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王子様への置き手紙  作者: あおた卵


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2話

 フィオナは兵士達に馬車に押し込まれた。外から鍵が掛かっている。馬車は動き出した。


 王都に戻るのかしら。


 エルマーが心配だわ。


 まだ殺されてはいないはず。ジェラルド様を説得しなければ。エルマーは関係ないのだから。


 そもそも何で迎えに来たのかしら。ジェラルド様はとても傷ついた顔をしていた。

 自分にはマデリーンがいるのに。


 もしかして私とエルマーの仲を疑っているのかしら?だとしても気にするはずないわ。いつもあんなに冷たいんだもの。


 マデリーン様に向ける笑顔を少しでも私に向けてくれていたら、逃げ出そうなんて思わなかったのに⋯⋯。



 窓の外に王室の離宮、ピレシュ城が見えた。今晩はここに泊まるのだ。


 フィオナは地下牢に閉じ込められる自分を想像した。背筋が寒くなる。


 エルマーは間違い無く地下牢行きだろう。何とかジェラルドを説得しなければならない。


 エルマーを助ける責任は、彼女にあるのだから。




 フィオナは城の最上階にある一室に案内された。


 白と金を基調とした豪華な部屋に圧倒される。きっとここは王妃様の部屋だわ。じゃああの奥のドアの向こうは?


 扉には鍵がかかっていた。


 国王様の部屋かしら。ジェラルド様がいるのかしら。


 拳銃を向けられたことを重い出し、心拍が速くなる。


 地下牢に入れる代わりに、ジェラルド様自らが目を光らせておくつもり?


 入口のドアに向かう。ここにも鍵がかけられていた。フィオナはドアを叩いた。


「開けて!誰か!開けてちょうだい!」


 足音が聞こえた。見張りの兵士だろうか。ジェラルドはフィオナを自由にさせる気はないのだ。




 夜になった。ずっと食事をしてない。飢え死にでもさせるつもりだろうか。


 フィオナは怒り狂っていた。  

 ベッドに上がり枕を叩きつける。何もすることが出来ない。眠る以外には。



 フィオナが目を覚ますと、いつの間にかテーブルに食事が用意されていた。サーモンのパイ。フィオナの好物だ。偶然だろうか。空腹のフィオナはいつものマナーを忘れて、大きなパイを頬張って食べ尽くした。



 ジェラルド様。隣にいらっしゃるかしら?


 フィオナは隣の部屋に繋がるドアに耳を押し当てた。


 すすり泣きが聞こえた。まさかジェラルド様?


 決して感情的にならないジェラルド。次期国王としてその様に育てられた。


 なのにまた泣いている。今日初めて泣く所を見て驚いたばかりなのに。


「フィオナ⋯⋯フィオナ⋯⋯」



 自分の名前を呼ぶ声。胸が締め付けられる。とても放ってはおけなかった。


 鍵は空いていた。部屋には酒の匂いが充満していた。ジェラルドはベッドに座り項垂れていた。


「ジェラルド様」


 涙に濡れて光るジェラルドの瞳は、まるでエメラルドの様だ。


「フィオナ」


 ジェラルドは両手を広げてフィオナを待っていた。


 フィオナは思わずジェラルドの胸に飛び込んだ。


 懐かしいジェラルドの腕の中。小さい頃を思い出す。あの頃から2人ともずいぶん変わってしまった。


 フィオナは女らしい体つきになり、ジェラルドも逞しい青年の体になっていた。違いに戸惑ってしまうほど、ジェラルドとの触れ合いは久しぶりのことだった。

 


「フィオナ。私のかわいいフィオナ⋯⋯。どうしてあの男に純潔を捧げた?君を大切にしてきた結果がこれか?私は苦しくてたまらない。気が狂いそうだ。いっそ君に殺して欲しいくらいに」


 ジェラルドはフィオナの髪に顔をうずめた。


「ジェラルド様。エルマーとはそんな関係ではないわ。本当に」


 急にジェラルドがフィオナの肩を掴んで体を突き放した。


「そんな事信じるとでも?宿は一部屋しかとらなかったみたいだな。しかも夫婦だって?」


 それはエルマーが勝手にしたことだと説明したかった。


 でももしそう言えば、エルマーはどうなってしまうだろう。もっと立場が悪くなるかもしれない。


「とにかく本当なのです。エルマーを許してあげて下さい。彼に罪はないの」


「罪はない?よくもぬけぬけと⋯⋯。あいつを殺す前に君には拷問する所を見せてあげるよ。もうこんなことが出来ない様にね」


「ジェラルド様らしくないわ。酔ってるのね?」


「君に本性を隠さなくなっただけさ」


「エルマーは⋯⋯」


「あいつの名前は呼ぶな!」


 フィオナは怒鳴られて唖然とした。ジェラルドは乱暴にドアを閉めて部屋を出て行った。




 翌朝。


 馬車が城に入って来る。フィオナはぼんやりと眺めていた。マデリーンが降りて来るまでは。


 赤い髪。赤い唇。赤い悪魔マデリーン!

 

 こんな所まで来るなんて!少しもジェラルド様から離れていられないのね。

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