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第四十三話 天燎対御影

『対抗戦決勝大会第二回戦は、閃球せんきゅうです!』

『閃球の歴史は古く、魔法時代黄金期にさかのぼります。魔法の普及によってあらゆる競技が愛想を尽かされたために誕生したのが、閃球の元となったマジックボールと呼ばれる競技なんですね。もっとも、マジックボールと閃球は、似て非なる競技であり、比べようもないのですが』

『閃球の解説、ありがとうございます。さて、対抗戦決勝大会における閃球は、出場全校の総当たり戦となります。全部で十試合です。試合時間の関係上、大会初日となる今日は五試合を行い、残り五試合は明日、決勝大会二日目に行います――』

 ネットテレビ局の実況と解説が流れる中、天燎鏡磨てんりょうきょうまは、競技場に作り上げられた戦場を見下ろしていた。

 球状の防護壁で覆われ、絶対境界線によって東西に分断された戦場。向かい合う二つの星門せいもんと、それぞれの陣地。

 満員の観客席は、競星けいせいの興奮醒めやらぬ中始まろうとしている天燎てんりょう高校の試合を固唾かたずを呑んで見守っていた。

 鏡磨も、注目している。

 広々とした貴賓室きひんしつ、その一面硝子がらす張りの窓際に配置された高級品としか思えないような椅子に腰掛けながらも、その目は戦場を注視していた。

 ここからならば、戦場の隅から隅まで見渡すことが出来る。

 見逃したことがあったとしても、全方面に展開されている幻板げんばんが映しだしてくれるのだろう。

「決勝大会とは、二日もやるものだったのか」

「御存知ではありませんでしたか」

「当たり前だろう。対抗戦に興味などなかったのだ。しかし、困ったな。明日は父上と会食する予定だったのだが」

「それは……」

 一大事だ、と、川上元長かわかみもとながは思ったが、口には出さなかった。そんなことをいえば、鏡磨の不興を買いかねない。

「今日の結果次第では、明日の会食は欠席させてもらうとしよう」

「はい!?」

「どうしたね? なにか不都合でもあるのか?」

「い、いえ、理事長に置かれましては、会食のほうが大事なのではないかと思った次第でして……」

 いってから、迂闊うかつなことを口走ってしまった事実に愕然として、元長は顔面から血の気が引いていくのを認めた。天燎家の人間に対し、余計な口出しはしてはならない。それが天燎財団で生きていく上でもっとも重要なことだ。

 だからこそ、元長は、天燎高校の校長に選ばれたのだ。

 なのに、思わず口をついて出てしまった。

「会食も大事だが、我が天燎高校の生徒たちが奮戦しているのだから、それを応援するのも大切なことだろう」

「そ、それは、そのとおりですが……」

「閃球の結果次第だよ。優勝の目が見えないほどの大敗を喫したならば、明日は来ないさ」

 鏡磨は、不思議な気分の中にいた。

 競星における天燎高校の生徒たちの奮戦は、彼をして、昂奮させるほどのものだった。

 あれだけの戦いを見せられて、心を動かさない人間などいるものだろうか。

 鏡磨は、それが自分らしさの欠片もない考えだと理解してはいたが、心の奥底でそう思ってしまった自分がいることを認めざるを得なくなっていた。

「来たぞ来たぞ、我が天燎高校の素晴らしき生徒たちが」

 鏡磨の言うとおり、いままさに天燎高校の生徒たちが東側の陣地に入ってきたところだった。

 

 場内の音声案内に従い、控え室を出て、長い通路を抜ける。そして、広大な競技場に足を踏み入れると、競技場内の空間そのものが閃球のための戦場へと様変わりしていることがわかった。

 会場と観客席とを分かつように張り巡らされた防護壁は、半透明の球体のようであり、選手たちはその球体の内側に作られた戦場で試合を行う。

 戦場そのものも、魔具まぐを用いて作られていて、地面の上に敷き詰められた無数の立方体は、衝撃を吸収し、高高度からの落下からも選手の命を守ってくれる優れものだ。競星の際、落下した選手や法器を保護した魔法壁と同種の魔具である。

 競技会場そのものが閃球の戦場であり、その戦場を東西真っ二つに分断するように刻まれた光の線、絶対境界線の前に向かって進む。

 天燎高校は、幸多こうた圭悟けいご法子ほうこ雷智らいち怜治れいじ亨梧きょうごの六名。身につけているのは黒と赤の競技服だ。戦場を自在に駆け回る閃球という競技の性質上、動きやすさを重視した作りになっている。当然ながら防御性能などはない。

 一方、初戦の相手となる御影みかげ高校は、金田友美かねだともみ鋼丘彩宗はがねおかさいしゅう銀城壮馬ぎんじょうそうま銅山史郎どうざんしろう鉄木清信てつぎせいしん錫宮功一すずみやこういちの六名である。こちらの競技服も、同じように動きやすさに重点を置いたものであり、基調として用いられている茶褐色は、御影高校の制服と同じだった。

 両校の出場者は、ともに同じ通路を進み、同じ出入り口を経て、戦場へと至っている。

 その最中、御影高校の金田友美が幸多に話しかけてきたのだが、その内容は、幸多にとって想定外のものだった。

「競星一位おめでとう、皆代みなしろ幸多くん」

「へ? あ、ど、どうも……」

「そう緊張しないでよ。わたし、感謝してるんだから」

「はい?」

 気安く話しかけてきた金田友美の想像だにしない言葉には、幸多は、どう反応すればいいのかわからなかった。真後ろには圭悟がいて、彼が聞き耳を立てていることは明らかだ。

「きみが落下させた金田朝子(ともこ)は、わたしの姉なのよ」

 金田友美は、心底嬉しそうに続ける。

「朝子の悔しがり方ったらなかったわ。胸のすく思いってこういうことをいうのね」

「はあ……」

「でも、だからって手加減したりしないからね。お互い、全力でぶつかり合いましょう」

「こ、こちらこそ」

 幸多は、金田姉妹の関係性が悪いのだろうということだけを理解して、ほかのことは考えないようにした。余計なことを考え込んだ結果、仲間の足を引っ張ることだけはしてはならない。

「あの姉妹、仲が悪ぃから別の高校なのかもな」

 圭悟が幸多に囁いてきたのは、戦場に足を踏み入れ、配置につくときだった。幸多は苦笑を返し、圭悟に決められた場所に向かった。

 戦場の地面にいくつもの光の円が表示されていて、円の上には数字が浮かんでいた。数字は一から六まであり、六の円は、星門の位置にある。つまり、守将しゅしょうだ。

 それは、つい先程両チームが大会運営に提出した表を元にして表示された陣形であり、数字は、各校が出場者に割り振った番号なのだ。

 幸多は、一番。二番が圭悟、三番が法子で、四番怜治、五番亨梧、そして六番が雷智だ。

 御影高校は、一番金田朝子、二番鋼丘彩宗、三番銀城壮馬、四番銅山史郎、五番鉄木清信、六番錫宮功一。

 六番が守将なのは全校共通だが、それ以外の番号に決まった役割というのはない。番号ではなく、初期配置で決まるといっていい。

 天燎高校は、事前の取り決め通り防御型の陣形となった。前衛二人、後衛三人という陣形であり、なんとしてでも防御を重視したい圭悟の願望が表れている。大盾陣おおたてじんと呼ばれる。

 前衛は、法子と圭悟の二人だ。法子が右側、圭悟が左側に寄っている。

 幸多は、後衛左翼を任され、後衛中軸に怜治、後衛右翼に亨梧が立った。

 雷智は、守将である。悠然と佇むその姿は、どこか気品さえ感じるほどだ。緊張一つしていないことは、その立ち姿でわかるだろう。

 御影高校はというと、前衛に四人を並べ、後衛に一人を配置していた。超攻撃型とされる陣形であり、剛剣陣ごうけんじんと呼ばれる。超攻撃型陣形の通り、攻撃に全力を注ぐ陣形である。

「あいつら、まもりを捨ててやがる」

 怜治が唖然としたように言ったのは、らんのあの発言があったからだろう。

 だが、蘭はこうもいっていた。

『でも、気をつけて。そうはいっても、御影高校は予選大会を通過してきたんだ。つまり、閃球でも勝ってるってこと。連携は取れないし、戦術もめちゃくちゃだけど、それでも勝ち抜いたのは、個人の能力が圧倒的に高いからなんだよ』

 閃球という団体競技を個人の能力だけで突破してきたのが、御影高校なのだ。

 幸多は、気を引き締めて、開始の合図を待った。

 しばらくすると、絶対境界線の中心に描かれた光の円、その直上に星が落ちてきた。青白い輝きを放ちながら降ってきたのは、紛れもなく星球せいきゅうだ。

 星球は、東西に分かれた両校のちょうど中心に降りてきて、円の上で停止した。魔法による制御だろう。

 そして、頭上に光がはしり、破裂音が鳴った。

 それが、試合開始の合図だった。


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