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ご令嬢の登場は淑やか、に?

たまに訪れるヴィリン様とセルジュ様の密会?にも慣れ始めた半年ぐらい前の事。


その日も貸切にしてくれた有難い二名のお客様はカウンターではなく、奥のテーブル席で何やら込み入った話をしていた。


そんな時、勢い良くドアが開いてベルがけたたましく鳴った。


あれ、おかしいな。ただいま貸切と黒板に書いていたはずなんだけど…と思う間があったかどうか。


「も、申し訳ありません。少し休ませて下さい。お嬢様が」

初老の品の良さそうな黒いスーツの紳士が飛び込んできたのである。

「は、はあ…でも、あの」

「わたくしからもお願い致しますわ。ほんの少しでいいので、休ませて下さい」

長い金髪にホリゾンブルーの瞳でベージュのコートと水色のワンピースを着た怠そうな美少女が現れて思わず息をのんでしまった。

何だか今日は美形率が高いなあとどうでも良い事が頭をよぎりながら、どうしたものかと奥のお客様方を見やる。

「少々お待ち下さい」

カウンターを抜けて奥の席の前に立とうとした所で窓際に座っていたヴィリン様が声をかけてくれた。


「構わないよ。なあ」

「そうだな」

「申し訳ありません…」

一礼をしてカウンター内に戻る。

「では、こちらにどうぞ」

入り口で立ちっぱなしになっていた紳士とどうやらどこかのお嬢様だと思われる二人をカウンター席に案内してメニューやお冷、おしぼりを渡す。

「有難う御座います。お嬢様は生まれた時から心臓が弱く…」

「それで情けない事にこの街の坂道を登っていたら具合が悪くなってきてしまったの。助かりましたわ、お礼申し上げます」

「そうだったんですね。体調にもよりますし、慣れないと尚更でしょうね」

「はい。あ、わたくしはレモーネのホットティーで。ヨルベは?」

「私はアイスコーユで」

「かしこまりました。メニューをお下げしますね」

冬も深まる季節だけれど、この街はそこまで寒くなる気候にはないせいか冷たいドリンクのオーダーが入る事もある。

というか、どうやら執事さんと思われる初老の紳士さんも坂道結構キツかったんだろうと察しながら、オーダーの準備をはじめる。


「悪い。手洗いだ」

「おー」

窓を締め切った店内では声も聞こえやすい。


セルジュ様が席を立ったところで、お嬢様と執事さんが顔を見合わせている。



「あ、あの失礼ながらわたくしルアノーブ帝国テールン伯爵領主が娘…ルクレチア•テールンですが、我が国の…セルジュ皇太子殿下であらせられますか…?」

…ん?

「ああ…違うとは言えないな。息災か、ルクレチア嬢。昨年の夜会以来か」

「そうです…ね。この度は大変失礼致しました。しかもこの様な格好で」

と、執事さんと一緒に席を立ち上がる。

成り行きをぼーぜんと見守る。

ルアノーブ帝国は同じ北西大陸でもこの国から距離はあるが魔術がある世界、けして遠くはない。


「あ、あの人違いでしたらすみません。そちらの方はあの…ヴィリン•アセラトル様ですか?」

「ん?そうだけど」

手を休ませてちゃダメだなあと、アイスコーユを急冷してグラスに注ぎ準備完了。でも二人じゃなかった、三人は立ったままである。


お嬢様はセルジュ様に一礼しながらヴィリン様に詰め寄っていく。

執事さんが困ったように立ち尽くしていて、その横をセルジュ様が通り過ぎていく。


「本当に…!その髪色に瞳の色、その服装に置かれたマントも…!少年の頃から論文を発表され、世界でも最難関の連合大学院を飛び級で卒業され、各国に引く手数多で、でもアーユフェル王国に引き抜かれたという稀代の魔術師のヴィリン様ですよね!魔術を扱う者として尊敬致します」

「あ、ありがとう。セルジュの国のご令嬢殿」

「ルクレチアですわ、ヴィリン様」

おお、飛び込んでいきそうな勢いだなーと感心しながら、「どうぞ、お座り下さい」と執事さんを促す。

セルジュ様はあれこれ言わないだろう、多分。

奥の席の方へ行ってしまったルクレチア様を呼び戻すべきか悩みながら、二人が座っていた席の前にレモーネティーとアイスコーユを置く。


すると、入り口の反対側の扉からセルジュ様が出てくる。

何となく様付けで呼んでいたけど、何やら凄い人達だったんだなと軽く驚きながら、コーユのサーバーやティーポットを洗う。


セルジュ様の席に座りそうな勢いだったルクレチア様はセルジュ様が戻ってきたからか、大人しく引き下がる事にしたらしい。



その日以来、何かと理由をつけてはルクレチア様が訪れるようになったけれど、二人の予約状況は勿論教えるわけにもいかず、でもお喋りは尽きないようなので深くは気にしない事にした。



因みにだけれど…その日以来、セルジュ様とヴィリン様の予約が入った時間帯にはセルジュ様がドアにかけられた看板を閉店に変えてくれるようになった。

一国の皇太子様にそのような事をさせていいのかとも思ったけれど、してくれるので有難く甘えている。

どうやらメニューの書かれた黒板も畳んで店先に置いてくれているようだけど、それも深く考えないようにしている。

帰る際にはいそいそとヴィリン様が看板と黒板を元に戻している事もルクレチア様には何となく秘密だったりする。

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