481 予選5日目――デッキよ、おれの声に応えてくれ!!
ダウンフォール・デュエル――それは、フィールド魔法「落下する世界」の内部で、落下しながら行われる変則デュエルである!
1ターンごとに深度カウンターが加算され、7ターン目、深度×7に達した瞬間、地面に叩きつけられて双方ともにお陀仏! 故に、6ターン以内に決着をつけなければならない!
更に、魔法カードを使用する際にはライフポイント1000をコストとして支払う必要がある。
また、深度×2以降は、手札を墓地に送ることで相手のライフポイントに500ダメージを与えるといった、決着を加速させる特殊ルールが適用されるのだ!
底の見えない暗黒の空間をどこまでも落ちていく。
遊園地エリアボスのランドルフ和尚は、小舟の上に仁王立ちして。
対するおれは、群青色のドラゴン、エブリィさんの背にまたがって。
およそ10m間隔、互いに平行を保ちつつ、落下しながら対峙している。
2ターン目――「落下する世界」の深度カウンター×2
>ランドルフ和尚のライフポイント7700
>ヤマダのライフポイント6000
相手フィールドには、サーバンツが2体。
>☆8「夢世界の住人 ガスト」ATK2800、DEF2100
>☆6「シルバスタドラグーンのピンクライダー・メイダ」ATK2300、DEF2000
どちらも強力なサーバンツだけど、特に「ガスト」の効果、”倒したサーバンツを自分フィールド上に墓地から特殊召喚する”がイケナイ!
そのせいで、元々はおれのサーバンツだった「ピンクライダー・メイダ」が奪われて、敵としてあっちの陣営にいるのだ。敵に洗脳されてしまったメイダちゃんが、色々されてしまう妄想がはかどる。
一方で、こちらフィールドにはサーバンツなし。
なんとかしないと……。
「おれのターン、ドロー! 手札から、『シルバスタドラグーンの鬼副長バッシュ』を召喚! 『鬼副長バッシュ』の効果発動! このサーバンツの召喚・反転召喚に成功したとき、デッキまたは墓地から☆4『青色飛竜サファイア』を手札に加える!」
シュピーン!
>☆4、ATK1900、DEF1500
気難しそうなサムライファイターが召喚された。
長身で黒髪ロン毛、おねえさま方に非常に人気がありそうなタイプだ。
しかし、彼もまた、ランドルフ和尚に洗脳されて、ケツの穴をアレされてしまうのだろうか……!?
いいえ、そんなお耽美を許すおれではありません。
「――手札から、魔法カード『合体』を発動! フィールド上の『鬼副長バッシュ』と手札の『青色飛竜サファイア』を合体して、☆8『シルバスタドラグーンのブルーライダー・バッシュ』を合体召喚!」
シュピピーン!
鬼副長と青色飛竜が合体。「ブルーライダー・バッシュ」となった。
要するに、青い飛竜サファイアに騎乗した鬼副長バッシュである。
がんばれ、鬼副長! 洗脳に負けるな!
>☆8、ATK2500、DEF2000
あれ? 「ガスト」より弱い? と思うかもしれないがそうではない。
「ブルーライダー・バッシュ」の効果は、フィールド上の「シルバスタドラグーン」と名の付くサーバンツ1体につきATKが300アップするというもの。
相手フィールド上の「シルバスタドラグーンのピンクライダー・メイダ」の分も合わせてATKが600上昇するので、結果的に今の「ブルーライダー・バッシュ」のATKは3100となるのだ。
アチョー! 先ずは、「夢世界の住人 ガスト」を撃破!
ATKの差分、300がランドルフ和尚のライフポイントから削られた。
「ガスト」を倒したら、「ピンクライダー・メイダ」が正気に戻ってこっち陣営に寝返ったり、せめて墓地に戻ったりしないかなと思ったが、相手フィールドに残り続けている。
彼女の洗脳は根深いようだ。
あ、そうそう、忘れるところだった。
手札から一枚墓地へ送って、和尚に500ダメージもくれてやる。
>ランドルフ和尚のライフポイント7700→6900
>ヤマダのライフポイント6000→5000
……和尚のライフポイントを合計800削ったけど、魔法カード「合体」を使ったせいで、おれのライフポイントは1000削られている。
赤字である。
「――でも仕方なかった。ターンエンドだ」
3ターン目――「落下する世界」の深度カウンター×3
「ろっこんしょうじょう!! 拙僧のターン、ドロー!! ……ふーむ。手札から、☆3『ポニーテイルの案内人 フリーダ』を召喚するなり!!」
「え?」
シュピーン!
>☆3、ATK1200、DEF1000
相手フィールド上に、フリーダさんが召喚された。全裸である。
しかし彼女は、ランドルフ和尚と共に小舟の上に乗っている。
フリーダさんが二人? てか、なんで表側表示?
「ナニを驚くことがあろうか!? この女、フリーダは、拙僧によってココロもカラダも掌握されておる故に!! 傍らにあるのがココロ!! フィールドに召喚したのがカラダなり!!」
ココロもカラダも……だとぉ!?
「姉様、シュミ悪っ……」
ぼそりとつぶやいたのは、レベッカちゃんだ。
彼女は、エブリィさんの右手の中から、このデュエルを見守ってくれている。
「そうさの、妹御のレベッカ嬢もいることだし、この女、フリーダのことなど少し語ってしんぜよう!!」
「なっ!? や、止めてください!!」
これまで、ずっとうつむいていたフリーダさんが、突然我に返ったように声を発した。小舟の上、ココロの方のフリーダさんだ。
しかし、ランドルフ和尚に「黙りなさい」と一言命令されると、また下を向いて押し黙ってしまう。
……なんだこれ? DVってやつか?
「そもこのフリーダは、モガリア教会の熱心な信徒よ。遊園地エリア、『ホーンテッドテンプル』に併設の道場にも三日と空けず足繁く通って来ておったものよ。――ときに、この『ケルピーランド』が数年前まで、とある子爵領であったことは知っておるかな? 十年前に蔓延した流行病によって衰退し、他領に吸収されるまでに数多の血が流れ――フリーダが将来を誓い合った男も帰らぬ人となったそうな。女神モガリアは死と再生を司るといわれておる。道場通いも、亡き男の死を悼み、来世での健やかな再生を願ってということであれば聞こえはよいが……こと、拙僧の『サキュバス・ストリート道場』では事情が違ってくる――」
――とか、ランドルフ和尚が話している間も、世界は落下し続けているのだ。
まあ、ターンが進まなければ、永遠に地の底には辿り着かないんだろうけど。
和尚の話はまだ続く。
「――夢の中ならなんでもできる。本当のモガリア教会ではできないことも、拙僧の『サキュバス・ストリート道場』ならばできてしまう。死んだ男と逢瀬を重ねることも、なんでもできる。教えによれば、死者の魂は五十日を過ぎれば輪廻の輪に還るという。それを繋ぎ止めるが故、フリーダは男の魂の【カード化】をケルピー様に願ったのだが――カラダを失った魂がどれほど正気でいられるものか? 男の魂がなにもかも分からなくなる前に、拙僧がカラダ役になることで正気を長らえた。――しかし一方で、日々の業務で開発されていくフリーダはカラダのうずきをこらえきれず、男の魂を憑依させた拙僧とまぐわい、まぐわい、まぐわい――やがて男の魂がすっかり霧散して、どこにもなくなってしまった今も、拙僧とまぐわい続けているといったところか。なんとも浅ましい、裏切りものよ。ほれ、見ろ!! 見るがいいレベッカ嬢、これが姉だ!! 男を裏切った、好きモノのカラダだ!! ほれ、見ろ!! ほれ!! ほれ!!」
年の差カップルは、自分の彼女のことを見せびらかしたくなるのだろうか?
言われなくても、見るけどね。
ところで、当のレベッカちゃんは――
「で、オチは?」
――とのこと。
ランドルフ和尚は、少し憮然とした態度で口をつぐむ。
おそらくは、思っていた反応ではなかったのだろう。
デュエルに戻る。
和尚は、フィールド上の「シルバスタドラグーンのピンクライダー・メイダ」を守備表示に変更。
続けて、カードを一枚墓地に送り、おれのライフポイントを確実に500削ることも忘れていない。
「諸行無常のターンエンドなり!!」
「おれのターン、ドロー! ……手札から、『シルバスタドラグーンの弓使いゼンガー』を召喚! 『弓使いゼンガー』の効果発動! このサーバンツの召喚・反転召喚に成功したとき、デッキまたは墓地から☆4『黒色飛竜オニキス』を手札に加える!」
シュピーン!
>☆4、ATK1800、DEF1200
おっと、また長身で褐色だ。てか、弓使いのハンサムが召喚された。
この人の場合、おねえさまにもおにいさまにもモテそうなタイプかも。
きっと、鬼副長バッシュとは掘ったり掘られたりする仲に違いない。知らんけど。
それはさておき、こいつの場合、手札に相棒の飛竜はあるが、残念ながら魔法カード「合体」が手元にないから、このまま徒歩でいく。……まあ、あったとしても、ライフポイント1000のコストを支払うのがそろそろキツイからな。
さて、バトルフェイズだけど、攻撃表示のフリーダさんがあからさまに怪しい。
彼女の持つスキル【認識交換】から推察するに……カード効果は、攻撃対象を変えるとか? 伏せカードも気になるけど、今までずっと無反応だったし通るだろ――?
おれは先ず、「ブルーライダー・バッシュ」で守備表示の「ピンクライダー・メイダ」を攻撃、破壊。――よし、通った。敵フィールドには、全裸のフリーダさんを残すのみ。これなら、攻撃対象を変更されることもないだろう。
続けて、「弓使いゼンガー」で「案内人フリーダ」を攻撃。フリーダさんには、できれば嫌われたくないけど……悲しいけどコレ、デュエルなんよね。
――よし、通って……ない!?
ほぎゃあああああ!!
おれの「弓使いゼンガー」が破壊!?
ライフポイント、マイナス1000!?
な、なんで!? 敵方の「案内人フリーダ」ATK1200を攻撃したはずなのに、なんで味方の「ブルーライダー・バッシュ」ATK2800を攻撃したの!?
……まさか、攻撃対象の変更?
「因果応報・天罰覿面なり!! 『案内人フリーダ』の効果発動!! 自身への攻撃を、その攻撃するサーバンツ以外の他のサーバンツに移し替える!! その対象は敵味方関係なし!! これぞ【認識交換】なり!!」
くそっ、やられた……!
だけど、勝ちを焦って「ブルーライダー・バッシュ」で攻撃しなくてよかった。
おれは、手札から一枚墓地に送り、相手のライフポイントを500削る。
更に、魔法・罠ゾーンに追加でもう一枚カードを伏せて――ターンエンドだ。
>ランドルフ和尚のライフポイント6900→6400
>ヤマダのライフポイント5000→3500
……また赤字か。
ここから、どうにかならないものか。
フリーダさんとエッチなことができないものか。
ランドルフ和尚がいけるなら、おれだっていいんじゃなかろうか?
目の前に、すぐそこに、全裸の美女がいる。
思えばいつもいつも、もう少しのところで邪魔が入ったりして、そういう運命なのかと、どんなにがんばっても、童貞だけは捨てられないことになっているのかと思い始めていたのだが……いや、まて。
まてまて。ここは現実じゃない。夢の中だ。
夢の中ならば、もしかしてどうにかなるんじゃなかろうか?
呪われた運命をくつがえす、可能性の大魔法がここにはあるんじゃなかろうか?
『……リーダー、また、ちんちんが大きく、なってる……!』
「こらー! おっさん、エブリィに変なモン擦りつけるな! また妊娠したら、どう責任とるつもりだ!?」
「あ、ごめんなさい。違うんです。擦りつけてません」
4ターン目――「落下する世界」の深度カウンター×4
「ろっこんしょうじょう!! 拙僧のターン、ドロー!! 更に、ドロー!! 『落下する世界』深度カウンター×4の効果解禁!! ここからは、互いに1ターン2ドローなり!!」
「なっ!? 1ターン2ドロー!?」
「これを待っていた!! ここから、『ダウンフォール・デュエル』は終局に向けて更に加速するなり!! 先ずは手札から一枚、墓地に送って、諸行無常の効果ダメージ500を与える!!」
ぐえっ……!
>ヤマダのライフポイント3500→3000
そして――
「――伏せカードオープン!! ライフポイントを1000支払い、魔法カード『フサン七密経典の祭祀』を発動!! フィールド上の『ポニーテイルの案内人フリーダ』を苗床にして、デッキから☆10『夢世界の大怪鳥シャンタク』を特殊召喚!! 『大怪鳥シャンタク』の効果により、『案内人フリーダ』は装備カードとして『大怪鳥シャンタク』に装備!! 『大怪鳥シャンタク』のATKとDEFは、苗床となった『案内人フリーダ』のATKとDEFの数値分加算される!!」
バチューン!!
謎の魔導書によって、とにかく巨大な鳥が出現した。
どれほど巨大かといえば、全高20mのエブリィさんよりも更にデカい。
恐ろしいのは、頭部だけが人間の女の顔で……フリーダさんそっくりであること。
そして凶悪なステータス。元々、ATK3000、DEF3000であるところに、「ポニーテイルの案内人フリーダ」のステータスが加算されて――
>☆10、ATK4200、DEF4000
――となっている。
「――更に、手札から☆4『夢世界の住人 ナイトゴーント』を召喚!! 『ナイトゴーント』の効果発動!! このサーバンツの召喚・反転召喚に成功したとき、墓地から『夢世界の住人』と名の付く☆2以下のサーバンツ1体を特殊召喚することができるなり!! 拙僧は、墓地から☆2『夢世界の住人 ムーンビースト』を特殊召喚!!」
シュピーン!
黒い羽根が背中にある、手足の長い怪人。
ヤツが「ナイトゴーント」か――。
>☆4、ATK1600、DEF800
シュピーン!
続けて特殊召喚されたのは、中型犬サイズの灰色ガマガエル。
これが「ムーンビースト」――。
>☆2、ATK1000、DEF1000
……いかん。
ランドルフ和尚め、勝負を決めにきたか……!?
「喝ーっ!! バトルフェイズなり!! 『大怪鳥シャンタク』で、『ブルーライダー・バッシュ』を攻撃!!」
うぎゃぁぁぁぁぁ!!
おれのサーバンツ「シルバスタドラグーンのブルーライダー・バッシュ」が、ランドルフ和尚のサーバンツ「大怪鳥シャンタク」に倒された。
「ブルーライダー・バッシュ」のATK2800と「大怪鳥シャンタク」のATK4200の差分、1400がおれのライフポイントから削られる――
>ヤマダのライフポイント3000→1600
……痛い! 痛すぎるダメージ!
ついでに、大怪鳥の顔だけがフリーダさんで……コワい!
そして、あちらにはまだ2体のサーバンツが攻撃を控えている。
「――トドメ!! 『ナイトゴーント』で、ダイレクトアタックなり!!」
「まだだっ! 伏せカード、オープン! 罠カード『子猫召喚機』を発動! 自分フィールド上に、相手フィールド上に存在するサーバンツと同数の☆1『子猫トークン』を守備表示で召喚する!」
シュピーン! シュピーン! シュピーン!
デュエル開始直後から、ずっと伏せてあった罠カードを発動した。
おれのフィールド上に、小汚い子猫が3匹現れる。
>☆1、ATK0、DEF0
なんの力もない、か弱い子猫たちである。
和尚のサーバンツ「ナイトゴーント」と「ムーンビースト」によって、すぐさま2匹が無残に惨殺されてしまうが、ライフポイントへのダイレクトアタックは防ぎきることができた。合掌。
「おのれ、ヤマダ・オゲレツ・ハチロータ!! 夢世界の住人に、よりによって猫殺しをさせるとは!! ヒレツなり!!」
「攻撃を指示をしたのは和尚でしょう」
「えんがちょ!! えんがちょ!! 決着を先延ばしにしたところで、命運は既に尽き果てているぞ!! なにをどうあがこうとも、無駄なり!! 無駄なり!! ……ターンエンドなり!!」
>ランドルフ和尚のライフポイント5400
>ヤマダのライフポイント1600
……ランドルフ和尚の言うとおり、おれの命運はほぼ尽きかけている。
この状況をひっくり返す手は……実のところ一つだけ思い当たる手があるのだけど、必要なカードがまだ手札にないのだ。
てか、次のドローでディスティニードローしなければ、ライフポイント的にもう後がない。2枚ドローなのが、せめてもの希望か。
……だけど、こんな大事な時ほど不幸を引き当ててしまうのが、おれなんだよな。
ああ、ドキドキしてきた……。
「おれのターン……ど」
「「あらぁん、ヤマダくぅん、ピンチなのかしらぁん?」」
ドローしようとした直前、肩に乗せている肉ゴーレムが不意に声をかけてきた。
褐色スケベエルフのドミニクさんである。彼女は今、カジノエリアでボスに挑んでいるはずだけど……?
「ドミニクさん、そっちは大丈夫なんですか?」
「「大変よぉん。デュエルが得意なメンズと離れ離れになっちゃってぇん。でもぉん、カジノエリアのボス、カラビナちゃぁんの腕前もぉ、ワッチとどっこいどっこいみたいでぇ、のんびりやってるわぁん」」
なるほど。
金色のスリングショット水着の大女、カラビナ様とデュエル中なのね。
てか、デュエルが得意なメンズってなに……?
「喝ーっ!! 遅延行為であるかヤマダ・オゲレツ・ハチロータ!! デュエル中のおしゃべりはマナー違反と知れい!!」
「あ、すいません」
ランドルフ和尚に怒られてしまった。
和尚の言うとおり、おしゃべりはマナー違反かもね。
「うっせぇ!! テメーだって、さっき関係ねぇ長話しただろうが!!」
『消し炭に、すっ、ぞ……?』
うちのレベッカちゃんとエブリィさんのガラが悪い。
でも仮に、エブリィさんのドラゴンブレスで和尚を消し炭にしたら、このデュエルを無かったことにできるのだろうか?
……いや、暴力行為のルール違反で、記憶リセットのうえ、宿屋に強制転移が濃厚か。
「……手短にするなり」
なんか、和尚が折れた。
まあ、死なないとは分かっていても、消し炭にはなりたくないだろう。
「「――要するにぃ、ヤマダくぅん、次のドロー次第で勝負が決まるからぁ、怖じ気づいてるのねぇん」」
「いえ、ただ、ここって夢の中だし、気の持ちようで世界にちょっと干渉できたりしないかなって思いまして。……例えば、運気が急上昇したり、引きたいカードを自由自在に引けたりしないのかなって」
「「……なるほどねぇん、その発想はなかったわぁん。案外ヤルわね、ヤマダくぅん」」
「えへへ、そうっすー?」
「「でも、きっとそれは無理なのねぇん。そういうことができないようにぃ、魔王ケルピーはこの世界をルールでがんじがらめに縛っているのだと思うわぁん。でなければぁ、みんなが同じ夢を見続けるなんてありえないから……」」
「やっぱ無理か」
「「逆に言えばぁ、ルールにさえ則ればぁ、世界に干渉できちゃったりするのかもねぇん」」
「え? どういうことです?」
「「例えばぁ、胸を肥大化させる薬があったとするわぁん。みんながそれを強く信じればぁ、ちくりちくりってちょっと注射するだけで、胸が巨大化するみたいなぁん?」」
「なるほど、強く信じれば……! た、例えば、おれが高校生だったときにカワイイ彼女がいて、なんとなく自然な感じで童貞卒業してました――と、おお! そういえばおれ、もう童貞じゃなかったわ! いやあ、あれだよ、オナニーなんてしたことねぇし……!」
「「違うわぁん。大勢の認識とぉ、魔王なみに強い信念がなければぁ、この世界は揺るぎもしないわぁん。これからめくるカードの裏側なんて、誰にも分かりっこないからぁ、ヤマダくぅんだけがどんなに思い込んだってぇ、カードの絵柄は変わりっこないわぁん」」
「ですよね。オナニーめっちゃします」
「「だからぁん、むしろイケそうなのわぁ、運気上昇の方ねぇん。なんでもないオマモリがあったとしてぇ、それを揺るぎない信念で本物の運気上昇のオマモリにしてしまうのよぉん」」
「や、やったぜ! 誰か、なんでもないオマモリを持っていないか!? …………なんでもないオマモリ、誰も持っていませんでした。無念です」
「「オマモリ、オマモリねぇん……」」
「この際、”学業成就”とか”安産祈願”とかでも、誰か持ってない……?」
「「あー、そういえばぁ、処女の陰毛って、勝負ゴトとかのオマモリになるって伝説なかったかしらぁん? そのへんにぃ、処女はいないかしらぁん?」」
「レベッ……あ。エブリィさん、ちょっとお願いしたいことがありまして、エヘヘ……」
『毛……ない……』
「そ、そっかー。残念です」
「おいコラ、おっさん! なに、アタイを無視してんだよ! 気ぃ使ってんじゃねぇよ! カラダ本体は処女のまんまだって言ってるじゃねーか!」
うーん。レベッカちゃんの【カード化】しているカラダだけはまだ処女というのは、まだ御利益あるのだろうか? なんとなく、ありがたみが……いや、もちろん美少女の陰毛に貴賤はないが、御利益的にはどうなんだろう……?
「「とりあえず、それで間に合わせるしかないんじゃないのぉん? レベッカちゃぁん、陰毛を一本抜いて、耳ゴーレムに渡してねぇん」」
「耳ゴーレム? え!? な、なんじゃコリャぁ!? いつからアタイにくっついてた!?」
いつからって、メリュジーヌ城でドミニクさんに会ったときからなんだけどね。
レベッカちゃんの髪の中から這い出した耳ゴーレム。それは、耳に直接手足の生えた盗聴用の肉ゴーレムである。
耳ゴーレムは、裸の彼女が股間からブチッと引き抜いた縮れた毛を受け取って、ドラゴンの腕をちょこまかと駆け上がっておれのところまでやって来た。
レベッカちゃんの蜂蜜色の陰毛を、耳ゴーレムから受け取るおれ。
……ほほう、これが……スンスン。
「こ、コラ!! おっさん、てめぇ!! 早速スンスンするんじゃねぇ!!」
「「あとわぁ、ヤマダくぅんしだいよぉん。揺るぎない強い信念で、ただのビッチの陰毛を、女神のそれに変えるのよぉん」」
誰がビッチだコラ――などと、愉快なレベッカちゃん。
おれは蜂蜜色の陰毛を見つめ、金色の草原を夢想する。
女神……には、あまり神秘的な気持ちが湧かないので、ジブリ系ヒロインの陰毛だとでも思っとこうか。そのもの青き衣をまとい金色の野に……。
揺るぎなき信念、賢者モード!
ついでに、スキル【勇気百倍】発動!
おれの身体が、金色の勇気の光に包まれる。
「デッキよ、おれの声に応えてくれ!!」
「……ん!? おっと、やっと再開かヤマダ・オゲレツ・ハチロータ!! 待ちかねたぞ!!」
「あ、すいません。お待たせしました和尚――ディスティニードロー!!」
こうして、ジブリ系ヒロインの陰毛でパワーアップしたかもしれないおれの運気は、まるで必然であるかのように、勝利のためどうしても引くべきカードを引き当てた。
「――きたぜ」
どうだ! アタイの陰毛のパワーは――などと、むしろこっちが恥ずかしいですレベッカちゃん。黙ってたら美少女なんだけどね。
「おれは手札から、☆4『ガンガンズガン団のガンサク』を召喚!」
シュピーン!
>☆4、ATK1400、DEF1100
赤髪のマイルドヤンキーが出現する。
……ハーレム野郎が、まさかテメーに頼ることになるとは思わなかった。
「――バトルフェイズ! 『ガンサク』で、『ナイトゴーント』を攻撃!」
ATK1400の「ガンサク」で、ATK1600の「ナイトゴーント」を攻撃して自滅! ライフポイントに200ダメージ!
>ヤマダのライフポイント1600→1400
「――『ガンガンズガン団のガンサク』が戦闘で破壊されたときに効果発動――【アンラッキースケベ】! デッキ又は墓地から、☆2『ガンガンズガン団のノノ』、☆2『ガンガンズガン団のセリカ』、☆2『ガンガンズガン団のアンネローゼ』を手札に加える! ――続いて、伏せカード、オープン! 罠カード『生命活動代替ユニット』を発動! 墓地から『ガンガンズガン団のガンサク』を特殊召喚! 『ガンサク』で、『ナイトゴーント』を攻撃!」
再び、「ガンサク」自滅! ライフポイントに200ダメージ!
>ヤマダのライフポイント1400→1200
「――『ガンガンズガン団のガンサク』が1ターンに2度破壊されたときに、もうひとつの効果発動――【真・アンラッキースケベ】! 手札から可能な限り、☆2『ガンガンズガン団のノノ』、☆2『ガンガンズガン団のセリカ』、☆2『ガンガンズガン団のアンネローゼ』を特殊召喚することができる!」
シュピーン! シュピーン! シュピーン!
ショートカットで、ショートパンツの妹系斥候職ノノ。
幅広のとんがり帽子とミニスカートのツンデレっぽい魔法使いセリカ。
金髪で白いローブのお嬢様風僧侶アンネローゼ。
三人とも、
>☆2、ATK1000、DEF1000
ガンガンズガン団のハーレムメンバーがそろい踏みである。
「――ライフポイントを1000支払い、手札から魔法カード『三位一体複合詠唱・大魔法運命逆転絶対幸運圏』を発動する!」
この真っ暗な「落下する世界」に、空から暖かな陽の光が降り注いだ。
カラーン、カラーンと、どこからともなく美しい鐘の音が響き渡る。
双方のフィールド上にはなんの変化もない。
しかし、確実に何かが変わったことだけは確信できる。
魔法カード『三位一体複合詠唱・大魔法運命逆転絶対幸運圏』とは、自分フィールド上に、☆レベル、ATK、DEFがすべて同一の別サーバンツが3体表側表示で存在するときに発動できる。
……その効果は? 自分と相手のライフポイントを入れ替える。
>ランドルフ和尚のライフポイント5400→200
>ヤマダのライフポイント200→5400
「なっ、なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
「はっははっ! すげぇぜ! やっちまえ、おっさん!」
『カッコイイ、リーダー。一生、ついてく……!』
「二人とも、応援ありがとう! さて、仕上げだ! 手札から、カード一枚を墓地に送って――盛者必衰の効果ダメージ500!」
>ランドルフ和尚のライフポイント200→0
……てなわけで、おれは、遊園地エリアのボス、ランドルフ和尚に勝利した。




