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377 『ワケありドッペルゲンガー⑪』

 ――ギィィィン!! ヤマギワの剣を何者かが弾いた。衝撃波で吹き飛び尻もちをつく。

 超スピードで走り抜けた白いマントの女は、金貸しベネット殺害現場で見た犯人の映像と一致した。


 ――ギィィン!! 慌てて立ち上がったヤマギワは、再び超スピードで引き返してきた彼女の次の攻撃を辛うじて受け流す。【音速マッハ】は、およそ1秒間、超スピードで走り抜けるスキルだ。



「うおおっ……今のミステリアスな美女は、ベネットさんを殺した犯人ですよね? いったいどういうことです? アンバーさんはベネットさんに雇われていたのでは?」


「……美女? ふむ。ヤマギワさん、やはり貴方は油断なりませんねぇ。見えている世界からして異質なようだ」


 ヤマギワが、白いマントの女――クリスティア・ハイポメサスの【音速】の剣撃と衝撃波にまごついている隙に、クモ男アンバーは体勢を立て直していた。切り落とされた左腕をクモの糸で繋いで固定し、その上から回復魔法を自らほどこしている。

 

 そうはさせるかと、距離を詰めようとするヤマギワの周囲に座布団ざぶとんほどもある数匹のクモがぼたぼたと降って湧いた。アンバーのスキル【眷属召喚けんぞくしょうかん】で呼び出されたポイズンスパイダーの群れである。



「見えている世界? 異質? ……ちょっと何言ってるか解んないですけど、逆ってことですか? あの犯人の美女とアンバーさんが仲間ってことは……、始めから利用されていたのはベネットさんの方だったとか? ――で、用済みになったから始末した的な……!?」


「さぁて、ベネットさんの方もウチのビジネスに一枚()みたいと思ってはいたんでしょうが、いかんせん善人過ぎたんですねぇ。”通いでもいい”なんてぇのは甘い考えだとは思いましたが、悪くない手でしたよ。ヤマギワさん、貴方さえ現れなければねぇ?」



「おれが現れなければ……、ウルラリィさんは借金を肩代わりしてもらうため諜報部ちょうほうぶへ自ら通いつめることになっていた?」


「無理矢理に連れくる必要もなかったでしょうねぇ」


 【音速】で移動するクリスティアに対応するため、ヤマギワはスキル【遅滞ちたい】を温存した。

 『不浄の剣』の効果【マジックコーティング】で赤い光の刃を伸縮させ、ポイズンスパイダーを一匹ずつ刺し貫くヤマギワ。その間も、クリスティアへの警戒はおこたらない。



「……?」


 しかし、クリスティアからの次の攻撃はなかなか来なかった。







(……気のしぇいでしょうか? 今、あの小しゃい方がわたしゅのことを「ミしゅテリアしゅな美女」と言ったような……? そ、そんなましゃか……き、きっと、カしゃリナしゃんのことを言ったに違いありましぇん。間違えちゃだめクリしゅティア! いつだって早とちりの勘違いで恥ずかしい思いをしてきたじゃない? だってだって、わたしゅが美女だなんて……え!? 今、確かに「犯人の美女」って……う、うしょ……しょんな……犯人と言えば、わたしゅしかいないじゃない!? わたしゅのことよねぇ!?)





 ああ不味い……と、アンバーは思った。

 クリスティア・ハイポメサスは容姿について自己評価が低い。


 実際、異世界基準で彼女は十人中六人がブスと、三人が普通とカテゴリーするぐらい容姿で、彼女を抱きたいとまで思う男はアンバーのような限られた審美眼しんびがんを持つ者に限られた。

 また、”呪い”により前歯が抜けてからは、異性との交流はほとんど無い。


 しかし、彼女とて年頃の乙女である。ふとした瞬間に、本能が男を求める。

 ほんの些細ささいな優しさや軽い褒め言葉でも容易たやすく恋に落ちてはむくわれず、ますますコンプレックスをこじらせてゆく。


 そんな彼女を、ヤマギワは意図せず「美女」としょうした。

 アンバーはヤレヤレと嘆息たんそくする、きっとヤマギワへの次の攻撃は当分見込めないだろう。  

 



 ***




 かつて「伝説のスケバン」と呼ばれたスズカ・シリカゲルの青春は、ケンカとセックス、ダンジョンと共にあった。


 夜、寄宿舎を抜け出しては、仲間達と大迷宮の低層階に入りびたり、ゴブリンやオーク、コボルトを好んで狩った。人型はしているが人とは、自分とは少し違うみにくい魔物達をしいたげることに言い尽くせないたかぶりを感じ、時には生け捕りにした魔物達を使ってアブノーマルな行為にふけることさえあった。

 絶倫ぜつりんで知られるオークをも泣かせた「伝説のスケバン」スズカの勇名は、数多あまたの名勝負にいろどられ、今なお王都の不良達の語り草である。


 もじゃもじゃ頭のマデリンを「もじゃリン」とさげすはずかしめ、執拗しつように集団から排除しようとし続けたのも、ただそんな嗜虐趣味しぎゃくしゅみ発露はつろであったのかもしれない。

 

 要するにほんの数年前、下級神官だった頃のマデリンをイジメていた中心人物こそスズカである。



 月日は流れ、大人になった二人の立場は変わった。

 スズカは諜報部の新人を指導する教官となった。

 「元ヤン先生」として教え子達の信頼と尊敬を集めるスズカ。これまでの彼女の素行を考えれば、驚くべきサクセスストーリーであると言えるだろう。

 ただ、貧しい農場の娘に生まれ、ネムジア教会の象徴たる聖女にまで成り上がったマデリンのシンデレラストーリーに比べれば少しだけ見劣りする。


 立場が変わりスズカは、これまでマデリンにしてきたことへの報復を恐れた。

 

 しかし、結局それは杞憂きゆうに終わる。

 過去のことなど何も無かったかのように微笑み、真っ直ぐ前だけを見据えて赴任先ふにんさきであるランマ王国支部へ旅立って行った聖女マデリン。

 その後ろ姿を物陰から見送るスズカの瞳には、ドス黒い感情が渦巻いていた。


 そんな因縁いんねんの二人が今日こんな場所で顔を合わせることになったのは、運命のいたずらか女神の罠か。





「相変わらず不格好なアタマとチチだな、もじゃリン」


「先輩の方こそ、ぜんぜんさっぱりお変わりなくー」


 筋肉質で痩せ型のスズカにとって、マデリンの豊満な乳房もまた憎悪の対象であった。もちろん、それはマデリンも承知の上だ。

 マデリンは辛い日々を、ヤマダから貰った言葉を胸に乗り切った。かと言って、スズカを許せるわけもない。

 ここぞとばかりに、胸を張って見せるマデリン。



「ちっ、もじゃリンのくせに調子に乗りやがって、何が聖女だ! チンタラ生きてたアンタに、たまたま運良く【神託しんたく】スキルが出たってだけだろうがっ!! めんじゃないよ!? タイマンだっ!! このアタシが、タイマンはってやんよ! まさか逃げやしねぇよなぁ? 聖女サマよぉ!?」


「タイマンですね? 初めからそのつもりですが、じゃあ、まあ、では早速――」



「ちょっと待ちな! 魔法は無しな!? おいおい、まさか生身の人間に大魔法ぶっ放す気じゃないよな!? 慈悲深く高潔な聖女サマが、そんなことするはずないよなぁ!?」


「……はぁ、じゃあ、じゃあまあいいですよ? どっちにしろ私、攻撃系の大魔法なんか持ってませんけど――そしたら、じゃあ、もういいですか?」



「待ちな! 武器も無しだ! 生身のコブシでやり合って、どっちが上かはっきりさせんだ! それがタイマンってもんだがろうがァン!?」


「……知りませんよ、そんなローカルルール」




 ***




 ジェイD・バックは犬耳の獣人である。ドリィ達姉妹とは同族で、遠い親戚にあたる。

 まだ幼かったオードリィは憶えていないが、ウルラリィは子どもの頃一緒に遊んでもらったこともある。

 人族の領域で暮らす少数の魔族は差別的扱いを受けることも多く、同族同士助け合って生きてきた。

 だから今回ウルラリィにふりかかった問題も、傭兵として力を付けた自分が解決するべき問題と彼は決心していた。一族の大事を前に一人だって欠けることは許されない、例え相手が巨大な宗教組織や女、子どもであったとしても――と。





「ならば、その魔石ごと削り取るまで。俺の剣は、【範囲攻撃】で【二回攻撃】だ……!」


 百人斬りの二つ名を持つ傭兵ジェイD・バックは、巨乳のウロコ嬢カサリナと羽毛混じりの白髪少女エリナと対峙たいじしていた。カサリナの吐き出す【溶解液】の射程、およそ6m外からスキル【範囲攻撃】と【二回攻撃】で二人を同時に狙う。

 しかし、カサリナはエリナをかばい、ジェイDの攻撃を一身に受け続ける。



「ぐぎゃぁぁぁぁ~~~~~!!!!」


 白い肌を繰り返し切り裂かれ、大空洞にカサリナの悲鳴が響く。

 その背中で、震える少女エリナ。

 

 カサリナはヒドラの特性【超回復】を所持し、斬られた傷を延々と回復し続けるが、身体は既に血まみれだった。また、ズタズタになった服までは修復されないため、ほぼ全裸でジェイDの連続攻撃を受け続けている。


 右胸に埋め込まれた魔石を砕けば【超回復】の特性は失われるはずだが、そのためには【範囲攻撃】で射程を補ってもまだ少し浅いと感じたジェイDは、一歩距離を詰めた。



 ――ゲボシャーーー!! カサリナはそれを見逃さず、口から黄色い【溶解液】を吹き付けた。

 慌てて飛び退くジェイD。右胸を狙った攻撃は、カサリナの両手首を切り落としたものの、乳房の奥の魔石までは届かなかった。

 カサリナの両手首から先が切断面からにゅるんと再生する。


 ジェイDは、両手に装備している曲剣が溶けて刃こぼれしていることに気付いた。



(……ちっ、再生できるからといって痛みが無いわけでもあるまいに)


 その証拠に、斬られる度にカサリナは悲痛な声を上げ続ける。

 それでも、幼い少女エリナをかばって立ち続ける彼女の姿に、ジェイDは敬意をはらうべきと思い始めていた。正直甘く見ていた、全力でやろう――と。


 刃の溶けた両手の曲剣を手放すと、手の中に一本の大剣が出現する。

 ジェイDのスキル【武具生成】は、使用期限20分間の使い捨て武具を自在に生成する。

 手放した曲剣は、地面に落ちる前に消失した。 


 この大剣でもまだ遠い――と、ジェイDは前へ、【溶解液】の射程内へと踏み込む。



(ヒドラの倒し方なら知っている。傷口を焼けば再生しないとか……だが、俺には火属性の適性はない。そもそも魔法は苦手なんだが――、そうも言ってられんか……)


 ジェイD達、獣人――魔族は生まれながらに魔石を右胸に持つ。

 魔族はレベル8毎に通常のスキルの外、魔法スキルをその魔石に宿す。

 獣人は元来MPも低く魔法を得意とする者は少ないが、そんなことには関係なくステータスに魔法スキルは刻まれる。


 

 ――ゲボっ!!?

 カサリナの吐き出した【溶解液】が、ジェイDの大剣の一振りで氷の粒となった。大剣に施された魔法【氷属性付与】による効果である。

 続けて【二回攻撃】! カサリナの口の中に大剣が叩き込まれ、あごから下を斬り飛ばすと同時に傷口を凍らせた。





 勝負あったかに見えたが、まだカサリナの目には闘志が宿っていた。

 ズタズタに切り裂かれた身体、むき出しの乳房――。

 

 カサリナは、少し垂れた自身の巨大な乳房を両腕で上下から強くしぼった!

 ――プシャァァァ!! 至近距離のジェイDへ母乳のように噴射される【溶解液】のシャワー!!





 シューシューと音を立てて、【溶解液】を被ったジェイDの大盾が溶けていた。   

 間一髪、スキル【武具生成】で生成した大盾は、カサリナの切り札である乳房からの【溶解液】を受けきった。

 ジェイDがボロボロの大盾を手放すと、地面に落ちる前に消えた。


 顎を失い、声も無く絶望するカサリナ。

 このまま彼女の魔石を砕けば、ヒドラの特性【超回復】は失われるだろう。

 ジェイDは一瞬躊躇(ちゅうちょ)する。せめて、カサリナの顎の回復を待つべきか――と。

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