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ずっこけ3紳士! はじめての異世界生活~でもなんかループしてね?(ネタばれ)~  作者: 犬者ラッシィ
第十一章 3紳士、無双したり成り上がったり、ずっこけたりする
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454 『ヒロインの条件~予選二日目、旧帝都モルガーナにて⑥~』

 その夜、『飛竜牧場ドラゴンファーム』飼育員詰所。

 当直のケーナは、夕刻に一度閉じた1番から6番、全ての竜舎の扉を再び開け放った。

 後は手はずどおり、飛竜達を男爵邸に誘導してやればいい。


 それが、二年前にケーナをこの『飛竜牧場ドラゴンファーム』に潜入させた男からの指令であった。今夜全てが決着し、彼女はここでの退屈な毎日から解放されるのだ。

 

 六つの竜舎では45体の飛竜が、夕食がいつもより遅いと苛立ち、騒ぎ始めている。

 遠く、ゴイゴスタ男爵邸二階の窓辺で、小さな灯りが規則的にチラリチラリと灯っては消えた。仲間からケーナへ、作戦開始の合図である。



「くっそ~、もうちょいだったのにヨー! どうすんだこの昂ぶりをヨー! こうなったらヨー、メス飛竜の前でオナニーして、ぶっかけてやんなきゃ気が済まねぇべー! そうだんべー!?」


「あ、兄ぃ、そんなことやってたんだなや!? すげぇだなや! ちょっとだけ尊敬するだなや!」


 そんな一番重要な、最悪のタイミングで、同僚のトンマな二人組が姿を現した。

 男爵邸で催されているパーティーにスタッフとして駆り出されて今夜は戻らないはずのフェンスとジッポーである。 

 


「お? おおー? なーんでまだ竜舎の扉締めてねーんだヨー? 当直は誰だべー?」


「あっれー、ケーナだなやー! 兄ぃ、ケーナがいるよー! おーい、ケーナー!」


 ぼと。

 ぼとっ。

 突然、二人の生首が熟れた果実のように地面に落ちた。

 続けて、首から下が崩れ落ちる。


 ケーナの操る赤い「針金」が、一瞬でフェンスとジッポーの命を断ったのだ。



「……ちっ、間の悪いヤツらだ」


 一言無感情にこぼすと何事もなかったかのように彼女は、腰に下げた布袋から「誘因玉」を取り出し――、【種火】の魔法で着火する。



 ぎゃおぅぅぅぃあぁぁぁぁ!!

 ぎぃぃ!! ぎぃぃ!!

 ぎゃうおぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!

 「誘因玉」から立ち上る煙と伴にたちこめる生臭い香りに、竜舎の飛竜45体が異様な興奮状態に陥っていく。


 魔物を呼び集めるご禁制アイテム「誘因玉」、その効果対象はドラゴン種であっても例外ではない。

 その臭いに誘われて、竜舎から溢れ出た飛竜達がフェンスとジッポーの死体をぐちゃりぐちゃりと踏み潰していく。



「腹減ったろ、アンタ達? そうら、パーティー会場はあっちだよっ!!」


 おもむろに、ケーナは「誘因玉」を夜空に向かって投げた。


 ぎゃうおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉん!!

 ぎゃうおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉん!!!!

 煙の尾を引いて、ケーナの投げた「誘因玉」が数百メートル先のゴイゴスタ男爵邸に向かって跳んでいく。

 その後を追って、45体の飛竜が次々と飛び立っていった。





 ふと思い出してケーナは、飛竜達に踏みつけられて原形をとどめていないフェンスとジッポーの死体に目をやる。



「はあ……、アンタ達の田舎臭いとこ大ッキライだったよ、……でもさ、こんなアタシに今まで良くしてくれて……はあ……、ありがとうな」


 彼女の瞳に、ほんの一瞬哀しみがよぎって消えた。

 Aランクパーティー「クレパスライサー」のケーナ。彼女の、少し長かった潜入任務が今夜で終わる。 




 ***




 ゴイゴスタ男爵邸、大浴場。

 全裸の男女があちらこちらで絡み合う大乱交パーティー会場である。


 会場を見渡せる一段高い場所に設えられた黄金色の座面にへこみのある奇妙な椅子に、この屋敷の主、ブラッケン・ゴイゴスタ男爵が腰掛けていた。


 リラックスした男爵にシャボンまみれの素肌をこすりつける四人の若い娘達は、『ガンガンズガン団』のノノ、セリカ、アンネローゼの三人と、もう一人は、潜入調査に失敗したチハヤ・ボンアトレーであった。


 彼女達は、”中毒性のある粉薬”を吸い込んだ効果によって、めくるめく快楽の波にただただ肉体を漂わせていた。エレクチアン司祭のスキル【教導】によって無理矢理叩き込まれたテクニックが、頭の中でぐるぐるまわる。


 知識としてはあるのだが実践に乏しい彼女達の奉仕はたどたどしく、経験豊富な男爵には物足りないようにも思えたが、かえってその素人っぽさがたまらなく初々しく、中年男の劣情をかき立てた。


 男爵はかつてないほど上機嫌で、ちろちろとタマ袋を舐めていたチハヤに向かって尻を向けると、「ほうれ、次は我が肛門を舐めるがいい」と言った。


 チハヤに肛門をむき出すゴイゴスタ男爵は無防備であったが、その背後でマザードラゴンの娘達四人がなにごとか押し問答しながらも、まだその場から動かずに留まり、不穏な闘気を周囲に垂れ流していた。



(……何だ? 何を揉めている? 娘達は参加しないのか? ルイーザは湯船の中だが)

(ちょ、ちょっと、シールが剥がれちゃう! 剥がれちゃううう!)


 リスピーナは、湯船の中に身を潜めて周囲の様子を窺っていた。

 彼女の狙いはゴイゴスタ男爵の命一つである。一番厄介なルイーザは男爵から離れたが、娘達四人がああもぴったり護衛に張り付かれていては……せめて一人か二人、護衛が減ってくれないかと気を揉んでいた。


 ……っぐぅ!? 突然何者かに胸を揉まれて、息を呑むリスピーナ。

 いつの間にか、湯船の中で絡み合う男女の群れに近づき過ぎていた。

 スキル【認識阻害】で存在感を限りなく薄くしてはいるものの、姿が見えなくなるわけではない。特定の個人と認識されないだけで、乳も尻も顔も丸出し丸見えなのだ。


 男女が入り乱れる中にあっては、ただの女体でしかない。



(あ……っ、ああっ、カラダがうずく……この快楽に……逆らえない……っ!!)

(え? え? な、何やってるんですか!? 触られてますよ!? 摘ままれてますよ!? リスピーナさん!? しっかりしてください!! リスピーナさん!! リスピーナさんてばっ……!!)


 リスピーナにとって誤算だったのは、アマルスキン・カムリィによって刻まれた、ヘソの下の紋様である。その紋様――【淫紋】が怪しく発光し、女のカラダを常に発情状態で維持するのだ!


 そしてもう一つ、風呂の湯に混ぜられた”中毒性のある粉薬”の影響である。その効果は、理性を吹き飛ばし、感覚は鋭敏になり快楽を増強してしまうのだ!



(頭の中で、彼女が私の名を呼んでいる。こんなことに巻き込んで本当にスマナイ……だけど今は、この快楽に身を任せていたい……)


 リスピーナは、誰とも知れない男達にカラダをまさぐられながら、身体の持ち主に対して「スマナイ」と繰り返し謝り続けるのだった。




 ***




「……ツモ! リーチ、ツモ、ドラ3で満貫です!」


「え? ……なっ!?」



「おーほっほっほ!! おおーっほっほっほ!! 運気逆転! 【豪運】は裏返る! 子の二人は2千点、親のリオ様は4千点の負担でしてよ!?」 


 舞台上でマージャン卓を囲む少女達。

 内一人、キャサリンの高笑いが、ギャンブル会場に響き渡る。


 ドレス、ブラ、ショーツを掛けた脱衣マージャンは佳境を迎えていた。

 全裸まで残すところ黄色いブラのみとなったキャサリン。ショーツのみを残す青色の少女。

 一方、実は運営側の人間だった二人、黒い少女リオはドレスを失った下着姿。スキル【豪運】を持つ白いドレスのコッコは未だ減点なし。


 このゲームは運営側に仕組まれたとおりに、キャサリンと青色の少女が全裸を晒し、発情したゴブリンの待ちうけるローションプールに落ちるばかりと思われたが、ここにきて状況が変わり始めていた。


 スキル【豪運】を持つコッコ。彼女にマージャンを教えたのはリオである。

 物覚えの悪いコッコであったが、難しいルールは理解できなくとも放っておけば勝手にツモって高得点をあがってしまう。キャサリンと青色の少女が残り一枚となった時点で、リオとコッコがギリギリ勝利するというゲームの演出は完成したも同然であった。

 

 完成したも同然であったはずなのに――と、今度はリオが歯噛みする番だった。



(なに!? なんだったの、あの巨大な獣の手は!? 今のが、万能スキル【サルの手】だというの!? 「運気逆転」ですって!? そんなことがありえるの!? だとしたら、コッコの【豪運】は……畜生! こんなことなら、攻撃スキルだけでなく全てのスキルを禁止にしておけばよかった……!)


「リオちゃん? リオちゃん!」


 コッコに呼びかけられたリオは、思考の深みから引き戻されて我に返った。

 観客達から、「さっさと脱げ!」とヤジが飛ぶ。



「ずいぶん焦らしますわね。さっさと晒したらどうですの? そのご自慢の垂れ乳を」


「……くっ」


 キャサリンが満貫8千点をツモ上がりしたことにより、親のリオは半額4千点の負担となる。3千点以上の減点は脱衣一枚のルールであった。


 胸を晒す程度のことで羞恥を感じていると思われるのはリオのプライドが許さない。

 だから、ぞんざいにむしり取るように自らのブラを外し、その豊満な乳房を晒した。


 しかしそれでも、会場の客から一斉に歓声が上がると、彼女の素肌は我知らず赤く染まる。

 そして、舞台下で下半身を露出する酔っぱらい男。彼がイチモツを擦り上げるスピードを加速させる。



 幸運は目に見えない。しかし、結果がいつもコッコに勝利をもたらし、それは確かにそこにあるのだと確信できた。

 だからそう、今回もそうするだけのこと。「運気逆転? 幸運がひっくり返るのかしら?」よく意味は分からないけれど、自分には関係ないのだとコッコは思った。


 なぜならば、次局――。



『うふふっ、リオちゃん! リオちゃん、ツモったよー! ドラがいち、にぃ……、よくわかんないけど、運気逆転なんてウソっぱちよー、ねえねえ、アガっちゃっていいよねー? ねー?』


『お、おバカっ! ダメに決まってるでしょ! 私まで巻き込む気!? 私も残り一枚なんだから、考えれば分かるでしょ!?』


 コッコの運気はいまだ衰えず。放っておいても、勝手に高得点をツモってしまう。

 だが、ブラを失い残りショーツ一枚のリオとしては、彼女を野放しにはしておけない。



『ちぇー、せっかく1から9までキレイに並んだのになー』


『イッツーかしら? ……まあ、どっちにしても流しなさい。ああ、捨て牌には十分注意して――』


「――あ、それロンです」


「え?」

「え?」


 リオが「捨て牌には十分注意して」と言いかけた時には既に、コッコはツモ牌をそのまま切っていた。せっかく揃った九連宝燈チューレンポウトウを崩したくなかったのだ。

 コッコが不用意に捨てたその牌を、青色の少女がロンで上がった。タンヤオであった。


 捨て牌をロン上がりされた場合は点数に関係なく一枚脱衣である。

 よって、ここへきて初めてコッコは白いドレスをおずおずと脱ぎ捨て、下着姿を衆目に晒すこととなった。


 おおおおおおおおおーーー!!!! 

 会場の客からこれまでにない大歓声が上がる。下着程度でと言うなかれ、ここまで一切の隙を見せなかった無垢な美少女の脱衣であるからこそ価値がある。リオや青色の少女などは、自分たちが乳房を晒した時を上回る会場の盛り上がりに、どこか釈然としない気持ちになった。

 そして、舞台下で下半身を露出する酔っぱらい男。彼がイチモツを擦り上げるスピードも加速し続ける。


 上向き下向きの差こそあれ四人の少女たちの運命がゆっくりと狂い始めていた。



――次局、誰も予想していなかったアクシデントに見舞われたのは白い下着姿となったコッコであった。



「あっ……!!」


 配牌の際、彼女の震える手が詰み牌を崩してしまった。

 伏せられていた牌が裏返り、表が見えてしまっている。

 もちろん故意にやったわけではないが、ルール上、反則チョンボとされている行為であった。


 コッコは激しく動揺していた。

 人前で下着姿になったことで、身体の震えが止まらなくなった。彼女は恥ずかしがり屋で、人一倍初心だったのだ。


 また、スキル【豪運】に守られている彼女は、勝負ごとでこれまで負け知らずであった。それこそ【豪運】に全幅の信頼を寄せていた。

 それ故に、一度ロン上がりされたことでスキル【豪運】への信頼感が揺らいだ。


 キャサリンの言った「運気逆転」、自分には関係ないと思っていたその言葉が突然に現実味を帯びてのしかかる。


 そんな矢先であった。

 そんな矢先にやらかしてしまった。反則チョンボの罰金は満貫相当である。

 結果、コッコは続けてもう一枚脱衣することになってしまったのだ。

 

 こうなってしまっては、【豪運】の守りはもう無いのだと思わざるを得ない。これまで享受し続けた幸運のツケを払う日が来たのだとコッコは絶望し、大粒の涙がボロボロと頬を伝った。


 「人の運」とは目に見えないものである。

 運がいいも悪いも結果から推し量るしかない。

 だからコッコは勘違いしてしまった、「運気逆転」により【豪運】は裏返ってしまったのだと。今の自分は不運なのだと思い込んでしまったのだ。


 実のところ、コッコの【豪運】は失われていない。

 スキルは正常に効果を発揮し続けていた。

 その証拠に、高い役をツモあがりする機会はあったのだ。


 その機会をリオの指示で棒に振ったのも、不用意に切った牌でロン上がりされたのも、手が震えて反則チョンボを犯してしまったのも、「コッコの自滅」に他ならない。

 スキル【豪運】の恩恵を巧みに避けて自ら陥った現状であった。





 というのも、キャサリンの言った「運気逆転」という言葉自体がそもそも噓である。

 なぜならば、キャサリンはスキル【サルの手】を使用していない。

 スキル発動と見せかけて天井に巨大な獣の手を出現させた彼女であったが、肝心の「願い事」をしないままにスキルをキャンセルしていた。


 キャサリンはなぜそんなことをしたのか?

 天井に巨大な獣の手を出現させたその直後、キャサリンは満貫をツモ上りしている。

 まるで「運気逆転」し、それまで「不運」だった彼女が「幸運」に裏返ったかのようにも見えるが――、


 しかし実際は違う。


 その時彼女は、こっそりツモ牌をすり替えていた、捨て牌の中にあったアタリ牌と――。


 ――要するに、イカサマである!

 いつもの冷静なリオであれば、卓上の捨て牌が入れ替わったことにその場で気付いたかもしれない。

 あるいは青い少女も、キャサリンの不自然な視線の動きを怪しんだことだろう。


 だがその時は、誰もが天井に出現した巨大な獣の手に目を奪われていた。なにが始まったのかと、注意を逸らされた。


 つまりスキル【サルの手】は、盤上から他者の視線と気を逸らすためだけに使われてキャンセルされたのである。



(バレなきゃいーんですわ、バレなきゃ)


 それはスキル【豪運】に対抗するための苦し紛れの一手であった。

 故に、その後のコッコの乱調はキャサリンの意図したところではない。


 だが、彼女が力任せに手繰り寄せた運命は、とうとうコッコからブラを奪い、四人全員が残り一枚の状況にまで持ち込んだのであった。



 うおおおおおおおおおーーー!!!!

 半べそのコッコが無垢な乳房を晒すと、会場はこれまでにない盛り上がりを見せた。

 舞台下で下半身を露出する酔っぱらい男も、そのピストン運動に拍車をかけて、最後のラストスパートに入る。

 きっとまもなく、彼は頂へと達することだろう。クラスの女子で回し読みした薄い本『聖女アイダのこのブタ野郎が!』由来の浅い知識しかないキャサリンにも、見ていてなんとなくそれがわかった。


 次局、酔っぱらい男の興奮とは裏腹に、残り一枚となった少女達四人は消極的な打ち回しの末、流局となった。

 当たり前のようにテンパイしているコッコを除き、他の三人はノーテン。

 親――青い少女がノーテンだったことで、とうとうキャサリンに親が流れてくる。

 彼女はそれを待っていた。


 「ツバメ返し」というイカサマ技がある。

 目の前に積んだ山の下段にあらかじめアガリ牌14枚を仕込んで置き、開始早々に自牌14枚とそっくりスリ替えることで「天和テンホウ」という高い役をアガる難易度の高いイカサマ技である。


 キャサリンはそれをやろうとしていた。

 既に、山の下段には積み込みを終えている。

 サイコロを振り、配牌。最初のツモを含めた自牌14枚――これをそっくりスリ替える。


 自牌すべてをスリ替えるという大胆な行動は、もたもたしていれば当然バレる。

 一瞬の隙をついて、何気なく素早く正確にやり遂げなければならない。

 問題は、どうやってその隙を作るのかということである。


 学友たちとの勝負で、キャサリンは一度だけ「ツバメ返し」を成功させたことがある。

 その時は、ポケットに忍ばせておいた生きたバッタを放って学友達の気を逸らしたのだが……、あいにく今日はバッタを用意していない。そもそも残りブラ一枚の彼女にはポケットすらない。



(スキル【サルの手】を使うには片手を上げる必要があるけど……さすがに片手で「ツバメ返し」は無理だわね。


 …………ダメだ、やっぱりあの方法しか思いつかない……。ウィル、私、がんばるから! 絶対に勝つから……!)


 ちらりと見たキャサリンの視界の片隅に、舞台の下で自身のいきり立ったイチモツを握ったまま懊悩おうのうする酔っぱらい男の姿があった。



(ちんたらやってんじゃねぇよメスガキどもめ! こちとらぁ、もうちょいで極上のフィニッシュ決められそうだってのによぉ! 決め手に欠けんだ、決め手によぉ! さっさとシテくれねぇと、残念なタイミングで暴発しちまうじゃねぇか!!

 ――とか考えているに違いありませんわ! ああ、なんてキモチワルイ酔っぱらい男! ……ウィルも、……ウィルのもあんなふうになるのかしら?)


 そんなことを考えながらキャサリンは、雀卓の下でゆっくりと脚を開いていった。


 目を見張る酔っぱらい男。キャサリンから斜め向かい、舞台下の酔っぱらい男からはその様子がよく見えることだろう。ブラより先にショーツを脱いだ彼女のフトモモの付け根の奥までも!


 シコシコシコシコシコシコシコシコ……!!

 キャサリンの視界の隅で、やにわに慌ただしくなる酔っぱらい男!



(まだ!? まだなの!? 早く! 早くフィニッシュしなさいよ~~~!!)


 何気ない顔を装いながらも羞恥に顔を染めるキャサリン。彼女の切なる願いに反して、一度冷めかけた酔っぱらい男のエンジンにはなかなか火が入らない。


 ざわ……ざわわ……。

 会場がざわつく。酔っぱらい男以外の客たちも、キャサリンのサービスに気付き始めていた。



(お、お願いよ、早くして! そんな、うそでしょ!? これ以上、どうしろっていうのよ……!!)

 

 既に四人とも配牌を終え、自牌を整える段階。

 一番手付きのあやういコッコさえも、まもなく作業を終えるであろう。



 ダメか……と、諦めかけて脱力するキャサリン。

 ――その時ちょろっと、意図せずちょろっと小便をちびってしまう。


 慌てて開いていた脚を閉じようとしたキャサリンであったが、視界の片隅で劇的な反応を見せる酔っぱらい男の姿に気が付いた。



(……っ!! ウィル、私に勇気を……!!)

 

 じょろっ、じょろろろろろろろろ……!

 確かな手ごたえを感じたキャサリンは閉じかけた脚を再びかっ開き、雀卓の下で静かに放尿した。



「うっ、うおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」


 突然酔っぱらい男が吠えた。

 周囲の客たちが何事かと見守る中で、男はドギュンドギュンと激しく腰を震わせて盛大にフィニッシュした!


 発射された白い粘液の飛距離はすさまじく驚愕に値し、あわや舞台上にまで届くかと思わせるほどで少女たちの柔肌を粟立たせた。



「ちょっと、誰か漏らしたの?」


「わ、私じゃないよぉー」


 足下の水たまりとアンモニア臭に、最初に気付いたのはリオだった。

 咎めるような視線にコッコが慌てて否定する。

 青い少女も黙って首を振った。

 三人の視線がキャサリンに集まる。



「ごめんあそばせ。思わず漏らしてしまいましたわ――だって、揃ってしまったんですもの」


「え?」

「なっ?」

「そ、揃った……ですって!?」



天和テンホウ――ですわ!」


 そう言って、キャサリンは自牌を晒した。

 下半身露出酔っぱらい男のフィニッシュで騒然とする中、彼女は「ツバメ返し」の大技を成功させていたのだ。


 天和テンホウ4万8千点。一人当たり、1万6千点の負担である。

 この役満によって、キャサリン以外の三人全員脱衣決定となり、キャサリンの勝利が確定した。



「バカな……天和テンホウ……だと!?」

「ふぇぇぇん、負けちゃった~」

「ふ、不正だ! スキル【サルの手】などと、そんなチートスキルの使用は不正――」


 うおおおおおおおおおおおおおおおーーー!!!!

 難癖を付けて勝負をうやむやにしようとしたリオの言葉を会場の歓声がかき消した。

 

 この脱衣マージャンはショーでもあり、ギャンブルでもある。

 黄色――キャサリンの一人勝ちは、かなりの大穴であった。


 途中からリオの迫力に負けてほとんど実況しなくなった進行役のブタ鼻マスクも、この期に及んでは勝負の結果をどうこうできるはずもなく、しきりに不正を訴えるリオを無視して高らかに宣言する。



『栄えあるゴイゴスタ男爵杯、処女奴隷マージャン大会の勝者はー、尻好きのケモノに愛されしお漏らしの君~、黄色乙女~~~!!』




 ***




『はーあ、わたちだってエッチなことしたいのにー、アマミヤ先生の薄い本みたくー』


 独り言である。

 マザードラゴンの娘達の末っ子、グレーテルは玄関前の警備に退屈していた。

 人化した見た目こそ姉達に劣らぬ長身巻き毛の美女であったが、実年齢はまだ12歳であった。


 勇者選考会参加者とかいうならず者が襲撃してくるかもしれない! そう聞かされて張り切っていたのは最初の内だけ、既に注意力散漫、玄関先の石床に剣の柄で彫った落書きは男性器と女性器であった。

 

 彼女の独り言は続く。



『もっとおっぱいが大きければいいのかちら? でもでも、さっき見たあの子だってそんなには――あっ! いいこと思いついちゃった!』


 グレーテルは、なにごとか思いついてその場を去った、男性器と女性器のちんぷな落書きだけを残して。





 折り悪く、グレーテルが持ち場を離れたちょうどその時に、彼方から「誘因玉」が飛来した。『飛竜牧場ドラゴンファーム』の竜舎から、クレパスライサーのケーナが放った物である。

 その「誘因玉」は、石床の落書きの上に落ちて転がり、ゴイゴスタ男爵邸の玄関先に魔物を呼ぶ強い臭気をはらんだ煙をまき散らす。



 ぎゃうおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉん!!

 ぎゃうおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉん!!!!

 「誘因玉」の後を追って、『飛竜牧場ドラゴンファーム』から45体の飛竜達が次々と飛来し、男爵邸の正面玄関に殺到した。



「ひぃぃ……ド、ドラゴン!?」

「ウソだろ!? 飛竜がなんでこんな……!?」

「お、おい、警備のグレーテル様はどこだよ!? こんな時に、トイレか!?」

「だ、誰かっ!! 誰かぁぁっ!!」

「これは……マズいぞ……!! 早く、男爵様に……!!」


 最初に現場近くにいたスタッフが、そしてやがて客達も事態に気がつきパニック状態に陥っていく。


 ドガシャン!!

 飛竜達は、玄関を突き破りエントランスホールに侵入。

 やがて、立食パーティー会場やギャンブル会場に侵入するのも時間の問題だろう。





 そんな取り返しの付かない状況になっているとも知らず、グレーテルは更衣室から意気揚々と姿を現した。

 その格好は、今日のパーティーの給仕係――ウサギの耳付きマスクと、胸や尻が丸出しのレザースーツ。乳首と股間だけをシールで隠した逆バニーの姿であった。ただし、尻尾だけは自前のドラゴン尻尾である。

 

 うっふん! わたち、モテモテになっちゃうんじゃないかちら? などと、ウキウキのグレーテル12歳であったが、エントランスホールの惨状を目の当たりにして血の気を失う。



『あ、あれ~? なにこれ、どうなってんのかちら……?』  

 

『それはこっちのセリフなんだけど? グレーテル、あなた正面玄関の警備はどうなってるの?』


 思わずこぼした独り言に、返答があって驚くグレーテル。

 返答したのは姉、フォーリンであった。今夜彼女は、別の場所の警備を任されていたはずである。



『え? い、いいえ? わたちはただの給仕係ですのよ、フォーリン姉様。グレーテル様とかではありませんでちてよ?』


『そうね。よく考えたら、かわいい妹のグレーテルが、そんなおマヌケな格好でうろついてるはずありませんでしたわ』



『マヌケじゃないもん! カワイイもん! エロカワイイもん! フォーリン姉様は古いんです!』


『誰が行き遅れですかぁぁぁっ!? こんの、クソガキがぁぁぁっ!!』



『ひぇぇぇぇ、ごめんなさい! ごめんなさい! フォーリン姉様、ごめんなさい~!』

 

 行き遅れなんて言ってないのに~と思いつつも、とりあえず謝っておく。姉達がキレた時はいつもそうする。それが、12歳の末っ子グレーテルが身に付けた処世術なのであった。



『……ふん! まったく貴方ときたら、お尻丸出しで恥ずかしくないの? いつまでもお子ちゃまなんだから!』

 

「せやなぁ。もうちょい恥じらいとかあったほうがエエんとちゃいますか?」



『エエんと? フォーリン姉様、今、誰か……?』


『そ、そんなことより、ここの有様! どうするの!? 飛竜どもがパーティー会場にまでなだれ込んだら、きっと母様に大目玉なんだから!』


 不意に聞こえた第三者の声。それはフォーリンの胸元に【侵入】し肌に癒着しているパラディン№8ロハン・ジャヤコディの声であったが、フォーリンは慌てて話を逸らして誤魔化した。



『ううっ、姉様、手伝ってよ……あ、ああっ、何!? 何この変なニオイ~!? スンスン……わたち……わたち……姉様、スンスンスンスン……わたちだって乱交パーチーしたいもーん……!!』


 ペチコン!! と、頭をひっぱたかれるグレーテル。「誘因玉」の影響で興奮しだした妹を、姉フォーリンが力尽くで大人しくさせた格好。



『グレーテル! 貴方まで正気を失ってどうするの!? 乱交パーティーなんて10年早いのよ!』


『ららららーんこーうぱーち~~~!!』


 ズガン!! と、今度は頭がへこむほど強く殴られるグレーテル。軽く小突いただけでは正気に戻らない妹を、姉フォーリンが力任せに大人しくさせた格好。





「えげつな。妹ちゃん、頭へこんでますやん。……これ、大丈夫なん?」


『私達姉妹は丈夫ですから。特に、母様のいるこのフロアではほぼ無敵ですので心配ご無用。――てゆうか、勝手に喋らないでくださいます?』



「つれないこと言わんといてください。ワイとフォーリンちゃんの仲やないですか? ほーうれ、いんぐりもんぐり、いんぐりもんぐり……!」


『はひぃ……そ、それは止めなさい! 止めて……!』



「おっとっと、こんなことしとる場合ちゃいますな。せやけど、『飛竜牧場ドラゴンファーム』の飛竜どもけしかけるなんて、いったい誰がこんな無茶しはったんですやろ? 迷惑な話でんな」


『……こんな騒ぎは想定外です。コトを急ぎますよ? 母様や姉様達に出てこられては厄介です』



「おお、そら怖い! ほな、ちゃっちゃと用事すましてオサラバしまひょ? まずは地下のほうから頼みますわ」


 フォーリンは、エントランスホールに侵入してきた飛竜一体を、庭に向かっていらだたしげに蹴り飛ばした。八つ当たりである。

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