なのです。
私たちは音の聞こえた方へ進んでいき、部屋を一つずつ確かめていく。正直海賊の数もわからないのです。あまり派手な動きをして見つかると厄介なのです。その時、部屋に入ろうとするとミルディが鍵のかかっている部屋を見つける。
「あれ?この部屋、鍵がかかってる。なんで?」
ミルディが不思議そうにしている。鍵がかかっているなら間違いなくロゼッタ様しか考えられないのです。でもそれなら海賊も近くにいるはずなのです。声もだせないし、早くしないと私たちが見つかるのです。それならあの本に書いてあった通りに…。
「ミルディ。細い針金を持ってますか?」
「針金?髪留めのピンならあるけど……まさかそれで開けるの?本の世界じゃあるまいし……あ。」
「はい、その『本』にバッチリ書いてあったのです!『怪盗淑女の華麗なる手口』を読破した私なら、いとも簡単に鍵開けができるはずなのです!」
私はミルディから受け取ったヘアピンを鍵穴に差し込み、本で読んだ図解を思い出しながらカチャカチャと探りを入れてみました。
すると次の瞬間、フワッと扉全体を覆っていた薄い光が霧散するように消え……直後、カチャリという音と共に、あっさりと扉の鍵が開いたのです!
なんだか開錠と同時に不思議な光のエフェクトまで出ましたが、きっと私の怪盗スキルが極まりすぎた証拠なのですね!
どんなもんです!やっぱり本の知識は優秀なのです!
「おぉ~すごいねアリーゼ!」
「ふふんなのです。もっと褒めてもいいのですよ!」
さぁこれで中に入ることができるのです。部屋の中に入るとそこにはベッドの上で寝ているロゼッタ様の姿があったのです。どうやら疲れて眠っているみたいです。
「寝てる!?どんな神経してんのロゼッタ様は!?」
「落ち着くのですミルディ」
確かにロゼッタ様の行動には呆れることも多いのです。それでも今はそんなことを考えてる暇はないのです。私が近づくとロゼッタ様が目を覚ます。
「うぅん……お。やっと来おったか。遅いのじゃアリーゼ、ミルディ」
「やっと来おったかじゃないでしょ!よくこんな時に寝てるねロゼッタ様は」
「外には結界を張っておる。アリーゼじゃないと開けられんようにしておいた。ワシは少し仮眠しておっただけじゃ。うるさいのう、ミルディは……」
そ、それなら安全で良かったのです。
……ん?
結界?アリーゼじゃないと開けられない?
ロゼッタ様の話を総合すると、私がヘアピンで解錠したから開いたのではなく、私が扉に触れたから魔法の結界が解除されただけということになります。つまり、私の華麗なるピッキングテクニックは全く意味がなかったと……!?
……い、いいえ!そんなはずはないのです!もし結界がなくても、私なら間違いなく本に書いてあった通りに完璧な鍵開けが出来ていたはずなのです!私の怪盗淑女としての才能は本物なのですよ!




