最後の戦いに向けて
あと2話で終わるんですね。戦いのシーンが短すぎじゃないとか言わないで…(´・ω・`)
エドワードはよろよろとした足取りで元祖フィアに詰め寄ると、激しい口調で言った。
「おい、我輩はどうなるんだ! 日が経つうちに、我輩の体は薄れてゆく。体が弱ってきている。何が起きているのか説明したまえ!」
「簡単なことですよ、エドワード。あなたは相棒であるベンジャミンを罠にはめ、その命を奪おうとした。そして帽子屋として、帽子を作ることを辞めた。どちらも、あなたを作り出した物語修正師の意に反する行いです。その行いによりあなたの存在が消えようとしている、それだけの話です」
「それはいったいどういう……」
狼狽えるエドワードに、元祖フィアは向き直ると感情のない声で言った。
「あなたの命は、じきに消えます。所詮作り物は作り主に背いたり、嫌われてしまえば消されてしまう運命なのですよ」
それを聞いて、エドワードは声にならない嗚咽と共に、中庭を飛び出していった。足音が遠ざかると、元祖フィアは言った。
「これが最後の願いです。青い花よ、誰もここに入れないくらいたくさん、茨の生えた蔓を伸ばしなさい。そして、ここへ入ろうとする物語修正師候補生を排除なさい。この世界は私とお前、二人だけいればよいのだから」
その声にまるで呼応するかのように青い花が輝き、花の茎から次々と棘の生えた蔓が伸ばされ始める。元祖フィアは、不気味な笑いを残してその場を去った。元祖フィアの胸元には、青い花と見た目の似た花のブローチが妖しく光っていた。
♢♦♢♦♢
『フィア、こっちは魔力倉庫の魔力を回収し終わって、今から白の女王の城に向かうよ。そっちはどうなった?』
ルクアの通信機ごしの問いに、フィアは言った。
「こちらの目的も、無事に完了しました」
彼女の目線の先には、変わらず大きなドラゴンがいる。しかしドラゴンの目には、先ほどまでのあふれ出る殺意は宿っていない。フィアは、ドラゴンに向かって声をかける。
「ジャバウォック改、このワンダーランドに物語崩壊の危機が迫っています。わたしたちは、すぐに白の女王の城に向かわなくてはなりません。協力してくださいますか」
力強いフィアの言葉に、ドラゴンは頷く。
『よかろう、力を貸す』
そして、ドラゴンは体を縮めて地面に腰を下ろす。そして、言った。
『わたしの背にまたがるがよい。白の女王の城まで、送り届けよう』
それを聞いて、フィアは嬉しそうに後ろを振り返った。後ろには唖然とするアリスとランベイルが立っている。そしてその隣には驚きを隠せない、ハートの女王と白の女王。ティアシオンとオリジン時計ウサギだけが、微笑んで彼女を見つめ返す。
フィアがヴォーパル・ソードに語り聞かせた、ジャバウォックの新たな『設定』。それは『悪役ではなく、困った人がいたら助けてくれる心優しいドラゴン』だった。その設定を帯びたヴォーパル・ソードでティアシオンがジャバウォックに一撃を与えたことにより、この変化が起きたのである。
一行はオリジン時計ウサギに促され、ジャバウォック改の背中に乗り始める。フィアも背中に乗り込みながら、通信機のルクアに向かって言った。
「こちらは、設定を書き換えたジャバウォック改さんで白の女王の城へ向かいます。ルクアさんたちも向かってください。向こうで会いましょう」
♢♦♢♦♢
「だそうだから、私たちも白の女王の城に向かいたいわけだけど、さっきの物言いの感じだと、何かいい案があるのかな、元祖ルクアさん」
ところ変わってファクトとトゥルーの城。ルクアは、元祖ルクアに問いかける。すると、元祖ルクアが言った。
『あなたたちの最大の武器、創造力を使うのよ。簡単なことでしょ』
ルクアはぽんっ、と手を打った。そして言う。
「さっき通ってきた扉、あの扉を次に通るとき、今私が一番やらなくてはならない仕事の場所の目の前に行けたらいいのに」
「……。それだけでもし本当に移動できたら、それはある意味で物語崩壊の危機じゃないか」
トゥルーが静かに言ったものの、ルクアに無視される。ルクアは、さっさと扉の前に立つと、大きく扉をあけ放った。扉の向こう側は、先ほどまでとは違う風景が広がっていた。呆気にとられるトゥルーをよそに、ルクアは通信機に向かって言った。
「フィア、ヘルツさんに連絡取って。作戦会議開いてないけど、作戦開始だってね」
『わかりました。ルクアさんも、クレールさんへの連絡をお願いします』
「わかった」
ルクアは通信を切って、今度はクレールに連絡する。
「クレールさん? トゥルーは完全復活して、魔力倉庫の魔力も回収したよ。今からそっちに向かいたいんだけど、もう実行しちゃって大丈夫かな」
『偽物の白の女王が、自軍を率いて城の警備を固めています。もちろん、もう動いてもらって構いません』
「ちなみに多分もう城の内部にいるんだけど、城の中に中庭ってあったりするかな?今その近くにいるんだけど」
ルクアが扉から顔だけ出して言う。眼前には大きな扉と、ガラス張りの壁。ガラスの向こうには、たくさんの花々が咲き乱れているが、その花々を蹴散らすようにして、どんどん蔓が伸び始めている。
『中庭、あります。そしてその中庭の中央には、偽の白の女王へ白の女王に成り代わる力を与えてしまった、問題の青い花があります。それを破壊できれば、彼女がよりどころにできる力はなくなります』
「よしそれじゃ、まずは青い花を片づけよう」
ルクアの言葉に、クレールが返答する。
『承知しました。それではぼくたちは、中庭に敵を侵入させないよう周辺の敵を一掃しておきます。お気をつけて』
「ありがとう、それじゃあよろしく頼んだよ」
そう言って、ルクアはトゥルーに頷いてみせた。トゥルーが先に扉の先に出て、周囲を見渡す。そして危険がないことを確認して、ルクアに向かって頷く。ルクアは他のメンバーに合図を送り、自らも扉をくぐり抜けた。一行が扉を抜けると、扉は一人でにしまった。ルクアは言った。
「よーしそれじゃ、私たちは私たちで、やるべき仕事を片付けようか」




