26. 救い
26. 救い
マールウッド家を支配していた悪魔の依代はアリーゼの突然の聖魔法で浄化することができた。そして次の日、アリーゼはまだ目を覚まさない。
「アリーゼ……」
「ミルディ心配するでない。アリーゼは少し無理をしただけじゃ。いずれ目を覚ますじゃろ」
そう微笑みながらロゼッタはミルディに伝える。しかしロゼッタも内心穏やかではなかった。
(一体どういうことなんじゃ? 確かにアリーゼは聖女。『聖痕』さえ消えていなければ、聖魔法を使う素質自体はあるじゃろう。しかし……あの圧倒的な光の奔流。まるで太陽そのものを顕現させたかのようなあの神々しい威力は、歴代の聖女という枠に収まるものではない。アリーゼ、本当にお主は……)
すると、部屋にノック音が響く。誰だろうかと思いドアを開けると見知った顔があった。ミルディとロゼッタは驚く。そこには憲兵につれられた、クリスフォードの姿があったのだ。
「クリスフォード=マールウッド!?」
「……なんの用じゃ?」
「無礼を承知で尋ねた。色々迷惑をかけてすまなかった。そこの聖女アリーゼ様に私は救われた」
深々とクリスフォードは頭を下げる。これにはロゼッタも驚く。そして、クリスフォードはそのまま話続ける。
クリスフォードが言うには、自分の父親がなくなって精神的に不安定になっていた時に、露天で何故か目を惹かれて買ってしまった人形に取り憑かれてしまったらしい。そして悪魔憑きになった後、自分の意識が徐々に薄れていく中で、自分はこのまま精神が死ぬんだと思ったらしい。そして自分の精神が死んだ後に悪魔に乗っ取られることを恐れたのだが、それをアリーゼに救われて感謝をしているとのことだった。
「……あんたのせいじゃないけど、あんたを助けるためにアリーゼは無理したんだから!」
「それは承知している。許してほしいとは言わない」
「あたしは納得できない!」
「ミルディ。そやつを責めても仕方あるまい。救うと決めたのはアリーゼなのじゃからな」
ロゼッタの言葉を聞き黙り込むミルディ。クリスフォードは再び口を開く。クリスフォードはこれから罪を償っていくつもりだと言う。
――その時。ベッドの方から微かな衣擦れの音が聞こえた。
「うぅっ……天井が回っているのです……ここはどこなのです?」
「アリーゼ!!良かった……あたし……心配で……」
「やっと目が覚めたか。全く迷惑をかけおって」
「?……あっクリスフォード=マールウッド様!?あのあの失礼を……あの時は不法侵入してボコボコにして申し訳ありませんでしたなのです!」
私はベッドから飛び起きるなり、本で読んだ『究極の謝罪法・スライディング土下座』を鮮やかにキメました。命の恩人であるはずの聖女がいきなり全力で平伏してきたため、クリスフォード様は激しく狼狽えています。端から見たら、どっちが加害者か全くわからないカオスな状況なのです。
私たちの謎のやり取りを見て、ミルディとロゼッタ様が呆れたようにクスッと笑いました。私はコホンと咳払いをして立ち上がると、鞄の中から大切にしまっていた貴族紋のブレスレットを取り出します。
「これをお返しするのです。信頼できる方から預かっていたのです」
「これは……アルグラッドの……。あいつ、私が領主の重圧で壊れかけていることに気づいて、助けを……。ありがとう聖女アリーゼ様」
「いえ。私はただの聖女なのです。困った人のお願いは聞きたいのです。だからあなたはこれから罪を償うのです。もしも挫けることがあれば私がいつでも助けるのです」
「そうか……私はまだやり直せるのだな……」
「はい。大聖女ディアナ様は信じる者の味方なのです!」
私は笑顔で答える。その言葉を聞いたクリスフォード様は目頭を熱くする。こうしてこの事件は幕を閉じるのでした。
その後、一連の騒動の責任を問われたクリスフォード様は爵位を完全剥奪されたうえで国外追放となり、代々続く由緒正しきマールウッド家は無情にも取り潰されることになりました。使用人の方々も無罪放免とはいえ、職を失い散り散りになってしまったのです。
「……地位も家も失ってしまいましたが、これで良かったのです。クリスフォード様はまたやり直せるのです。人は何度でもやり直せるって本にも書いてありましたから!さぁ、今日もとってもいい天気なのです!」
少し重すぎる現実を前にしても、私の前向きさはブレません。どこまでも青く澄み渡る空を見上げながら、私は海鮮の次に待っているであろう未知なる冒険に、胸をワクワクさせるのでした。楽しみなのです!




