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聖女アリーゼの不思議な旅  ~聖魔法?そんなの知らないのです!~  作者: 夕姫
第1章 聖魔法?そんなの知らないのです!

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17. 常闇の森の魔女

17. 常闇の森の魔女




 街を出た私たちはしばらく街道を歩き、目的のフルア草を探すため未舗装の獣道へと足を踏み入れました。そのまま進んでいくと、目の前に鬱蒼と木々が生い茂った大きな森が姿を現します。


 そして森の中に入っていくとだんだん暗くなっていくのです。でもちゃんと道があるので迷うことは無いというのが救いなのです。


 鬱蒼とした不気味な木々をかき分けて進むと、ぽっかりと開けた円形の空間に出ました。そこだけ天窓のように木漏れ日が降り注ぎ、先程までのじめじめとした暗さが嘘のように明るく澄み切っています。


 目的のフルア草がこの辺りに生えていると助かるのですが……と目を凝らすと、苔むした大木の根元に、淡く発光するフルア草らしき植物がチラホラと群生しているではありませんか。図鑑の挿絵で穴が空くほど見た特徴と完全に一致しています。間違いないのです!


「あったのですミルディ。早く採取して帰るのです……ん。ミルディ?」


「……家だ。あんなところに家がある」


 ミルディが指を指す方向には確かに家と呼べるかはいささか不明ですが人が住んでいそうな小屋があったのです。


 しかも煙突からは煙が出てるので誰かいるのですかね?近づいてみるとそこには1人の女の子がいた。歳は私やミルディより下に見えるけど、すごく可愛い子だった。髪の色は薄い水色で腰まで伸びており、サラサラである。顔立ちも整っており、将来美人になりそうな女の子なのです。


 そんな子がどうしてここにいるのでしょう?その子はこちらを見て一瞬驚いている様子でしたが、すぐに何かを納得したように首をうんうんと縦に振り話しかけてきたのです。


「ほう。まさかワシの結界を抜けてくるとはのう。お主たち……聖女か?」


「ワ、ワシ!?見た目はこんなに愛らしい幼女なのに、中身はシワシワのおばあちゃんなのですか!?」


「いや違うでしょアリーゼ。ただそういう年寄りぶった喋り方をしてるだけでしょ。どう見てもあたしより年下だし」


 一人称が『ワシ』の人物に生で遭遇するのは初めてなのです。最近の若い子の間では、こんな老獪なロールプレイが流行っているのでしょうか?


 私の膨大な読書データにも該当しない想定外の事態にフリーズしている間にも、少女は年齢不相応な不敵な笑みをニヤリと浮かべていたのです。


「ほう……「聖痕」を失ったのか……通りでワシの結界を抜けて……」


「なぜそれを知ってるのです!?」


 私がそう言うと、その少女は次の瞬間には先程の表情が嘘のように消え去り無邪気に笑う。そのギャップについていけず更に私は困惑してしまったのです。


「愉快愉快じゃ。ワシはこの常闇の森の魔女じゃ」


「魔女?この幼女が?冗談キツイんだけど……」


「誰が幼女じゃ!」


 ミルディの言葉に怒った魔女(?)が杖を取り出してミルディに向かって振り下ろす。しかしミルディはそれをひょいと避ける。


「全く失礼な小娘じゃ。ワシはロゼッタ=ロズウェル。この名前を聞けば少しくらいはお主たちでもわかるじゃろ?」


「魔女ロゼッタ!?あの竜殺しの魔女の!?極悪非道の魔女の!?」


「本で読んだことあるのです!罪なき人々をカエルに変え、大鍋でグツグツ煮込むという凄く悪い魔女なのです!海鮮を食べる前に私が食べられちゃうのです、怖いのです!」


「ほう……大鍋で煮込むかどうかはともかく、ワシもまだまだ有名なもんじゃの」


 ロゼッタ=ロズウェル。あの気高き竜でさえ凶悪な魔法で一捻りしたと言われている人物なのです……しかも目的のためなら手段を選ばない極悪非道の。教会でも語られている伝説の大聖女ディアナ様の天敵。それが、こんな可愛らしい幼女の姿で目の前にいるなんて信じられないのです!


 まぁ魔女という存在自体が伝説みたいなものですからね。しかも目の前にいるのは明らかに幼い少女ですし……


「まぁ良い。せっかくだから少し仕事を頼みたいのじゃ。そこの赤い髪の。魔法鍛冶じゃろ?ワシの道具を直してほしい。もちろん金は払う。どうじゃ?」


「まぁ……あたしは仕事なら受けるよもちろん。いいよねアリーゼ?」


「もちろんなのです。ミルディの邪魔はしないのです」


「あとそこの聖女のお嬢ちゃんに話しもあるからの……まぁ中に入るのじゃ」


 はっ!家に入った瞬間に恐ろしい呪いをかけられてカエルにされるのです!?それとも猛毒入りの怪しいスープを飲まされるのですか!?


 私は鉄のロッドをギュッと握りしめ、恐る恐る小屋へと足を踏み入れます。するとそこは殺風景な森の中とは打って変わり、暖炉の火がパチパチと鳴る、とても暖かくて居心地の良い空間でした。


 しかも部屋の中央の丸テーブルには、香ばしい肉のローストやとろけるチーズのシチューなど、湯気を立てる極上の料理がズラリと並んでいるではありませんか!


 ……ゴクリ。


 静かな部屋に、私の盛大な喉の鳴る音が響き渡ります。そういえば、朝からまともなご飯を食べていなかったのですよ。万が一呪われたとしても、このシチューを一口食べてからなら本望かもしれないのです……。


 かくして強靭な意志を持つはずの聖女と魔法鍛冶屋は、極悪非道な伝説の魔女が仕掛けた『極上ランチの誘惑』の前に秒殺で敗北し、ホイホイと小屋の奥へ上がり込んでいくのでした。

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