そもそものこと
私、レイチェル•タリアルテはこの平和な国、フラスレ共和国で生まれ育った。
実家は今いる港町カヒノから少し離れたところにある。
一男三女の家で三女として、ローズグレーの髪に淡いペリドットの様な色合いの瞳を持って生まれてきた。
喫茶店は二十歳の頃、先代のオーナーから土地付きで格安で買い取った。
街外れの台地の上の方にある立地条件からか、創業してからの年月は経っているもののかなり安くして貰えた。
「そのうち返してね」と、両親が資金援助してくれたおかげで、今こうして店が出来ている。
店の名前は先代のものを受け継いで“海辺の小径”としている。
「ケーキ、美味しいな。持ち帰り出来るか?」
「出来ますよ。いくつですか?」
「四つ頼む」
「四つ…はい。大丈夫です。早めに食べて下さいね」
セルジュ様はぱくぱくとあっという間にケーキを平らげてしまった。
覚えている限りでも初めてこの店に来た時からだいたい欠かさずにケーキを頼んでくれている。
持ち帰りもたまに。
見た目に反して?甘党らしい。
だから予約の入った日は少し多めには作っておくものの、少なくなってしまったケーキに夜の営業はどうしようかなー、売り切れちゃったら仕方ないか。有難い事だよなあと思いながら、ケーキの箱を茶器の並んだ収納棚の端から取り出して組み立てる。
多分この調子だと一、二時間くらい滞在されるだろうから、その時に冷蔵庫から取り出せば問題ないだろう。
「じゃあ、お帰りの際にお渡ししますね」
「ああ、頼む」
そう考えれば、まだ箱用意するの早かったな。
と後悔しては遅いものの、蓋をしめていつでも入れられるようにはしておく。折角組み立てたのだし。
そもそも、この店にこの二人が訪れるようになったのは些細な出来事だった。
あれはもう一年前の事になるだろうか。
まだ真夏ではないものの、それなりに暑い日の出来事だった。
今みたいな夏の昼下がり、平日の人もまばらな時間帯。
お客さんはよく来てくださる近所にお住まいの奥様方。
テーブル席をくっつけて四人ほどでお喋りを楽しんでいた。
カランカラン。
ガラスのはめ込まれた店のドアが開いてドアベルがなる。
今となっては驚かないものの、白い髪、青い瞳の整った顔立ちで夏の港町なのに白いマントがちょっと暑そうだなあが第一印象だったかもしれない。
後から知った話、東大陸にある国の魔術師団の制服だと知ったのだけれど。
いや、港町だからこそ人が集まっている部分は勿論あるだろうけど、世界って広いんだなあと改めて知った出来事だった。
そんな彼は、どうやら近くにある魔術道具職人の工房を探していたようだった。
「すみません、ちょっとお尋ねしたいんですが」
それが第一声だったからだ。
私は知らなかったのだけど、どうやら腕の良い職人で、世界中から注文が入るらしく、予約した品を受け取りに来たらしい。
そこで場所を尋ねるために私の店のドアをくぐったらしい。
奥でお喋りをしていた奥様達の案内もあって彼、ヴィリン様は無事職人の所へ行くことが出来、帰りに店に立ち寄って一杯飲んで帰ってくれた。
それからの付き合いである。どこが気に入ってくれたのかはわからないけれど、通い初めてから半年後ぐらいにはセルジュ様も連れて来られるようになり、今にいたる。
彼が超一流の魔術師、セルジュ様がルアノーブ帝国の皇太子だと知ったのもその頃の事であった。




